New Styles~シロとクロと灰色と~   作:Samical

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2 伝統×スパイス=革命?

 光璃の提案から始まった、経験してきた他競技のノウハウの共有。それは冬の時期の体作りから始まった。

 陸上経験者である赤木とその他数名がトレーニングの指導をしていた。

「陸上は当然、短距離と長距離では筋肉のつけ方が違うからな。ピッチャーはともかく、野球で必要なのは当然短距離、すなわち瞬間的に爆発的な力を生み出す力だ」

「スピード×パワー、これは最近のトレンドだしな」

 赤木の言葉に灰都が反応する。続いて柔道の経験者、1年生の茶村が持論を述べる。

「そうっすね。でもパワーを鍛えるってなるとまた別のところを鍛えないと…」

「とはいえ、闇雲に筋肉付けりゃいいってもんじゃないぜ」

と話に入ってきたのはカバディ経験者の木登。光璃はその言葉に対して疑問を投げかける。

「でもほら、冬の時期に体を大きくするってよく言うよね?」

「そりゃな。ただ選手によって求められる役割が違う訳だろ? 速さを求められる選手が余計な筋肉付けて体重くしたら本末転倒だ。可動域が狭まったりする恐れもある」

 学業成績も野球部随一、純粋に頭の回転も速い木登は理路整然と、分かりやすく部員たちに話をしていく。

「蓮矢、随分とこだわるな。そのポイントに」

「それはな、俺がやってたカバディには体重制限があったからだ。灰都、お前身長と体重はどんなもんだ?」

「188㎝、体重は…、88になったか」

「じゃカバディの大会には出れねえな。カバディは体重制限がある。どんなタッパだろうと80キロまでしか参加は認められねえ」

「なるほどな…。無暗に体重増やしゃいいってわけじゃねえのか」

「ぎゃ、逆に、“80㌔までは増やす”こともできる、って…、ことだよね?」

「クロの言う通りだ。カバディやってるやつは、自分の体重とにらめっこして付けるべき筋肉を決めなきゃなんねえ。それは他の競技でも通じると俺は考えてる」

「ボクシングの減量とかみたいなもんっすね」

ボクシング経験者の空木が同調する。

「まあ、そうだな。プロ野球でもたまに肉体改造失敗してる選手いるだろ」

「確かに…」

「じゃあ瞬発系鍛えたいやつは俺んとこ、パワー系鍛えたいやつは茶谷んとこ、って感じで行くか?」

 赤木の提案に光璃は嬉しそうに頷く。

「赤木くんの言う通りで行こっか。各自自分に必要と思う方をやってこ!」

「「「おおお!!」」」

 

 そしてまた別の機会では…

「じゃー、私のやってきた、卓球を活かしたトレーニングやりまーす」

「「おー!」」

「た、卓球台…?」

「そうだよー、クロ。卓球部から借りてきましたー。あと自前のボール」

 そういって青崎はピンポン球の大量に入ったバッグを指さす。

「で、俺たちは何するんだ?」

 灰都が実際にラケットを手に取り青崎に尋ねた。

「今から私が色んなスピンかけてボール打つから、それに対応してねー」

「流石にスピンサーブなんか打ち返せないぜ」

「上回転、下回転、無回転で打つから、無回転はスルーで良いよー。変なとこ飛んでっちゃうしー」

「つまり…回転を見抜けって話か?」

「うん。流石にラリーしろとは言わないよー。別に卓球が上手くなるわけにやるためじゃないしねー」

「確かにそうだ」

 

 体育館ではまた別の競技、こちらはバレー部の協力も得ていた。

「バレーは何が何でもボールを落とさず、繋ぐのが基本だ。じゃなきゃスパイクまでもっていくことすらできないからな」

 バレー経験者の土山。その他何人かも頷く。

「今から飛びついてボールを拾う練習をする。バレーボールは軽いからな。指先だけでも差し込めば上げられる」

「でも野球ボールは無理じゃね?」

「その分グローブがあるし、捕った時点でオッケーだろ?」

 そんな議論に光璃が疑問を投げかける。

「でもダイビングキャッチってする機会限られるよね?」

「俺たちは守備練習の基礎は徹底して叩き込まれてるだろ? あともう一歩を積み上げるためだよ。」

「なるほどね」

 

