血を求める   作:ぺへ

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一夜

白いカーネーションが咲き誇る大樹の元。月光が辺りを薄く照らす中、突如としてカーネーションに赤い液体が降り掛かる。降り掛かった液体は紛れもない血。それも夥しい量。

 

月光が更に強くなると二人の影が見えてくる。二人の服装は闇に溶け込むほどの黒に身を装っている。

 

片方の手には刀が握られておりもう一人の胸に深々と突き刺さっている。

 

「ゴファ!・・・あぁ、ようやく解放される。・・・長い夢から・・・。この悪夢から・・・。」

 

刀の所有者は乱暴に刀を抜くと、貫かれた男はカーネーションの中に倒れ限のように消えていった。

 

彼こそ、ヤーナムに存在した全ての謎を暴き最古にして最初の狩人『ゲールマン』の意志を継いだ者。悠久とも思える時間、悪夢に縛られ続けた狩人は死に絶えようやく解放されたのだ。夢とは一夜の物語。目覚めれば全てが消える。筈だった。

 

「・・・俺は何故覚えている?何故忘れられない?」

 

男が目覚めたのは現実での自室。夢から覚めれば全てが曖昧ですぐに忘れられると思っていた悪夢。しかし、実際には何も忘れてなどいなかった。

 

武器を握る感覚、銃を握る感覚、切られ焼かれ撃たれ喰われる痛み、死の恐怖、狂気、暴き解いたヤーナムの秘密。その全てを忘れず覚えている。

 

そして、忘れていた筈の過去も全て思い出し日付けを急いで確認する。3月31日。悠久とも思えたあの狂気の時間は本当にたった一夜の夢だった。

 

「・・・そうか。しかし、戻って来れた。今はその事を喜ぶとしよう。」

 

ベッドから起き上がり立ち上がろうとした瞬間、視界に映ったものに驚愕した。ドアの隣に人形が横たわっているのだ。

 

それが単なる人形ならばなんら問題は無い。しかし、その人形は悪夢で常に自分を支えてくれた人形。

 

「どういう事だ・・・。確かにここは俺の部屋のはず・・・。なのに何故・・・。」

 

そこで思い立った。もしやと思い、タンスを開ければ今まで手に入れ扱ってきた狩り道具が全て収まっていた。

 

「・・・ははは。そうか、お前はまだ私を離さないつもりか。」

 

男は何度も味わった絶望を再び味わう。しかし、それと同時に口角を上げる。

 

狩人の成れの果ては『獣』だ。獣を狩り血を浴び続ければいずれは血に酔う事となる。男もまた血に酔った狩人の一人だ。

 

タンスを閉じ1階のリビングへ降りて一人朝食を摂る。食べ終われば2枚の写真が置かれた仏壇へ手を合わせる。

 

「ただいま。父さん、母さん。ようやく、帰って来れたよ。」

 

そう一言残し、自室にて出掛ける準備を始める。

 

ゲールマンの意志を継いだ狩人、『兵藤一誠』の物語は始まったばかり。

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