転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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74.興が削がれた

「あれ、おかしいわね」

「……」

 

 目の前には容姿の整った美人。白く美しい真珠のような柔肌は、俺の身体にピッタリと寄り添っていた。着ていた服を乱暴に取り除かれ、俺も下半身は丸出し。上着もはだけて、ピタリと寄り添うシトリスの人肌の温もりを、直に感じていた。

 

「これで……興奮しないの……?」

「……なんで……でしょうね……」

 

 会話のたびに、鼻腔をくすぐる、異性の匂い。

 そしてなぜか俺も丁寧語になっていた。

 

「……」

「……」

「えっ、男色?」

「ちがいます」

 

 即否定。

 俺はちゃんと異性に魅力を感じる15歳(コッチの世界で数えて)の男性です。

 実際、あの時──ナツと一緒に(怪しい)宿に泊まったときには、彼女の所作や格好、触れる肌に興奮を覚えていた(後に腹違いの姉弟(きょうだい)だったことが判明するが、ここでは言及しないこととする)。

 

「……むっ」

 

 シトリスは、明らかな不機嫌顔を見せた。

 彼女の容姿は美人そのものだ。10人に聞けば10人とも同じ答えが返ってくる。その美貌で、多くの異性……もとい、人間を手玉に取ってきたのだろう。

 まるでサキュバスの使う誘惑術(テンプテーション)のごとく。

 だが、いまの俺にその術は通用していない。理由は俺にも分からないが、しかし、普段から他人を見下すような振る舞いの彼女が、明らかに機嫌が悪くなり不満顔となっている。

 

「へっ……どうした、エルフェイの長さんよ……俺は全然……こたえてないぜ……っ!」

 

 身体は全く反応していない。

 けど、メンタル面は結構ヤバイ。

 こういうことに慣れていない俺は、とうの昔に頭に血が上り、すっかりのぼせていた。顔は硬直、身体中から発汗し、息も荒げる。

 そしてたった今。ちょっぴり鼻血まで出てきた。

 

「堪(こた)えてるじゃない……」

「うるせぇ、この……女淫魔(サキュバス)め……」

「失礼ね、あんな下等妖魔と比べないでほしいわ……けど、何故なのかしら」

 

 これだけ他の部位は反応を示しているのに、下半身はダンマリだ。

 

 すると一旦、シトリスが俺の身体から離れた。

 そして、顎に手を当て困り顔。

 幼い容姿の一挙手一投足が『あざとカワイイ』を体現していた。

 

(こいつ、やっぱムカつくな)

 

 あざとさの中にある性悪さを知る俺にとっては、その行動は気持ちを苛つかせるには十分だった。

 

 ──そして、ふと、あの時のセリフが頭の中でリプレイされた。

 薬を盛られ、薄れ優位識の中、おぼろげながら聞こえてきた、奴の本音……。

 

『……エルフェイ(われわれ)の子孫繁栄用に、多くのものと交わってもらいます──この聖域(シェルター)で大人気よ。多くのエルフェイが、あなたと子を拵えたいと考えているわ……』

 

 意識が朦朧としながらも、はっきりと覚えている。

 その時のシトリスの目は、獲物を捕らえた野生動物のようだった。

 

「……エルフェイ……子種……あんたら、サキュバスというより、ゴブリンの逆バージョン、だな」

 

 固定された身体から、独り言のように呟いた。しかしその細々とした声は、シトリスの耳には届いたようだ。刹那、彼女の顔が強張り、そして、眉間にシワが寄った。

 

「あんなゲスな生き物と一緒にしてもらうのは、不快ですわ」

 

 明らかに声色が違っていた。どうやら、単にゴブリンを比較対象にされたのが不快だったようだ。

 

 そうか、エルフェイは誇りだけは一丁前なんだ。

 下賤なゴブリンと同じと言われて、相当腹が立ったんだろう。

 

「子を成すために、人間を攫ってきて! 人間の子種で繁殖する! ってとこだろ! どこがゴブリンと違わない!」

 

 ここはチャンスとばかりに、俺は思いつく罵詈雑言を放った。これで相手の気持ちが削がれてくれれば、儲けものだ。

 しかし、そうは問屋が卸さなかった。大きく深呼吸し、冷静さを取り戻したのだろうシトリスは、いつもの顔に戻っていた。

 

