転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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17.思ってたんと違う

 俺の『おまじない』……もとい、能力を受けたクウさん。

 彼の力は、俺の想定の遥か上を越え、全く予想外の場所に達していた。

 

 

「ファイアボールっ!!」

 

 いいえ、それは正拳突きです。

 

 

「エアぁぁぁスラッシュっ!」

 

 いいえ、それは回し蹴りです。

 

 

「ブレイズぅアローっ!」

 

 いいえ、それは手刀……いや貫手です。

 

 

「すごい! 際限なく魔力が涌き出てる!」

 

 いいえ、それら全て物理技です。

 

 

 術の名前を叫んではいるが、やっていることは格闘術であった。

 しかし、その一挙手一投足が、明らかに素人のそれではない。

 

 攻撃を受けたゴブリンたちは、四肢が捥げ、頭蓋骨が粉砕され、胴体には穴が空いていた。

 

「これが……ボクの魔法っ!」

「……ええと……」

 

 やべぇ。

 思ってたんと違う。

 こちらのイメージしてたものと、かけ離れてる。

 

 俺は、とんでもねぇ力を『開花』させてしまったのかもしれない……。

 

 

 そう、俺の開花能力の『真の力』──『あらゆるものを開花させる』ことは、なにも実物の花に括られない。

 

 人の奥底に眠る『才能』。それを『開花』させることも可能なのだ。

 

 この『裏技』的な使い方に気づいたのは、ついさっきだ。命の危機に瀕したことで、俺の中で何かが『芽吹いた』。そんな気がした。

 

 

 ただしこの力には、幾つかの問題がある。

 

 一つは、そこに『目覚める前の才能』が無いと開花は出来ない。当たり前だが、無い花を咲かせられる訳がない。

 

 そしてもう一つ。

 どうも、俺はその『才能の芽』の一部からは、何が咲くかは判らないらしい。

 この『らしい』というのが曲者で、──そうだな。いわゆるゲームのステータス風に説明すると、判断可能な才能の芽には、

 

 ・ 剣士の才能

 

 みたいに具体的に示されてある。この才能はもう、いつ開花してもおかしくない状態だ。しかし、一部の才能においては、

 

 ・ ??? の才能

 

 となっているのだ。そしてそれは、まだ『芽吹くには早すぎる』才能だ。

 

 今回、この力に気づいた際に、クウの奥底に『??? の才能』があることを見いだした。

 だから、彼に確認したのだ。「後遺症とか残るかもしれない」と。

 

 しかしこの窮地を脱するには、俺もクウも、その『才能』に全てを賭けるしかなかった。彼の同意の元、無理に咲かせた結果が……これである。

 

(魔道士関連の才能じゃないんかいっ!)

 

 魔道士の卵として冒険を始めたと伺っていたため、てっきり、魔法に関係する才能かと思っていたのだが、まさか『武道家』の才能だとは予想できなかった。しかも、とんでもないほどの『天賦の才』である。

 

 そういえば「魔法はからっきしで、樫の杖で殴っていた」って言ってたな……。そこから、魔法以外の才であることを推測できなかった俺の推理不足か。

 

 だが現状、これほど心強いものはなかった。クウさんは、瞬時にしてゴブリンを屠ったのだ。

 

「はぁ……はぁ……! ファンダっ!」

 そして多少息切れしているが、彼は休むことなく、炎が燃え盛る梁のほうを向いた。

 

「ファンダ! いま助けるっ! ……はぁぁぁっ!」

 

 彼の気迫が空気を揺らす。それは魔法の力とは異なる別のものだった。

 

「魔法、エアロブリーズっ……ぶっ飛べぇぇぇっ!!」

 

 いいえ、それは飛び蹴りです。

 

 だが彼の飛び蹴りは炎の壁を貫き、穴を開けた。そのまま奥に突っ込んでいき、どうやらゴブリンたちと会敵したようだ。

 

「……うーん、大丈夫かなぁ」

 

 先に述べたように、不明な才能を無理やり開花させるのは危険が伴う。まだその才能の開花は、本人にとって『早すぎる』のだ。

 それが身体的にか、精神的にかは判らないが──少なくとも、今のクウの身体で、突然、武術の達人の動きしてしまうのは、負担が大きすぎる。

 

「最悪、四肢がもげるぞ」

 と心配しながら、俺もナツとファンダたちの無事を確かめようと、クウが開けてくれた穴を抜けた。

 

「早っ」

 すると、既にクウによってゴブリンは退治されていた。

 

 蹴り飛ばされた者。

 拳で顔面陥没した者。

 手刀で裂かれた者など。

 奴らの死因は様々であったが、いずれも瞬殺のようだ。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

(あー、やっぱり)

 

 クウは膝に手を付いて、息を切らしていた。汗の流れ方も尋常ではない。

 クウの体力が動きと釣り合わず、すでにスタミナ切れを起こしている。

 

「……ランジェ様ぁっ……」

「! ナツ! よかった無事かっ!!」

 

