New Styles~シロとクロと灰色と~   作:Samical

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3 成果は如何ほど?

 

練習試合

先攻 金剛連合

1番 中 矢部堀

2番 捕 織部

3番 投 古羽

4番 右 久里

5番 一 芽能

6番 三 橋本

7番 左 村上

8番 遊 馬淵

9番 二 板垣

 

後攻 山ノ宮高校

1番 一 青崎

2番 中 赤木

3番 投 白水

4番 遊 暮井

5番 二 黒羽

6番 三 緑原

7番 右 空木

8番 左 桃谷

9番 捕 木登

 

 

カッキー―ン!!

 

快音がグラウンドに響き渡る。

守備に就いている金剛連合の誰もが足を動かすことなく、振り返ってスタンドへと消えていく打球を見送るのみだった。

 

「えーっと、また打ったかあ。灰くん」

「何度見てもエグイな、灰都のホームランの飛距離」

 ベンチから光璃と赤木が呟いた。

 

 山ノ宮高校と金剛連合の練習試合。

 初回の守備を三者凡退で抑えて迎えた1回の裏。先頭の青崎がヒットで出塁。赤木は三振に倒れたものの、3番に座る光璃はきっちりと進塁打を打ちチャンスメイク。そして打席に入った4番の灰都。相手先発、古羽の初球のスライダーを完璧に捉え引っ張りこみ、レフトスタンドに叩き込んだのだった。

「へいへ~い、灰都くんナイスバッティング~。お陰で歩いて帰ってこれたよ~」

「青崎もナイスな。それに、甘く入ってきたからな。どうやらランナー気になって仕方なかったらしい」

「にしても飛ばしすぎでしょ灰くん」

「流石プロ注目の男、だな!」

「よせやい!」

 その後、歌月もヒットで続いたが緑原は三振に倒れスリーアウト。1回の裏から山ノ宮は2点の先制に成功した。

 

カッキーン!!

「…う、嘘~…」

 2回表、先頭の久里を右打席に迎えた光璃は初球は丁寧にアウトコースへのシュートから入ったのだが…。

「ッ!!」

 まさしく一閃。甲高い金属音が響いたと思うと打球は灰都に負けず劣らずの打球速度、それも逆方向のライトスタンドへと飛び込んだ。

「そんな甘かったかな? 蓮矢くん」

「いや、今のは気にする必要はない。予想以上にあのバッターが化け物だっただけだ」

「うーーん、おっけい。気にせず行くよ!」

 

カキン!

「って打たれた!?」

 続く左打者の芽能にはカットボールを上手く拾われてライト前へ運ばれる。

「今の甘かったかな…、いや」

 光璃は一度深呼吸。確かにホームランは打たれた、それは想定外だ。だが単打は想定内。ノーアウトのランナー。本来なら嫌な展開のはずだが、山ノ宮、特に今年のチームは違う。ノーアウトからの単打は十分に想定内。光璃の仕事は、『いかに相手に長打を打たせないか』の一点に尽きる。光璃はそのことを頭の中にしっかりと入れた上で、内野を守るチームメイトに指を2本、親指と小指を立てて声を上げる。

「内野、ゲッツー打たせるよ! いつも通りよろしく!」

「「おお!!」」

 光璃の呼びかけに灰都を始めとした内野陣が応える。右打席に入る6番の橋本は怪訝な顔をしていた。

「(堂々とゲッツー宣言とは…、ここで狙うのはセオリーとはいえ、嘗められたもんだぜ…!)」

 確かに今分かっている光璃の持ち球はカットボールとシンキングファスト。2球種ともバットの芯を外しやすい球種だ。だが意識していれば簡単にゲッツーになるような打球は打たない。

「(宣言したこと、後悔させてやるぜ…!)」

 そう意気込んだ橋本へのその初球。光璃は足をほとんど上げずに投じる、超高速クイックで打者へボールを投じた。

「(やべえ!? 立ち遅れる…!)」

 橋本はこれに対応しようと、やや慌てて初動を取る。だがこの時点で、橋本はバッテリーの術中に嵌った。光璃が投じたのは、今日初めて投げたスローカーブだった。

 慌ててスイングをかけ、それもゲッツーを嫌ってややアッパー気味のそれに完全にタイミングを外したスローカーブが引っかかる。

「サード!」

「嘘だろ、なんでそんな前にいやがる!?」

 バントシフトと見紛う位置まで前進していたサードの緑原が打球を処理する。そして迷わず2塁へと投じた。そして見事にセカンドベース上に投じられたその送球を、ショートから走りこんできた灰都が捕球、ベースを踏んでその流れのワンステップで1塁へと転送。華麗にゲッツーを完成させたのだった。

