転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
「まずいな」
周りを見渡せど、窓などはない。なんなら出入り口もない。
しかし、ここは暗闇ではない。
光る苔が壁に自生してて、それが明かりを供給していた。光る原理は、よく分からない。
ここは、エルフェイの里の地下に位置する場所。木の根に囲まれた、出口のない自然の牢獄だった。
シトリスは『来賓室』などといっていたが、その言葉のイメージとは雲泥の差だ。
広さは……そうだな、6畳程度か。窮屈さは感じないが、窓がない分息苦しさはある。
ただそれ以上に、腕に嵌められた手枷に不快感を覚えていた。体を伸ばそうにも、手枷が邪魔をして自由に動かせない。
「くそっ!」
俺は手枷を、木の根に叩きつけた。
自分の手と一緒に。何度も、何度も、何度も。
打ち付ける際に手元が狂い、自身の腕も叩きつけたりもした。内出血によるアザもできた。皮膚は赤く擦り切れ、皮が剥けていた。感染症の危険も頭をよぎるが、構ってられない。
そんな強い意志で手枷を外そうと試みるも、手枷はヒビどころか、傷一つ付いていなかった。
「ほんと、なんなんだよ、これ」
肩で息をするくらいに全力で、手枷を壊そうと試みた。しかし、全く歯が立たなかった。驚くほど軽い素材。木材よりも軽い。なのだが、固く、そして割れない。
「……開花宣言──咲き誇れっ!」
なら、魔法ではどうだろう。
物理でダメなら、魔法で対処できるのではないか。
そう考えたが、それはすでに無意味であることは立証済みだった。
「開花っ! 宣言! 咲き誇れっ!」
繰り返し繰り返し、ダメ元で能力を試した。しかし、木に囲まれたこの地下空間に、むなしく俺の声が響いただけだった。何度やっても、能力は発動しなかった。
──いや、発動はしている。
すべて、この手枷に吸われているのだ。
「あの、カルマンダって女が使っていた剣と同じ材質なのかもな」
手枷は、ほんのり熱くなっていた。魔法を吸い、熱として発散しているのかもしれない。
「……くそっ」
俺は、この場所に閉じ込められてから何回か目の悪態をついた。もう、数えてもいない。
入口も出口もない、木の根で囲まれた牢屋。木の根が縦横無尽に蔓延る
今が、朝なのか夜なのかさえ不明だ。
ちなみに、この牢屋にどうやって入れられたのかというと……シトリスが、手に持つタクトを一振り。植物は彼女の意のままに操られ、人ひとりが余裕で通れる隙間を作り出していた。
「参ったな」
俺の『開花宣言』が使えれば、木の根を成長させて、隙間を作ることは造作もない。シトリスもそれは分かっているはずだが、それでも
「くそっ」
能力をこれ以上使うのも(無効化されるが、使うたびに疲労は溜まる)、手枷を壊す算段を立てるのも、一旦止めた。これ以上は無駄骨との判断だ。
「諦めたわけじゃねぇけど……すこし休憩」
誰に言い聞かせるわけでもなく、そして、それが強がりでもない。
他に打算できる方法がないか。
次の一手を、なんとか捻出しようと考えを張り巡らせていた。
(……ウェルテは、無事だろうか)
あの時に飲まされた、人間に対する毒紅茶。あの毒は、未だに抜けきれていない。まだ身体には、痺れが残っていた。
(ウェルテは、飲んでも問題なかった。だから彼女はエルフェイのはず……けど、
「ウェルテが、種……いやまったく意味が分からん」
その真意を確かめる間もなく、俺は意識を失ったのだ。あのあと、ウェルテがどうなったのか分からない。そして、その言葉の意味も不明のままだ。俺がイメージしている、野菜や果物の種。いわゆる世間一般に言われる『種』とは、根本的に概念が違うのかもしれない。
しびれが残る体にむち打ち、半ば無理やり壁伝いに起き上がり、ゆっくり体を伸ばす。
おそらく、ウェルテを開花させるまで俺たちは捕らえられたままだろう。しかし俺は、ウェルテを開花させるつもりなど毛頭ない。ウェルテの人格が消えるかもしれないのだ。そんな説明されて、おいそれと発芽させるバカなどいるものか!
