転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
「ごきげんよう」
そのエルフェイの術師は、ドレスの裾をつまみ礼をした。
その横に立つ大女は、ドレスではなくスーツ姿だった。男装の令嬢という形容が合致する。
「……どういう真似だ」
あからさまに嫌悪感をだして、俺は、正門の鉄格子越しに悪態をついた。
用心のため、トッシュとトモエさんを連れて来た。そして離れには、
「あら、人間の礼節を真似たのですけどね」
そのエルフェイの女は笑顔だった。憎らしいほど、美人な笑顔だ。
「何をしに来た」
もう一度俺は、嫌悪感丸出しで返答を求めた。
「はじめまして──ではありませんけど。私の名前は、シトリス。こちらはカルマンダですわ」
こちらの意図に反して、彼女らは自己紹介を始めた。
それでいて彼女らの一挙一動には、何故か嫌悪感を覚えた。
非常に懇切丁寧な立ち振る舞いなのだが、なにか違和感があった。
「……」
「あら? おかしいですわね。人間の作法では、まずは自己紹介と聞いていたのだけど」
シトリスが首をかしげた。隣の大女、カルマンダも、やれやれといったような表情を見せてきた。
(そうか、こいつら!)
彼女たちから覚える不快な感じの理由がわかった。
このエルフェイ共は、表面だけ人間の礼節を真似ているだけで、内心は『これっぽっちも礼を重んじていない』のだ。
「……もう一度聞く。何しに来た」
「私達は、話し合いに来ました」
そんな俺の感情は全く読み取られることなく、そして悪びれもなく、口を開く。
「話し合い、だと?」
「ええ、無益な殺生はしない。これ以上無駄な血は流したくない、というやつかしら?」
くすくすと、シトリスは笑った。
その笑い方は、うちの使用人たちの神経を逆なでするには十分だった。
「……ふざけやがって」
トッシュが、斧を強く握り直した。
トモエさんも無言で、双剣を抜いていた。
「待て」
しかしそんな彼らを、俺が制した。
「あら?」
シトリスは、笑った顔のまま首を傾げた。
「これ以上の被害を出さずに、こんなふざけた事を終わらせられるなら、俺は賛成だ」
「あらあら」
俺の提案はそれほど驚きだったのか。シトリスは笑顔のまま、口調だけは驚嘆の声だった。
「トモエさん、彼女たちを招こう」
「なにを!」
そしてそれ以上に、トモエさんは驚いていた。
もちろん、トモエさんの気持ちは痛いほど分かる。
庭をグチャグチャにされ、屋敷を破壊され、そして従業員に多大な被害を与えたコイツを、俺は招き入れようとしたのだから。
「でもまずは、同じテーブルにつかなければ、なにも始まらない」
「くっ……わかりました」
そういうとトモエさんは双剣をしまい、トッシュは正門を開放した。いずれも、納得いかない渋い顔である。
そりゃ俺も悔しいさ。
このケンカは、あいつらが仕掛けてきたのだから。
それを、向こうから話し合おうだなんて──身勝手にもほどがある。