イドラの母胎   作:水に浮くほたる

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やっぱり俺...エトの小説書きてぇよ...


☆1話

 星野アイと出会ったのは私が養護施設に連れられてきた頃だった。

 当時、10歳だった彼女に抱いた感情は恐怖だった。

 

「今日から家族だね!よろしく、吉原ちゃん…であってるよね?」

 

 そんな歓迎の言葉とにこやかな笑顔、そしてそれらが貼り付けられた偽物だと主張してやまない黒く濁った瞳。何故そこまで堂々と思ってもないことを言えるのか、人目見てわかるその歪さに私は恐怖した。

 しかし、それは同時に私の知的好奇心を大きく刺激した。

 

「思ってもないことを言うなよ、化け狐」

 

 私の口からつい出てしまったそのセリフに対して彼女は一瞬の動揺を見せたが、次の瞬間には「ほんとに思ってるのに〜」といいながら頬を膨らませ、施設の庭に向かって走り去ってしまった。

 とは言え、彼女と私は思いのほか噛み合いが良かった。最悪の出会いも数日も経てば良い思い出だ。

 

「よ〜しわ〜らちゃ〜ん、な〜に〜読〜んで〜るの〜?」

「頭に顎を乗せるな、私は芳村だ。」

「あれ?そうだっけ?」

 

 母の愛に裏切られ、飢えた彼女。父の愛を信じられず裏切った私。絶望した彼女と希望を捨てた私。端的に言えば私達は裏表だったのだろう。

 

「あ、そういえばさ〜」

「とりあえず頭をどけろ、いい加減痛い。」

 

 似た者同士の縋り合い。互いが互いに傷だらけの体を隠しながら「お前よりマシだ」と自己肯定していたのだろう。

 

「…ねぇ…愛支。」

「...すぐ消灯時間だ。とりあえず入りなよ」

 

 そんな私たちが互いの傷を晒しあったのは中学の頃だっただろうか。

 その頃はもう既にかなり親しい関係になっており、彼女は私のことを下の名前で呼ぶようになっていた。

 

「こんな私でも愛だの恋だのをいつか唄えるのかな...?」

「...『嘘つきの目標は単に喜ばすことであり、悦びを与えることである。』」

 

 彼女がアイドルにスカウトされたことが始まりだった。聞けば彼女は偽物の愛や恋しか知らないが故に愛や恋を表現に悩みを抱えていた。

 

「アイルランドの劇作家、オスカー・ワイルドが『嘘の衰退』という本で記した言葉だ。」

「どういう意味?」

「この一文における嘘つきは芸術家だと解釈している。芸術の本質は単に喜ばすことであり、悦びを与えること。そんな世界にリアリティは必要か?という問題提起さ。」

「必要ないの?」

「少なくとも彼はそれを否定した。虚構(フィクション)の世界を衰退させるとね」

 

 その時に彼女は自身の在り方を話した。だからこそ私は私の在り方を話した。当時からもう既に『黒山羊の卵』の構想を練っていたから愛や恋というのはちょうど題材にあっていたというのもあったのだろう。

 

「私は 虚構の世界(芸術)においてリアリティは求めない。だから君がその在り方のままアイドルをやることを否定しない。アイドルも 虚構の世界(芸術)の産物だからね。」

 

 そう言いながら私は2人分の珈琲を用意する。さて、そろそろ話を締めようか。

 

「まぁ、本当の愛や恋は言える相手を見つけた時のために取っておくといい。『時は貴重であるが、真実はそれよりもっと貴重である。』なんて言葉もあるしね。」

 

 以上、有名作家様の嘘に対する解釈でした。そう締めて用意した珈琲を彼女の前に置き、作業机に戻った。そんな私の姿見て、彼女はクスッと「何それ」と笑いながらいつもの顔を見せた。

 

「それじゃあ高槻せんせーはもう愛や恋を言える相手は見つけたんですかー?」

 

 いつものように笑い、私の背にもたれかかりながらそう質問した。

 

「いるわけないだろう?私は君と違って出不精なんだ。」

 

 

 

 最後はそう答えたかな?

 

 

 

──────

 

 

 

「とまぁ、それが私と星野アイとの関係だね。この程度でいいかな?」

「はい!ありがとうございました!」

 

 場所は喫茶店。対面に座る男性は満足そうに話した内容をメモに取る。

 

「しかし驚いたよ。インタビューと聞いたからてっきり新作についてかと思ってたからね」

 

 片目をつぶり、次は無いと合図を送りながら机の上の珈琲に手をつける。それに対して目の前の男性は「あはは...次は気をつけます」とバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。

 

「今回は許すよ。勿論、私の新作のことも書いてくれるんだろう?」

「勿論です!なんせ待望の高槻泉先生の二作目ですからね!『黒山羊の卵』の方もしっかり宣伝させていただきますよ!」

 

 そう言うと男性は席を立ち、「改めてお忙しい中半分騙すような形でお呼び出ししてしまい申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げ、伝票を持ち、出口へ向かって足早に去っていった。

 

「...記者というのは忙しいんだねぇ...。」

 

 そう言いながら彼女はカバンから本を取り出し、静かな休日を過ごすのだった。




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