転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
地鳴りは、地下牢の壁にヒビを走らせた。土埃が激しく舞う。砂利がパラパラと、俺の体に落ちてきた。
「な、なんだあっ?!」
咄嗟のことに身を縮こませて身構えた。その瞬間、先ほどより大きな爆発音が響き、同時に地下牢を更に揺らした。
(……?! 蔦が……根が、緩んだっ!)
巨大な揺れにより、俺を拘束する蔦や根が、僅かに綻んだのだ。この千載一遇のチャンスを逃さんと、俺は手足に繋がれた植物を思い切り引っ張った。
「ぐぬぬ……っ! よしっ! 抜けたっ!」
スポンっ! と、右足の拘束が上手い具合に根から抜けた。そして両腕に絡まる蔦も、強く引っ張るとブチブチと音を立てて解けた。──ただ、外れた勢いを抑えきれなかった俺は、地面に背中を強く打ち付けてしまった。
「痛ぇっ!」
幸い後頭部はぶつけなかったが、一瞬呼吸ができなくなるくらいの強い衝撃が背中を襲った。
「げほっ! ゲホゲホ! ……ってえ、あっ! くそっ! 左足が外れてねぇ!」
どうやら、左足だけ抜けていなかったようだ。いま現在、俺は左足だけ根っこに吊り下げられ、地面を背に仰向けな状態となっている。
「ふんぬっ!」
腹筋を使って上半身を起こし、左足に巻きついた根を外そうとするが、かなり太い根が絡まり、素手で外すのは難しそうだ。しかも、いまだに黒い手枷は外れていない。魔法も使えないし、手を動かすのも不自由であった。
「くそっ! ダメか!」
俺は力尽き、そのまま仰向けの格好に戻った。手枷に
「しかし……この揺れは、いったい何だったんだ?」
爆音と共に揺れたのだから、何処かで爆発が起こったのだろう。だが、エルフェイの里でガス爆発など起こるわけがない。考えられるとすれば……。
「もしかして、トモエさん達が助けに来たのか?」
なるほどそれなら納得だ。いまの爆発音も、サーラの呪文によるものとすれば合点がいく。いやぁ、助かった。
「しかし、助けられるにしても、この格好は……」
左足だけ持ち上げられ、宙ぶらりん。身体は地面についているが、左足のせいで仰向けになるのが精一杯。手枷をつけられ満足に動けない。
なにより、上半身は衣服が乱れ下半身は局部が丸見え。
捕らえられていたのだから贅沢は言えないが、こんな情けない姿をみられたら、特にサーラあたりからは、未来永劫延々と弄られ続けられるだろう。
「しかし背に腹は代えられん……! おーいっ! 俺はここだぁっ!」
恥を忍んで、声を張り上げ、仲間たちに自分の居場所を伝えようとした。俺の声は壁や天井に反響し、地下室全体に響き渡っていったようだ。トモエさんたちが何かしらの感知スキルを使っていてくれれば、こちらに気づいてくれるだろう。
「おーいっ!! おーいっ!!」
「……さまっ……!」
やった。俺の声に反応があった。俺の声と同じように壁にこだまして、僅かに女性の声が聞こえてきた。
ふと、
しかし、この声の主は……誰だ?
「……いま……向か……す!」
「助かる! こっちだ!」
少しずつその女性の声が近づいて来ていた。それに伴い、声色の感じもつかめてきた。
その声は、聞き馴染みのある声。だがしかし。
(……あれ?)
その声は、トモエさんや、サーラのものでは無かった。
もちろんボッシュのでもない。
彼女の足音は、すぐ目の前まで迫っていた。
「ランジェさま!」
そして、開け放たれていた根の壁からバッと飛び出してきたのは、良く見知った女性。
「ウェルテ! 無事だっ……た……のか……っと……ウェルテ……ええと……」
「ランジェさま! ご無事……で……あ……あの……その格好……」
仲間が助けに来てくれたという喜びと、捕らえられていたはずのウェルテが何故か助けに来たという驚きとが、同時に溢れそうになる所に、『羞恥心』が蓋をした。
そして当のウェルテも、俺のこの痴態を目の当たりにして、みるみる顔がタコのように赤くなっていった。
「きっ……きゃあああああああっ!!」
「うっ……うわぁあああああああっ!」
そして2人同時に、絶叫。
耳を劈く大音声が、さらに洞窟で反響しこだまする。自分たちの声で鼓膜がつぶれるかと思った。
「なんて格好なさってるんですかっ!」
ウェルテの第一声。
そりゃそうだ。弁明の余地はない。
「ごごご、ごめんウェルテ! こんな格好で……こ、これは誤解だ! 好き好んで、緊縛されたわけじゃ……これはシトリスってやつの趣味で! あ、いや、シトリスと
しかし俺は必死の言い訳。だが物を語れば語るほど、聞き手側は勘違いしそうなことになってしまう。
「そういうこと! されてたんですか! 束縛されて! 自分が動けないところに! 女性優位で! されるがまま! そんなシチュに! 興奮なさる! そういうご趣味が! あったのですね!」
普段よく知るウェルテとは思えないほどの、ハイテンションマシンガントークだ。よほどこのシチュエーションが気になったのだろうか。
「って、ち、ちがう! 断じて!」
「そうならそうと! おっしゃってください! 私も勉強しますから……って……じゃなくて!」
ん?
