転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

25 / 72
25.寝込みを襲うとか最低だな

「……きゃっ!」

 

 ここまで……ここまで耐えてきたのに! 

 

 据え膳食わぬは男の恥、と言わんばかりに、俺の体は意図せず動いていた。

 ナツの両手を押さえつけ、そのまま彼女に覆いかぶさったのだ。

 

「はあっ……はあっ……」

「ら、ランジェ……さま?」

 

 いつの間にか、俺の息は上がっていた。

 ナツは、急な俺の行動に対して何も抵抗できず、そして、赤面した。

 

 彼女が身につけていたネグリジェは、体のラインをはっきり写していた。その姿は、さらに俺を興奮させた。

 

 顔が、自然と近づいた。だが、彼女は、避けなかった。【剛腕】のスキルを持ってすれば、振りほどくのは簡単なはずなのに、それをしなかった。

 

「ランジェ様……ナツは……」

「俺は! 違う!」

 

 自分でもびっくりするくらい、大きな声で彼女の言葉を遮り、否定した。

 するとナツは、『はっ』とした表情を見せると共に、少し戸惑った感じを含みつつ、静かに目線をそらした。

 

 俺はそれを、受け入れのサインと受け取った。

 

 高ぶる気持ちと一緒に、さらに奥底から沸き上がる、彼女への想い。

 俺の……いや、これはランジェの『想いの残り香』だ。

 彼は、物心付いたときから、ナツを姉のように慕っていたのだ。そしてその気持ちは、いつしか、姉弟という関係を超越した物に変わっていったのだろう。

 

 彼が成し得なかったことを、俺がやろうとしている。

 死の淵をさまよった(ランジェ)に取って代わり、俺が、彼の想い人を抱こうとしている。

 

(ランジェ、スマンな)

 

 一旦、俺は目を瞑り、彼に謝罪した。しかし、今は俺がランジェである。わずかに残る罪悪感を内心に押し込み、そして、大きく深呼吸をした。

 

(……く、しかし困った)

 

 実のところ、俺は転生前含めて、こういう所作の経験がない(なお、フィクション的な映像資料としては履修済み)。

 作られた映像作品のことをそのまま行う訳にはいかないが、男として、彼女をリードしてやらんと示しがつかぬ。

 

 ここで悩んで、何もしないのも不自然だ。こうなったら、後は野となれ山となれ! 

 

 俺は、改めて目を見開いた。目線の先には、ナツの顔がある。

 

「ナツ……」

 相手の目をまっすぐ見据え、今宵を共に過ごすパートナーの名前を囁く……あれ? 

 

 先程まで、耳の先まで真っ赤に染まっていた彼女の顔は、いつの間にか色味が落ち着いていた。最初は、窓から差し込む月の光の加減だろうかと思ったが、そうではない。

 俺が精神統一している間に、彼女は何か、窓の外に違和感を覚えたようだ。

 

「ナツ?」

「……何か変です、ランジェ様っ」

 

 彼女は俺ではなく、先ほどから窓を見ていた。見ているというより、睨みつけている。まるで、窓の死角に何かが潜んでいるのを警戒しているような……。

 

「ナツ? ここまできて、そういう冗談は……」

「ランジェ様、扉には鍵はかけました?」

「なんだ、そんな心配か。もちろんしっかり掛けたよ。だから誰も邪魔はさせない」

「えと、では窓に鍵は……?」

「──あれ? してたっけ?」

「……! 避けてっ!!」

 

 残念ながらナツの勘は正しかった。

 彼女が声を上げた刹那、閉ざされていた窓が開放され、黒ずくめの人物が部屋に突入してきたのだ。

 

「! きゃぁっ!」

「しまっ……くっ!」

 

 一瞬のスキを突かれた。──いや、隙だらけといえば隙だらけだったが。

 

 飛び込んできたのは、二人組みだった。

 ナツが俺を逃がそうとベッドから突き飛ばしたが、それは叶わず、俺は右腕を掴まれ、後ろ手に回された。腕の腱が決められてしまい、そのままうつ伏せに倒され押さえつけられた。

 

「お楽しみのところ悪いわねぇ、お二人さん」

「お前は、あのときの!」

 

 一瞬にして身動きが取れなくなった俺は、腕を掴む人物の顔を拝もうと体をひねった。すると、目に飛び込んできたのは、狐のお面だった。

 

 忘れもしない。

 ゴブリン退治のときに、納屋に火を放った女だ。

 

