New Styles~シロとクロと灰色と~   作:Samical

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8 規格外の存在

 夏の県大会準決勝。山ノ宮高校と激闘第一高校の対戦カード。

 初回の攻防は互いに無得点ながら対称的だった。三者凡退で捩じ伏せた激闘第一のエース、アロネマン。一方でランナーを背負うもピンチの場面から持ち味を取り戻した蒼鳥は二者連続三振で切り抜けた。

 そして2回表。スタンドにいる両校関係者以外の観衆にとっては一番注目する対戦だ。

『4番、ショート、暮井くん。背番号、6』

 ここまでチームを引っ張って来たエース激闘第一のエースのアロネマンと、山ノ宮という中堅校に現れたプロ注目のスラッガー、暮井灰都の対戦。

「(コイツだ。一番警戒しなきゃいけナイ、スラッガー)」

「(さて、蓮矢たちからの情報はあるが。当然打席で見てナンボだ。向こうも警戒してるだろうしな)」

 190センチを超える長身のアロネマンと188センチ91キロという恵まれた体躯の灰都。その立ち姿の時点でまさに別次元の戦いを予想させる。球場の雰囲気も少し変わったようだ。

「(打たせねえゾ!!)」

「(さあ来い!!)」

 初球、アロネマンが選択したのは低めへのドロップカーブ。緩やかな弧を描き、ミットに収まった。

「ストライク!!」

 これには灰都は手を出さなかった。見逃しでストライクカウントが増える。

「(ぶっちゃけストレートで来ると思ったが。さっき打ち取られたことに意地になるかと思っていたけど、思ったよりは冷静みたいだな)」

 灰都は一旦打席を外し、何度か素振りをしてから入り直す。それと同時に思考を整理した。

「(ドロップカーブは投じられた瞬間に分かる。独特な軌道だから反応して打てるかは別問題だが…、となると厄介なのはストレートとチェンジアップ。さっきの蓮矢の三振の仕方を見るに、結構落差はあるしブレーキも効いてて腕の緩みも少ないんだろうな)」

 横系の変化は極端なオーバースローを見た限りほぼ無さそうだ。だが前後の変化球(いわゆる緩急)と、独自の軌道が捉える難易度を引き上げている。ストレートでさえ低めは角度が付き、高めは恐怖感を与えてくる軌道だ。

 2球目、投じられたのはアウトコースへのチェンジアップ。

 灰都が待っていたのはストレート、完全にタイミングが外される。

「(やべっ…! いや、踏ん張れ!!)」

 右足は既に踏み込んだが強靭な下半身の力でグッとこらえる。そして溜め込んだ力を総動員して体を回転させ、外角のストレートを伸ばした腕で強引に引っ張った。アロネマンほどでは無いが長いリーチを生かした、力と技を兼ね備えた一打。打球はサードの頭を越えてレフトの定位置より線寄りのエリアへとポトリと落ちた。

「! おい、さっさとボール返せ!」

 激闘第一のセカンド、山本がレフトの内藤へ叫ぶ。

「え? あっ!?」

 内藤の打球への寄りの甘さを灰都は見逃さなかった。迷わず1塁を蹴って2塁へ向かう。内藤は山本からの指摘を受けて慌てて返球するが灰都の方が速い。2塁を陥れ、ノーアウトでのチャンスを作る。

「(あの、バカヤローめ…!)」

 アロネマンは内心で毒づく。ポテンヒットを打たれただけでも少々苛立ちがあったというのに、相変わらずの味方の意識の低い守備には毎回呆れさせられている。特に内藤は長打力に光るもののある2年生だが、確実性に欠ける上に守備にやる気が感じられない。今のも「あー、ヒットか」といった具合で打球をゆっくりと追っていた。とはいえその長打力に打ち勝てるような存在がいないのも今の激闘第一の現状とも言える。

「(まあイイ。4番以外のバッターがザコなのは向こうも同じダ)」

 打席には5番の歌月が左打席に入る。ここからアウト3つをランナーを返さずに取ればいいだけだ、とアロネマンは意気込みセットポジションに入る。

 その初球、アロネマンはドロップカーブから入る。初見じゃ捉えられない。そう踏んだ選択だった。

「っ!」

 しかし、歌月はただの打者ではない。優れた動体視力と高い身体能力を兼ね備えた実力者だ。カーブに対しバットをかぶせるように合わせ、打球を叩きつけた。

「ナニ!? オレのカーブを初見デ!?」

 高く弾んだ打球は一二塁間、ファーストが出てきて捕球するも、ベースカバーのアロネマンと影月が競走になる。

「(これなら私の足が、勝つ…!)」

 影月はセーフになろうと足を伸ばすが、1塁ベースへ駆け込んだアロネマンもその長い足でベースに触れる。まるで急に足が伸びてきたようなリーチの長さだ。

「アウト!!」

 接触も見事に避けたアロネマンのベースカバーにより影月はアウトになったが、1死3塁のチャンス。打席には赤木を迎えた。

「(前の試合でホームラン打って唯一の得点挙げてるバッターだ。外野フライが定位置に飛べばうちの外野のレベルだと間違いなく帰られる。低めに集めるぞ…)」

「(まア…、それが妥当なラインだナ)」

 キャッチャー佐々木のサインに頷いたアロネマンは初球、インローへのストレートを投じた。だがここで、灰都がスタートを切る。

「「(初球スクイズ!!??)」」

 赤木もバントの構えを取った。そしてインローへの144キロのストレートを難なく転がして見せた。

しっかりと勢いを殺してサード側へ転がった打球は灰都と共に前進してきたサードの長野が捕球し、ホームは諦めて1塁へ送球。赤木のスクイズがきっちりと決まり先制点は山ノ宮に入った。

