New Styles~シロとクロと灰色と~   作:Samical

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9 退路はこの手で

夏の県大会 準決勝2回戦

聖森学園  –  関明大学付属

 

山ノ宮の試合出場組は一旦球場外苑でクールダウンを行ってからスタンドで観戦する運びとなっていた。反省会も兼ねているため同行していた光璃は影月とペアを組んでいた。

「そろそろスタメンとか発表されてるかな?」

「そうかもしれないね…。シロちゃんは聖森は今日誰が先発してくると思う?」

「さあ、どうかな。多分、2年生の変則左腕の女子投手の内海か、同じ2年生のパワーピッチャーの大沼か。どちらにせよ白石はフルでは出てこないかな。リリーフには3年生で緩急自在の軟投派の美田村、そして野手としても出場してる技巧派左腕、久米がいる訳だし」

 そう話していると木登と灰都も話に加わって来た。

「そう考えると恐ろしい投手層だな。榊原監督の継投もあって上手に運用されてるし」

「シロと藍原、2年生二人だけで何とか回してる自転車操業のウチとはえらい違いだな」

「去年もそうやって勝ち上がってたしね。それでいてプロに行くようなのもいるんだからそりゃ中々打てないよね」

 

 そろそろ切り上げてスタンドへ向かおうか、という辺りで球場の方からどよめきが聞こえた。

「…なんだろう。場内アナウンスははっきり聞こえないけど…」

「時間的にはスタメン発表かな、急いでみよっか」

 クールダウンを終えた面々はスタンドへと向かった。

 すると球場内では既にスタメン発表が終わっていた。光璃の見立て通り、スタメン発表で何かサプライズがあったのだろう。そして光璃たちは電光掲示板に表示されるそのスタメンを確認した。

 

先攻 関明大学付属高校

 

1番 中 内崎

2番 遊 元田

3番 右 若葉

4番 一 渡邊

5番 二 山野

6番 捕 古河

7番 三 平間

8番 左 蛭田

9番 投 武智

 

後攻 聖森学園高校

1番 遊 冷泉

2番 一 久米

3番 右 白石

4番 三 桜井

5番 左 柏木

6番 中 露見

7番 捕 雪瀬

8番 投 楓

9番 二 田村

 

 関明は準々決勝と同様のスタメン。聖森学園もそうなのだが、どよめきが起こったのはおそらく投手、楓という選手は光璃でも記憶に無かった。

「楓…? もしかしてまだピッチャー隠してたの!?」

 するとそこに2年生女子の桃山がやってきた。

「あ、先輩方! 聖森学園の先発、この夏初登板の1年生なんです! だからさっき球場もどよめいてて…」

「楓…、楓…、どっかで聞いたことが…あっ!」

 すると勝が声を上げた。

「どしたの、勝」

「思い出したんっすよ、楓彩羽(かえでいろは)! 県大会で俺がいたチーム、そいつに抑えられて! 全国大会に進んだ、世代トップクラスのピッチャーっす!」

「流石に去年の中学生までは俺も網羅してなかったな。なるほど、それで女子選手なら聖森学園に行っててもおかしくはない」

 木登も納得する。女子選手を積極的に呼び込んでいるのが聖森学園の特徴だ。実際昨年輩出したプロ選手の一人、桜井夏穂は中学時代無名の選手から成り上がり、現在レギュラーの久米百合亜は中学時代から天才少女として騒がれていた逸材、女性コーチなども常駐しメンタル面などでもサポートしていると評判だ。今日のスタメンも半数を女子選手が占める。

 

「この大舞台で、豊富な投手陣を差し置いて先発…。榊監督はたまに勝負に出る采配もするけど、これは将来も見据えてる、かもね」

「シロの言う通りかもな、そしてそれが博打にならないだけの実力があの楓にはあるってことか」

 

