転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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43.ククゥイ村

 ククゥイ村は、先に述べた通り、過酷な環境に囲まれ人が住むにも難しい、お世辞にも裕福とは言い難い村である。

 

 小さな採光窓から見える多くの家屋は、今にも崩れそうなレベルでボロボロだった。壁は剥がれ、屋根は傷ついていたが、修繕されているような様子はない。

 

「冬、越せるのかこれ」

 

 素直に思った疑問が口に出てしまったが、しかし、馬車の中にいる人物からは回答は得られなかった。

 

「想像以上ですわ」

 代わりにトモエさんの口からも、ほぼ共感とも取れるつぶやきが漏れてきていた。

 

「ここの村長さんも、さぞ苦労しているんだろうなあ」

 半ば独り言のように語った一言だったが、馬車の外からマイクを通じ、運転手のトッシュが反応した。

『……そうでも、ないかもしれません』

「ん? どういうこと?」

『降りていただければわかります。到着いたしました』

 

 彼がそういうと、馬車はゆっくりと動きを止めた。

 ヴァリヤーズ領とリンドーダ領の境界の街から、ほぼ半日の工程を経て、俺達は目的地であるククゥイ村の村長宅に到着した。

 

「……」

「……こ、これは……」

「お疲れさまでした。こちらが、ククゥイ村村長宅になります」

 

 馬車の扉が開き、俺達は馬車の外に出た。

 手早く、長身の男性──トッシュが用意した踏み台を踏みしめ、降車した目の前に建っていたのは、貧相な村とは真逆な風貌の建物だった。

 

「……トッシュ、間違ってないよな……?」

「はい、こちらで間違いございません」

 黒いコートに身を包んだトッシュが答える。俺の2倍はある長身に、ガタイのいい体つきの彼。

 元雇われ傭兵だった彼は、古傷だらけの手に持つ地図を広げ、細い目をさらに細めて、再確認してくれていた。

 

「なんというか……似つかわしくない、というか」

「ランジェ様、わたくしも同意見ですわ」

「……オレも、そう思います」

 馬車から出てきたトモエさんと、そしてトッシュも、まったく同じ意見を述べてくれた。

 よかった、俺の感性が狂ったわけではないようだ。

 

 その屋敷は、豪華絢爛だったのだ。周囲の村の惨状と比較して、それはもう、明らかに場違いなレベルであった。

 

「ようこそ! ヴァリヤーズ当主殿!!!」

 

 そのとき、屋敷から現れたのは、派手な豚だった。

 それが、俺の第一印象。

 

 金ピカなアクセサリーを身につけ、防寒着は毛皮の高そうなコート。肉付きが良すぎて顎下の肉が柔らかく揺れていた。

 

 どうやらこいつが、この村の村長のようである。

 

「長旅、おつかれさまでした! 立ち話もなんですから、ささ、どうぞどうぞ」

 

 そう言って村長が、後から現れた召使いたちを顎で使い、俺達の荷物を運ばせ、屋敷の中に案内させた。

「あ、ああ」

「さささ! どうぞどうぞ!!」

 俺たちは彼らの行動のなすが儘、立派な外観の村長宅に招かれることになる。

 

 そして、屋敷の中も外観と違わず絢爛豪華に着飾られていた。

 田舎村には相当不釣り合いな、各国の高そうな郷土品、装飾品に調度品……。

 

(トモエさん、これは……)

 俺が、他の人に聞こえないよう小さな声でトモエさんに耳打ちをする。

(ランジェ様……わたくし、この村が貧しい理由が分かった気がします)

(奇遇だな、俺もだよ……)

 

 村の存続の危機……人命に関わることと聞いて、俺たちはお忍びで、本来の手続きすら省略し、多大な危険を顧みず、領主の仕事も多く残したまま、領地の境界を超えて馳せ参じたというのに。

 

(これは……選択を、誤ったな)

 

 そんな後悔の念に苛まれながら、俺たちは来賓室に案内されたのだった。

 

 その部屋も、高級そうな赤いカーペットが敷かれ、煌びやかな家具が多く飾られていた。

 以前に宿泊した、VIP専用の宿屋に引けを取らないレベルと遜色ない。これらすべてが、村の税収で賄われていると思うと、怒りと悲しさと情けなさが込みあがってきた。

 

「いやあ、まさか本当に来ていただけるとは! 光栄です!」

 

 そんな気持ちには全く気づいていない村長は、俺に手を差し出してきた。

 