 

「流石、バントは相変わらず上手いな、見かけによらず!!」

「やるねえ~、みかけによらず~」

「見かけによらず、は余計だ!!」

 光璃と青崎からの弄りに思わず反応した赤木。

「まあ、他所から見たら赤木くんは外野フライ警戒になるよね」

「ちょっとデータ集めたら一発でバレるけどね~、打率1割台なの」

「なんで点取ったのにディスられてんだよ俺。一応2試合連続打点だぞ」

 とにかく1点先制した山ノ宮。後続は打ち取られたが、きっかけを掴んだ蒼鳥を激闘第一も中々捉えることは出来ない。下位打線の2回、上位に戻った3回と威力のある高めへのストレートを軸に捻じ伏せ、低めへのフォークで空を切らせる。理想的な形でゼロを並べた。

しかし対するアロネマンも流石。失点した次の回は立ち直り、高低のストレートとチェンジアップ、独自の軌道を描くカーブで山ノ宮打線を封じた。

 

 4回表、再び灰都との対戦を迎えたアロネマン。今度はインコースへの直球、外の直球と使い分けてカウントを1-2と追い込む。

「(変化球無しで追い込まれちまったか。)」

 先ほどは結果的にチェンジアップをヒットにしたとはいえ、攻略したとは言い難い。

 4球目、投じられたのはインローへのストレート。右対右でもしっかりと投げ込まれてきた膝元のストレートに流石の灰都も立ち遅れ、バットは空を切る。

「しゃあアア!!」

「ちっ、やられた」

 雄たけびを上げるアロネマンとしてやられたと苦笑する灰都。第2ラウンドはアロネマンに軍配が上がった。

 そして先ほどはカーブを何とかバットに当てた影月は今度はストレートに差し込まれ内野フライ。赤木は三振に倒れ、山ノ宮打線も中々次の1点を取りに行けない。

 

そして迎えた4回裏。打席にアロネマンを迎え、蒼鳥が対峙する。

「(さっきはストレート3つで三振に取ったが、あれはあくまで意表を突いただけだ。この打席が本当の勝負。何から入るかね…)」

 木登は右打席に入ったアロネマンを観察しながら考えを巡らせる。

ストレート、一番有力だがアロネマンは元々ストレートに強いと聞いている。下手なコースに行くと危険だ。

変化球、フォークを使うのも手だが見極められてカウント不利スタートは避けたい。SFF気味なので高さが難しいのもある。

他にスライダー、シュートがあるが高速系であり空振りが取れる球では無い。カウント稼ぎには十分ともいえる。消去法のようになったのが少し気がかりではあるが、今日調子の良いストレートかフォークが無難だろうか。

「(どうしますか?)」

「(初球はフォーク。SFF気味に、腕の振りを意識してこい!)」

「(はい!)」

 初球、投じたのはフォーク。SFF気味にスピード重視の1球が低めに決まるが、アロネマンは反応無し。

「(やべ、一番困る。様子見する気だったか。)」

 少しはムキになってくれていればと期待していたが、むしろ先ほどの打席よりも集中しているようだ。

「(となるとここは多少のリスクは承知で内角に差し込むしかねえか…?)」

 要求したのはインハイのストレート。蒼鳥はサインに頷き、2球目を投じる。今度は反応したアロネマンだったが見逃し。これで追い込むことには成功した。

「(1球外すか…? とはいえ、外に明確に外さねえとコイツは手が届くかもしれねえし、その1球外しに意味があるとは思えねえ)」

 となれば、と木登が選んだのは、低めへのフォーク。3球勝負と言えば3球勝負だが、ボールで良いと蒼鳥にジェスチャーで伝える。

 サインに頷いた蒼鳥が投じた3球目。高さは木登が要求した通り、低めのストライクゾーンからワンバウンドするかしないかの高さ。オーダーに完璧に応えた1球だった。

 見逃せばボールではあるが、パッと見はストライクに見えるがスイングをかけてもボールゾーンへと沈むために当たりづらく、当たってもそう簡単にはヒットゾーンに飛ばない。

 

しかしその考えは打席に立つ男の一振りで砕かれた。

 強引に掬い上げたアッパースイングで捉えられた打球は快音を残して高々とレフト方向へ上がる。

「…冗談だろ」

 木登が吐き捨てるように行ったのと同時に、打球はレフトスタンドをギリギリでフェンスオーバー。同点となるソロホームランとなった。

 