一方、プレーボール直前。投球練習を終えたマウンド上の1年生右腕、楓彩羽。

「(いやあ、自信があったとはいえまさかここで先発とはね。驚きですよ、驚き)」

 と心の中で呟いた。

 背番号を貰った時点でも驚いていた。センバツベスト4の聖森学園の投手陣に入学して3カ月の自分が割って入れたことでも十分に快挙だと考えていたのに、まさか決勝を賭けた準決勝で先発とは。

「(もちろん、目安は1巡。全力で飛ばしていけとは言われてますけどね、もちろん)」

 

 そして迎えた試合開始、打席には1番の内崎が右打席に入る。

「(率も長打もある柔軟な打者、って話ですが。私には策も何もないですね、私には。Do my best. それだけ、それだけです!)」

 楓が投球モーションに入る。

 左足を上げると同時に体がやや3塁側に傾く前傾姿勢になる。そこから体全体で手元を隠しながらスリークオーターのリリースでボールが投じられる。

 投じられたのはストレート…、だったのだが真ん中寄りのアウトコースに決まると思われたそれは僅かにさらに外へと逃げていく。

「真っスラ…!」

「球速も130㌔行かないかぐらいだけど、あのフォームだと相当リリースが見にくそうだね」

 2球目もアウトコースに真っスラを決めた楓の3球目も前の2球より厳しいコースだが似たようなコースへの速球。

「(確かに初見じゃ難しいが、流石に3球連続は舐めんなよ!)」

 内崎は右方向狙いでスイングを仕掛けるが、ボールは先ほどの真っスラよりも大きく外へと逃げていく。

「なっ!?」

「! …高速スライダー!」

 ほとんど同じようなコースに投じられたのは高速スライダー。単体では決して全く打てないような驚きの変化をした訳ではない。だが真っスラが頭によぎれば手が出てしまう、絶妙な球速帯の一球。

「ぐっ!?」

 続く元田が真っスラを引っかけた後、3番の若葉はインコースの速球に詰まらされる。

 投じられたのはおそらく、右打者の内角に食い込むツーシーム。

 

 スタンドでそれを見ていた山ノ宮の面々、その中で勝が話し始めた。

「楓の厄介さはこれなんっすよ。スタイルとしては、シロさんに近いっすね」

「そうだね。なるほど、ピッチトンネルか」

 光璃が勝の言葉に反応し、自分の予想を返した。

「ピッチトンネル?」

「うん。似たような軌道の球種を投げ分けるんだよ。映像を重ねたりすると途中まで同じ所を通ってるように見えるからピッチトンネルって言うんだ。特にこの楓って子の真っスラ、高速スライダー、ツーシームは球速帯も近いからかなり厄介だよ」

 

 その後1年生ながら楓は3イニングを見事に1安打に併殺1つの9人で抑え、2番手の2年生サウスポー、内海にスイッチ。体の柔軟性が伺える深く沈み込むアンダーハンドからカットボール、鋭く沈む高速シンカーを投げ分けて凡打の山を築いていく。

 

 一方の打線、2年生エースの武智の力強いストレートとチェンジアップのコンビネーションに苦しめられるが4回の先頭打者、2番に座る久米がそのチェンジアップを完璧に捉えて引っ張り込みツーベースとする。続く白石は倒れるも4番の桜井はストレートしっかりと逆方向に弾き返し、タイムリーヒットを放つ。

「プロ入りした桜井夏穂を姉に持つ聖森の主将、桜井満。派手さでは白石や久米と比べると欠けてるけど、対応力の高さと長打力を兼ね備えてる点ではこの二人よりも厄介な好打者。ここぞの場面に強いし、守備面でも声掛けのタイミングとかの投手への気づかいが上手い。まさにチームの大黒柱、精神的主柱だね」

「シロの言う通り、聖森といえば白石や久米が真っ先に名前が挙がるが、チームにとって欠けると一番困るピースはコイツかもな」

 

