New Styles~シロとクロと灰色と~ 作:Samical
今から5年前、とある小学校の卒業式。
一人の少女がそれはそれはワンワンと泣いてた。
「やだ! 私、シロちゃんや灰くんとずっと一緒にいるの!」
「もういつまで泣いてるのよクロ!」
「そうだぜ、せっかく卒業式だってのによ」
「でも…、中学に行ったらみんな…」
「バラバラになる、ね…」
そう言って泣いていたクロという少女に吊られて黙ってしまうシロちゃんと呼ばれた少女と灰くんと呼ばれた少年。3人は幼馴染だ。幼稚園よりも前からずっと一緒だった。何をするにもどこへ行くのも一緒の3人。だが中学進学を以てそれぞれ別々の道へと進むことになったのだ。つまり、初めて離れ離れになるのだった。
そんな重苦しい雰囲気を打破したのは、シロだった。
「わかった! じゃあ、3人でまた同じ高校に進んで、甲子園に行こう!」
「「…え?」」
「幼馴染3人で夢の甲子園! 最高にかっこいいじゃん!」
「そりゃあ…」
「す、すごい、けど…」
「私たちならできる! だから、それまで3年間。それぞれの進路で思いッ切り頑張ろ!」
シロの言葉に少年とクロもしばらく考え込んでから、笑った。
「な、なんで笑うのさ!」
「いや、シロらしいなって」
「そうだね、シロちゃんらしい」
「…それ、褒めてる?」
「で、でも、分かったよ。中学、私も頑張る」
「俺もだ。で、高校でもう一回」
「そ! 集まる! 約束だよ!」
「うん!」
「おう!」
そしてそれぞれの道へと進んだ3人はそれぞれ全力で3年を過ごし…
「山ノ宮高校…でいいのか?」
「い、意外だね…。シロちゃん、もっと無名のところ選ぶかと…」
「なんならいっそもっと甲子園行けそうなとこな」
それぞれ中学3年になった3人はどの高校へと進むかを相談していた。
「そりゃ、あんまり弱いとまず勝てなくて甲子園とかまた夢のまた夢だし」
「微妙にリアリストだよなお前」
「強すぎると私たち揃って出れるか分かんないし!」
「そ、それから微妙に謙虚だよね、シロちゃん…」
「そういうのを全部踏まえて、最適なのがTHE・中堅どころの山ノ宮って訳!」
「な、なるほど…?」
「ま、いいんじゃね?」
「うん! じゃあ、決まり! 行くぞ、山ノ宮! 行くぞ、甲子園!」
「「おー!」」
程なくして山ノ宮高校に入学し、迎えた野球部での活動初日。
シロは自己紹介で堂々と宣言した。
「私は、いや、私たちは、甲子園に行きます! この山ノ宮で!」
そして現在…、
シロと呼ばれていた、明るい金髪のセミロングヘア―を靡かせる、その容姿は街ですれ違えば多くの男性が振り返るような整った顔立ちの少女、
「7回終わって1-1…! 完全にウチのペース! 相手の2年生投手リレーにやられてるけど、あと何とか1点もぎ取れば…!」
夏の県大会2回戦、山ノ宮高校は聖森学園と対戦していた。プロも注目していると噂のキャッチャー、松浪将知を擁する数年前に高校が出来たばかりの新勢力だった。この試合も巧みなリードで2年生投手二人と3年生投手の3人で1点にこちらを抑え込んでいる。だがこちらも守りは負けていない。自慢の堅い守備で何度もピンチを乗り越えてきた。これならあとワンチャンスをモノにすれば勝てる。
…そんな甘い考えを打ち砕いたのは、松浪だった。
カッキーーン!!!