「低め、ワンバンすれすれのボールを強引に引っ張りこんでスタンドまで…。ほんと、フィジカルエリートはこれだからズルいよね」

「シロちゃん、気持ちは分かるけどウチにもいるじゃん。ショートに。あ、あとセンターもそうか」

 ベンチで忌々しげに語るのは光璃と藍原。以前の大吉高校選の時もそうだったが、同性で同学年の同じポジションであるのもあって、この二人は野球部内でも仲の良い二人であり、ベンチでも準備以外ではこうして話していることが多かったりする。

「赤木くんはフィジカルを活かしきれてないでしょ」

「うわ、シロちゃん辛辣。とはいえ追いつかれたのはちょっと嫌じゃない?」

「いや、むしろ下手にツーベースとかよりホームランで良かったかも」

「その心は?」

「同じ失点する、っていう前提にはなるけど。ピンチ作っちゃうより、ホームランの方が割り切れるよ。後続さえ断てばアロネマンが上手だった、で済む」

「なるほど。じゃあ木登くんが今マウンドに間を取りに行ってそれを伝えてるとすれば?」

「アフターケアとしてバッチリ、それにそれができるでしょ木登くんなら」

 

「蒼鳥、気にすんな。今のは完ぺきにサイン通り来て打たれた以上俺の責任だ。それにアイツは別格だ。割り切って次から抑えりゃ問題ねえ」

「わ、分かりました。切り替えていきます!」

「おっけ、じゃあ頼むぜ」

 木登のアドバイスが効いたのか、後続に対しては動揺することなく先ほどまで同様のボールを投げ込む蒼鳥。

 5番の佐々木にはインコースの直球を詰まらせてショートゴロ。6番の井上はセンターフライ、そして7番の内藤には外いっぱいのコースに決めたストレートを見逃させて見逃し三振を奪い、この回は1点で踏みとどまる。

 

 そこから硬直した試合は互いにゼロを並べて進み、6回裏。

 先に変化が訪れたのは蒼鳥の方だった。序盤は高めに決まっていた球威のあるストレートが段々と抜け始めた。

「ボール、フォア!」

「くっ…」

 そろそろ球数も100球に迫っている。公式戦では未知の領域、特にこのプレッシャーの中での投球は精神的にも疲弊するのは免れない。

「(そろそろ蒼鳥は限界か…。いや、むしろよくアロネマン相手に投げ合ってる。想像以上の出来だ)」

 ちらりとブルペンを見る。村崎は序盤からこまめに準備しており、恐らく行けと言われればいつでも行ける。村崎の場合は投げてからが問題なのだが。

 そしてもう一か所で準備しているのは、山ノ宮にとって切り札(ジョーカー)ともいえる存在である、3年生の藍原夕。とある事情で彼女は投げられてせいぜい1イニング。

 故に使いどころを考えなければならない。

カキン!!

「あっ…!」

 そしていよいよ決断の必要が迫られる場面になってしまった。

 2番に四球、3番にヒットを許し、先ほどホームランのアロネマンに回る。0アウト1,2塁。マウンドには既にスタミナが限界に近い蒼鳥。古木監督は決断を下す。

「主審、ピッチャー交代じゃ」

 

『山ノ宮高校。選手の交代をお知らせします。ピッチャー、蒼鳥さんに代わりまして、藍原さん。9番、ピッチャー、藍原さん。背番号、19』

 

 マウンドへやって来た藍原に蒼鳥は申し訳なさそうにボールを託す。

「す、すみません。こんな場面で…」

「なーに言ってるの。よく頑張ったよ。自己最長でしょ、この大一番で」

「それは、そうですけど。今はそれどころじゃ」

「ここは先輩に任せなよ。なんせ私は…」

 そう言って藍原はバッターボックスの傍で素振りをするアロネマンを見据える。

「こういう時のための選手だからさ」

 

 プレイ再開。

 アロネマンが打席に入ると、藍原はセットポジションに入る前に大きく深呼吸。そして左腕を掲げ、内旋、外旋の動きでほぐすように捻るような仕草をした後、前傾姿勢でキャッチャーのサインを確認する。

「(そういやあんなルーティンをこなすプロ野球選手もいたナ…)」

その選手もそう言えばリリーフ左腕だったか、しかし今はそれは関係無い。投球練習を見た限り、この投手は左の変則、典型的な初見殺しだとアロネマンは推測していた。

「(ダガ、あいにく左対右。さほどオレに左への苦手意識は無イ。初見殺しが通じると思うなヨ…!)」

 その初球、足を上げた藍原はその足を一気に1塁側へと大きく踏み出し、そこから体を凄まじい勢いで捻って、左腕をしならせてサイドハンドからボールを投じた。

 球種はストレート、だがプレートの1塁ベース側を踏んだのも相まってそのボールは通常ではありえない角度でアロネマンの内角スレスレに決まった。

「ストライク!!」

「!!」

 投球練習の時とは別人、それどころか時折見えていた投球練習でもこれほどのフォーム、勢いでは投げていなかったはずだ。その違いにアロネマンはやや驚きを隠せず、予想以上のボールを投げ込んだリリーフ投手にスタンドの観客もざわめいた。