その後は聖森の打線が徐々に武智を捉え始める。

「しっかりと伝統になってるね。聖森の“繋ぎの打線”」

「ああ。突出した選手もいるにはいるが、それはそれとして全選手が己の役割をしっかり理解して動いてる」

「ウチが暮井とクロ、次点で青崎に頼ってるのとは大違いだ」

 昨年の代でプロ2人を輩出している聖森学園ではあるが、それでも個々の力に頼った打線ではなく、各自の能力に応じてどの打順からでもチャンスを作る動きを狙ってくる。そして得点圏で打順を回された打者も各々に見合った得点パターンを狙う。その結果として機動力を使うパターン、長打力を利用するパターン、小技や搦め手を使うパターンなど多様な戦術を用いる厄介な攻撃力を持っている。

 気が付けば点差は徐々に開く。一方で聖森投手陣は楓から内海、そして大沼、美田村と全てタイプの異なる投手を小刻みにリレー。そして8回、9回と背番号3を背負った久米がリリーフすると、独特のムービング系のボールとスライダーをコーナーに投げ分け2イニングをシャットアウト。6-0。コールドにこそならなかったものの、圧倒的な力の差を見せつける完勝だった。

 

 そして翌日。

 夏の県大会決勝。甲子園を賭けた運命の一戦が始まる。

 

夏の県大会 決勝戦

聖森学園  –  山ノ宮高校

 

 プロも使用する夢ヶ咲ドリームフィールドでの開催となるこの一戦。

 スタンドには多くの観客が駆け付けたが、恐らくその多くの目的は聖森の“怪物”、白石和馬。2年生から甲子園のマウンドを経験し、センバツでは155㌔をマークした剛腕。

 もちろん白石だけではない。二刀流の天才野球少女の久米。プロ入りした姉を持つ主将、桜井。他にも粒ぞろいの選手の揃うタレント集団だ。

 そしてそれを率いる榊原監督は創部からわずか数年でチームを名門に押し上げ、さらに集った才能を遺憾なく発揮させる名将。今の世代も昨年同様、豊富な投手陣と多彩なスタメンのバリエーションで高いチーム力を維持している。

 

 山ノ宮の試合前のミーティング。

「さて、注意すべきは…」

「ほぼ全員でしょ。木登くんが一番よくわかってんでしょ」

「シロ、それじゃあ話にならんのよ」

「まあ灰くんの言う通りか、じゃあもう全員確認しよっか」

「はいよ。まずは1番に座る冷泉。走攻守に隙の無い2年生ショートだが、こいつの最大の特徴は滅法ストレートに強いことだ。センバツでも150㌔近い速球にほとんど振り負けない強さも持ってるから長打力もある。」

「ピッチャーとしてもストレートから入りたいのも多いだろうし、確かに先頭でこれはちょっと嫌だね」

「そんでセンバツ以降で固定されてる久米、白石、桜井の2、3、4番の並びだ。冷泉も合わせて右左のジグザグ打線。久米は左の巧打者。打てると本人が思えば際どいコースもスイングしてくるし、ボール球でもヒットにしてくる。3番の白石、投球に注目が行きがちだが振り遅れても逆方向に打球が伸びるスイングの強さがある。そして4番の桜井は左打者で白石とは違って技術で広角に打ち分けてくる。一番厄介なのは打点を稼ぐ、って思考に入られると凡打でも得点に繋がるような打撃をしてくる生粋のポイントゲッターってとこだ。その後は流動的だが、その中だと2年生の内海だな。左投げ両打ちで外野、ファースト、投手をこなす久米と同じ系譜。ただ難しいのがこの内海は相手投手に合わせて都度打撃フォームとスタイルを変えてくる、っていう天才というか奇才の類だな」

「投手陣は?」

「まあ先発はほぼ白石で間違いないだろ。150㌔中盤をマークするストレート、鋭く落ちるフォークボールに芯を外すカットボール。以前は荒れ気味な面も見られたがセンバツ以降はすっかり鳴りを潜めてるな。」

「並べてる情報だけでも十分恐ろしいね…」

「控えも豪華だぜ。昨日投げた軟投派の美田村、速球派の2年生左腕大沼。左の変則の内海、技巧派左腕の久米に今日出て来た楓。右左は散ってるし、タイプも学年もバラバラで子の数だ。厄介なことこの上ない」