 こうして野球部はある時は経験者の話を基にトレーニングに励み、ある時は他の部活の協力も得て独自の練習に取り組んだ。

 

 もちろん、野球の練習も抜かりはない。

「ほれ! 一歩目が遅くなっとるぞ! 基礎から叩き直すか赤木!」

「うっす! もう一本お願いしやす!!」

「よし、じゃあこれ捕ってみい!!」

 大ベテラン、御年64歳の古木監督のノック。ノックは打てば打つほど上手くなるというが、古木監督のそれはまさに芸術的ともいえる。全力で追えばギリギリ届くところへと打ち分ける。そして他競技経験を活かした応用技術にかまけて基礎がおろそかにならないよう、山ノ宮高校伝統のノックで基礎を固め直す。

「きっつ…」

「監督のノック、マジで容赦ねえもんなあ…」

「で、でも私たちそれぞれに的確に合ったレベルの打球打ってくれるよね…」

「だから余計きついんだよなあ…。『お前ならこれぐらい捕れるだろ』って感じで…」

 基礎を固め、応用を学び、実践。そしてまた基礎を固め…。

 山ノ宮高校野球部は冬、そして春とコツコツと練習を重ねて行った。

 

 そして3月。初の練習試合。県外の高校、隣県で練習試合の相手を探していたという連合チーム、金剛連合との一戦。

「今日は練習試合ありがとうございます~。ウチと組んでくれるところ、中々いなくて~」

「はっはっは。ご丁寧にどうも、嬢ちゃん、マネージャーかね?」

「はい。鈴島と言います。私は片寄峠高校の生徒です。ウチは片寄峠、双流滝、築石岬、源塊原の4つで連合を組んだチームですので、こういう機会がありがたいんですよ~」

 

 金剛連合のマネージャーと思わしき少女と古木監督が会話しているのを見てウォーミングアップ中の光璃と灰都、歌月、そして赤木、青崎は遠目に眺めていた。

「あのマネージャー、可愛くね? なんか色っぽいし!」

「赤木く―ん。鼻の下伸びすぎー」

「マネージャーより選手の方に注目しろっての。ほら、あいつだけ雰囲気違うだろ」

「が、ガタイも結構違うもんね。あの赤い髪の男子、だよね?」

「そうだ。確か久里武尊…。左の本格派で打撃も一流。影は薄いが高校野球ファンの間ではプロに入った木場嵐士や虹谷誠をも凌ぐ逸材だとか」

 灰都の情報に驚いた光璃が応える。

「ま、マジ? それ、ウチが打てる?」

「だから格好の試しの場なんだって」

「他にも、地味に有名な選手いるよー。キャッチャーの織部って子はー、私の地元じゃ結構有名だったよー」

と青崎。

「古羽も名前は聞いたことあるぜ。二刀流だったろ、確か」

と赤木も続く。

「意外な強豪だったりする?」

「シロ、お前がしっかりと試合作れよー。」

「灰くん、他人ごとだと思ってるでしょー」

「ま、まあまあ…」

 

と言っているうちにメンバー表の交換が行われ、両チームがベンチ前に並ぶ。

 

先攻 金剛連合

1番 中 矢部堀

2番 捕 織部

3番 投 古羽

4番 右 久里

5番 一 芽能

6番 三 橋本

7番 左 村上

8番 遊 馬淵

9番 二 板垣

 

後攻 山ノ宮高校

1番 一 青崎

2番 中 赤木

3番 投 白水

4番 遊 暮井

5番 二 黒羽

6番 三 緑原

7番 右 空木

8番 左 桃谷

9番 捕 木登

 

というオーダーに。

山ノ宮高校のスタメンは秋とは大きく変わった。これも応用練習の成果だろうか。

トップバッターの青崎はチーム一の巧打者で選球眼も良く、出塁率がダントツ。赤木は確実性には欠けるが足と長打力、そしてバントも意外と上手い便利な存在。

 3番に座る光璃は単純な打力という点では他に見劣りするところはあるがとにかく器用で、小技に加えケースバッティングも上手い。勝負強さが特別あるわけでは無いが打席での集中力は一段と高い。