 続く2球目、投じられたボールの軌道は大きく左打者側へと抜けた。

 少なくとも、アロネマンや観客はリリースの瞬間にはそう感じた。しかしボールはそこから大きな弧を描き、アウトコースいっぱいに決まる。大きく横滑りするスライダー。アロネマンは反応もできなかった。

「(簡単ニ、追い込まれタ…⁉)」

「(決めてやる。その程度で、ビビるなら、驚くなら…)」

 サイン交換がスムーズに進み、3球目。再びアロネマンの内角へとボールが投じられる。

「舐めるナ…! …ッ⁉」

 アロネマンの視界から、ボールは沈んで消えた。

 木登のミットはアロネマンの足元近く。

 いわゆる、バックフットスライダー。アロネマンの内角低めのコースから、膝元のボールゾーンへと、今度は手元でキレ良く曲がる2つ目のスライダーだった。

 マウンド上に立つ藍原の姿、表情は、光璃と軽口をたたき合っている時の陽気な少女のそれでは無かった。

 そこに立つのは、歴戦の投手、凛々しい戦う者の顔をした少女。

「あんたはまだまだ二流だよ、アロネマン」

「あの女ピッチャー、投球練習までずっと隠してたのカ、これだけのボールを…⁉」

 

——「(そりゃ投球練習で、おいそれと100%で投げる訳無いよ。…“30球”しか無いんだから)」

 

 30球。それが藍原が抱える、「投球制限」だった。

 全身を使い、大きく捻って爆発的な出力を生み出すフォーム。これは藍原の中学時代からの武器であった。故に実は彼女は知る人ぞ知る名選手だった。強豪校からもお呼びがかかるだろう、と。

 だがそれは諸刃の剣だった。

 中学3年の夏。彼女は故障した。

 負担の大きさが成長期の彼女の身体を襲い、重度の腰痛を発症。中学野球の引退と共に投げる頻度を減らしたことでひとまずプレーを再開できるまでにはなったが、彼女は腰に爆弾を抱えることになった。そして投球制限を抱えた彼女を欲しがるチームは無かった。——

 

 5番の佐々木。右打席に入るがアロネマンに投じられた最後の1球がどうしても頭にチラつく。

「(追い込まれたら、アレが来る! アロネマンで掠りもしないアレを、簡単に打てる訳ない! 追い込まれる前に決め…⁉)」

 初球、膝元にまたしてもバックフットスライダーが決まり、空振り。打ち気を完全にバッテリーに読まれている。2球目を投じる前に佐々木の体重移動をする左足が無意識だろうか、僅かに半歩分オープンになったのを藍原は見逃さない。

「(…正直、想像以下だな。激闘第一。あまりにも、手のひらの上で踊らされ過ぎだよ)」

 木登とサインをやり取りし、2球目はアウトローへのストレート。いっぱいである必要は無い、多少真ん中寄り。そうじゃなければむしろ届かないからだ。狙いは空振らせることが目当てではない。

「(その少し引けた腰でそれを打てば…)」

 佐々木がそのストレートを叩くが、バットの先。打球は力無くセカンドへと転がる。

「灰くん!」

「よっしゃ、任せろ!」

 ゲッツーシフトの影月がそれを難なく捌いてセカンドベースカバーに入った灰都に転送、そして灰都もベースを踏んで流れるように1塁へ送球。

「よし!!」

 藍原は小さくガッツポーズ。そしてそれを見た光璃は少し苦笑する。

「相変わらず、マウンドに上がると性格変わるねえ。なんていうか、圧倒的強者のメンタルって感じ」

「ですが流石です! あんな簡単に火消しをしてしまうとは!」

と蒼鳥は安堵の表情だ。

 

そして藍原はベンチへ戻りながら、ベンチ前で苦笑する光璃を見つけた。

「(シロちゃん。私は“繋ぐ”よ。シロちゃんのお陰で、今日もこうして試合で投げられた)」

 

——強豪への進学を諦めた藍原は実家とほど近い山ノ宮に進学。だが野球が好きな彼女は野球部へ、中学時代の実績は伏せて野手として入部した。

 正直なところ、投球以外はあまり得意ではなかった。だが野球そのものが好きな藍原にとっては楽しい日々だった。

 

「そうかな。私にはちょっと物足りない、って顔に見えるよ」

「…えっ?」

 野球部に入って2カ月ほどした頃、藍原は光璃と親しくしていた。なんとなくウマが合ったのだ。何気ない雑談などもするようになった頃、練習終わりのある日のことだった。

 外野守備は難しいがやりがいがある、と言った藍原に対して光璃がそう言ったのだ。

「もー、シロちゃんったら。何を言い出すの」

「外野守備は不慣れだし、打撃も苦手そうにしてる。その割にはウォーミングアップには小慣れた感じとこだわりが見える。ユニフォームの着こなしとか見て分かるのと同じでさ。…夕、あなたは実は本職は外野手じゃないでしょ。となると、左投げでファースト経験は無さそうだったし、実はピッチャーだったり」

