New Styles~シロとクロと灰色と~   作:Samical

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5 それぞれの船出

 7月某日、開会式。

 甲子園を目指す県内の球児たちが一堂に会する。この地区は比較的学校数も多く、甲子園出場を手中に収めるには5、6試合を戦うことになる。

 山ノ宮は1回戦をその数日後、県内の高校野球御用達、夢尾井公園第一野球場で迎えた。相手は風流館高校。最近少しずつ力を付けているという私学。灰都としては今のチームの実力を測るにはうってつけの相手と見ている。ここを苦戦することなく倒せるなら甲子園も叶わない夢ではないはずだ。

 

 試合開始前、ベンチ前に集まったメンバーを前に灰都は円陣を組む。

「さて今日の初戦、相手は風流館高校。ポイントは?」

「打線を勢いづかせないこと、だよね?」

「シロの言う通り、風流館は一度流れに乗ると結構続く。去年の秋も最終的に優勝してセンバツに行った聖森をヒヤリとさせた数少ないチームのひとつだ。あの時は聖森の内海という当時の1年生投手だったが1イニングで5点を取った。それだけの爆発力は持ってるし、投手、守備もそれなりだ」

「でもー、ウチはまずウチのやることをやる、でしょ?」

 マイペースな青崎の一言、その一言はチームの緊張をいくらか軽くした。

「その通りだ。守って、点取って、守る。行くぞ、まずひとつ!」

「「「「おおおお!!」」」」

 

一方の風流館ベンチ。風流館の選手は一言で言えば少しチャラかった。髪を染めてるなどのそういう派手なものではないが、選手たちの持つ雰囲気は少し軽い感じである。坊主頭も強制でなく、いわゆるロン毛と言うまでの長さではないが伸ばしてる選手も多い。そして監督である小西監督もおおらかな人物で選手たちの自由さを助長していた。

「監督~。今日の相手、女の子いますよ~」

「こらこら、試合中にナンパするつもりじゃないだろうな?」

「いやでもあの1番付けてる子とか可愛くね?」

「俺は4番、いや3番の子の方が好みかなあ」

「…ナンパするより、試合中にカッコいいところの一つでも見せてきたらどうかな?」

「「そうします!」」

「っしゃ、やるぜえ!」

と小西監督は彼なりに彼らの扱い方も理解していたのだった。

 

先攻 山ノ宮高校

1番 一 青崎

2番 左 勝

3番 投 白水

4番 遊 暮井

5番 二 黒羽

6番 中 赤木

7番 三 緑原

8番 右 空木

9番 捕 木登

 

後攻 風流館高校

1番 二 布須間

2番 三 畳

3番 一 座式

4番 投 園川

5番 捕 丹羽

6番 右 庄司

7番 左 川原

8番 中 湯船

9番 遊 床間

 

 

 そして幕開けた県大会1回戦。先に守る風流館高校の先発マウンドには園川、右投手。ユニフォームの着こなしは少々締まりが無いが背丈は180センチを超え、体躯も細くはない。

「うっしゃ、まず先頭切るぜえ!」

「「しゃーい!!」」

 園川が守備陣に向かって声をかける。

「(園川は立ち上がりにストレートの感覚を掴めば、角度もある良いストレートが決まる。これならそれなりの相手にも通用する! 守備がウリの山ノ宮ならなおさら…!)」

 しかし小西監督の思惑は一番に聞こえた青崎のバットの快音で砕け散った。

 

 初球、外角真ん中に入ったストレートを青崎が難なく捉えた。綺麗に流し打たれた打球はライト前へ弾む。

「海、ナイスー!」

「流石切り込み隊長!」

「どーもどーもー」

 ベンチからの声援に応える青崎。

 そして続く勝。その初球、ストレートを打たれたことを気にしたのかカーブから入る風流館バッテリー。しかし初スタメンで気合の入る勝は初球を振り抜くと決めていた。

「うおらああああ!!」

「!?」

 初見のカーブにドンピシャでタイミングを合わせ、捉えた打球は痛烈。しかし飛んだ場所が悪くライトの正面でライトライナーとなった。

「くっそおおおお!! 上手く反応出来たってのに!!」

「(マジ? 今の初見のカーブっしょ? なんであんな完璧に捉えてんの?)」

 あわや長打だったという打球に園川の表情には焦りが滲む。山ノ宮は伝統的に守りが堅く、打撃はそこまでというチームカラー。その打線の1番にも2番にも完璧に捉えれていた。楽天的な思考の園川にも二つの考えが浮かんでしまう。

 

—今年の山ノ宮は打てるチームになっている

 

そしてもう一つ、あまり考えたくはない、だがどうしてもよぎる可能性…

 

「(今日の自分が投げてるボールが全然良くないんじゃないか、だよね)」

 

