転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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64.それから1週間

 街の大工を呼んで、修理の見積もりやら雨漏り対策。

 庭師を呼んで、庭木組(ガーデン)と一緒に庭整備の準備。

 などなど。

 いろいろやっていたら、あっという間に1週間が過ぎ去っていった。

 

 治癒術はかくも便利で、ほとんどの使用人の傷は癒え、多くは職場に復帰していた。

 ただ、それこそ24時間体制で回復していた洗濯組(ランドリー)へは、特別休暇を与えることとなった。そのためちょっと、洗濯ものの処理が滞っているけど……致し方なし。

 

 また、壊された建物のほうにもいろいろと問題が生じていた。

 特に直近で困ったことは、破壊された場所に炊事場が含まれていたことだ。そのため俺の食事はもちろん、使用人たちの食事を満足に用意することが難しくなった。

 

 そしてやっと、料理組(キッチン)庭木組(ガーデン)が協力して、キャンプ状の調理場が稼働した。

 焼いたナンのようなものではあるが、これで今日から、暖かな食事が供される。

 

「ありがとう、ウェルテ」

 書斎に食事を持ってきたウェルテに、俺は感謝を述べる。

 だが、ウェルテは小さく会釈して、そのまま戻ろうとした。表情は、暗かった。

 

「……ウェルテ、またか」

「……はい」

 黙っていても無意味だと思ったのだろうか。それとも雇い主の命令にしたがっただけか。

 彼女からの返答は、肯定だった。

 

「これで5人目、か」

「何も飲まず食わずで、そのまま衰弱死、とのことです」

 

 捕虜のエルフェイたちのことだ。

 彼女たちの多くは、気が狂ったように暴れ、意思疎通もできないままであった。

 そして、水すら口にすることはなかった。やせ細り、そのまま息絶えていった。

 

「……」

 ウェルテはうつむいたままだ。

 数少ない同族が、同じ屋根の下で息絶えていくという現実が、辛いだろう。

 

「……アル=パタルー」

 あのとき、捕虜のエルフェイからも出た言葉。

 あのとき、敵のトップと思われる術師から出た言葉。

 この言葉の意味が、ずっと引っかかっていた。

 

「やっぱりわたしも、覚えてないです」

「うん。俺も調べてるんだけど……」

 

 あの襲撃の意図。それが、アル=パタルーだとすれば。それに該当する『(ランジェ)』が、奴らの目的だ。

 しかし、あの事件からだいぶ日にちが経っている。

 

 向こうも、戦力を失って手をこまねいているだけか。

 それとも、何かを待っているのか。

 それとも、何か別の策があるのか。それとも……。

 

(それとも……ウェルテの記憶にも、何かヒントがあるのかもしれない……?)

 

 そんな思案を巡らせながら、俺はナンのようなパンにかぶりついた。

 久方ぶりの温かい食事に、少し心が満たされる。

 

「……えと、なんでしょう」

 

 気づいたら、彼女をまじまじと見つめてしまっていた。

 いろいろ考え事をしながら食事をするのは良くないな。

 

「あ、いや、ゴメン。……そういえば、服が違うなって」

 

 今、ウェルテが来ているメイド服は、料理組(キッチン)のものとは違っていた。

 

「服が足りないんです。なので、洗濯組(ランドリー)のを借りております」

 

 そうだった。洗濯組に休暇を与えていたから、一部の服の洗濯が間に合っていないんだった。

 かつ、調理場とその近辺の部屋が壊れた際に、料理組(キッチン)の制服置き場も被害を被っていた。そのため、単純に服が足りていない。

 

「似合ってるよ」

「ありがとうございます。けど……」

 

 反射的に、お世辞の言葉が漏れた。そして彼女の返答も早かった。

 だが、彼女は不満顔だ。

 

「けど? どうした?」

「これ、のサイズが合ってないので……」

 

(あ、確かに)

 

 特段、ウェルテがデカい訳ではない。

 着ている服のサイズが小さいのだ。

 

 ぶかぶかの制服では、調理場で裾を引っかけたりして鍋でもひっくりかえしたら大惨事である。

 そうすると、サイズピッタリの服がないのであれば、大きいより小さいものを着ることは合点がいく。

 

 ……なんなら、スカートの丈もあってない。

 結構……その……なんというか……見えそう。

 

「……なに、見てるんですか」

「う、す、すまん」

 

 本日、二度目の謝罪である。

 

 というか、俺は何を見ているんだ! 

 失礼にもほどがあるだろ! 

 同族が亡くなって、悲しみに打ちひしがれている彼女を、そういう目で見るとか! 

 ちょっと、主としても人間としても、最低だと思います! 

 

 ……けど、なぜだろう。

 すごい彼女が魅力的に見えてしまっていた。

 負の感情にとらわれている彼女から醸される、妖艶な魅力。

 容姿は本当にキレイなのだ。そこに重なる不思議な誘惑に、引き寄せられてしまったというか……。

 

(ダメだダメだ! 何を考えているんだ!!)