 俺はその手をぶっ叩いて、強く握った拳を人面豚もとい村長の顔面に叩き込む……という行動に出そうになったが、しかし、一旦大きく深呼吸をしたのち、笑顔で村長と握手を交わしたのだった。

 

 ここで俺がブチ切れても、悪政は治らないだろうし。なにより、村人が食糧難になっていることには変わりない。

 

「私もです、ククゥイ村長……早速ですが、ここからはビジネスの話と行きましょうか」

 

 形式ばった固い握手を解き、そして間髪入れず、俺はトモエさんに目配せして、トランクケースを開けさせた。

 

 重厚なテーブルの上で開かれたカバンの中には、種子が入った布袋と、そこにそれぞれ、種の種類や特徴を記したメモ書きが縫い付けてあった。

 

「こちらが、ご要望の種子です」

「ほほう……これが、品種改良種ですか……」

「はい。寒冷地と荒れ地に適応した小麦(フロワ)です。今から作付けできれば、春先に収穫できますし、そこから季節をずらして、休耕時間を作らず、別の作物を作れます。麦穂は家畜のエサになり、家畜のフンは土地を肥やすでしょう」

 

 もともとは、外交的な意味合いも込めてボランティア価格で種を渡すつもりだったが……気が変わった。

 この村長からは、絞り取れるだけ搾り取ってやる。

 俺の心情の変化をトモエさんも汲み取ったのか、先程から笑顔が固く、淡々と業務を遂行している。

 

 ちなみにこれだけベラベラと農業知識を語っているが、特に生前は農業に従事していた経験はない。

 それこそ、俺は転生前で培った義務教育、及び高校で習う社会や生物の知識をフル活用しているだけだ。

 

 二毛作、メンデル配合、その他もろもろ……。誰もが、義務教育以上で勉強しているはずだろう。

 受験でしか使わないと思っていた知識が、こうも生かされるとは。

 人生、何があるかわからない(死んでるけど)。

 

「なんと素晴らしい!!」

 村長は手放しで関心している。そのたびに顎下の贅肉が揺れ動くのが滑稽だったが、その肉は圧政のもと作られたと考えると笑えない。

 

「いかがでしょうか村長」

「是非、譲ってくれ!」

「もちろん、我々はそのために来ましたので。ですが……」

「あー! 皆まで言わんとも、言いたいことは分かっておるぅ!!」

 

 こっちとしては、もう無償で渡すつもりはない。金品の要求に加えて、なんならリンドーダ領へ恩義を売っておきたいくらいだ。見捨てられた荒地であっても、リンドーダ領地なことには変わりない。

 

「俺としては、今回の種によって、あなた方とビジネス以上の関わりが生まれればとも思っております」

「わーかっております! 分かっておりますって!!」

 

 こいつも腐っても村長としてやっているのだから、『交渉』の二文字を知らんことはないだろう。しかし、俺たちが望むものに感づいていないのか、それとも、はぐらかしているのか……。特に『ビジネス』という言葉を出して以降、どうも、明確な回答を避けているようにも思える。

 

「村長、我々もボランティアとして来てはおりません。領地越境に加えて、片道に三日かけておりますもので……」

「! おおお! そうでした、お疲れでしたな! ワシも急かし過ぎました! まずは旅の疲れを癒してもらいましょう!!」

「いえ、村長。そういう……」

「まあまあ! 空腹でもございましょう! 我々、誠心誠意を込めた接待も準備しておりますので! 村名物の料理も準備しておりますし!」

 

 くそ。

 やっぱりそうだ。こいつ金払う気が全くないぞ。

 

(やっぱりぶん殴って帰ってしまおうか……)

 

 そんなことを半ば本気で思いつつ。

 しかしながら、人間、体は正直だった。

 小さく、腹が鳴ったのだ。それに、長旅の疲れが出ていないというのは嘘である。

 

 ただ座っていただけ(リモートワークはしていたが)の自分ですらコレなのだから、運転手のトッシュや、いろいろ気をまわしてくれていたトモエさんは、さぞお疲れだろう……。

 

「……くそ」

「ん? 今何かおっしゃいましたか?」

 

 俺は、村長に向かって笑顔で首を振り、そして、

 

「それでは……村長のご厚意に預かりまして、村の名物でもごちそうに上がりましょう」

 

 不本意ながら、まずは、その接待とやらを受けてみることにした。

 食事の席には、村長も同席するだろう。それこそ、テーブルを囲んでこの続きを語るだけだ。

 

 

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