転生者、咲き散らす! 〜勇者家系なのに『花咲かスキル』授かって用無しらしいので、世界ちょっと華やかにしてきます〜   作:黒片大豆

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08.『敵』との遭遇

 別荘(はいきょ)に引っ越してきて3日目、とうとう恐れていたことが起こった。

 

 魔物である。

 

(魔王やら勇者がいる世界なわけで。いないわけないよな)

 と思うも、現状、余裕はなかった。

 

 肉が食べたくて、狩猟を試してみるも、如何せん知識も道具も無いため、ことごとく失敗。

 結局、今夜も草で空腹を満たし、床についた。

 そして、入眠する寸前に、ソイツらの気配に気づいた。

 

 ゴブリンだ。

 

 体は子供くらいであるが、頭に小さな角を持ち、目や口は釣り上がり、そして異臭を放っていた。手には槍状の武器を携えている個体もいた。

 

 俺の別荘に、ゴブリンが合計三体、夜分に現れた。

 そりゃ、扉の鍵なぞ無いし、壁の一部も無い。入ろうと思えば誰でもウェルカム状態だ。

 

 しかし俺は、そんな輩は招待した覚えは無いし、もし戦闘になったら武器すら無い。

 数も一対三と明らかに不利だったため、俺は必死に息を潜め、見つからないように願っていた。

 

(念のために設置した罠が、役に立っちゃうとはなぁ)

 

 そう。何かあったときのために、俺は『罠』を仕組んでおいた。

 

 ゴブリンが建物のエントランスをうろうろしている。どうやら、焚き火の跡や、人間の匂いに気がついたのか、家探しを始めていた。

 

(さあ、うまく咲いてくれよ!)

 その時、ゴブリンの足元に生えていた植物の蕾が、花開いた。と同時に、黄色い花粉をゴブリンたちに撒き散らしたのだ。

 

(眠れっ!)

 その草は、昼寝花(ナップス)という名前であった。開花する時に周囲に散らす花粉には、強力な入眠作用があるのだ。

 

 そして、彼らも例に漏れず、急に膝を付き、うつろな目をしたと思ったら、ゆっくり体を横たえて眠りについた。

 

 大成功だった。このまま奴らをやり過ごし、その間に安全な場所に避難を……。

 

 ……他に安全な場所が思い浮かばず、結局、俺はこの場から距離を取るだけで、屋敷の中で一晩を過ごした。

 

 幸せそうな顔で寝息をたてるゴブリン。隙だらけなので、命を奪うことも可能だと思う。だが、一匹に手をかけている途中で、他の二匹に目覚められたら、元も子もない。なにより、こちらには武器がない。

 

 そのため、俺ができる選択肢は『放置』しかなかった。おかげで、夜は一睡もしていない。人を襲うゴブリンが近くにいるところで、睡眠を取れるほど俺の神経は図太くない。

 

 そして、朝日に照らされ目覚めたゴブリンたちは、『よく眠れた!』と言わんばかりの清々しい顔で、屋敷を後にしたのだった。

 

「あ、死ぬ」

 一方の俺は、蓄積される疲労が限界を迎えようとしていた。昨夜の睡眠不足も祟り、眠気と疲れに襲われ、遂にぶっ倒れてしまった。

 

 疲労困憊である。僅かに持つサバイバル知識と、使える自分のスキルを駆使したが、とうとう力尽きた。

 

「せめて……武器が欲しかった……」

 盗まれた荷物に、護身用のナイフが入っていたことが悔やまれる。

 刃がついた武器の一本でもあれば、狩猟に、工作、さらにゴブリン退治も出来たかも知れない。

 

 あまりの眠気と空腹のダブルパンチに、意識が遠のいてしまう。

 

「腹減った……最後に、肉食いたかった」

 

 まるで走馬灯のように、目の前に肉料理が並んだ。

 多分まだ死ぬことはないっぽいけど、空腹が俺に幻覚を見せたのだろう。

 

 それは、前世の記憶。

 

 部活帰りにつまんだ唐揚げ。

 学食で出た薄いステーキ丼。

 職場近くの豚生姜焼き……。

 僅かに思い入れの有る食べ物が並ぶ。

 

 その中でも、ひときわ目を引いたのが、柔らかい鶏もも肉。

 

「──様っ! ──様っ!」

 

 こんな肉食べたこと有ったっけ? 

 あんまり覚えていないけど、その鶏もも肉に、異常なまでに惹かれていた。

 

「──ジェ様っ……! ひゃぁっ!!」

 

 俺は、その肉の幻覚に手を伸ばした。

 まるで本物のような手触りだ。柔らかく、しかし張りと弾力があった。

 

「……あんっ、だ、だめ……はうっ!」

 

 揉みしだいて、肉の柔らかさを再確認。

 上等な鶏もも肉……いや、これは鶏胸肉かな。

 どうせ幻覚だから何でもいい、もう限界だ。

 

 朦朧とした中、俺は、その肉にかぶりつくのだった……。

 

「いただきます」

「! それは、まだダメですぅっっ!!」

 

 がっし! ぐるん! ごきゅん! 

 

 あまり聞き慣れない音と共に。

 景色が180度、右向きに回った──そんな気がした。

 

 そう、気のせいであることを願いながら、俺の意識はさらに遠のいていったのだった……。

 

 

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