見透かすように打席へと向かう光璃は園川のその表情から推測する。投球練習で見えていた自信のようなものが既にいくらか鳴りを潜めている。迷いも見える。

「(投げてる球が悪いんじゃない。むしろ、普段のうちなら苦戦してもおかしくない。ウチで打力に秀でた二人が上位に座って打っただけ)」

 だが見えているものが違えばその発想にも至らない。園川に今見えているのは2者連続でアジャストされたという事実のみ。

「(私もここで続けたらいいんだけど、残念ながら私はそこまでバッティングは良くない)」

 それでも古木監督が光璃を3番に置くのは卓越した状況を見極める力と、決して不器用ではない打撃に期待しているから。光璃であれば、後ろに座るチーム1の強打者に最適な状況で回してくれるという信頼だった。

「(ここは、持ち球を引き出す。向こうは今不安なはず。何としても、アウト一つが欲しいはず。それこそ決め球を惜しみなく使ってでも)」

 その初球、アウトコースにスライダーが決まる。高さはやや高いが、右打者の光璃から一番遠い所に決まる。そしてカーブがひとつ外れ、ストレートがインハイへ。これで追い込まれる。

「(持ち球は、スライダー、カーブ、ストレート。ここまでは木登くんの持ってきた秋のデータと同じ。仮に、球種が増えていたとしてここで投げるなら相当に自信がある決め球、以前から投げている球種を押しのける程の。もし自信が無いなら…)」

 ここでは投げない、つまり。ネクストに座る、既に他チームにも知れ渡る強打者の灰都には投げる可能性は低い。そう光璃が考えたところの4球目、球種はスライダー。アウトコースのボールゾーンへと逃げていくそれを光璃は反応もせず見送る。

「(インハイストレート、アウトコーススライダー。スライダーのキレも悪くないから、多分このパターンがこのバッテリーの決める型。実際打つつもりだったら今のは振ってたね…)」

 至って冷静に、続くボールを迎え撃つ。球種はストレート、変化球を待っていた光璃には手が出ない。アウトローに決まったそれを見逃して三振。ツーアウトとなる。

 光璃はベンチに引き返す途中ですれ違う灰都に短く伝える。

「スラ、カー。灰君には3つ以外投げないよ」

「オッケー。サンキュ」

 そして打席に灰都が立つ。露骨に警戒する様子のバッテリー。2死1塁。ここで打ち取って勢いづきたい風流館。バッテリーは慎重に勝負する手で出た。

 選んだのはアウトコースいっぱいを狙うスライダー。園川が投じたそれは良い高さに決まっていた。

 

ただそのボールがミットに収まることはなく、甲高い打球音が響いた後に聞こえたのはライトスタンドのコンクリートの舗装に直撃する鈍い音だった。

「…マジ?」

「アウトローのスライダー、流し打たれて放り込まれてんじゃん…」

 バッテリーも呆然と見送るしかなかった。

 右打者の灰都がアウトローへのスライダーを一振りで捉えて放った打球は逆方向、それも右中間の一番深い所への一発だった。

「相変わらず意味不明なホームランかっ飛ばすねえ灰くんはさ!」

「お前が配球絞ってくれたからだよ」

「それだけであそこまで飛ばせないって」

 相変わらずの一打で球場の雰囲気を一変させた。その後は歌月が捉えた当たりを放つもサードゴロに倒れてスリーアウト。2点の先制に成功して攻撃を終えた。

 

 そして裏の風流館の攻撃。1番の布須間が右打席に立つ。

「ふっす! こっちは先頭出て流れ持ってこい!」

「取られたらそれ以上に取ろうぜ!」

 風流館のムードはまだまだ盛り上がっている。2点のリードを何とも思っていない様子だ。

「(先頭を切るのは基本中の基本。でも…)」

「(気にせずマイペースに行こう。単打はオッケーだ)」

 そんな思考の元、木登はサインを出し、光璃もそれにうなずく。

 初球はアウトローへのストレート。その1球は構えられた木登のミットに寸分の狂い無く収まる。

「ストライク!」

「へえ、良い球投げんなー、あの子!」

 打席の布須間は一言感想をこぼすと再び構える。

 続く2球目もアウトローへの真っ直ぐが投じられる。

「同じところ、なめんなよ!」

 布須間はそのストレートを捉え、逆らうことなくライト方向へ。角度としては一二塁間を破るかと思われたが…。

「っ!」

 しかしその打球をセカンドの歌月が走りながらグラブに収める。そして走りこんだその勢いは殺さず、クルリと回って1塁へと軽やかに転送し、アウトにして見せた。

 

「やっべ、あのセカンドの子うっま!」

「今のヒット確信してたべ!」

 流石の風流館のメンバーも動揺を隠せない。上手い、とは聞いていたがワンプレーで分かる洗練された動き。自分たちとのレベルの違いを嫌でも分からされた。

 そこからは風流館の打者の凡退が続いた。決して光璃が打てないレベルのボールを投じているわけでは無い。むしろその逆。三振はそこまでしない、バットには当たり、前には飛ぶ。