「あっ…!」
どんな堅守も、ホームランの前には無力だった。さらに続く大砲の竹原にもホームランを浴び、この2点が致命的な失点となって山ノ宮高校は2回戦敗退。光璃たち2年の夏は早くも幕を閉じた。
そして1か月後…
「山ノ宮高校、秋大会も2回戦敗退! あと1点が奪えず、文武高校に敗れました!」
山ノ宮高校は新チームで迎えた秋大会も2回戦で敗退した。課題は明白、守れても打つことが出来ない…、点に結びつかないことだった。
「うーーん…」
「どうしたシロ、そんな腕組んで考えこんで」
「あ、灰くん。おつおつー」
「おう、お疲れ。で、何考えてた訳?」
「…甲子園、行けるのかな、って」
「なるほどなあ」
「いや、もっと私たちならできると思うんだけど、ポテンシャルなら他の代と比較にならない、って監督も言ってたし」
「リップサービスだろ」
「何言ってんのさ、プロ注目の強肩ショート、
灰くんと呼ばれていた男子、暮井灰都。シロこと光璃の幼馴染であり、中学野球でも名を馳せた超高校級ショート。188センチ87㌔の恵まれた体躯から圧倒的な強肩と剛柔併せ持つ打撃を誇る。山ノ宮高校に進むと知られた際には随分と失望された、らしい。
「あ、二人とも。お疲れさま」
「あ、クロ! ってもう、また助っ人?」
「う、うん。どうしても、って」
「ちょっとは断りなよ…」
クロと呼ばれた女子は
「で、どうしたの?」
「ああ、このチームで甲子園行けるかなって話」
「なるほど…」
「でも実際メンツは悪くないはず!」
と言って光璃はグラウンドで自主練を行う部員たちを指さしていく。
「まずは上位打線を担うチーム随一の巧打者、
と言った指さしたのは朗らかな雰囲気のポニーテールの少女。抜群の動体視力とバットコントロールで出塁するチャンスメーカーである。
「そんでフィジカルの鬼、
次に指さしたのはツンツン頭の男子。灰都とは違い一見細身だが俊足、強肩、そして長打も打てる高いフィジカルを持つ。ただし確実性に欠けるのが難点である。
「チーム一の秀才で、扇の要!
フレーミングの練習をしている男子を指さす光璃。小柄だがガッチリした下半身が目立つ。
「ホットコーナーを任せられる、ウチでは貴重な強肩強打のサード、
ノックを受ける男子を指さす。高身長だが灰都とは違って細身、だが身のこなしは軽く送球も安定しているようだ。
「他にも粒ぞろいな新チーム! 1年生の後輩たちにも面白い子はたくさん!」
「で、秋は?」
「2回戦負け!」
「そ、そうだよね…。負けちゃったよね…」
実際守りの固さは県内随一なのは周知の事実。だが問題は打線、灰都という県内どころか全国でも有力な選手がおり、その他にも打力のある選手はいるのだが…。
「監督も言ってたね。お前らのポテンシャルは出きってない!って」
「だがウチの監督も困ってたな。守備を鍛えるのは自信があるが…って」
「かれこれ数十年チームカラー保ってやってる超ベテランだからねー」
「わ、私たちで、な、なんとかできない、かな?」
「ブレイクスルー、的なやつか?」
「うん…」
考えこむ歌月、そして灰都。すると歌月の持っていたカバンから何かが落ちた。
「クロ、何か落ちたよ?」
「あ、本当だ。ちゃんと閉まってなかったのかな…、ありがとう」
「これ…何? ドッジボール、にしては小さいか…」
「ハンドボールだろ。体育で使ったこともあるじゃん」
歌月のカバンから落ちたのはハンドボールで使うボールだった。ドッジボールよりは一回り小さい。一般的な大きさの手のひらならギリギリ掴めるサイズのボールだ。
「う、うん。今日助っ人に行ってたのっも、ハンドボール部」
「ああ、そっか。クロのお父さんって…」
「確かハンドボールの元・日本代表だっけ?」
「うん。昔教えてもらってたし結構出来るんだ」