 

 このゲッツーに驚きを隠せないのは金剛連合ベンチだった。

「おい織部、なんだよ今の」

「私に聞かないでちょうだい」

「いやあ、やられたな。あれは」

 ベンチで困惑気味の古羽と織部の元に2塁で封殺された芽能が戻ってくる。

「まずサード、恐ろしく早い一歩目。引っかけることを予期していたような攻撃的な守備シフト、そこから寸分の狂いなくセカンドへ送球」

 芽能に続いて織部が続ける。

「それだけでも中々に驚きだけど、一番さらっととんでもないプレーをしたのはショートの暮井ね。ドンピシャのタイミングでセカンドベースに駆け込んで、捕球と同時にベースを踏み、次のワンステップまでに持ち替え、送球まで運んだ。一体どれだけ練習を積んだらそんな滑らかにプレーをできるのかしらね」

 

 このプレーを境に試合のペースは完全に山ノ宮へと傾いた。正味のヒット数は両チーム変わらないどころか、金剛連合の方が多い。しかし7回が終了した時点で金剛連合は併殺4個という拙攻を強いられていた。

「…完全に術中に嵌ったな、俺たち」

「そうね、私もやられたわ」

 ノーアウト、ワンアウト関係なく、4つの併殺はすべて異なる形だった。特に4つ目、ワンアウト1,2塁のチャンスからのセカンドライナーをセカンドの歌月が捕球するギリギリのところでダイレクトからショートバウンド捕球に切り替え完成させたゲッツーはチャンスが一瞬でフイになったこともあって金剛連合に大きな衝撃を与えた。打つ方でも山ノ宮は暮井を中心に2点を追加。

 

「よし、武尊。8回から行くか」

「おい、待て。今日は俺が完投する予定だろ」

「何言ってんの。アンタにしては良く粘ったと思うけど、もうヘロヘロじゃない。頼りのスライダーもほとんど曲がらないし」

「ぐっ…」

「わかった。残りイニング、全力で行くよ」

「おう、このまま良い思いさせたまま負けるのは良くないしな」

 

「すみませ~ん。選手交代で~す。ピッチャーの子がセンター、センターの子がライト、ライトの子がピッチャーで~す」

 マネージャーの鈴島が交代を告げ、8回の裏から久里がマウンドに上がった。

「あれが噂の…」

「エグイ球投げるって話だ」

 

 この回の攻撃は2番の赤木から。しかし…、

ズドンッ!!

 段違いの球速のストレートがミットに突き刺さる。赤木はバットを振ることすらできず見逃しの三振に倒れた。

「やっべ、あんなの見たことねえぞ」

「150、出てそうなレベルだね~」

「打席立つの、こわ…」

 そうぼやきながら光璃が打席に立つ。今日はここまで3打席で一つ四球を選んでいる。

 その初球、ストレートに山を張った光璃だがカーブにタイミングが合わず空振り。ストレートには何とか食らいついてファールにするも、追い込まれてしまう。しかしファールにしたことをキャッチャーの織部はやや驚いていた。

「(そういう雰囲気のある子じゃないけど、今のストレートに難なく合わせるとは…。ここは警戒して決めに行きましょう)」

 サインに久里が頷き3球目。光璃は真ん中付近に来たボールに反応し、スイングをかけようとする、が。

「(! 回転が少ない⁉ 縫い目が気持ち見える!)」

球種が分かるほどでは無い。だが光璃はボールの回転数が少ないことから咄嗟に変化球、それもフォーク系と踏んでスイングを止めた。読み通り、来たのはフォークボール。それも恐ろしいキレと落差で落ちた。しかし主審の手は上がった。

「ストライク、バッターアウト!!」

「! 入ってたか…」

 見逃し三振となりベンチへと戻る光璃の背中を織部はじっと見つめていた。

「(幸い主審の手は上がったけど、見極められていた…。今日の試合で片鱗は見えなかったけど、あの子も見どころはあるのかしら…。いや、それよりも…)」

 織部は一度首を振り、次に打席へと入った灰都を見据える。

「(今はこのバッターをどう抑えるかに集中ね)」

 

 初球、140㌔後半はマークしているであろうストレートを灰都は後ろにファールを飛ばした。

「ちょっとズレたか…」

「初見で合わせてきたとは…やるね」

 ミスショットを嘆く灰都に久里は少し感心したように零す。久里は傑出した実力を持ちながら自己評価が低い。そして自他ともに認めていることだが協調性はあっても仲間を引っ張る力が無い。