 

 一気に、ナンを詰め込んで、お茶で流し込んだ。

 結構な熱さだったが、平静を戻す気付にはなっただろう。

 

「ぐ……はぁはぁ」

「……」

 

 そんな俺の奇行(?)を、彼女は見ていた。特に、リアクションがなかったのが気になった。

 書斎から出ようとしていたときに呼び止めたまま、先ほどから動いていなかったのだ。

 

 それが気になり、俺はウェルテに声をかけた。

 

「? どうした、ウェルテ。さっきから……」

「わたし。なにも、力になれていない気がして」

「気にすんな……って、うあぁぁっ!!」

 

 それは唐突だった。

 彼女が駆け寄り、俺に抱きついたのだ。

 

 書斎に積まれた書類の一部が、床に落ちる。

 

「ちょ、おい!」

 あまりの突然のことで、俺は声を荒げてしまった。

「ごめんなさい、ランジェ様」

 返ってきたのは謝罪の言葉だ。

「ウェル……テ?」

 

 そして彼女は、堰を切ったように泣き出してしまった。

 彼女の涙が、俺の服を濡らしていた。

 

「……」

 俺は、ゆっくり彼女を抱きしめた。そして、少し力を込める。

 ビクっと彼女の肩が震えるが、しかし、これが受け入れの意であることを理解したのか、今度は俺に体重を預けてきた。

 

「ごめん、なさい、ランジェ、様……」

 泣きながら謝る彼女の頭を、優しく撫でる。

 子供を宥めるかのように。

 

「いいよ、落ち着くまでこのままで」

 優しく、言葉をかけた。彼女が落ち着くまで、暫くこのままにさせてあげよう。

 

「うっ……うっ……」

 俺とウェルテとしか居ない部屋に、嗚咽が響く。

 俺は、頭を撫でていた手をゆっくり動かし、彼女の肩に回した。

 

 踊りが得意な彼女は、全身にほどよく筋肉がついていた。女性特有の柔らかな筋肉だ。

 さらに、自分の方に体を寄せた。彼女のブロンドヘアーが、俺の鼻をくすぐる。

 

「ウェルテ……」

 

 彼女の良い香りが、俺の理性を少しずつ崩していった。

 抱きしめた彼女の体は、おもったより小さいと感じた。

 

「ランジェ様」

「うん、落ち着いた?」

「……ごめんなさい、こんなことでしか……」

 

 彼女は俺に肩を抱かれたまま、もぞもぞと動き始めた。

 

「こんなことって……って! ちょぉぉぉっと!!」

「体が、熱くて。火照ってしょうがないんです」

 

 彼女は俺の腕の中で、上半身の衣服を(はだ)けていた。

 健康的な白い肌は透き通るほど美しかった。そして、ほど良い大きさの胸は、俺の体に押し付けられていた。

 

 

 あかんて。

 

 

 中世に近い設定の異世界の領主ともなれば、正直、こういう「給仕(メイド)とのロマンス」を夢見たこともある。

 けど、今の今まで『そういう』イベントが起こらなかったのは、当家のメイドたちが皆揃って生真面目、間違っても領主に手を出すまいとの想いだったこと。そして、俺自体が非常に奥手だったこともあって、『そういう間違い』は発生しなかった。

 

「ウェルテ! 節操守って! 理性を保って!」

「もう、私、耐えられません。ランジェ様からの恩を返すのには、こんなことでしか」

 

 彼女はとうとう、俺の衣服に手をかけてきた。直接、彼女の手が俺の体に触れるたびに、彼女の熱気が伝わってきた。ほかほかと温い人肌は、非常に心地よかった。

 

「だ、だめ、だって」

「ランジェ様、ランジェ様」

 

 マズい。彼女の目は虚ろだ。まるで、何かに魅了されているよう。非常に強力な催眠術にでも掛かっているかのようだった。

 恋は盲目が、地を行っている。

 

「マズいって! ウェルテ! ま、待って……はうん」

 服を脱がされ変な声が出てしまった。

 上半身裸の男女が、密室の書斎で二人。もうこれは『始まってしまう』

 

 どうする! どうするランジェ! 

 そのままウェルテという激流に身を任せ、流されてみるか!? 

 それとも誰か、助けを呼ぶか? 

 

 いや後者はまずい! すでに半裸な二人なのだ! 

 こんな姿、他のメイドにでも見られたら一大事どころじゃない! 

 でも! でも! 

 

 

「……あなたたち! なにをしているんですか!」

 

 

「!! 痛ってえ!」

「ひっ!! 痛っ!!」

 

 よく知る声色に、俺とウェルテが同時に肩を震わせ、と同時に、頭に『ゲンコツ』を食らった。

 まるで、ワガママな子を叱りつける、昭和の母親のようだ。

 

「いくらノックしても返事がないと思ったら! この……不潔です!!」

 

 顔を真っ赤にしたトモエさんだ。目は怒りで釣り上がり、こめかみには青筋が立っていた。

 

「はい、すんません」

「はい、すいません」

 

 俺とウェルテは、衣服を戻して正座しながら反省の弁を述べた。

 

「まったく! こんな緊急事態に!」

「はい、すんません」

「はい、すいません」

 

 こちらとしては謝罪の言葉しか出てこない。

 けど……。さっきまで異常なまでに欲情していたウェルテも、いつもの彼女に戻っていた。それは幸いであった。

 

「……ん? トモエさん、緊急事態とは?」

「! ああ! んもう! そのために来たんですから!」

 

 俺達を叱っていたトモエさんだったが、態度を改め、衣服の乱れを戻し、背筋を伸ばした。

 いつもの、メイド長のトモエさんだ。

 

「緊急事態です。奴ら()が来ました」

「来たか!」

「えっ!」

 

 俺とウェルテは同時に驚く。

 いつかまたやってくると思っていたけど……。

 

「こんな日中の、明るいうちにやってくるとは」

「ええ、それがですねランジェ様」

 

 トモエさんが言葉を濁す。

 

「なにかあったのか?」

「ええ、奴ら、『正面から堂々と』『正装してやってきてます』」

「正装……って、え? 変装ではなく?」

「正装です。ドレスを着てます」

 

 ……。

 一体、どういうこと?? 

 

 

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