「へえ…。そうだ、シュート撃つとこ見せてよ!」
光璃が目を輝かせて歌月に頼み込んだ。
「い、良いけど…」
「よし、じゃあ私がディフェンスやるから、灰くんキーパーね!」
「しれっと俺を巻き込んだし、そのうえ2対1かよ」
「いいじゃん。クロ、二人ぐらい抜けるでしょ?」
「た、多分…?」
「え、ホントに出来るの?」
そうこうしてキーパーの灰都。光璃が歌月の前に立ちはだかる構図となる。
「引いた線の内側には、ボールを持った相手プレーヤーは“足を踏み入れられない”ルールだから」
「…結構距離あるぞ、これ」
ゴールの前には半径6mの半円が即席で書かれている。
「あとボールは3秒しか持てないし、3歩しか歩けない」
「え、この状態から?」
歌月の目の前に光璃がいる。つまり歌月は僅か3歩、そして3秒以内に光璃を躱し、灰都が守るゴールへとボールを投げ入れなければならない。
「灰くんの合図で始めるね」
「おっけ、来い!」
「よーし、じゃあ…、スタート!」
灰都のコールの瞬間、光璃の目の前から歌月が消えた。
「!!」
光璃は視界の右端にギリギリ歌月を捉える。スタートと同時に体勢を低く取り、ドリブルを仕掛けてきたのだ。
「流石に抜かせないって!」
「シロちゃんなら、反応する、よね!」
「え!?」
即座に歌月は切り返し方向転換、一瞬体重が右側に乗ってしまった光璃はその切り返しには腕を伸ばすのがやっとだった。
「でもこれでシュートコースは潰せる…!」
「…ふっ!」
「えっ」
次の瞬間、歌月の体は宙に浮いていた。ジャンプシュートというものだろうか。だがそれだけじゃなかった。
「え、何その体勢!?」
体の角度は地面と水平、そしてボールを持つ手はためを作って振りかぶっている。その姿はまるで、空を舞うムササビのようだ。
「やべ、みにくっ…!」
灰都も一瞬反応が遅れる。体に隠れて腕が見えない。そして次の瞬間、鋭い腕の振りからボールが繰り出される。その軌道は、灰都から見て左側から対角線となる右側のゴールポストギリギリへと向かう軌道。灰都が手を伸ばしても届かないコース。一瞬外れたかと思われたそのシュートは、ポストに当たってゴールの中へと入っていった。
その後、歌月は地面を転がったが上手く受け身を取る。光璃と灰都はポカンとしていた。
「え、何今の、すご…?」
「うん。お父さんと練習してたら出来るようになって、ムササビシュートって言うの」
「それ、中々出来るもんじゃないって聞いたことあるけどな」
「クロ凄いじゃん!」
ムササビシュート。ハンドボールにおいてポジションと利き手による不利を覆すためのシュートの一つ。だが一歩間違えばケガに繋がる非常に難しいプレーだった。
「そういやクロ…、お前このプレーこの前試合中にやってたよな?」
「あ、あったあったそういえば!」
先日の試合、セカンドを守る歌月の前に弱い打球が転がった。相手ランナーの足も速く、普通に捌いてアウトになるかは分からなかった。そこで歌月が選んだプレーが…
「前進して捕球した直後、そのまま前に向かって飛んで、さっきのムササビシュートの要領で空中で体の向きを強引に変えて1塁送球、そしてアウト」
「あれはみんなビックリしてたよねえ」
「あ、あれは咄嗟に思いついただけで…」
「いや、ありゃそう簡単に出来るプレーじゃねえよ。イメージしてることと、それを実行に移せる身体能力がいる」
「あう…」
急に褒められ始めて赤面する歌月。その横で急に何かを考え始めた光璃。そしてしばらくしてパンっと手を叩いた光璃が声を上げた。
「これだ…、これだよ! 私たちが、ポテンシャルを活かして殻を破る方法!」
「ど、どういうこと…?」
