転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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45.エルフェイ族

 踊り子の耳は、普通の人よりも明らかに上に伸びて、先端が尖っていた。

 彼女はそう、転生前によく見知ったファンタジーものには必須な、()()種族に寸分違わない容姿だ。

 

「あの踊り子……」

「ランジェ様も、お気づきですか」

 トモエさんも真っ赤な顔のまま、しかし、目は鋭く踊り子を見据えていた。元同業ということもあるのか、踊りを楽しむというより、まるで品定めしているかのよう。

 

「トモエさん、あの踊り子って……人、じゃないよな」

「ええ。おそらく彼女は、エルフェイ族です」

「やっぱり、エルフ、か……ん? ()()()()()?」

 

 ええ。と、トモエさんが頷いた。

 どうやらこちらの異世界は、俺の知るいわゆる『エルフ』とは、ちょっと呼び名が違うらしい。

 

「踊りと自然を愛する種族で、人間によく似た亜人です。容姿端麗で、寿命は100年とも200年ともいわれてます。そしてなにより、内に秘める魔力は人間のそれを凌駕する……」

 

 お酒を嗜みながらも、トモエさんがエルフェイについて説明してくれた。

 しかし、こっちの異世界の事情は一通り学び直したはずだったが、エルフェイについては全く学びがなかった。それほど珍しい種族なのだろうか? 

 

 そんな俺の疑問は、その後の巴さんの説明によって、すぐに氷解した。

 

「エルフェイはその潜在魔力の危険性ゆえか、300年前の暗黒時代に、魔王によって滅ぼされたと聞きます」

「滅ぼされただって?!」

 

 あまり穏やかではない言葉を耳にして、つい声が大きくなってしまった。そんな驚いた俺を見て、小さく頷くトモエさん。

 

「魔王が、エルフェイのマナの源である『世界樹』を斬り倒したのです。それに合わせて、エルフェイも、めっきり数を減らしたと言われています」

 

 なんと。俺が知らない歴史の中で、そんなことが起こっていたのか。

 ということは、いま目の前で踊っている踊り子は、エルフェイ族の生き残りということになる。

 

 妖艶な、異性を引き付けるような魅力的な踊りではあるが、しかし、その容姿やエルフェイであることの珍しさ、そして、最初に一目見たときに感じた強烈な魅力に、俺はまた、踊りから目が離せなくなってしまっていた。

 

「私もあと、五年若ければ……」

 

 躍りを見ながら、トモエさんが独り言のようにつぶやいたのが聞こえた。

 いやいや、なに対抗心を燃やしてんですか。そんなとこで争わなくても、トモエさんもまだ全然魅力的です。

 未だに年齢不詳の美魔女は、踊りには厳しいようだ……。

 

 

 そして、音楽が止まり、踊り子も静かに膝をつき動きを止めた。手足の鈴の音が止まり、体を巻いていた薄いヴェールがふわりと、ゆっくりと地面につき、躍りは終演となった。

 

 自然と、周りから拍手が鳴った。俺も、踊りの美しさと踊り子の美しさに、素直に拍手を送った。

 

(あの踊り子と、ちょっと話すことはできないだろうか)

 

 旅芸人の団体なら、来賓や首長にあいさつ回りにやってくるだろう。しかしその際に、旅芸人一座のリーダーが来るのならわかるが、踊り子を連れてくるとは限らない。

 

「えと、村長」

「どうです! どうです! どうですか! 素晴らしい踊り子でしょう!!」

 俺の言葉を遮り、村長がまさしく目の前に迫ってきた。

 

「素敵な躍りでしたよ」

 目障りで甚だしい。なんで村長が、そんなに迫ってくるんだよ。踊ったのは旅芸人一座だろうに。

 しかし、踊りについては素直に素晴らしかったから、そのままの感想を述べた。

 

 すると、楽団が俺達のところにやってきた。

 ありがたいことに、楽団のリーダーだけでなく、演奏した人も、踊り子も連れて、全員が団体で来てくれた。

 よかった、これで踊り子と話ができる。

 

「ヴァリヤーズ領主のランジェ様ですね。お会いできて光栄です」

 楽団のトップらしき人物が膝をつき、頭を下げる。同時に、後ろについていた他の楽団員も膝をついた。

 俺は率直な感想を述べた。

「素晴らしい余興でした、素敵な踊りをありがとうございます」

「ありがたきお言葉……ほら、お前も挨拶だ」

 

 すると、楽団のリーダーがなにかを引っ張った。

 それは鎖だった。……犬とかを散歩するときのリードだ。鎖の先には、彼女がいた。

 散歩を嫌がる犬のように、彼女はわずかに抵抗する。しかし、大人の力で引かれる鎖に負けて、俺の前まで来て膝まづかされた。

 

「……あ……あ……」

「こら! 『ありがたき幸せ』だろ! 何度も教えただろうが!」

 

 鎖を更に引く。クビに巻かれたチョーカーが締め付けられ、彼女は苦悶の表情になる。

 

 何が起こったのか理解が遅れた。しかし、目の前で踊り子が苦しそうに涙目になったのをみて、一気に脳みそが回転する。

 そうか、そのチョーカーはアクセサリーではなく、彼女を飼いならすためのものだったのか。

 

「どうですランジェ様、珍しい『逸品』が入ったので、是非にと」

 

 俺と楽団員の間に割って入った、にやつく村長。

 村長と全く同じ目をする、楽団のリーダー。

 

 ああ、そうか。俺は大きな勘違いをしていたようだ。

 彼らは旅芸人一座じゃない。この村のお抱え楽団……いや違う。

 こいつらは、楽団なんかじゃない。

 

 

 ──奴隷商人だ。

 

 

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