転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
その悲鳴は、中庭のほうから聞こえてきた。
今の時間は確か、
「今のは、
俺は辛抱たまらず、中庭に駆け出した。
「! ランジェ様っ!」
ウェルテも、それに続いて走ってきた。
しかし俺は、それを制した。
「ウェルテは、トモエさんたちを呼んできてくれ!」
「わ、わかりました!」
そういうとウェルテは、その場でUターンして屋敷に戻っていった。
俺は、声の方向に向かって走る。
整備された畑を抜け、生け垣を飛び越え、噴水広場(いまは農地用の灌水としている)の前に向かった。
そして、叫び声が上がった現場に到着した。
そこには、数人の給仕たちが呆然と立ちすくんでいた。
そして皆、一様に、庭の外──屋敷の正門を見ていた。
「何があった!」
「隊長!」
声をかけてきたのは、大柄な男──
「トッシュ、隊長呼びは軍隊だけにしてくれ……何が、あった──!?」
急いで走ってきたため、俺の息は上がってしまった。うん、運動不足が響いたな。
しかしそんな心配事など、露と消えた。目の前にいる、異質な『それ』に、すべての意識を持っていかれた。
それはおそらく、人だった。
手は2本。
足も2本。
頭は一つ。
体も一つ。
しかし普通の人間とは異なり、体には無数の穴が空いていた。まるで、蓮の花托を全身に張り付けているよう。いわゆる蓮コラ。
集合体恐怖症が見たら、卒倒しそうな状態だ。
「こいつは……」
そしてその生き物は、驚くことに、その状態で歩いていた。
ゆっくり、ゆっくりと。
その足で、うちの屋敷の正面門を通り抜けようとしていた。
門は鉄格子で閉ざされていたため、中庭には入ってきていない。しかし『それ』は、ガシャン、ガシャン、と、格子に体を打ち付け、中に入ろうとしていた。
その行動はまるで、何かを探しているかのようだった。
「た、たすけて……」
「!」
皆がこの生き物の存在に気を取られていた中、『それ』は、声を発した。
「……あ! お前、もしかして!」
俺は、『それ』がわずかに残す、人間の体の特徴に見覚えがあった。微かに残る記憶を、先ほどからたどり、そして、発せられた声に感化され、思い出した。
「ククゥイ村の、村長!」
刹那、『それ』は爆ぜた。
体中のありとあらゆるところに空いた穴から、何かが生えた。
勢いよく伸びたそれは、元村長の体をはじけ飛ばしたのだ。
出てきたものは、植物だった。植物が勢いよく発芽し、村長の体内で成長していた。
「……うぅっ!」
突然始まった、あまりにスプラッタな風景に、一部のメイドは吐き気を催した。。
そして、植物は地面についたとたん、根を張った。
同時に、圧倒的スピードで、さらなる成長をした。
周りに飛んだ、人間のかけらを取り込みながら。
それは縦に、長く。そして、絡まり合いながら。
太く大きく成長し、まるで一本の「木」のように、伸びたのだった。
「……」
「……」
叫び声を上げなかった者は、目の前の惨劇に威圧され、声が出なかっただけだった。
俺も、その一人だった。
「なん……だよ……これ……」
「ランジェ様っ……!」
俺の後ろから聞こえた声にハッとする。
騒ぎをウェルテから聞き、トモエさんが駆けつけてきてくれた。しかし、彼女も例に漏れず、目の前の遺体の凄惨さにたじろいだ。
「ウェルテ」
「あ……あ……」
一緒に来たウェルテに至っては、顔を真っ青にして腰を抜かしていた。
「……見ないほうが良い」
こういうのに耐性のなさそうな、ウェルテや他のメイドたちを下がらせた。
俺もだいぶきっついものを見てしまったせいで、吐き気が収まらない。
しかしそんなことを行っている場合ではない。
「トモエさん」
「ランジェ様、これは……」