「今の私たちは、山ノ宮高校伝統の守りのチーム。でもそれじゃあ例年と一緒。甲子園に行くには、何か打開策がいる。今までの山ノ宮には無い、何かが!」
光璃が灰都と歌月を交互に見やり、どや顔で思いついた内容を口にした。
「他のスポーツの競技経験! 伝統的な守りの野球に、何か革新を与えるにはこれだよ! 野球には無い動きでも、何かしらの要素を上手く引っ張ってこれば、レベルアップに繋げられるはず!」
「そう上手く行くか?」
もっともな疑問を口にした灰都に光璃が答えた。
「上手く行くかどうかは関係ない。今のままじゃ前に進めない。なら戻る可能性もあるとしても、前に進める可能性がある手を打ちたい!」
光璃がいつになく熱く語るのを見て、付き合いの長い灰都と歌月は顔を見合わせ笑った。こうなった光璃はまず止まらない。だが同時に、これについては本気で取り組む。そして彼女には周りを巻き込む力があるのも事実だ。
「わかった。明日みんなに話してみよう。もちろん監督にもな」
「そう、だね。私たちの一存じゃ決められないし…」
「二人とも…、ありがとう!」
こうして、光璃の提案は翌日に共有された。そしてそれは意外にも好評だった。さらに光璃たちにとっては都合のいい“誤算”もあった。
「え! 海ちゃん卓球やってたの⁉」
「まー、ねー。中学時代は兼部だったよー。高校は流石に野球に集中したけど…」
青崎海は中学まで卓球部だったようだ。そして意外と卓球経験者は他にも何人かいた。さらに…、
「へえ、祐介は陸上か。言われてみれば自主練のアップもそれっぽいしな」
「おう。小学校からやってたからな。最初は足速くなりたかっただけなんだけどな」
赤木祐介は陸上部、こちらも何人か他にもいた。この二人の他にもテニス、サッカー、バスケットボール、柔道、水泳の経験者などがいた。
そして極めつけは…、
「え、えっと、木登くんは…カバディ?」
「ああ。マイナースポーツだけどな。中学んときは友達に頼まれて週2で練習してた。試合も出てたし」
こうしたマイナー競技の経験者も意外といた。野球一本の方が少ないという意外な結果に光璃はご満悦のようだった。
「いける。いけるよ! こうやって他競技の経験を、みんなでどんどんフィードックして、トレーニングとか、プレーに活かしていこう!」
光璃の提言にチームメイトの反応も上々だった。
「いいじゃーん。おもしろそーだしー?」
「今より上手くなれるなら、やってやんぜ!」
「シロ先輩の言うことであれば、全力で頑張ります!」
「新しい目線で、新しい発見もあるかもな…」
その様子を見て灰都は監督である古木に尋ねた。
「監督。シロが勝手なこと言ったんですけど、いいですか?」
「ほっほっほ。ワシに若者を止める力も権利もありゃせんよ。ワシにできるのはお前さんらに守備の基礎を叩きこむことぐらいじゃ。それしかできんからこうして中堅止まりの監督にしかなれとらんしの」
「ですが、基礎は重要です。これが揺らげばすべてが揺らぎます」
「お前さんらはいい子じゃ。それを理解して今まで頑張って来たんじゃ。ならここからは自分たちで考え、取り組むのも一つじゃ。何、おかしな方に進みそうになったら基礎から叩き直してやるわい」
「…ありがとうございます」
こうして光璃発案の野球部改造計画がスタート。山ノ宮高校野球部は、甲子園へと行くべく新たな一歩を踏み出したのだった…!
お久しぶりです。はじめましての人は初めまして。
ちょっと書きたくなったので新しくパワプロ二次創作というか舞台を借りただけの小説を書き始めました。
今回も割とぶっ飛んだ理論が飛び出すのでほどほどにお付き合いください。
更新ペースはまちまちになりそうです。一応話の流れは出来上がってるので形にできるかの勝負です。
それでは、またお願いします!
Twitter→@Samical18