転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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71.仕組まれた毒

 植物の種の大きさは、実に様々である。

 人間の拳ほどの大きさのものもあれば、目に見えないレベルの小さいものまで。

 小ささで言えばそれこそ、俺達の靴裏に入り込み、いろんな場所で発芽しようとする植物もいる。

 

 それでいて、ここはエルフェイの聖域のど真ん中。

 発芽前の種がいたるところに散らばっている。

 だから俺は能力を使って、それらの「種」を、手当り次第に発芽させた。

 小さな草から、大きな木々まで。そこら辺に偶然居合わせた種を全部発芽させ、成長させ、目隠しにしようとしたのだ。

 

 が。

 

 地面に叩きつけた手は乾いた音を響かせただけで、それ以降、何も起こらなかった。

 

 生きとし生けるものを無理矢理発芽させる『開花宣言』が、不発に終わった。

 

「──あ、れ?」

 

 そして、異変は俺の体にも現れた。

 最初は軽い頭痛だったが、それは俺が気づかぬ間にゆっくりと体を巡り、じわりじわりと侵食していたらしい。

 そして十分に行き渡ったタイミングで一度に、体全体を蝕んだ。

 

 足は踏ん張りが利かなくなり、膝から崩れ落ちた。

 力強く地面に叩きつけた手は、痺れて感覚がなくなっていた。

 ウェルテを抱いていた腕も脱力し、情けないことに彼女を支えられなくなった。

 

「……ランジェ様……!?」

 

 ウェルテの心配する声が耳に響いた。さっきまで介抱される側だったはずなのに、俺の異常を察して、すぐに体を起こして俺に寄り添った。

 そして俺は、そのままゆっくり倒れ込んだ。

 

「ランジェ様っ!」

 

 床は苔むしたような柔らかい素材でできていた。だから頭を打つということはなかったけど、体は全く言うことを聞かなかった。

 

(な……なんだ……これ!)

 

 気づけば口周りにも痺れが現れていた。まともに声を発することができなかった。

 

「やっと廻って来たようですわね」

 

 倒れ込んだ俺の上の方から、シトリスが笑顔で覗いていた。

 

「く……なん……」

「お茶ですわ」

 

 俺が必死に口を動かそうとするも、声にはならなかった。

 それを見て満足したのか、シトリスはネタバラシを始めた。

 

「一緒に飲んだお茶。あれ、エルフェイ以外には神経毒なの」

 

 そういうとシトリスは、口に手を当てクスクスと笑った。

 

「お……あ……」

 最初に『美味い』と感じたあのお茶か! 

 一緒のお茶を飲んだから、毒は盛られていないと安易に考えてしまっていた。まさか種族で毒性の有無が変わるとは、思いもしなかった。

 

「ランジェ様っ! ランジェ様っ!」

 ウェルテの様子を見ると、彼女には毒の効果は現れていないようだ。つまりは彼女はエルフェイである根拠とも言えるが……どうなのだろう。

 

「ウェル……テ……」

 しびれは体どころか、頭のほうにも来ていた。ウェルテの呼びかけによってかろうじて意識が保たれているが、しかし依然、意識が朦朧として、今にも飛んでしまいそうだった。

 

「いま帰りました」

「あらおかえり、カルマンダ」

 そしてこのタイミングで、先程まで席を外していたあの大女(カルマンダ)が戻ってきた。最悪である。彼女は俺達を一瞥して、そしてまたシトリスのほうを向いた。

 

「祭壇の方は準備が整いました。種は、連れていきましょうか」

「ええ、あとアル=パタルーなのだけど……しばらく痺れは消えなそうね。世界樹の種への開花をお願いしたかったのに……ふふっ」

 

 そう言いながら、また彼女は口に手を当て笑った。くすくすという笑い声はしかし、口を押さえた手から容易に漏れていた。

 この痺れは、お前が仕込んだものだろう、と悪態をつきたくても、こちらは全身の感覚が麻痺してきた。まともに口を開くこともできなくなってきており、今にも気を失いそうであった。

 

「御意に。では先に、彼女を祭壇に」

「きゃっ!」

 

 カルマンダは軽々とウェルテを持ち上げ、担ぎ上げた。

 

「いやっ! ランジェ様っ!」

(ウェルテっ! ウェルテっ!)

