転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
「あれ、おかしいわね」
「……」
目の前には容姿の整った美人。白く美しい真珠のような柔肌は、俺の身体にピッタリと寄り添っていた。着ていた服を乱暴に取り除かれ、俺も下半身は丸出し。上着もはだけて、ピタリと寄り添うシトリスの人肌の温もりを、直に感じていた。
「これで……興奮しないの……?」
「……なんで……でしょうね……」
会話のたびに、鼻腔をくすぐる、異性の匂い。
そしてなぜか俺も丁寧語になっていた。
「……」
「……」
「えっ、男色?」
「ちがいます」
即否定。
俺はちゃんと異性に魅力を感じる15歳(コッチの世界で数えて)の男性です。
実際、あの時──ナツと一緒に(怪しい)宿に泊まったときには、彼女の所作や格好、触れる肌に興奮を覚えていた(後に腹違いの
「……むっ」
シトリスは、明らかな不機嫌顔を見せた。
彼女の容姿は美人そのものだ。10人に聞けば10人とも同じ答えが返ってくる。その美貌で、多くの異性……もとい、人間を手玉に取ってきたのだろう。
まるでサキュバスの使う
だが、いまの俺にその術は通用していない。理由は俺にも分からないが、しかし、普段から他人を見下すような振る舞いの彼女が、明らかに機嫌が悪くなり不満顔となっている。
「へっ……どうした、エルフェイの長さんよ……俺は全然……こたえてないぜ……っ!」
身体は全く反応していない。
けど、メンタル面は結構ヤバイ。
こういうことに慣れていない俺は、とうの昔に頭に血が上り、すっかりのぼせていた。顔は硬直、身体中から発汗し、息も荒げる。
そしてたった今。ちょっぴり鼻血まで出てきた。
「
「うるせぇ、この……
「失礼ね、あんな下等妖魔と比べないでほしいわ……けど、何故なのかしら」
これだけ他の部位は反応を示しているのに、下半身はダンマリだ。
すると一旦、シトリスが俺の身体から離れた。
そして、顎に手を当て困り顔。
幼い容姿の一挙手一投足が『あざとカワイイ』を体現していた。
(こいつ、やっぱムカつくな)
あざとさの中にある性悪さを知る俺にとっては、その行動は気持ちを苛つかせるには十分だった。
──そして、ふと、あの時のセリフが頭の中でリプレイされた。
薬を盛られ、薄れ優位識の中、おぼろげながら聞こえてきた、奴の本音……。
『……
意識が朦朧としながらも、はっきりと覚えている。
その時のシトリスの目は、獲物を捕らえた野生動物のようだった。
「……エルフェイ……子種……あんたら、サキュバスというより、ゴブリンの逆バージョン、だな」
固定された身体から、独り言のように呟いた。しかしその細々とした声は、シトリスの耳には届いたようだ。刹那、彼女の顔が強張り、そして、眉間にシワが寄った。
「あんなゲスな生き物と一緒にしてもらうのは、不快ですわ」
明らかに声色が違っていた。どうやら、単にゴブリンを比較対象にされたのが不快だったようだ。
そうか、エルフェイは誇りだけは一丁前なんだ。
下賤なゴブリンと同じと言われて、相当腹が立ったんだろう。
「子を成すために、人間を攫ってきて! 人間の子種で繁殖する! ってとこだろ! どこがゴブリンと違わない!」
ここはチャンスとばかりに、俺は思いつく罵詈雑言を放った。これで相手の気持ちが削がれてくれれば、儲けものだ。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。大きく深呼吸し、冷静さを取り戻したのだろうシトリスは、いつもの顔に戻っていた。
「……あら、それは間違ってますわ。ゴブリンなどと違い、それに見合った『快楽』を提供していますわ。でも……うーん、なんででしょう。さっきから私の
やっぱり何かしてやがったじゃねーか。
名前からしてフェロモン系で魅了させるモノだ。さっきから、いい匂いがしてたと思った。嗅ぐたびに頭の奥がほんわかしてたのはソレのせいだ。
だが相手が望む一番大切な部分には、効果が無かった。
……なんだか俺も心配になってきた。ここまでされて一向に勃たないというのは、病気か何かをうたがってしまう。
「もう一回、試してみましょう」
「へ、テメーの技は見切ったぜ、もう何をされようが、お前らの思い通りになるものか」
「鼻血出しながらのセリフとは、思えませんわね」
完全にのぼせてしまったらしい。頭に血が上り、圧迫された鼻腔奥の毛細血管が切れて、鼻血が垂れだしてきていた。
根で縛られて動けない半裸の男が美人を前に鼻血ブー状態。端から見たら、いたく滑稽であろう。
「よいしょ……っと」
こんどは俺に跨ってきた。
舌なめずりをしながら、彼女は俺を見下ろした。身体の上から下、下から上まで。
俺は根っこに両手両足を縛られ、実に情けない格好。
そして肌を密着させてくる。あらわになった彼女の肌が俺の身体に触れ、温もりを感じる。
それでも俺の息子は、無反応を貫き通す。
心と頭と身体はすごい興奮状態なんだけど、あるレベルに至るとしゅんって落ち込む。
「……趣味嗜好の問題かしら」
「あー……あり得るかも、な」
なるほど、好みによる反応かと。
いや結構無理がある気もする。が、この原因を解明しないと、シトリスが欲する俺の『子種』は得られないし、俺自体も、なんでこんなに元気がないのか不安でしょうがない。
そんなこんなで、なんかシトリス側から俺へのメンタルカウンセリングが始まった。
「あなた、女性の好みはあるのかしら」
「そ、そうだな……年齢は同じか、すこし年上が好み、だな」
「……むっ、エルフェイも年上ですよ」
「いやいや、限度ってもんがあんだろ! お前何歳だよっ!」
するとシトリス、またしても不機嫌顔。膨れっ面というやつ。だから所作一つ一つが可愛いのよ。
「……髪色とか、声色とかに、フェチズムを感じるとかかしらね」
「髪色? あんま気にしたことないな」
前世ではどうだったか。あんまりパツキンモノは好んでなかったかな。
「……」
「……」
「やはり……あとは……」
するとシトリス、自分自身の身体を見下ろした。そこにあるのは、成人女性へもたらされるはずの豊潤な膨らみ……とは程遠い、慎ましい胸。言い換えれば、貧相な胸板。
「た、体型? かしら?」
……あー。
確かに。
その部分に関しては、非常にその……なんというか。
その件は、あえて言及しなかったが、ご想像のとおりだ。
俺の趣味嗜好としては、幼い体型は程遠い場所にある。子供は子供として可愛いが、そういう目線では見ることはない。犯罪だろ。
好みで言えば、そう、あの時。
ナツに抱きしめられた時に感じた──背中から感じた、あの気持ち。
そう、俺は。
「なるほど! あり得るな! 俺は小さい胸より……俄然デカいほうが好みだからなっ!!」
その刹那。
ぱぁん! と。
強烈な乾いた音が部屋の中に響いた。そして、俺の頬は真っ赤に腫れ上がった。頬には小さな幼い手の跡がくっきりと残っていた。
同じくヒリついているであろう彼女の手は、赤くなっていた。
シトリスの全力ビンタは、俺の意識を軽く飛ばすには十分な威力だった。