 木登のまとめた情報を一通り聞くと光璃が手をパシッと叩く。

「まあ、これ以上考えても仕方ない! 必要な情報は全部頭に入れて、あとは自分たちのベストを尽くすだけ! ね、キャプテン!」

 そして話を振られた灰都も頷く。

「そうだな。じゃあ俺たちは試合前のノックから戦いを始める。分かってるな?」

「「「おお!」」」

「よっしゃ! 山ノ宮、行くぞ!!」

「「「おおおお!!」」」

 

 一方、聖森側ベンチ。主将の桜井が皆の前で話を始めていた。

「この試合の如何で甲子園に行くのがどっちか決まる。やることは分かってるよな?」

「もちろん」

「…大丈夫」

「よし。相手は山ノ宮。例年なら中堅校、そして今年はダークホースとして勝ち上がってきた。初の甲子園に向けて勢いに乗ってる。油断ならない相手だ。ただ俺たちのやることは変わらない。凡事徹底、全てを欠かさず抜かりなく。行くぞ、いつも通りにな!」

「「「おお!!」」」

円陣の後、桜井満は久米と雪瀬の元にやってくる。

「警戒すべきはやっぱり4番ショートの暮井かな」

満の問いに先に答えたのは久米だ。

「最大はそうね。やっぱりアロネマンのあの独特のカーブを数球で見切ってスタンドインした対応力は侮れない。守備は言わずもがな、ね」

続く形で雪瀬は頭に入れたデータを引き出して話し始める。

「後は1番の青崎さん。対応力という点に限っては暮井くんにも後れを取っていない。ただやっぱり他の打者はその二人と比べると一回り違う、かな。あ、でも5番の黒羽さんも少し侮れないかな。雰囲気とかからはそう見えないけど、得点圏打率がとても高いし、打ち取られてる打球も捉えてるのが多い。それに三振も少ないから一筋縄ではいかない、かも。」

「流石。データを話すときの氷花が一番スラスラ話すわね。って感じよ、満。投手の方は典型的な打たせて取るタイプね」

「だな。カットボールには要注意で、あとはフォーシームと高速シュートにツーシーム、そしてスローカーブ」

「カット以外は単体ではそこまで脅威じゃないけど、絞らないと逆にこちらが向こうの掌の上。それに準決勝を見た感じ、あのエースの子があのチームの精神的主柱かもしれないわ」

「その理由は?」

「初回、2年生投手の蒼鳥が立ち上がり苦しんでる時にバッテリーに伝令で何かを話した後、劇的に変わった。そして話してる時間的に監督からの物では無さそうだった。あのエースが1分足らずで的確なアドバイスをバッテリーにした、そう考える方が自然ね」

「百合亜がそう言うんだ、そうかもな。お前の推測はよく当たる。気にはかけとくよ」

「まあでも、さっき満の言った通り。やることは大きくは変わらないけど」

「ああ、そうだな!」

 

 そして試合前に両校がベンチへと入る。そして山ノ宮の面々が最初に驚いたのは聖森側の観客の多さだ。

「人、多いな…」

「流石私学。吹奏楽まで来てるし…」

「準決勝も結構いたけど、さらに増えたねえ」

「それと比べて…」

と言って自陣のスタンドを見ようとした光璃だったがそこで目を見開いた。

「あ、あれって…!」

続々とやって来ていた。見覚えのある顔、山ノ宮の生徒たちが。

彼ら彼女らが着ているのは制服…の生徒もいるが、多くがユニフォームだ。サッカー部、バレー部、陸上部…、その他いろいろ。そしてその共通項として一つ。

 野球部に協力してくれた部活の面々だ。

「おーい、お前ら!! 応援来てやったぞ!!」

「流石に甲子園決まるかも、って言わねえと顧問の先生を説得できなくてさ!」

「見せてくれよ、俺たちみんなの集大成!!」

 色とりどりの服装でスタンドが少しずつ埋まる。そしてそんな彼らが放った言葉が光璃の耳に届いた。

「“夢”叶える瞬間、見せてくれよ!!」

「そうだぜ、お前らの夢は、俺たちの夢でもあるんだぜ!!」

「一緒に頑張ったんだ、お前らなら絶対やれる!!」

 