 

 声を絞り出そうにも、もう発声が難しい状態に陥ってしまっていた。

 神経を侵す毒に苛まれ、体は限界に達していた。

 

「アル=パタルー。世界樹の開花を行ってもらうまで、しばらくお休みいただきますわ。ご安心を。この毒は時間が経てば自然と抜けていきますわよ」

 

 シトリスが目配せすると、それに答えてカルマンダが俺のことも持ち上げた。

 

「あっふん」

 麻痺した身体では全く抵抗ができなかった。

 情けないことに、持ち上げられた勢いで口からへんな声が漏れてしまった。

 

「ランジェ様っ! ランジェ様っ!」

 そんな俺を心配して、横からウェルテが声をかけつづけてくれていた。彼女の声のお陰でかろうじて意識を繋いでいられているが……それも、時間の問題だろう。

 

「すこし黙ってろ」

「いやっ……むぐっ!」

 彼女の口に、カルマンダが猿轡を結いた。

 

「むぐっ! むぐーっ!」

 それでも必死に、彼女は呼びかけを続けていた。その声は、俺の意識を繋ぎ止めんとするものだった。その彼女の行動に、心が痛んだ。

 

「さ、その女は祭壇に招いてあげて。アル=パタルーは……そうね、地下の『来賓室』にでもご案内して」

「御意に」

 

 どうやら俺とウェルテは、別々の場所に持っていかれるらしい。

 彼女と離れることは避けたかったが、しかし如何せん、体が全く動かない。ただただ、自分の非力さが悔しかった。

 

「むぐっ! むぐっ!」

 一方ウェルテは、必死に抵抗を試みていた。文字通りジタバタと身体を動かしているも、しかし体格差が倍近いカルマンダに担がれ、自由は奪われている。

 

「そんなに暴れなくても……我々エルフェイの悲願は、世界樹の開花です。お二人とも悪いようにはいたしませんわ」

 

 なにが、「悪いようにしない」だ。ふざけやがって。現に、世界樹の開花が成されてしまえば、ウェルテの意識は消失するんだろ!? 

 

(ふざけた戯言を言いやがって! 開花が終われば、俺はお役御免ってところだろ!)

 

「悪いようにはなりませんよ。ちゃんと世界樹を開花させてくれれば──そうね、アル=パタルー、あなたをエルフェイの首長として歓迎しましょう。エルフェイ(われわれ)の子孫繁栄用に、多くのものと交わってもらいます」

 

 ほらな。開花が済めば俺は用無し……あれ? 

 麻痺して動かない俺の顔を、シトリスが覗き込んだ。彼女の頬が、僅かに紅潮しているように見えた。

 

「むぐっ……!? むぐ──ーっ!!」

 シトリスの言葉の意味を察したのか、ウェルテが先程より大きく抵抗し始めた。だが、カルマンダに抱えられているため特に現状がよくなるということはなかった。

 

「最初は私だけと思っていたけど。アル=パタルー、あなたはこの聖域(シェルター)で大人気よ。多くのエルフェイが、子を拵えたいと考えているわ……。もちろん、私も、カルマンダも……ね」

 

 シトリスが、俺の顔に近づいてきた。彼女の吐息がかかるくらいだ(麻痺して感じなかったが)。

 

(え。ちょ……え?)

 

 しまった。うっかり忘れていた。

 エルフェイには男性が生まれず、人間と交わるしかないんだった。

 それも特別な人間──その条件に、俺が合致しているのだ。

 

「アル=パタルー、我々の主父となって、高貴な種であるエルフェイの繁栄を委ねますわ」

 

 

 

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