 ナツがペタンと座り込んでいた。しかし、遠目でも判る、いつものほんわか彼女からは想像できないほどの焦燥ぶりに、流石の俺も驚き駆け寄り、肩を抱き締めた。

 ゴブリンの返り血による汚れが、いっそう、彼女の戦闘の激しさを物語っていた。

 

「ナツ、生きててよかっ……」

「ランジェ様っ!!」

 すると、もう満身創痍なはずの彼女がいきなり両手を広げ、俺に抱きついた。

 

「ナツ……本当によか……ちょ……ナツ……まっ……がっ……」

「ランジェ様! ランジェ様っ!」

 

 ミシミシッ、ミシミシッ。

 

 あの廃墟での出来事が脳裏に浮かぶ。

 あの時に聞いた耳慣れない音。自分の骨が歪み軋む音だ。

 

「ナツ……ブレイク! ブレイク!」

「ああっ!! またやってしまいました!」

 満身創痍じゃなかったんかい。

 なんとか骨が折れる寸前で解放してもらえたのだった。

 

「げほっげほ! ……っと、そんなことしてる場合じゃないぞ、ナツ」

「あ……そうでしたぁ!」

 

 建物はもう限界であった。いつ崩れてもおかしくないほど焼けていた。

 

「ま、任せてください、ランジェさん!」

 

 すると、クウが答えた。クウの体力も限界のはずだ。しかし、現状の打開は、彼の力なくしては達せられない。

 

 クウは、恐怖で失神して口から泡を吹いているファンダを軽々と担ぎ上げ、掌を納屋の壁側に向けた。

 

「はぁぁぁっ! 穿け! エアロブラスト!!」

 

 いいえ、それは……なんだそれ。

 

 手のひらから発せられたのは風の弾丸……ではなく。気合いで発する衝撃波であった。それは瓦礫や炎を吹き飛ばし、壁を貫き、外へと道を作り上げた。

 

「さぁ、脱出しましょう!」

「お、おう!」

「はひっ……あ……くっ」

「! ナツっ?!」

 

 ナツは先ほどの包容(ベアハッグ)で、本当に力を使い果たしたらしい。歩くことも儘ならなかった。

 

「ナツ! 俺の背中に乗れ!」

「え、ですがランジェ様……」

「いいからっ!」

 

 俺も俺で、残った力を振り絞り、ナツを背負って走り出した。

 ナツも、俺の体に強く抱きついた。しかし先程の力とは程遠く、おそらく、【剛腕】のスキルは発動できていない。本当に、力の限界だったのだろう。

 

 そんな彼女を担ぎ、俺は炎の中を駆け出した。こんな窮地でなければ、背中に当たる、柔らかくふくよかな豊満なモノを、密かに堪能したかったのだが……。

 

(ナツ、重っ! 滅茶苦茶重っ!!)

 

 想像以上のナツの重量に(とてつもなく失礼)、余裕など、微塵もなかった。

 

 

 

 

 そして俺たちは、なんとか無事、燃える納屋から脱出に成功した。

 

 近場の草むらに、四人揃ってゴロリと横たえた。

 全員が全員、肩で息をしていた。一人はゲロまみれで失神していた。

 これこそ本当に満身創痍だ。

 

「だ、大丈夫か?!」

 

 すると、村人たちが集まってきてくれていた。

 どうも、納屋の燃え方に違和感を覚え、念のため消火活動が行えるように集合してくれていたらしい。

 

 納屋の周りに集まった人達によるバケツリレーが行われていた。といっても、納屋の消火というより、周りへの延焼を防ぐのが目的のようだ。

 

「は……はは」

 

 俺は自然と笑っていた。

 あまりの疲労と、命が助かったという安堵が重なり、緊張の糸が一気に緩んだのだ。

 

 笑いながらも、俺は消火活動に勤しむ村人たちを一瞥していた。

 

(あのときの、仮面の女は……いないか)

 

 この火事の主犯だ。納屋に火を放った、あの仮面女。

 放火魔は案外、現場に戻ってきているという話をよく耳にする。

 だから、もしかしたら村人に混ざっているのではと思ったのだが、どうやらそれらしい人物は見受けられなかった。

 

「とりあえずは、一安心……」

 

 あの火の付け方を思えば、おそらく……だれかを亡き者にしようとしていたと、推測される。

 そして、この中で命が狙われる可能性があるのは──。

 

(狙いは、俺、か)

 

 誰の差し金か……は、なんとなく想像できた。

 勇者の候補が死ねば、さしずめ、次の勇者が現れるとでも思ってるのだろう。

 

(……メンドクセ)

 

 いろいろ頭の中を廻るが、まずは、この疲れ切った体を癒やすことを考えよう。

 

 空には星が瞬いていた。

 急激に睡魔に襲われた俺は、明るいくらいに輝く星々に見つめられながら、草の上で目を瞑り、軽く眠りにつくことにした──。

 

 

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