転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
建物は片付いてないし、修理も未だ終わっていない。客間は資材置き場になっていた。
そのため、奴らには外でテーブルに付いてもらうことにした。
元は、試験用の花壇があったところだ。そこに、丸い白テーブルを準備し、俺とシトリスが席についた。
冬が迫っている庭園は、昼間でも肌寒さが残っていた。
しかしここなら、常に、
すくなくとも、俺たちに不利な場所ではない。
席に着いたシトリスの後ろには、カルマンダが立っていた。素人目にみても、彼女にはスキがなかった。実際にトモエさんと殺り合ったのだから、相当の実力者である。
そして俺の後ろには、トッシュとトモエさんに立ってもらっている。
そして……。
「お、お茶を、お持ちしました」
ウェルテがティーポットを持ってきた。
彼女は、俺とシトリスのティーカップにお茶を注いた。
「ありがとう、ウェルテ。君もここにいてくれ」
「は、はい」
ウェルテが一歩引き、まっすぐ背筋を正した。
これで、役者は揃った。
「……」
「……」
しばし沈黙が続いた。
俺は、シトリスをずっと見ていた。
開花宣言の能力で覗いてみた彼女の花は、巨大な花弁だった。魔力の素質によるものだ。
しかし、その花はかなり『くたびれていた』。枯れる、という感じではない、かなり長い時間を生きている植物に見られるものだ。
(エルフェイは長寿といわれるが、かなりの高齢だぞ彼女)
「……ふふっ」
沈黙に耐えかねたかのように、シトリスが笑った。
「何が可笑しい?」
「いえ、貴方がじっと見つめてくるので」
ふざけんな。好きで見ているんじゃない。
お見合いじゃねえんだぞ。
「それにしても……。エルフェイがここにいるとはね」
「!!」
シトリスが俺から目線を外し、横にいたウェルテに視線を移した。
「わ、わたしのことご存知ですか!?」
「……いいえ。良くは知らないわ。今の貴方の名前も知らないの」
そういうとシトリスは、注がれた紅茶のカップを持ち上げた。
「いい香りね」
しかし、彼女はお茶を飲まなかった。
しばらく、訝しげな表情でティーカップと、俺。そして、ウェルテに目線を泳がせていた。
「……毒なんか、入っていないよ」
俺は自分のカップを持ち上げ、一口すすった。甘い香りが鼻に抜ける。
俺謹製の茶葉で作った紅茶だ。
「……ふふっ」
俺の行動を見て、シトリスもカップに口をつけ、紅茶を一口飲んだ。
「マズっ」
急に顔を
失礼極まりない。
「あら、そうでしたわ……『私には口に合わなかったようです』」
言い換えが遅いよ。
実は結構な自信作の茶葉だっただけに、内心、精神的ショックがデカい。
……まあいい(よくないけど)。
本題に移ろう。
「単刀直入に聞こう。何をしに来た」
「話し合い、ですよ。争いを止めるための」
「お前らが先に手を出してきたんだろうが」
「……あなたを歓迎したいのです。アル=パタルー」
シトリスは真っ直ぐに俺を見つめていた。
「それ、なんなんだよ。アル=パタルーって」
俺も俺で、その言葉に興味を示していた。
「なるほど、あなたがアル=パタルーである自覚がない、と」
「……『開花宣言』の、ことか」
「ご明察ですわ」
シトリスはニコリと笑った。
いや、ニコリ、という表現には違和感がある。
優しい微笑みではない。とても冷たい笑みだった。
「ご存知でしょう。300年前の魔王によって、世界樹は切り倒され、エルフェイの多くが滅ぼされました」
「そうらしいな、けど、今ここに居るってことは。細々と生きていたということか」
相手の冷笑に反抗するように、こちらも自然と口が悪くなっていた。
「ふふっ、そうよ。難を逃れた一部の
「世界樹の、種、だって?」
また新たな言葉がでてきた。
300年前に伐採された世界樹の、種が残っているというのか。
「ええ。我々エルフェイは、世界樹から潤沢に供給されるマナを使い生きていました。しかし、世界樹が切り倒され、糧を失ったエルフェイは滅びを待つばかりでした。しかし、一部の
「ですが?」
エルフェイが生き長らえた理由は、これではっきりした。世界樹の種が、彼女らの命を繋いでいたのだ。
「もう、森が。そして、種が、限界なのです」
シトリスはそう言うと、急にしおらしくなった。そして顔を自分の手で覆い、嗚咽を漏らした。
「どんなに、長寿な植物であっても、寿命はあります。そして、世界樹の種では……我々のマナを補うには限界があったのです……」
うう、と泣きながら訴えるシトリス。
後ろに立っていたカルマンダも、ハンカチを手に取り自らの涙を拭いていた。
「……嘘泣きは辞めてもらえないか?」
「あらバレましたか。ここは泣く場面と思ったのですが」
シトリスは顔をあげこちらを見た。全く涙は流れてなかった。ケロっとしていた。
カルマンダも素面に戻っていた。
表面ばかり体裁を整えるコイツら。
種族の違いはあれど、ここまで人間を小馬鹿にしたような行動をされると、こちらとしても至極やりにくい。
「……そうか、だから『俺』なのか」
「ふふっ。お話が早くて助かります。アル=パタルーには、『世界樹の開花』を行って頂きたいのです」
コイツらの目的が、明らかとなった。
自分たちが生き延びるため、世界樹の再生を目指していたってわけか。
しかし一つ疑問が残る。
「あんたも、植物を操る能力じゃないのか?」
「残念ながら、私の力は植物を『操る』だけです。急成長も可能ですが、アル=パタルーのような、『発芽や開花をさせる能力』ではないのです」
つまりシトリスの能力と、俺の能力は、似て非なるもの。まったく違う能力だという。
「なるほどね。つまり正確には、俺ではなく『俺の能力』目当てってこと、か」
「いいえ……もうひとつ。あなたでなければならない理由があるのですよ」
「なに?」
能力目当てだと思っていたが、シトリスの口からそれは否定された。
どうやら、もうひとつの理由があるらしい。
「……うちの屋敷を、ここまでめちゃめちゃにするほどのことだ。それほど切羽詰まった理由があるんだろうな」
「私がほしいのは、能力だけではない。『あなたがほしい』の、アル=パタルー」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……そんなに見つめられると、照れてしまいますわ」
「……」
え?