 そしてファーストから久里を見守る、彼と付き合いの長い芽能はこう考えていた。

「(武尊…、この試合。あの暮井とお前が対戦するように仕向けたのは、お前の闘争心に火を付けるきっかけにするためだ…)」

 久里にもっと自信を持てと持ち上げても、本人が委縮してしまう。だが久里にはもっと自信をつけ、堂々と力を発揮して欲しいのが芽能を始めとした金剛連合のメンバーの考えだ。周りが持ちあげてダメなら、奥底に眠る負けず嫌いを引き出せば、久里の殻を破りさらなる力を引き出せるはず。そのために県外で名の知れた実力者である暮井擁する山ノ宮に練習試合を持ちかけたのだ。

 そしてその目論見は、初球のファールにより果たされつつあった。

「(打たれたくは、ない。だからそのためにはもう一つ、気合を入れる!)」

 続く2球目、今度はより厳しいアウトローにストレート、これには灰都のバットも空を切った。

「(ちっ。キレが増したか? まさかまだ上があるってのかよ!)」

 3球目、今度はインハイへのストレート、球速もさらに上がっているようだったがなんとか食らいついて1塁線へのファールとする。

「マジで150出てるな、これ?」

「…そうね。ここまで気合の入ったボール投げてるの、初めて見たかもしれないわ」

「おいおい、冗談だろ」

 灰都のつぶやきに織部が応える。言われてみればマウンドに立つ久里からはさきほどまでベンチなどで見られたような柔和な雰囲気は見えない。むしろ、それはまさに強者のそれ。

 眠れる獅子を起こしたとは、これを言うのだろうか。先ほどよりも気迫を増した久里が投球モーションに入る。灰都も迎え撃つべく始動。

 ボールは先ほどより幾分遅い。その瞬間に灰都は瞬時に判断した。

「(来たか、フォークボール!)」

 さきほど光璃を三振に取った球種。落差は何となく把握している。相手の決め球を打ち砕いてこそ、主砲。そう自分に言い聞かせた灰都はそのフォークを掬い上げようとスイングする。

 

 しかしそのボールは、灰都が思い描くよりも鋭く、そして大きな落差で、

 

視界から消えた。

 

「!!」

「ストライク、バッターアウト!!」

 

ボールは地面スレスレで織部のミットに収まっていた。

「やられた。良いフォークだな」

「ええ。でも感謝するわ。あなたのお陰でウチの眠れる獅子が目覚めるきっかけが出来たから」

 そして9回表。金剛連合打線は9番の村上がヒットで出塁し、1アウト1塁で打席には1番の矢部堀。光璃の徹底された低めへのコントロールも徐々に高めへと浮き始め、被安打もかさみつつある。今のヒットも抜けたストレートをレフト前へと運ばれた。

「ふう。今日の目標、完投することだけど、あとアウト2つ…」

 矢部堀はここまで1安打。アウトローの真っすぐを綺麗に流された。見る限り打つ気満々と言った様子だ。

「(アウトロー、さっき打たれたコースにカット。行けるか?)」

「(多少アバウトになるけど、高さだけは、なんとか!)」

 球数120球を超えて言うことの利かなくなってきた体に鞭打ってサイン通りにボールを投じる。コース、高さは文句無し。ただし、ほとんど曲がらない。

「(やばっ!?)」

「もう一本、打つでやんすよ!」

カキン!

 芯を外しきれなかった打球が金属音を響かせ、右中間方向へのライナー性の打球となって襲い掛かる、はずだった。それを阻んだのは、小さな体を目いっぱい伸ばして跳躍したセカンドの歌月。

「「「!!」」」

 金剛連合の誰もが抜けると確信した打球を、定位置やや後ろの位置からの跳躍でグラブの端で押さえたのだった。そしてそれだけでは終わらなかった。

 目いっぱいの跳躍でバランスを崩し、ボールを掴んだ後に受け身を取って転がった歌月は受け身の回転の勢いそのままに転がって起き上がりノーステップで1塁へ転送。完全に抜けると考えて塁から離れていた1塁ランナーの村上は戻ることすら敵わずアウトとなった。

「スリーアウト! ゲームセット!」

 最後もまた、山ノ宮の好守で得点の芽が摘まれ、そして試合終了。結果としては山ノ宮の完勝だった。

 

