New Styles~シロとクロと灰色と~ 作:Samical
「そこの君! ぜひウチで一緒に国体を目指さないか⁉」
「いいや! 君のその恵まれた身長はウチのバレー部で活かすべきだ!」
「サッカー部、マネージャー募集してまーす!」
「ぶ、文学部。運動部に負けずに募集してまーす!」
4月。入学式も終わり、各部活が新入生を迎え入れるべく各部活が新入生へと猛アタックをかけていた。そこまで突出した部活の無い山ノ宮には特待生などは存在しない。なのでいかに一般生を引き込むか、そこにかかっている。そして部員の確保が部の存続に直結する部活もあるので新入生の勧誘は非常に活気あふれる、というより死に物狂いとなっている。
「なあ、さっきすっげー可愛い人いたんだけど、先輩だと思うけどさ」
「あ、それ知ってる。野球部の人だろ、明るい感じの」
「一緒にいた大人しそうな人も可愛かったけどなあ」
「でも一緒にいた男の先輩、めちゃくちゃ厳つくなかったか?」
「ああ、そりゃ暮井さんだろ。野球部で、ウチじゃ初めてレベルのプロ注目選手らしいぞ」
「マジかよ、そんな人ウチにいたのかあ」
と、野球部は幼馴染3人組の影響もあってか注目度が高かった。
そして野球部グラウンド…。
「おー、今年は…いや、今年もこんなもんかあ」
「だいたい10人前後、マネージャーが一人か二人、ある意味安定してて凄いよね…」
光璃と歌月が話していると次々と新入生は自己紹介を始め、続いて監督による実力チェックが始まった。
そしてその中で一人だけ、明らかに違う動きをする選手がいた。
「なんつーか、ウチの守備に慣れてるからあれだけど、下手だなアイツ…」
「まー、1年って普通そんなもんじゃない~?」
赤木と青崎が苦笑したのは1年生の一人、先ほどの紹介によれば名前は
「足は速いし、肩も強いけど、打球判断が悪いな」
「木登さんの言う通りっすね。足の速さで誤魔化してますけど初動がめちゃおそっすね」
木登と2年生の村崎が感想を述べる。するとベンチに戻って来た勝は監督の元へと向かうと、体が90度になるぐらいに頭を下げて叫んだ。
「俺、守備は苦手なんで! バッティング、させてください! 俺の打撃を見てください!」
すると監督は面食らっていたがしばらくすると笑いながら勝に伝えた。
「いいじゃろう。おい、村崎。お前が投げい」
「うっす!」
そしてヘルメットをかぶった勝が左打席に立ち、マウンドにはサウスポーの村崎がマウンドに上がる。
「おい新入り。大口叩いたところ悪いけど、俺も憧れの先輩、光璃さんの前で無様な姿は晒せないんだ。大人しく打ち取られてもらうぜ」
「問題無いっす! 思い切り来てください! じゃなきゃ意味無いんで!」
「む、村崎くんは1年生にはキツいんじゃないかな…」
「うーん、2年生投手陣3人の中で完成度は一番高いもんねえ。調子に乗りやすいのが難点だけど」
歌月と光璃もその対決を見守る。
村崎照由は2年生サウスポー、最速144㌔のストレートにキレの良いスライダー、ブレーキの利いたチェンジアップを投げ分ける。どの球種も質は良いがまだ細かいコントロールは出来てないため、甘く入ったところを痛打されるのが課題である。
その初球、村崎のスライダーがアウトコースに決まる。左同士の対決で肝となる1球が決まる。続いてはアウトコースにストレート。少なくとも140㌔近くが出ていたと思われるそれを勝は後ろへとファールを飛ばした。
「驚いたな。タイミングは一振りで合わせてる」
「ああ、外スラ見せられて遠く見えるはずだがしっかり合わせてるな」
灰都と赤木は勝の対応力に目を見張った。この前まで中学生だったとは思えぬ対応力、そしてスイングの力強さ。
外角へのスライダー、内角へのストレートがどちらもボール球となり、カウントは2-2。村崎の悪い癖でもあるが少々力みがあって決めきれない。だがこれが逆に良い布石になった。
「(ここはチェンジアップで、タイミング外す!)」
村崎の渾身の1球、ストレートと同じリリースから繰り出されたチェンジアップ。腕の振りに対してしっかりとブレーキの利いたボールが今度はアウトローに決まる。
勝はストレートのタイミングで始動していた。タイミングは完全に外されていた。
…普通であれば。
「っ!!」
勝は、簡単に言えば、並の打者では無かった。少なくとも、山ノ宮に来る選手としては灰都ほどでは無くとも破格の選手だった。
完全にタイミングを外されたところから、一度重心を下げて踏ん張り、溜めた力を一気に解放するように鋭いスイングでチェンジアップを芯で捉えた。
カキーーン!!
