転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜 作:黒片大豆
ウェルテの手に引かれて、俺たちは洞窟を抜け出した。その瞬間、焦げ臭さが鼻を突いた。眼前には、燃える村──エルフェイたちの
「……」
「ランジェ様、お気を確かに──こっちです」
ある程度は予想できていたが、実際に目の当たりにすると、その光景に呆気に取られた。そんな俺に気をかけてか、ウェルテは俺を鼓舞し、再度、手を引いた。
「ウェルテ、当てはあるのか?」
村の火災(どちらかといえばもう森林火災に近いかもしれない)に乗じながら、ウェルテは身を隠しつつどこかに向かっていた。
「
「なるほど、けど……シトリスたちのことだ。すぐ手を回されているかもしれない」
今のところ、そこしか当てがない。だが、俺が逆の立場なら、まずは唯一の出入り口を封鎖する。そして想定通り、
「そんな……」
「……」
神秘的な草門の面影などなかった。
「……こっちです!」
俺が次の一手を考えるより先に、ウェルテが駆け出した。
「道が、わかるのか!?」
「わかりません! けど、なんとなくこっちです!」
一瞬ズッコケそうになったが、しかし、エルフェイの森の中では正直、人間の俺は右も左もわからない。かといってじっと待っていたら、直に奴らに追いつかれる。
攪乱の意味合いもこめて、動き回るのが最適だとすると、ここはウェルテの第六感に従うしかない。──不本意かもしれないが、現状はまだ彼女は『エルフェイ』なのだ。人間の俺よりも、森の中では地の利があるだろう。
そうして俺たちは、ウェルテの勘に従い、さらに森の中に分け入った。もちろん道などない。木々を掻き分け、わずかな獣道のようなものに従い、森を抜けていく。
「はぁ……はぁ……」
──いったいどれだけの距離を進んだのだろうか。
薄暗い森はまるで、迷う人間を弄んでいるようだ。方角も、時間も、まったくわからなかった。
しかしながら、深い森の木々がざわめくたび、ところどころから温かな光が漏れだしていた。その光はまるで、俺たちを導いているようだ。
「ウェルテ、この光は……」
「すいません。私にも分かりません……けど……」
「ああ、がむしゃらに進むよりは良さそうだ」
この光の先に、出口があるのか。単なる偶然の輝きか。
俺たちは淡い希望を抱きながら、さらに道なき道を突き進むこととした。
「──
「ランジェ様、川です!」
森を抜けた瞬間、強く光が照らされる場所に出ることができた。川の渓流に乱反射した光が、俺達の目にまぶしく刺さった。
「川沿いに進めば、どこかに出られるかもしれないな」
「はいっ!」
あまり大きな川ではないが、周囲のゴツゴツとした石の削れ具合と大きさから、この場所が山の上流に位置すると想像できた。
「うわっ」
「──きゃっ!」
「……くっ、すまん! こんなときに!」
改めて歩こうとした瞬間、俺は、岩肌に足を取られた。よろめいた体をかろうじてウェルテが支えてくれて、転倒は免れた。
「ランジェ様!?」
「大丈夫! いこう!」
強がってみたが、実のところ俺は、完全に息が上がっていた。
舗装などされていない大自然のそのままの地面を、全力で走ればそうもなろう。ましてや、両腕が塞がりバランスが取りづらい。さらに言えば、いまだにあの『睡眠薬のお茶』の効果が完全に抜けきっていないのだ。
「でも!」
「いいからっ! ……くっ!」
体は正直だった。
急激な立ち眩みに抗えず、ガクガクと膝が笑い、ついに俺は尻もちをついてしまった。トゲトゲしい石がケツに突き刺さり痛かったが、それ以上に自身の体たらくが悔しかった。
「ランジェ様っ!」
「はぁ……はぁ……くっそ! 動けよ俺の体っ!」
たぶん、限界だったんだろう。森に慣れているだろうエルフェイのウェルテに先導してもらっていたが、手を引っ張ってもらいながら着いて行くという行動は、想像以上に体力を消耗したようだ。
その姿を見て、ウェルテがはっと息をのんだ。
「ランジェ様、も、申し訳ありませんでした! わたしが焦ってしまったばかりに!」
「いや、ウェルテの判断は悪くないよ。早く……ここから離れないと……ふぅ。少し落ち着いてきた」
疲弊してバテバテな俺とは対照的に、ウェルテはほとんど息を切らしていない。
──ナツの勇者騒動の一件から、体力づくりに励んでいたつもりだったが……ここは種族差によるものなのだろうか。それとも何か才能が……?