「!!」

 普段から妙に鋭いところがあると思っていたが、図星だった。その反応に目ざとく気付いたのか、光璃は続けた。

「何かやらないのには理由があるんだろうから、詳しくは聞かない。でも、良かったら1球だけ、見せてくれないかな!」

「…1球、だけね」

 投球制限は30球。ならば、1球ぐらい、構わないだろう。

 そう思って藍原は光璃へ渾身の1球を投げ込んだ。そのボールは光璃のグラブを弾き、転々と後ろを転がった。

「!!」

「あ、ごめん!! 怪我とかは…」

「…ごい」

「?」

「すごい!! 何今の!! 捕るのには自信あったのに、弾かれちゃった!! そっかあ、夕は凄い球投げられたんだねえ」

 ケガしなくて良かった~、とボールを拾いに行った光璃。

「ごめんね、無理言って見せてもらって」

「えっと、その、聞かないんだ」

「何を?」

「ピッチャーやってない理由」

 藍原が尋ねると光璃は即座に答えた。

「あれだけのボールが投げられるのにピッチャーやってないんだもん。相応の理由があるんでしょ? ケガとかなら本当に興味本位で見せてもらったのは悪いと思ってる。だから嫌だったらもうこれっきりにする、ごめんね変なこと言って」

「…正解だよ。腰、爆弾持ちなんだ」

「…やっぱ当たってたかあ。それ、結構ヤバい?」

「まあね。ああ、でもさっきのは大丈夫。全力投球は1日30球まで、何日も連投するのも禁止。そんな感じ」

「そっか…。そっか…、うん…」

 するとしばらく光璃は考え込む。

「いやあ、あんなボール投げられる子が控えててくれたら頼もしいな、って思ったんだけどさ。あ、エースは譲らないけど」

「そこは強気なんだね」

「もちろん。エースとして甲子園行くのが夢だから。でも、いてくれたら頼もしいのは本当。苦しい時に颯爽と助けてくれる。必殺のリリーバーがいれば、すごく心強い」

「必殺のリリーバー?」

「そう、まさしく切り札(ジョーカー)。ここぞの場面でワンポイント、限られた展開で投げて流れを変える、ゲームチェンジャー。どうかな、挑戦してみない? 無責任な提案なのは百も承知だけど、私は夕が全力で野球を楽しむ姿も見たい。投げた瞬間に一瞬見えた夕の顔、楽しそうだったよ」

 光璃の提案は無くは無い。ただ現実的かと言われると難しい。練習から制約がかかる上に、試合は投げられてせいぜい1イニング。投球練習も少ない球数でこなす必要がある。

 

だが。そんないくつもの制約以上に。

 

もう一度投げられる。

 

僅かばかりとは言え、もう一度打者に対峙し投げられる。

 

あの何にも代えがたい緊張感と興奮を味わうことが出来る。

 

光璃が打算だけで動いているわけでは無いことは分かっているが、甲子園へと行くために藍原の力も使える限り使いたいという思いが無いわけでは無いだろう。

 

それでも、投げたい。

 

そしてむしろそのハンデを背負った状況が、その中で結果を出さねばいけないというハードルの高さが。

 

藍原夕の心に、心の奥底に封じてきた野球人として、中学でエースナンバーを背負っていた実力者としての闘争心を呼び起こした。

 

「分かった。乗るよ、その提案」

「…え? 本当に?」

「うん。明日監督に話してくる。それで、シロちゃん」

「何かな?」

「私が投げるためには、シロちゃんが試合を作れる大黒柱にならないとダメ。だから、明日から私の知る限りのメソッドを伝授するよ。言っとくけど、超厳しいから」

「え、マジ? 嬉しいような…、ちょっと嫌なような…」

「私に覚悟決めさせた責任、取ってもらうから。シロちゃんがちゃんと勝てる投手になんないと、私が投げられる試合も減っちゃうんだから」

「ふふ、そうだね。望むところ!」

 この日を境に、白水光璃と藍原夕はコンビと言える存在になった。光璃にとっては幼馴染の影月と灰都を除けば一番の友人であり、藍原にとってもこの学校で一番の友人で遠慮の要らない間柄。

 そして最後の夏、初めて揃ってベンチ入りを果たした。

 藍原はその時、改めて誓った。

「シロちゃんは私にもう一度チャンスをくれた。だからそれに報いて、シロちゃんの夢を手助けするんだ」と。——

 

「ナイスピー、夕。今日も最高の切り札(ジョーカー)っぷりだったよ」

「なんのなんの。アロネマンは確かに歯応えあったけど、5番はそうでもなかったかな。完全にビビってたし」

「け、結構凄い打者だと思ってたんですけど…」

 好投を讃える光璃、ため息交じりに応える藍原、そしてそんな藍原に少し引いている蒼鳥。

「じゃ、あとは村崎が何とかするんだよね。光璃もキャッチボールぐらいはする?」

「一応ね。(肩を)作るつもりは無いけど」

「う、うっす! 俺が残りを一人で投げ切って見せます! 蒼鳥には負けねえっす!」

「頼んだよ。つばさちゃんと夕の繋いだバトン。最後に村崎くんから決勝で受け取るから」

「はい!」

 