快音を残した打球はセンター前で弾んだ。
「…マジ?」
完璧に決まったと確信していた村崎も思わず呟いた。
「いや、今のは文句無しの1球だった。ただ、打ったアイツが凄いよ」
これには普段辛口な木登もフォローを入れた。
「あの子、もしかして逸材?」
「そ、そうだね。あのバッティングはもしかしたら即戦力、かも…」
光璃と歌月を始めとして、部員たちがざわつく中で監督である古木は戦力としての計算を考えていた。
「あの1年生。確かに打力には見るところがある、とはいえ守備は…。…いや」
守備はノックを受ければ受けただけ上手くなる。これは古木の持論だ。勝もこれからいくらでもノックを受けさせればいい。あれだけの打撃の才能があれば、守備さえ克服し打撃に集中できるようになればさらに伸びる。守備を鍛えるのは、試合における精神的余裕を作り、やがてはそれは打撃に繋がるのだ。
「勝、といったな」
「うっす!」
「明日から、毎日100本ノックじゃ。文字通りの、な」
「100本…、100⁉ 毎日っすか⁉」
「そうじゃ。そしてそれをきちんとこなせたなら…、お前さん。夏でも出番があるぞ」
「!! マジっすか! やります、やってみせます!!」
「おし、よく言った。言っておくが、こりゃ冗談じゃないからの?」
「うっす!」
そしてそれから勝は本当に古木から練習のある日は毎日100本のノックを受けることになった。そしてそれは2か月以上続き、夏の大会直前。
部員たちがグラウンドに集められ、古木が部員たちを見据えて話始めた。
「さて、今日は夏の大会の背番号を発表する。今日呼ばれた者は呼ばれなかった者の無念を背負って、呼ばれなかった者は精いっぱいサポートしてやれ」
「「「はい!」」」
「じゃあまず、背番号1。白水光璃!」
「はい!」
エースナンバーを託されたのは光璃。制球力とキレの良いカットボールを軸とし、そこに光璃自身の駆け引きの上手さが加わり、相手に自分の打撃をさせない。山ノ宮の守備を最大限活かす投球が武器だ。
「背番号2、木登蓮矢」
「はい」
正捕手は木登。頭の回転が早く常に冷静、理詰めのリードに光璃の駆け引き上手が加わるとその脅威はさらに増す。バッティングも下位打線ではあるが上位を繋ぐ大事な役割を担っている。
「背番号3番、青崎海」
「はーい」
チーム一の巧打力に加え、内野手の送球をフォローするスク―ピング技術に定評のある青崎がファーストのレギュラー。
「背番号4番、黒羽歌月」
「は、はい…!」
セカンドは歌月。抜群の身体能力を武器に攻守で躍動できるポテンシャルを持つ。スナップスローで鍛えられた手首の力も強く、小柄ながら長打力も意外と持っている。
「背番号5番、緑原壮太」
「はい!」
サードのレギュラーは緑原。長いリーチを生かした外角捌きとホットコーナーをガッチリと守る守備力が武器。
「背番号6番、暮井灰都」
「はい!」
不動のショート、灰都。打撃力に関してはチーム内では別次元の存在。守備力、特に肩の強さもチーム1。キャプテンも務める精神的支柱。
「背番号7番、勝義宗」
「はいっ!!」
1年生からの抜擢。そしてこれには誰からも文句は出ない。納得の選出だった。
入部してから本当に練習日には毎日ノックを受けていた。それは悪天候の日も、古木が「今日はどうするか」と聞く前から「ノックお願いします!!」と悪天候の中でもグラウンドへ飛び出していくほどだった。そしてそれは着実に実を結び、入部時からは別人のような守備力を手に入れた。もちろん、山ノ宮の他の外野手に比べればまだまだだが、それを補えるだけの打撃が勝にはあった。故につかみ取った1年ながらレギュラーの座。
「背番号8番、赤木祐介」
「うっす!」
センターを任されるのは赤木。パワー、足、肩のどれをとっても一級品。打率だけがやや難点ではあるが、赤木のセンター守備は古木からしても歴代トップクラスとお墨付きだった。
「背番号9番、空木海生」
「はい!」
貴重な長打の打てる打者、2年。肩も強く、足も最低限ある。好不調の波が大きいのが不安要素だが、実力をしっかりと発揮すればレギュラークラスの存在である。
「背番号10番、村崎照由」
「はい!」
勝との対決では打たれはしたが、その実力は高く、次期エース争いの筆頭となる2年生サウスポー。打撃に課題が残るが、まずは投球をしっかりこなす、という目標を掲げている。