「……」
「え、と……?」
俺はウェルテをじっと見つめた。だが、『才能』を覗き見ることはできなかった。恐らく、この黒い手枷のせいだ。魔力を吸うだけでなく、
「わたし! ランジェ様を担いでいきます!」
「いや、それは負荷が大きすぎる。それよりウェルテ、ちょっと頼みごとがある」
「は、はい!」
元気のよい返事は、ちょっとだけ俺に力と勇気を分けてくれたように思う。俺は、両手を彼女の前に差し出した。
「これを、
手枷は、牢屋の中で何度も何度も壁や岩に打ち付けられていたのだが、ほとんど傷はなかった。
逆に俺の手首の皮膚は赤く擦れ、打ち損じた場所は青く痣になっていた。
「え? へ? む、無理です! 私まだ、力の調整が不十分です!」
ウェルテはすぐに、俺の本意を理解してくれた。だが、それは難しいと否定的だ。
「でもさ、さっき牢屋では、根だけをキレイに切ってくれたじゃないか。できるよ!」
「で、でも──
「やってみなけりゃわからないだろ。もし出来なければ……最悪、俺の腕ごと切り落とせ」
「!!」
このままだと、俺が足手まといになるのは自明だった。奴らに捕まったら、ウェルテは人格を消され、俺は枯れるまで搾り取られるだろう。
「嫌ですそんなこと!」
「手枷を何とかしたいんだ。それしか思いつかん……って、あ、ゴメン!」
せめて手枷がなければ動きの制限はなくなるし、最悪、腕が落とされても、能力が戻ってくるのなら生き残れる確率は高くなると思う。生き残れるのなら、俺の腕なんて安いものだ……と思ってたけど、ウェルテの表情を見てその考えは変わった。
また、彼女を泣かせてしまったのだ。
「嫌……です」
涙袋は既に決壊し、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちていた。
「ごめんっ! ごめんって! だいぶ極論になっちゃった!」
必死に謝罪し、彼女を宥めると、暫くして涙は止まってくれた。なんとか落ち着いてくれて良かった。
「……これ、私も付けられました」
一息ついたウェルテの口から新事実が伝えられた。彼女も、この黒い手枷を嵌められていたという。
服の袖を捲くると、手首には痛々しい火傷のような跡が残っていた。
「だから、魔力を吸うことを知っていたのか」
「はい。ランジェ様と同じです。何度も呪文を唱えましたが、
「でも今は、その手枷がない。ってことは、どうにかして外したってことなんだよな」
「はい。ですがどうやって外れたか、全く覚えてないんです。けど……わたしの中に『世界樹』の記憶が入り込んだ時に、一緒に膨大な
ウェルチが俺の手枷に触れた。その瞬間、手枷が熱くなった。突然の現象にかなりビビったが、すぐに熱は落ち着いた。
どうやらウェルテが熱を調整しているようだ。
「手枷は、魔力を吸えば吸うほど、放熱するんです。そしてそれには上限があります。なので、更に魔力を注ぎ込んで、上限突破させれば壊れるかもしれません」
「なるほど! なら早速!」
「今のわたしの
「おう! やってくれ!」
手首を切られる覚悟を持っていたんだ。多少の火傷くらいどうってことない。ウェルテが、慎重な面持ちで手枷に手をかける。俺は、熱くなるだろう手枷に身構える。
「……しまった……」
だが結果的に、手枷に魔力が注がれることはなかった。彼女はすぐに、手枷から手を離すことになったのだ。
「ウェルテ?」
「ランジェ様……もう……追いつかれました」
「!!」
ウェルテは、俺たちが抜けた森を見つめていた。
俺も彼女の視線を追って、森をみた。そしてすぐ、ソイツを視認することができた。
彼女は全身が黒く煤で汚れていた。肌の一部は火傷して、服も焦げていた。しかし彼女は、そんな怪我に全く臆することなく、巨大な黒剣を携えていた。
カルマンダだ。