 7回表の山ノ宮の攻撃は7番から始まるも代田、緑原。そして藍原に代打で送られた空木もアロネマンの前に三者凡退。

 そして7回裏のマウンドには3番手、背番号10を背負う2年生左腕の村崎が上がる。

「さて、今日一番の博打じゃな」

「監督がそう言ってどうするんですか」

「いざとなったらお前さんに行ってもらうがな」

「今さらですよ。ここまで来たら村崎くんを信じましょう」

「…お前さんのそういう覚悟の決め方は本当に高校生離れしとるな」

 村崎の投げるボールの力そのものはチームでトップクラス、スタミナも十分。最速140㌔代中盤をマークするストレート、キレの良いスライダー、ブレーキの効いたチェンジアップと持ち球もいずれも良質。唯一にして最大の欠点が乱調気味に発揮される制球難。ここをどうするかがいつも問題になってくるのだが。

「それに、今日の木登くんなら何とかしてくれる気がします」

「それは勘か、お前さんの」

「つばさちゃんをここまでリードした木登くんなら何か掴んでるはずです。今日はいつも以上に柔軟に考えてリードしてくれてる。村崎にも何か打つ手がある、かもです」

「まあ、それに期待する他無いのう」

 

 プレー再開。6番の左打者、井上から始まる激闘第一の攻撃。木登は村崎をどうリードするかを考える中で、いくつか考えていることがあった。

「(村崎も蒼鳥と同じようにノビノビ投げさせた方が良いんだろうか。そう考えると、ひとつ合点が行ったことがある)」

 

 思い出したのは蒼鳥、村崎が揃って好投したある日の練習試合。その日は経験を積むために2年生の控え捕手、茶村が捕手を務めていた。同じく1イニングだけ登板した光璃と試合後に反省会をしてる中で木登は試合中の気になったことを光璃に尋ねた。

「シロ、今日はえらくストレートで押してたな」

「ああ、あれ? 私もちょっと迷ったんだけどね。今日は指の掛かりが良くて、茶村くんが軸にしようと結構続けてくれてね」

「組み立てが気になったなら首振れば良かっただろ」

「んー、まあ組み立てとしては甘々だったけどね。でも確かに今日のストレートは投げてて気分良かった。そのせいか余計に良い感じにストレートが走ってたし」

「…なるほど。そういうもんか」

「茶村くん、確かにまだまだ覚えなきゃいけないことはたくさんあると思うんだけど。ひとつ、既に武器になりそうなものがあるとすれば“ピッチャーへのヨイショの上手さ”かな」

「なんだよ、それ」

「ピッチャーが気分良く投げられる球に敏感なのかな、そういうのを察して乗せるのが上手いと思う。私はそういうタイプじゃないけど、気に入るピッチャーは気に入ってくれるんじゃないかな、茶村くんのリード」

 

「(…これだ。蒼鳥も村崎も、縮こまらせたらダメだったんだ。ドンピシャに投げるコントロールなんてそういうのはまだまだこれからでいい。あいつらはもっと勢いで行って良いんだ。なら、引っ張るこっちが上手く乗せてやらねえといけなかった)」

 蒼鳥の時も結局それを理解するまで時間がかかった。だが今なら分かる。

「(全く、我ながら頭が固いんだよ。今さら気づいて、おせえんだよ…!)」

 木登は村崎に対し、外角へストレートのサイン。そして、右手で大きくストライクゾーンを縦に2分割し、アウトコース側を示してミットを大きく構えた。

「(細かいことは言わねえ。ある程度アウトコースならどこでもいい。お前の一番良い球投げ込んで来い!!)」

「! 了解っす…!」

 村崎がセットポジションから大きく足を上げて、2段モーション気味に下ろした足で踏み込みストレートを投じる。コースは木登の指示通り、“アバウトにアウトコース”に決まる。

「ストライク!!」

「! 結構はええな…!」

「(いいぞ、続けるぞ。今のをもういっちょ!)」

 再び木登がアウトコースをジェスチャーで示し、構える。村崎も同点のマウンドという緊張感をまるで感じていないように全力で腕を振るう。

 今度は先ほどよりも外側、それが幸いしてアウトコースいっぱいに決まる。

「ストライク、ツー!」

 そしてサインは再び外へのストレート。追い込んだところでやや力が入ったか、さらに外へと外れてボールになる。

「(それでいい。アバウトに構えてるとはいえ、村崎もここで不用意に甘くならないように、まあ力が少し入ってはいたが外角寄りに狙って投げてきた。)」

 村崎だって何も考えずにただ投げているわけでは無い。彼なりに木登の意図を汲み取り、どういう意識で投げるべきかは把握して投げてきている。これは今まで木登や光璃があれこれと教えてきたことをキチンとモノにしてきた証だった。