いまなんて?
なんかウェルテからとんでもねぇ発言があった気もするが、そんな事を他所に、ウェルテが俺に近づいてきた。先ほどまで顔を真っ赤にしていた彼女だが、いまは素面に見えた。少し怒っているようにも感じる。
「見せてください!」
「できるか馬鹿!」
「
秘部を隠している俺の両手を、ウェルテがガシッと掴み取り、上に持ち上げた。もちろん俺の大事な部分はモロ出しになるが、しかし、ウェルテの目線はそこにはなかった。
「酷い……傷だらけじゃないですか!」
彼女は、俺の手首を見ていた。
頑丈な黒い手枷に捕らえられ、ほとんど自由が利かない両腕。無理に手枷を破壊しようと、何度も壁や地面に打ち付けたため、手首周りの皮膚は擦れ、めくれ上がり出血していた。
「……ああ、そういやそうだった」
他のことに気を取られすぎていて、手首の痛みなどすっかり忘れていた。
「足も! こんなに血だらけで……」
木の根にロックされている左足も、擦り傷だらけだ。内出血もしている。
「あ、ああ。なんか、結構なケガだな」
改めて現状を確認した途端、痛みがぶり返してきた。ジワジワと疼痛が走る。
「あ、ランジェ様! 足の固定なら、何とか外せると思います!」
「ウェルテ?」
「はい! 足に絡まる根を、切ります! ──
突然、ウェルテが詠唱を始めた。
その刹那、俺の脳裏に浮かんだのは、
ウェルテがうちの屋敷に来てすぐ、サーラが彼女の魔法適性を見たいとか言い出して、基本魔法のファイアを撃たせた時のこと。
俺の想像を遥かに超えたとんでもない大爆発が起こり、閃光と熱波に襲われた──。
「ま、待て! ウェルテ待て!」
あの時の術の暴走が、脳裏を走る。
溢れる
『エアスラッシュ!』
「ひいっ!!」
無数の真空の刃が、俺の足に向かい放たれる。
それらは制御されず、触れるものすべてが切断される。木の根どころか俺の足さえ例外ではないだろう。
「ふぅ、うまくいきました」
「…………あれ?」
強く目を瞑り、覚悟を決めていた俺だったが、そんなスプラッターなことにはならずに済んでいた。
真空の刃は、俺の足を傷つけることなく、木の根だけを綺麗にスライスしていた。
「立てますか? ランジェ様」
「あれ? あ、あぁ、ありがとう」
俺は小さく頷き、ウェルテが差し伸べてくれた手を引き、立ち上がった。
それにしても、魔法が見事に制御されている。エアスラッシュは無作為に真空の刃を生み出すため、精度よく対象を刻むことは難しいはず。なのに──。
「……」
俺はしばらく、切断された根をみていた。
「ら、ランジェ様……?」
「……」
その真空の刃は、綺麗に俺の足だけ避けて、根っこだけ粉微塵にしていた。
俺自身も少しは呪文を齧っているため、初級術は使える。けど、ここまで精度よく切刻むことなどできるだろうか……?
「あ、あの! ランジェ様っ!」
「……なあ、ウェルテ」
「……!」
俺がウェルテの方を向いた瞬間、彼女が目線を逸らした。
なんだろう、この違和感。
「ウェルテ? どうしたんだ?」
「あの……その……」
もじもじと、何か言いたげだが言い出せないといった感じ。
その挙動を見て、俺は──確信した。
(……しまった!)
違和感はコレだったんだ。
俺はとんでもないミスを犯し、すでに取り返しがつかない状態に陥っていたことに、今更ながらに気がついたのだった。
……
「ランジェ様……し、下を……履いてください」