 4番の灰都は長打力、確実性共に文句無し。プロも注目する存在で打力は頭一つ抜けているどころの話ではない。

 5番の歌月。普段はそうは見えないが打席での勝負強さという点ではチーム随一であり、勝負を避けられがちな灰都の後ろを任されるだけの存在である。

 緑原、空木は貴重なパワーヒッター。そして桃谷は俊足の女子選手、木登は繋ぎの9番を任されている。

 そして先発投手は光璃。現状はまだ仮ではあるが立ち位置はエースということになる。

 

「よっし、応用練習の成果。ここで発揮していこうぜ!」

「「「おおっ!」」」

 

 そして先発のマウンドに立つのは光璃。夏に負ったケガから復帰したものの、エースナンバーを任されたものの故障明けの状態では秋は満足に投げられなかった。

「うっし! 気合入れていくぞー!」

 そしてそのフォームも以前とは大きく改造を加えられた新フォーム。チームの強み、守備の堅さを活かすことに重きを置いたものだ。

セットした状態から膝を曲げて重心を低くした始動。そしてそこから足を上げる高さは低め、テークバックも野手投げとも言われそうなほどのコンパクトな投球フォーム。

 

 実際、光璃の球速は最速でも132㌔。近年増えつつある女性選手としても速いとは言えないがそれを埋め合わせる持ち味は高さを間違えないコントロールとカットボール、高速シュートの使い分けである。

 

 そして試合開始。

まずは先頭打者の矢部堀が右打席に入る。

「初球から決めに行くよ!」

 初球は足を上げ、ゆっくりと踏み出して投じた一球。それがアウトローにバッチリと決まる。

「ストライク!」

「ぐぬぬ、いいとこ投げるでやんすねえ…」

 思わず矢部堀も言葉を零す。続く2球目もアウトローへ。今度は矢部堀が手を出すも打球は後ろへと飛んだ。

「(今、逃げながら沈んで行ったでやんすね…。カットボール、でやんす?)」

 1球目と全く同じコースから近い球速帯でボールゾーンへ。打ってもそうそうヒットにはならない。金属バット相手には不利と思われがちな小さい変化の変化球だが光璃のカットボールのクオリティーはそれでも十分に通用するものだ。

「(無駄に球数使うのは、趣味じゃない!)」

 3球目、光璃が投じたのはインローへの速球。

「舐めるな、でやんす…!?」

 ボールはそこからインローに沈み込んだ。決して驚くような変化量ではないが完全にストレートだと踏んでいた矢部堀のバットを掻い潜り、ボールはミットに収まった。

「ストライク、バッターアウト!」

 先頭打者を三振に打ち取り、盛り上がる山ノ宮高校ベンチ。一方で金剛連合の主力陣は光璃の投球を分析していた。

「良いコントロール、だね」

「武尊もそう思うか? 3球勝負してきたのも意外だな。もっとじっくり来るかと思った」

 そう久里と芽能が会話していた矢先、打席に入った織部は初球のカットボールを引っかけファーストゴロに倒れる。だが3番の古羽は2球目のストレートを捉え二遊間を破る…、かと思われたが、

「ファースト!」

 セカンドを守る歌月がそれを走りこんで抑えるとそこから流れるようなジャンピングスローで正確に一塁へ転送。ショートバウンド送球になるもここはファーストの青崎が華麗なスク―ピングを見せてきっちりと捕球しアウトにする。見事光璃は初回を三人で抑えた。

「ナイス、クロ! それに海もね!」

「あれくらいおまかせあれ~」

「海ちゃんが捕ってくれるから多少無理な姿勢でも投げられるの、助かるよ…」

「嬉しいねえ、じゃあ今度は打つ方で仕事しますか~」

と言って先頭打者である青崎が打席へ向かう。

 そして金剛連合の先発投手、古羽の初球のスライダーを難なく捉えた。

「さあさあ、攻撃、開始~!」

 

 

 

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