「……あら、それは間違ってますわ。ゴブリンなどと違い、それに見合った『快楽』を提供していますわ。でも……うーん、なんででしょう。さっきから私の誘惑香(テンプテーション)も嗅がせているのに、全く反応がありませんわ」

 

 やっぱり何かしてやがったじゃねーか。

 名前からしてフェロモン系で魅了させるモノだ。さっきから、いい匂いがしてたと思った。嗅ぐたびに頭の奥がほんわかしてたのはソレのせいだ。

 だが相手が望む一番大切な部分には、効果が無かった。

 

 ……なんだか俺も心配になってきた。ここまでされて一向に勃たないというのは、病気か何かをうたがってしまう。

 

「もう一回、試してみましょう」

「へ、テメーの技は見切ったぜ、もう何をされようが、お前らの思い通りになるものか」

「鼻血出しながらのセリフとは、思えませんわね」

 

 完全にのぼせてしまったらしい。頭に血が上り、圧迫された鼻腔奥の毛細血管が切れて、鼻血が垂れだしてきていた。

 根で縛られて動けない半裸の男が美人を前に鼻血ブー状態。端から見たら、いたく滑稽であろう。

 

「よいしょ……っと」

 

 こんどは俺に跨ってきた。

 舌なめずりをしながら、彼女は俺を見下ろした。身体の上から下、下から上まで。

 俺は根っこに両手両足を縛られ、実に情けない格好。

 そして肌を密着させてくる。あらわになった彼女の肌が俺の身体に触れ、温もりを感じる。

 

 それでも俺の息子は、無反応を貫き通す。

 

 心と頭と身体はすごい興奮状態なんだけど、あるレベルに至るとしゅんって落ち込む。

 

「……趣味嗜好の問題かしら」

「あー……あり得るかも、な」

 

 なるほど、好みによる反応かと。

 いや結構無理がある気もする。が、この原因を解明しないと、シトリスが欲する俺の『子種』は得られないし、俺自体も、なんでこんなに元気がないのか不安でしょうがない。

 そんなこんなで、なんかシトリス側から俺へのメンタルカウンセリングが始まった。

 

「あなた、女性の好みはあるのかしら」

「そ、そうだな……年齢は同じか、すこし年上が好み、だな」

「……むっ、エルフェイも年上ですよ」

「いやいや、限度ってもんがあんだろ! お前何歳だよっ!」

 

 するとシトリス、またしても不機嫌顔。膨れっ面というやつ。だから所作一つ一つが可愛いのよ。

 

「……髪色とか、声色とかに、フェチズムを感じるとかかしらね」

「髪色? あんま気にしたことないな」

 

 前世ではどうだったか。あんまりパツキンモノは好んでなかったかな。

 

「……」

「……」

「やはり……あとは……」

 

 するとシトリス、自分自身の身体を見下ろした。そこにあるのは、成人女性へもたらされるはずの豊潤な膨らみ……とは程遠い、慎ましい胸。言い換えれば、貧相な胸板。

 

「た、体型? かしら?」

 

 ……あー。

 確かに。

 

 その部分に関しては、非常にその……なんというか。

 その件は、あえて言及しなかったが、ご想像のとおりだ。

 

 俺の趣味嗜好としては、幼い体型は程遠い場所にある。子供は子供として可愛いが、そういう目線では見ることはない。犯罪だろ。

 

 好みで言えば、そう、あの時。

 ナツに抱きしめられた時に感じた──背中から感じた、あの気持ち。

 

 そう、俺は。

 

「なるほど! あり得るな! 俺は小さい胸より……俄然デカいほうが好みだからなっ!!」

 

 その刹那。

 

 ぱぁん! と。

 

 強烈な乾いた音が部屋の中に響いた。そして、俺の頬は真っ赤に腫れ上がった。頬には小さな幼い手の跡がくっきりと残っていた。

 

 同じくヒリついているであろう彼女の手は、赤くなっていた。

 シトリスの全力ビンタは、俺の意識を軽く飛ばすには十分な威力だった。

 

 

 

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