「背番号11番、蒼鳥つばさ」
「は、はい!」
2年生投手の蒼鳥。女子ながらストレートの質に定評のある投手で村崎と並び次期エース候補とされている。飛行機マニアであり、ことあるごとにその飛行機愛を披露している。
「背番号12番、茶村雄太」
「うっす!」
茶村は柔道経験者の2年生キャッチャー。ガタイの良さと声の大きさは部内随一であり、伝令ではムードを盛り上げる時などは彼が務めることが多い。
「背番号13番、土山典史」
「はい!」
土山はファースト、外野を守る左投げの3年生。背丈はあるがファースト守備の安定感と打撃で青崎に後れを取っており、主に代走、外野の守備固めが主戦場となる。
「背番号14番、水谷健太郎」
「はい」
水谷は内野のユーティリティの2年生。送球、守備は安定しているが内野には競争相手が多く、打撃に課題のある彼にとってはレギュラーは厳しかった。
「背番号15番、黄山大司」
「うす!」
黄山は比較的打力に秀でたサード。肩は強く、グラブさばきも柔らかいが足の遅さと守備範囲の狭さが課題の2年生。
「背番号16番、紺野日奈」
「はい!」
こちらも2年生、そして女子選手。肩に難点はあるがセカンド、ショートをハイレベルにこなす守備力の持ち主。小技も上手い、器用な存在。
「背番号17番、代田庵」
「はい!」
3年生の右投手。140キロ超えの速球と大きなカーブが武器だが、制球にやや不安を抱えており、どちらかというと長打力のある代打起用が多く、また強肩を活かした外野守備もこなす。
「背番号18番、桃谷里奈」
「はい!!」
俊足の2年生女子の外野手、桃谷。勝に押し出される形でレギュラーからは外れたが、俊足と堅守の貴重な外野手である。
「背番号19番、藍原夕」
「は、はい!」
3年生の投手、女子。左のサイドハンドだがスタミナに不安を抱えており、その結果身に付けた一人一殺を信条としている左キラー。
「背番号20番、郡司陽介」
「はい!!!」
最後に勝と共にベンチ入りを果たした数少ない1年生、ポジションは外野をメインとし、内野の複数箇所もこなす。足が非常に速く、代走の一人として計算されている。
「以上20人でこの夏を戦う。さっきも言ったが、背番号を背負うものは背負えなかった者の分まで責任をもって練習、試合に臨むんじゃ。分かっとるな?」
「「「はい!!」」」
光璃たちは自分たちの夢である甲子園もそうだが、それと同時に無念も背負わないといけない。
3年生は全部で13人。今回ベンチ入りしたのは10人。3人はこの夏、試合に出ることすら叶わない。
「俺たちはスタンドから全力で応援するぜ!」
メンバー発表からしばらくして、こう力説するベンチを外れた一人、若草。そして彼含めた3人に灰都が声をかけた。
「若草も、燕尾も、米手も、お前らの分まで俺たちが暴れてやる。ってのは月並みな言葉だが、プレーで応えるしかねえからな」
「おう、甲子園行ったら取材くんだろ? 俺、女子アナに取材されたい!」
「あれな! パワテレのやつ!」
「なんだよ、お前ら意外と元気だな?」
…違う。
光璃には分かっていた。いや、気づく人は気づく。
彼ら、3年に限らずベンチを外れた者、1年生はともかく、その枠を争っていた2年生も、誰もがあの後泣いていた。
どれだけ明るく振舞おうと、泣いて少し腫れた目は隠せない。
嗚咽で少し枯れた声は誤魔化せない。
拳を爪が刺さるほどの悔しさで握りしめた傷は隠せない。
能天気に明るく振舞っているようで、誰よりも人の機微に敏感な光璃には全て感じ取れていた。
人間は、悔しさを、悲しさを、無念を振り払うには、一度どうにかしてその感情を爆発させないといけない。
だから彼らは今、あれだけ爽やかに振舞える。それは尊敬すべきこと。
だから。
「私は、いや私たちは」
その思いを背負って戦わないといけない。
そして、同情もしない。
それは、彼らへの侮辱だと光璃は考えるから。
「そんなことしたって何も変わらない。私たちにできるのは、全力でプレーするだけ」
白水光璃という少女には2つの顔がある。
明るく元気で前向きな、周りを引っ張る力を持った一面と、
強い責任感を持ち、その達成のためにどこまでもストイックになれる一面。
そんな光璃の最後の夏はまもなく始まろうとしていた…。