「全員に、通達だ──『これは訓練ではない』」
「──!!」
トモエさんは、俺の言葉を聞いた途端に、はっと驚き、そして、真剣な眼差しになった。
今のは、
この一言は、
「トッシュ。
「了解した、隊長。この木はそのままで?」
「ああ、どうやら、
俺には、見えていた。
この木は、俺が村長に恵んでやった、品種改良品の植物の集まりだ。かなり様相は変わっていまっていたが、所々に、元の植物の名残がある。
そしてコイツの種子はホウセンカのように破裂し、目に見えない大きさの種を遠くに飛ばしていた。まるで何かを伝えんとしているような、そんな飛び方だった。
「トモエさん、
「はい、
トモエさんは駆け足で、屋敷に戻っていった。
「それ、と……」
彼女をどうするか。
やはり、後ろに下げさせるのが
「
「はいっ!」
先程まで真っ青な顔色をしていた、
と同時に、彼女──ウェルテの方を向き、半ば強引に屋敷の中に連れ込んでいった。
「え? え? ランジェ様っ?!」
「ウェルテ! 君はしばらく、
あそこなら屋敷の最奥、一番安全な場所だ。
引きずられる彼女を見送り、俺は、懐から
「当主、ランジェ=ヴァリアーズが命ずる」
この操作で、屋敷内の全ての水晶から俺の声が響くようになる。
つまりこれで、従者全員に命令を出す事ができるのだ。
もちろんこれは緊急時用だが、まさに今、それに該当する。
俺は、できるだけはっきり、皆に聞こえるように命令を下した。
「各位、第一種警戒態勢に入れ──今回の騒ぎを、宣戦布告と受け取る」
**********
闇夜に紛れて、鬱蒼とした森を進む団体が見えた。
それらが進むと、彼らを避けるように、草木が揺れ動き道を開けた。まるで草木が意思を持ったかのようであった。
『……以上。敵の情報です』
「了解。
『そのまま、屋敷の正面に向かってます。数は──いま確認できました。20です』
「武器などの情報はあるか?」
『ショートソードが10、弓が8、あとリーダー格と思われる人物は、大剣1、それと、小さな杖状の魔道士が、1です』
「上出来だ。──そろそろバフが解ける。一時下がれ、オーバー」
『了解、オーバー』
さてと。
改めて俺は、テーブルに広げた庭の俯瞰図を眺めた。
今夜は月は出ているが、今は雲に覆われている。夜風は冷たかったが、今から行われることを思うと、むしろ目が冴えて心地良いくらいだ。
「敵はまず、正門前に生えた木に近づく。そして開いている門を抜け、こちらに来るだろう……と思っているけど、こちらの思惑通りになるかな、トモエさん。招待客と勘違いしてくれると良いんだけど」
「相手がそれなりに自信があれば、おそらく。──いかがします?」
「まずは、
そして俺は、耳に取り付けた水晶を3回タップした。
「聞こえていたかい。それぞれ戦闘配備。全員、俺に耳を傾けろ」
『
『
『……
一呼吸おいて。そして、大きく深呼吸をした。冷たい夜風が肺に溜まる。
そして俺は、次に紡ぐ言葉に全神経を巡らせる。
(呪文は、音に乗る)
先のリモートワークで試し、手応えを得ていた。
音を飛ばす水晶体で呪文を響かせると、その音に魔法の効果が乗る。リモートで羽ペンを動かせたのはその理論によるものだ。
「
しっかり一語一句、言葉に意味を──気持ちを込める。
この世界とも、ましてや、
そう、今、使用人は全員、イヤホン式の携帯水晶体を耳に付けている。
『クイックアーツっ!!』
これが、勇者になれなかった俺がたどり着いた戦い方だ。
領主として、従える人物を鼓舞し、あとは任せる! 言ってしまえば現場丸投げではあるけど、正直、俺より周りの人間のほうが強い! それでいて、俺に従ってくれるのであれば、それらを全力でサポートして目的を達するまでだ。
「さあ、戦いの始まりだ──