「今日はありがとう。紫音ちゃんも言ってたと思うけど、中々相手が見つからなくてね」

「こっちこそ。そっちの二人みたいなハイレベルな投手は中々お目にかかれないからな。打撃が課題のウチとしても助かったよ」

「にしても良い守備だったな。流石守りの山ノ宮って感じだ」

「そっちも粒揃いに良いチームじゃん。無名なのがもったいないぜ」

「ははは、そう言ってもらえると嬉しいよ。俺たちは集まらなかったらスポットライト当たるチャンスすらなかったしな」

「そっか。大変かもしれねえが、応援するぜ」

 キャプテンだという芽能と灰都が互いの健闘を讃え合っていた。そして別のところでは、

「あなた。素晴らしいセンスしてるわね。最後のあの打球、完全に抜けたと思ったわ」

「い、いや…、その、あれは、たまたま…」

「たまたまな訳ないわ。踏み込むタイミング、角度体を伸ばして最高到達点へと達するときのボールの位置。どれをとっても完璧。相当な慣れが必要なはずよ」

「あ、あう…」

 織部が興味を持ったのか、歌月を質問責めにしていたが、当の歌月は人見知りが激しく、上手く会話できないでいた。そこに光璃が割って入った。

「ごめんなさい! クロ、ちょっと初対面の人と話すの苦手で…」

「そう、ごめんなさい。配慮が欠けてたわ。でも、興味があるのよ、あのプレーをさも当然のようにやってのけた秘訣が」

 話を理解したらしい織部は改めて光璃と歌月に向き直る。

「うーーん。普通の人には難しいかも?」

「身体能力、という点かしら?」

「それもあるね。クロの身体能力は、パワーという点では難しいけど、瞬発的な要素で言えば男子顔負けだから」

「でも、それだけじゃあのプレーは説明つかないわよ?」

「す、スカイプレー、です…」

「スカイプレー?」

「は、はい。わ、私の父がハンドボールの元・日本代表で、それもあって幼い頃からハンドボールもやってて…」

「これこれ。ちょっとこの動画見てもらえる?」

 光璃がスマホで動画を表示して織部に見せてフォローする。

 スカイプレーとはハンドボールの技術の一つ。半径6メートルに入れないゴールに少しでも近づくために、シュートを放つ選手はラインギリギリからその内側、つまりゴール側へ跳躍。別の味方選手はその跳躍した選手に直接パスを繋ぎ、跳躍した選手は空中で捕球、体勢の変更、そしてシュートまで持っていくプレーだ。

「クロはスカイプレーもある程度出来るんだ。そのハンドの経験と野球経験を組み合わせて、打球の角度や勢いからどの辺にボールが落ちるかを瞬時に判断してる。そして空中での姿勢制御はその経験とクロ自身の体幹の強さって訳」

「なるほどね…、他競技経験を活かす。面白いわね」

「でしょ?」

「ということはあなたも?」

 織部は今度は光璃に矛先を向けた。

「どうだと思う?」

「何か知らあると思うわ。今日の試合であなたに感じたのは、“駆け引きの上手さ”ね」

 その織部の言葉に光璃は率直に『この子、よく見てるな』と感心していた。

 光璃の一番の武器はコントロールでも、質の高いカットボールでもない。織部の言う通り駆け引きの上手さだ。明るくポジティブ、天真爛漫な性格で学校内でも有名な彼女だが、隠れた特技がある。それがスピードや7並べ、ポーカー、ブラックジャックなどのトランプゲームを始めとした対人の駆け引きのあるゲームだ。実は腹黒いのでは、と疑われるほどには強く、修学旅行ではお菓子をチップ代わりにした夜の自由時間のゲーム大会で多くの参加者からお菓子を巻き上げた実績もある。

「うーーん、半分正解かな! 駆け引きはあくまで結果で、本質は別にあるよ」

「そう。まあでもやはりそういう特技があるのね。単純な反射神経も良いし、初見でウチのエースの球に食らいつくだけはあるわ」

「褒められると照れるなあ」

「参考にできるところはさせてもらうわね」

「おーい、織部―! そろそろ引き上げるぞー!」

「すぐ行くわ! じゃあ、そういうことだから」

「うん。今日はありがとうね」

「あ、あり、ありがとう、ございました…!」

「ええ、こちらこそ。そうね、私たちは地区も違うし、月並みだけど…」

 去り際に織部は振り返って言った。

「次は甲子園で、ね。お互い頑張りましょう」

「! そっか。次は、甲子園で! ね、クロ!」

「う、うん!」

 そして金剛連合は帰っていった。

「次は甲子園で、かあ…。良い響きだね」

「そう、だね…。次はちゃんと、お話しできるかな…」

「甲子園行くために、負けられない理由。増えたね」

「うん。私も、頑張る」

 

 

 

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