 だがそこに守備が必ずいる。仮に痛烈な当たりでも、簡単にアウトにされてしまう。

 そして山ノ宮の攻撃はジワジワと点を奪っていく。初回以降に1点ずつ、合計3点を奪ったが、それはヒットすら出ない風流館へ着実にプレッシャーをかけていた。

 気が付けばもう5回裏。5-0。ここまでノーヒットどころかパーフェクトに抑えられている風流館の打席には4番の園川。

「(エースで4番の俺っちが、ここで打てなかったら…)」

 投打の柱である自分が、既に投球で役目を果たせてない上に打てなければチームの士気に関わる。ここで欲しいのは、チームを勢いづかせるチーム初ヒットだ。

「(ツーシーム系、カット、ストレート。どうせカットは空振んだ、思いっきり振ってけ!)」

 アウトローに来た球にタイミングだけ合わせてフルスイング。ジャストミートではなかったがフラフラと上がった打球はポトリとライト前に落ちる。チーム初ヒットだ。

「うっしゃー、流石そのっち!!」

「それでこそ我らが4番だぜ!!」

 左打席には5番の丹羽。ここで今日初めてのランナーに盛り上がる風流館ベンチ。丹羽も園川に倣って強いスイングで光璃のボールへアプローチする。それが功を奏したのか、アウトローへのフォーシームを芯で捉え、快音が響く。打球は三遊間へと飛んだ。

「おっしゃ、連続ヒット…!」

 そうベンチが盛り上がろうとした矢先、その声が止まる。またしても、“いる”。三遊間を抜けるかと思われた打球を、ショートの灰都が逆シングルで掴んでいた。さらにそこからジャンピングスローでセカンドへ転送。待っていましたと言わんばかりにセカンドベースにドンピシャのタイミングで歌月が走りこんでくる。セカンド封殺。

「ファー、ストっ!」

セカンドベースへと走りこんだ歌月もまたセカンドベースを踏んだ足で踏み込んで、飛んだ。特技であるハンドボールのジャンプシュートの要領で空中で器用に投げる姿勢を作り、ファーストへと送球。ショートバウンドとなったがこれを青崎が華麗なスク―ピングで抑えた。

「アウトーー!」

 連続ヒットと思われた打球が一転、ダブルプレーへと変わった。

「おいおい、嘘だろ…?」

 スタンドも高校生離れした併殺完成にどよめく中、それ以上に絶望を突き付けられたのは風流館の面々だった。

「こんなの、どうやって点取るんだよ…?」

 最後の一縷の希望も刈り取られた風流館には反撃する気力はなく、この後も追加点を奪った山ノ宮が7回コールドで勝利を収めたのだった。

 

「さて、思った以上に上手くこっちの攻撃が回ったな。」

「まさか7回コールド出来ちゃうとはね」

 灰都と光璃はそう話しながら、他の部員たちと共に試合をしていた球場の隣へと移動する。今日試合をしていた夢尾井公園はなんと3つの野球場を併設している。そのため今日だけでも試合をするチーム、偵察に来るチームとかなりの数の高校生が足を運んでいた。

 山ノ宮の面々はもう始まっていると聞いていた第3球場での一戦。おそらく今日ここで行われる試合で最も注目されるであろう試合を見来ていた。

 昨夏の甲子園優勝校である聖森学園と甲子園出場経験もある古豪の流星高校の一戦だ。

 だが球場に入り、スコアボードを目にした面々はその試合状況に唖然とした。

「なるほど、これが…」

「昨夏優勝、そしてこの春のセンバツでベスト4入りした強豪、ってわけだ」

「と、とはいえ流石にこれは…」

 灰都、光璃、影月の3人はそれぞれ言葉を零した。

 そこには甲子園に行くためには避けられない相手、聖森学園の強さを存分に示されていた。断っておくが、流星高校も決して弱いチームでは無かったのだ。それでも、それゆえに、そのスコアは見るものに衝撃を与えたのだ。

聖森学園 43425     18

流  星 0000      0

 

 そしてマウンドに立っているのは、このチームの強さの象徴である男が立っている。

 その名は白石。洗練された美しく、ダイナミックなオーバースローから投じられた1球がキャッチャーミットに突き刺さる。

「ストライク、バッターアウト!」

 ストレートで三振に打ち取り、スコアボードに表示された球速にスタンドにいた誰もが息を吞んだ。

 156km/h。この衝撃の数字に、山ノ宮の面々の反応も、苦笑する者、息を呑む者、呆然とする者、それぞれだった。

 そして光璃はというと、ポツリと言葉を零した。

「…上等だよ。私たちの夢を阻む壁、分かりやすくて結構だ」

 

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