転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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52.交換条件

「ふっざけるな!」

 つい声を大きくしてしまう。おいおい俺はノン気だぞ! 

 体中の肌が粟立つ。とっさに身を引き、いつでもこの場から逃げ出せるよう身構えた。

 

「……あ、あ、あたしは! やります!」

 しかしそんな俺とは打って変わって、彼女は俺の前に身を乗り出した。

 

「ウェルテ!」

「あたしのために、ランジェ様や皆さんが、そんなことする必要ない! あたしが一人頑張ればいいんでしょう!」

「バカ! 変なこと言うな……っ!!」

 

 反射的に俺は彼女の肩を抑えた。その時彼女の目には、光るものが見えた。

 

 彼女は涙目だった。

 

 これから行われることへの恐怖と。

 本人のせいで皆に迷惑をかけているという自責。

 様々な感情が溢れ出したのだろう。

 

 

 また、彼女を泣かせてしまった。

 

 

「おひょ。威勢の良いのう。自ら進んでしてもらえるのなら願ったりかなったりじゃ」

「──もういい」

 

 怒りを抑えていたはずだったが、本音が口から漏れてしまった。

 

「おや? よろしいのですかランジェ=ヴァリヤーズ様。この身分証(タグ)が目に入りませんか?」

 

 水戸黄門の印籠のごとく俺達にタグを見せびらかす。

 しかしそのタグは、どんなに精巧に作られても、偽物は偽物だ。

 そんな偽物に、俺や、ましてやウェルテの体を差し出すのも馬鹿らしく感じてきた。

 

「他の手段を考える! こんな店、領主(おれ)権限で即刻潰してやる!」

 

 まるで三下が発する捨て台詞だった。

 頭に血が上った状態では、そんなセリフしか出てこなかった。

 

「! ランジェ様っ!」

「文字通り、幕引きだよ!!!」

 

 一瞬、トモエさんが俺を抑えようと動いたが、それより先に、俺は、目の前に垂れていた暗幕を引きずり下ろした。

 怒りに任せて手を振り回し、暗幕が引き裂かれてしまった格好だ。

 

「ああっ! そこはっ!」

 

 タオレンは、裂かれた暗幕にかなり驚いた表情を見せた。

 ずっと上から目線で語ってきた男に、少しでもギャフンと言わせることができただろうか。

 

 そして破れた暗幕は更に亀裂が広がり、あれよあれよと、仕切られた一角が露わになった。

 

「……これは……」

 

 俺は、それらに見覚えがあった。

 四角い金属のバットには、お酢のような匂いの液体が満たされていた。

 天井の四隅から、洗濯紐のようにぶら下げてある何枚もの紙。

 その紙には、絵画とは全く違う、非常にリアルな肖像が描かれて──いや、写し出されていた。

 

「写真……?」

「現像室ですじゃ。魔工都市メラルカから、面白い機械を取り寄せましてね。写真機といいますのじゃ」

 

 真四角な作業台に乗っていた装置を指差す。それは、前世で見たことのあるものによく似ていた。

 

「──!」

 

 カメラを使えるということは、……この男! 行為を写真に収めているのか! 

 

 ぶら下がる写真には被害者たちの辱められた姿が……! 

 

「──ん?」

 

 しかし目に入る写真の絵面は、想像とちょっと異なっていた。

 

 たくさんの写真の中には、トモエさんの姿も見えた。

 すげーフリフリでヒラヒラなお洋服を召していた。

 

 端的に言ってしまえば、ニチアサ的な魔法少女。

 いや、トモエさんの年齢的に少女は無理があr……じゃなくて。

 

 顔を真っ赤にしながらも。

 髪をツインテールにしながらも。

 正直、年代的にキッツイ彩色な服を着ながらも。

 

 謎の形の杖を、こう、『キャピ☆』(死語)って感じで構えているトモエさんが写っていた。

 

「──え?」

 

 更に他の写真にも目配せすると、先ほどブティックにいた従業員の女性たちも、かなり特異な衣装を着飾り、撮られていた。

 

 さらには、ムキムキ筋肉を全面に見せ、何故かツヤツヤなオイルでテカっている、パンツ姿のトッシュの写真もあった。

 

「あれ?」

 すこーし、風向きが変わってきた。

 俺は、なにか激しい思い違いをしていたのだろうか──。

 

 その部屋の隅に、彼女等が着ていたと思われる衣装が、まとめて吊られていた。

 

「素晴らしいジャロ。コスチューム遊びですじゃ」

「こす……ちゅーむ?」

「わしの趣味ですじゃ。美人さんや健常男子に、ワシデザインの衣装を着せて写真をコレクションするのじゃよ」

「コスプレ……撮影会……?」

「ほう! いいですな! この特殊すぎる趣味に名前がなかったのですじゃ! ランジェ様命名の『コスプレ』と今後は称しましょう!」

「え、体で払えってのは」

「ワシの謹製衣装を着てもらって、写真に収まってもらいましょう。えーと、ではこちらの衣装を」

「おい」

「そちらのエルフェイさんには、どうでしょうこちらの猫風衣装など」

「おい」

「この猫耳カチューシャがまたチャームポイントでしてね」

「おい」

「もちろんネコヒゲも忘れませんぞ」

「おい」

「そうですねランジェ様は小柄ですから、あえてランジェ様も猫風衣装で合わせて……」

「おい! ちょっと待て!」

「おや、お気に召しませんか?」

「そうじゃない! なんなんだこれ! 俺の怒りの矛先を返せ!」

「おや、どういうことでしょう?」

「俺はてっきり、◯◯◯(ピーー)とか✕✕✕(ピーー)とかヤラされるのかと!」

「! なんと破廉恥な! ワシがそんなことするわけ無いでしょう!」

 

 なぜかタオレン工匠に怒られた。

 

「ワシはかわいいものを──ワシがデザインした衣装を着たものを愛でるのが好きなんですじゃ! そんな、衣装を脱いだりお触りしたりしたければ、そういう店に行きなされ!」

 

 さらに捲し立てられた。

 

「美しいものは、見て楽しむものですじゃ! 写真はそれを、未来永劫残すことができる素晴らしい手段! ◯◯◯(ピーー)とか✕✕✕(ピーー)など、ワシの目が黒いうちは言語道断! イエス、ピクチャー! ノー、タッチじゃわい!」

 

 

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