 これで井上には十分に外のストレートは意識づけた。仕上げだ。

「(チェンジアップ。真ん中でいい)」

「(真ん中、っすか!?)」

 村崎も流石にこれには驚きが隠せない。木登のリードは普段から基本的に内角外角、高め低めの4分割であることが多く、真ん中というのは中々無いからだ。

「(その代わり…)」

 木登はジェスチャーで、今度は腕を振る動作をして見せた。

「(全力ストレートのつもりで、腕振ってこい。叩きつけてもいい!)」

「(了解っす…!)」

 村崎は木登の指示通り、渾身のストレートを投じるリリースからブレーキの効いたチェンジアップが投じられる。

「なっ…!?」

 コースは甘かった。だが井上のタイミングは完全にストレートと踏んだもの、完全に泳がされたスイングにより打球は力無く上がる。

「オーライ!」

 打球はファールゾーンで緑原が掴んでサードファールフライに打ち取る。

「いいじゃねえか村崎! そのまま行け!」

「ガンガン行っちゃえ~」

「ひ、ひとつずつ、ね」

「うっす!!」

 先頭を危なげなく打ち取り、内野陣の声掛けにいつもよりも元気に応じた村崎。不安な制球は今日は自信が後押しして鳴りを潜めた。力強く、キレのあるボールがどんどんとゾーンに投げ込まれていく。打力に定評のある激闘第一の面々も村崎のピッチングに圧倒されていた。バットには何とか当てるものの、その打撃では山ノ宮の堅守を破るには至らない。

 ツーアウトから一つデッドボールは与えたものの、9番の山本をセカンドゴロに打ち取り、見事無失点で抑えて見せた。

 そして試合は遂に8回表。山ノ宮は1番からの好打順。

カキ―ン!!

「ナニ!?」

 カーブ2球で追い込み、チェンジアップが外れた1ボール2ストライクからの4球目のストレートを青崎は見事にセンター返し。打球はアロネマンの足元を抜けてセンターへと

達した。

「(真っすぐ1本待ち作戦成功! やっと軌道が見えて来てたしね♪)」

「(あれだけ変化球見せたノニ、対応してくるのカ!)」

 そして続く2番の勝に対する初球。様子見の変化球から入ろうとしたバッテリーの考えを、青崎は見抜いていた。

「!! ランナー、走ってる!」

「ちっ、ここでかヨ!」

「(ラッキー、アウトになってたら怒られてたかも。まあ決めたから許してね、ってとこ?)」

 初球カーブを読んだ青崎の盗塁が決まる。サインは出ていない、完全に独断での盗塁だ。

「全く、あやつは好き勝手やりよって…」

「まあ、そこが海の武器と言えば武器ですし…。今のもリードが小さくてほとんど走る気配見せてなかったのに。アロネマンの意識がバッターに向いた時点で狙ってましたね」

「白水、お前さんの影響か?」

「それは人聞きが悪いですよ!」

 ノーアウト2塁となったが、古木監督は強硬策を選択。というより勝は守備もそうだったがバントも苦手にしており、古木監督はこっちについては守備を優先して後回しにしていた。

「(強硬策…、嘗められたもんダ!!)」

 アロネマンが投じたのはアウトコースへのストレート。

「うおらあああ!!」カキン!!

 それを勝は逆らわず流し打った。打球は三遊間を破り、レフト前へと転がる。

 

「バッティングに関してはマジで本物だね、勝は」

光璃は苦笑交じりに呟いた。それに対して藍原が応える。

「だね。バッテリーは露骨に進塁打を嫌がった。守備に不安があるのは分かってるし、初回にスクイズで先制されてるから1アウト以下でランナーを3塁に置かれる状況は避けたかった」

「で、外角にね。まあそもそも140㌔中盤のストレートを難なく流し打った1年坊主も大したもんなんだけど」

これで0アウト1,3塁。打席には3番に座る木登。普段は下位打線を打ってはいるが、速球への対応力はチーム内屈指のものを持つ。

「(ここで何が何でも1点取らねえとな…)」

「(ここで欲しいのハ…、三振ダ。それしかナイ)」

 0アウトなので木登、もとい山ノ宮にはかなりの選択肢がある。スクイズ、犠牲フライ、バッテリーエラーもある。最悪ゲッツーでも青崎のスタート次第では1点入るだろう。

 逆にアロネマン、激闘第一サイドは選択を迫られる。1点は覚悟しての中間守備か。リスクを承知で無失点を狙う前進守備か。

 激闘第一の監督が伝令を送り、内野陣と意思を統一する。激闘第一が選択したのは…。

 

「前進守備、1点もやるつもりはないってとこか」

「シロちゃん的にはどうよ?」

「まあ、それしかないよね。向こうもこっちのディフェンス力を把握してるし、この展開での1点の重みは分かってるでしょ」

「今さら1点も2点も同じ、ってとこか」

 

 打席の木登もシフトを確認し、考えをまとめる。

「(監督のサインはインパクトゴーじゃなくてゴロゴー。青崎の足だと、打球次第だが五分五分ってとこか。理想は外野の定位置まで飛ばす、最低でも内野ゴロ、最悪は三振)」

 つまり、アロネマンとしては是が非でも狙いたいのは三振。ワンマンのエースであるアロネマンなら猶更そこに行きつくだろう。

「(捻じ伏せル!)」

「(絶対に1球は来るよな、高めのストレート!!)」

 アロネマンが初球に投じたのはインハイへのストレート。並の打者なら詰まらされるような球威とコース。しかし速球対応に自信があり、さらに高めに目付していた木登は上手くアジャストした。