「おっと、喋るなよ」

「……ぐうっ!」

 狐面の女は、俺の腕を軽くひねった。それだけで激痛が走る。情けない悲鳴が上がってしまった。

 

「ら、ランジェ様……うっ!」

「お前も、声を出すな」

 そしてナツも、もう一人の黒尽くめの男性に、動きを制限されていた。

 男の持つ長剣は、ナツの喉ギリギリに突きつけられていた。彼女は壁を背に立たされ、こちらも体の自由が奪われていた。

 

「全く世話が焼けるねぇ」

「なん──!」

「あんま大きい声出すなって」

 女が言葉を発するに併せて。再度、俺の腕に激痛が走る。

 

「ぐああっ!」

「あーあメンド。まさか、あの火事で生きてるとはね」

「……狙いは俺だろ、ナツは離せよ」

「アイツは人買いに売るわ」

 

 すると、ナツを押さえていた男が口を開いた。

 

「上物だな、高く買うぞ」

 こいつ、奴隷商人か。

 

「ランジェ……さま」

 ナツが喋るたびに、首に刃が触れそうになる。

 俺もナツも、動くに動けない。完全に『キメ』られてしまった。

 

「ランジェ=ヴァリヤーズ、悪いわね。今度は、殺した証拠を持って来いって命令なのよ」

 

 すると、狐面の女は腰に携えた曲刀を抜いた。月夜に反射した刃は、まるで氷のように青白く美しかった。

 

「……! やめてっ!」

「しゃべるなっ!」

 

 ナツが制止させようとするも、彼女も刃を首に宛がわれ身動きがとれない。

 そうこうしているうちに、女は曲刀を大きく振りかぶった。狙いはもちろん、俺の首だ。

 

(万事休すか!)

 

 まともに動けず、ナツの助けも望めない。

 

(くそっ! せっかく転生してきたのに……こんなところで人生終焉(ゲームオーバー)かよ!)

 

 俺はギュッと目を瞑り、覚悟を決めた。

 首を切られるのって、痛いのだろうか。できるなら、痛みすら覚える前に即死したいものだ……。

 

 そして、冷たく煌めく刃が、俺の首に向かって振り下ろされた──

 

 

 

 

『コン、コン』

 

 

 

 

 扉をノックする音。

 

 一瞬にして、緊張の糸が張りつめた。

 俺も、男も、狐面の女も、ナツも、一斉に動きを固めた。

 曲刀は俺の首を落とすことなく、ギリギリのところでストップしていた。

 

『……夜分すいません、クウです』

 扉をノックしていたのは、クウだった。

 

「チッ」

 仮面の女は小さく舌打ちをし、刃物を下ろして俺に目配せした。

 

退(しりぞ)けろ。助けを呼ぼうとは思うなよ」

「……」

 

 助けを求めるという選択肢は、無かった。ここで俺が助けの声など上げようものなら、それこそ、クウの命をも危険にさらすことになる。

 

「……よう、どうした? クウ?」

 

 俺はできるだけ平常心を保ち、声色もいつも通りを意識して、扉に向かって返答をした。腕は未だに、後ろ手に固定されている。

 

『夜分すいません、村でのこと、謝りたくて』

「あ、ああ。そのことか、気にするな」

『ありがとうございます。けど、一度しっかり顔を合わせて謝罪を……』

「今日はもう遅いからさ、また明日話そうぜ」

『できれば、今すぐお話ししたいんです』

 

 クウを巻き込まないように、言葉を選んで返答した。しかし彼女は、なぜか意固地に扉の前から退こうとしない。

 

(早くしろっ)

 仮面の女が急かしてきた。俺の腕を握る手に力がこもる。

 

「ぐっ──、クウ、いま、ほら、俺たち、『取り込み中』だからさぁ」

 ちょっぴり下ネタも織り交ぜつつ、しかし自然な理由を含めて、クウの訪問を拒絶した。

 

『ええ、わかってます』

 しかし、クウは折れなかった。

 

「お、おいおい。『わかってます』って、クウ? 一体どういうつもり……」

 

『僕は……僕たちはっ!!』

 

 扉の向こうの彼女の声が大きくなった。『覚悟』を決めたような強い意図を含んでいた。

 

 そしてその彼女たちの『覚悟』が何かは、すぐに判明した。

 

 

 

『あなた達を、助けに来たんですからっ!!』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。