「……ふざけやがって!」
「おふざけではありませんことよ」
突如、木の根の向こうから女の声がした。
この声は、シトリスだ。
「シトリスかっ!!」
俺は彼女に向かって声を荒げた。そして根の壁に空いた、わずかな隙間から彼女の顔をのぞき込んだ。
「ふふっ、いかがかしら、われわれの来賓室は」
「ああそうだな、ほどよく湿っぽくて喉が潤うぜ……カビ菌も多そうだけどな」
「あら、気に入っていただけたようで何よりです」
シトリスはニコリと微笑んでいた。童顔な彼女の笑顔は、無邪気な少女そのものだ。
「皮肉を言ってんだよ俺は」
「あ、『皮肉』というものですか。それはそれは失礼しましたわ。我々エルフェイの言葉には、そういう言い回しが存在しないのもで」
彼女は右人差し指を頬にあてがい、首を傾げた。所作一つ一つが非常にあざとい。容姿が容姿なだけにその行動が似合っているのも腹が立つ。俺は未だに、このシトリスという人物の性格を掴み損ねている。
「さてシトリスさんよ。俺はいつになったらここから出してもらえるのかい? あんたらのいう、大切なお客様だったんじゃないのか?」
「ええ、あなた様は大切な大切なお客様。それは紛うことなく、ですわ」
「なら尚更──うおっ!」
突然、目の前の木の根が動き始めた。先ほどまでカチンコチンだった根っこは、まるでゴムのようにウネウネと動き、俺の視界から取り払われた。おそらくシトリスの仕業だろう。
「痛ってぇっ!」
まさか牢屋の役目をしていた根っこが動くとは思わなかった。体を根に預けていたため、俺はド派手に、前のめりに転んでしまった。
「くそっ! 動かすんなら動かすって先に……言……え……?」
根の隙間からは彼女の顔しか見えてなかったため、彼女がどんな服装をしているのか分からなかった。
そもそも、エルフェイも人間の姿形をしており、お互いに
「え……あ……お、おま!」
突っ伏した体を起こし、俺が転んだ原因の女を見た。眼下に飛び込んできたのは、白く、透き通る肌の色。
「……ふふっ」
エルフェイ特有の、真珠のような純白の肌。普段は絹のようなローブに包まれ、わずかに見える首筋や、顔から覗く色白さは認識していたが、それは、俺のその想像以上だった。高級陶器のような白く美しく滑らかな質感──。
今、目の前には。
糸まとわぬ生まれたままの姿の
つまりは、彼女はスッポンポンだった。
「おま……おま! ふ、服を着ろ! 服を!」
「恥ずかしがらなくてよろしいですわよ──ふふっ、可愛い」
シトリスの頬が僅かに紅潮していた。羞恥心の現れだ。彼女も相当恥ずかしがっている証左だが、ならなぜそんな恰好なのか。
なお俺の顔は、自分でもわかるほど火照り、おそらく真っ赤っ赤になっていただろう。
「ちょ! 待て! いいから! 服! 服を!」
「待てませんわ」
「な──うおっ!」
彼女は自分の痴態を隠すことなく、手を大きく横に広げた。すると、周りの木の根がまた動き出した。柔らかくムチのようにしなり、俺に襲いかかった──かと思ったら、俺の手枷に絡まり、腕に巻き付き、足を捕縛した。シトリスが動かした根が、まるで触手のように自在に動き、俺を
「これで動けませんわね」
「なっ、くっ! ……何が、目的だ!」
俺は両手両足を縛られ、身動きが取れなくなった。そこに、あられもない姿のまま、シトリスが近づく。
「なにが目的って……わかっているでしょ? あなたの、子種よ」
シトリスはもう目と鼻の先まで来ていた。彼女が口を開くたびに、彼女の息が顔にかかる。生暖かな吐息は、ほんのり甘い、熟れた果実の匂いがした。
「子種……って……おふぅ!」
俺の声には応えることなく、シトリスは俺の股間を──『あれ』を弄ってきた。その瞬間、身体に電流が走ったかのような感覚に囚われた。
「良いのですよ、すべて我々に委ねて。我慢は身体に毒ですもの」
耳元で彼女が囁いた。彼女の柔肌は、俺と完全に密着していた。服の上からでも、その柔らかな触感を感じられるほどだ。
その間も、股間を触る手は止めない。
「あ、いや! やめてっ! あふぅん!」
情けないことに、これは俺の声である。
ぜひとも、男の声で再生いただきたい。
「ほら、もっと気持ちよくしてあげる……」
俺も男だ。悲しきことに、絶世の美人が裸で股間をまさぐるこの状態に、反応しないわけがない。
「あ……くっ……うっ……」
「ふふっ、そーれ、ふ〜〜っ……」
「はうぅぅん」
耳元に息を吹きかけるシトリス。女性の発する、甘美な匂いが鼻をくすぐる。
そして反応する俺。誠に不甲斐ない。
でも仕方ないじゃない。
男の子だもん。
(くそっ! 不本意なのに! 不本意なのに体が反応しちまう!)
「そーれ、こちょこちょ、こちょこちょ……」
「ふひひひひひ! ふぅん!」
緩急がこもったシトリスの責め。おそらく多くの人間の男を手玉に取っていたのだろう。
悲しきかな、
はずだった。
「……あら……反応が、イマイチね」
「あへ?」
よくある書物的な表現で、『身体は正直』なんて言い回しがあるのだが、今この状態は全くの真逆。
身体の反応が鈍かった。
つまり、歯に衣着せぬ言い方をすると……。
勃たなかったのだ。