「馬鹿ナ!!??」

「独りよがりの配球なんかに負けられねえんだよ、キャッチャーとしてはな!」

 打球はクリーンヒットとなりレフト前へ弾む。勝ち越しタイムリーとなり、ベンチは湧いた。

「さすが木登さん、ナイス狙い打ち!」

「でもあれ、結構難しい球だったよな?」

「あの人、いつも下位打線だけど普通に上位打てるよなあ」

 なおも0アウトで迎えるは4番、灰都。

「(クソ…、一番嫌な所デ…!)」

「(ここで、一気に決める!)」

 アロネマンは初球、ドロップカーブから入る。灰都はこれは見逃し、まずは1ストライク。

 

「さすがの暮井くんもまだあのカーブには対応できないかな」

「さあ、どうだろね」

「え?」

 ベンチから見守る光璃と藍原はこの攻防を見守りながら各々の見解を伝え合う。

「夕も色んな強打者を見てきたと思うけど、それでも灰くんはそれとは別格だと言えると思うよ、私は」

「まあ確かに私が知る中でも規格外だとは思うけど…」

「そう、本当に規格外なんだよね」

 そう話す光璃はどこか誇らしげで、それでいてどこか寂しそうだった。

「幼馴染の縁で、一緒に野球が出来てるのが奇跡なぐらい。むしろ、3人で約束を、少し申し訳なく思うほどにさ」

 

 アロネマンは一度ストレートを外し、3球目に選んだのはカーブ。

「(まだ、オレのカーブは対応されてナイ!! むしろ、されてたまるカ!! ここを抑えて、オレが打って勝つ!!)」

 再び投じられた、一度浮き上がるようにしてからスルスルと沈む独特の軌道のドロップカーブ。

 しかしその軌道を、灰都は一切崩される事の無い完璧なスイングで捉えた。

カキ――――――ン!!!!

 凄まじい金属音が球場に響く。

 その打球は一瞬見失うような打球速度で高々と舞い上がり、レフトスタンドの上段へと消えた。

「は、入ったああああ!!」

「すっげえええ!! さすが灰都さんだぜ!!」

 山ノ宮のベンチのみならず、スタンドの観客からもどよめきが起きた。

 それだけに灰都の放ったこの一撃は、見た者に鮮烈なインパクトを与えた。

——暮井灰都は、モノが違う

 

「ね? やっぱアジャストしてきたでしょ? 相応のレベルじゃないと、灰都に連投は通じないんだ。それだけ灰くんは、規格外なんだよ」

「うん。ちょっと、認識が甘かったかも。分析とかしてると聖森はレべちだと思ってたけど…、同じくらいヤバいのは身内にいたんだね」

「そう。本当に…、凄いんだよ」

 

 柱であるアロネマンを打ち砕かれた激闘第一に反撃の力は残っておらず、それを抜きにしても今日の村崎は簡単に打てるクオリティーではなかった。

 8回裏、9回裏のマウンドでも躍動し、最後は今日最速の146㌔のストレートで三振を奪いゲームセット。村崎は左腕を高々と掲げた。

 

「っしゃああああああああああ!! やってやりましたよ!!」

「ナイスピー、村崎! いつもそれくらいやれっての!!」

「本当だ、これくらいいつもストライク取れりゃこっちも苦労しねえのに」

「きょ、今日は、テンポ良かったね? いつももっと時間かかるけど…」

「先輩方、良かった時ぐらい手放しで褒めてくださいよ!?」

 

整列を終え、野手陣からも弄られながら村崎が光璃たち、投手陣の元へとやってくる

「光璃さん! 俺たち、やりましたよ!」

「私たち一人一人じゃ無理でしたけど、でも力を合わせて勝ち切りました!」

「なんで、決勝戦。頼んます!!」

「だってさ、“エース”。これはもう頑張れない理由は無いね?」

 村崎、蒼鳥、そして藍原から目線を向けられる。光璃はそれにしっかりと応えてから、答えを告げた。

「うん。ありがと、私も、尽くせる最善を尽くすよ。次の試合。必ず、勝つ」

「ま、私はいつでも行けるようにしとくよ。1試合1回のお助けカードとしてね」

「うん、それも期待してる」

 

「(さて、あとはもう片方の役者を待ちますか)」

 まずはベンチを空けてクールダウン、そして次の相手が決まる第2試合を見届けねばならない。甲子園を賭けた決勝の相手は次の試合の勝者。

 大本命、センバツベスト4の聖森学園か。

 昨年敗れた準決勝のリベンジを狙う強豪、関明大学付属か。

 まもなくそのプレーボールが迫っていた。

 

夏の県大会 準決勝1回戦

〇山ノ宮 5 – 1 ●激闘第一

 

 

 

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