「…夢」

 

幼馴染3人で甲子園へ行く。

それは光璃の、いや光璃と影月と灰都で揃って持った“夢”だ。

その夢を掲げて、この野球部に入部した。

甲子園に行きたいと、その意志を入部初日に宣言した。

藍原を投手の道に連れ戻した。

つばさや村崎に大きな重圧を背負わせた。

もっと大きく言えば「甲子園に行こう」と掲げて、野球部のみんなを、それどころか野球部強化のために他の運動部をも巻き込んだ。

言ってしまえば、光璃のエゴだ。

本当ならその人が歩むはずの無かった道を歩ませた、時間を貰った、いや奪った。

その自覚はあった。

 

だが彼らは言った。

「自分たちの夢でもある」

 

そう言ってくれるのか。自分のエゴが許された、とは思わないが。

それでも、光璃にとって頑張る理由が増えたことに変わりはない。

「あーあ。もう絶対に負けられないじゃん」

今日まで自分に出来る努力は全てしてきた、つもりだ。

練習でストイックに自分を追い込み、打てる手は全て打った。

一度聞かれたことがある。つばさが厳しめのトレーニングをこなしていた光璃に問うてきたことがあった。

 

―ある日の練習終わりの自主練の時間。つばさはこの日もかなりの量のトレーニングメニューをこなす光璃に話しかけた。

「シロさんはどうしてそこまで自分を追い込めるんですか?」

「そうかな、これくらい普通じゃない?」

「いや、毎回毎回結構ギリギリまで追い込んでますよね?」

汗をぬぐった光璃は休憩に入るがてら、つばさと会話を続けた。

「まあ、そうか。確かにギリギリまで、限界まではやってるね」

「ですよね。なんでそこまでできるんですか?」

「うーん、そうだな…。ねえ、つばさちゃんは、小さい時から周りに凄い人がいたりした?」

「いえ、そこまでは…。それに私はどちらかというと自分の理想を追いかけてたので…」

「そういやそうだった。そうだね、私の場合だと、灰都とクロだね」

「確か、幼馴染でしたっけ」

「うん。あとは私の姉。今やフェンシングの日本代表候補なんだけどね」

「え、そうなんですか!?」

「私もやってたんだ。フェンシング。ちっちゃい頃からずっと比べられる。小学生って良くも悪くも素直だから。率直に誰の方が凄い、って言っちゃうの。野球でも、フェンシングでも、小学校での何をやっても、比べられる」

 少年野球の時。当時から光璃は投手だったが、灰都も投手を務めていた。そして灰都が球数制限で投げられない大事な試合にてマウンドに上がった時に打ち込まれ、負けた。その時に聞いた。

『暮井が投げてたら…』

 フェンシング。姉である燐火(りんか)と同じ日に大会に出たが、善戦むなしくベスト4で敗れた光璃と対照的に燐火は全試合圧勝で優勝した。

 そこで光璃は早くも理解した。

 

 この世にはどれだけ綺麗事を並べようと超えられない“才能”という壁が存在している。

 

 ただの努力ではそれを覆せず、それだけの才能を持ったうえで努力を積み重ねる者がほとんどである。

 

 同じ努力では才能で優れる方が勝つ。

 

そして、つばさの方を向いて少し悲しげな笑顔で言った。

「私の死ぬ気でやってる努力は、いずれやってくる負けた時の“言い訳”のため。負けた時にその理由を“才能”の差のせいにしなきゃやりきれないから。私はどうしようもない負けず嫌いだからね」—

 

光璃はずっとそう思って来た。後悔しないための練習も行動も全てこのため。

 

だが、この試合はもう負けられない。

 

例えそこに光璃が諦め続けてきた“才能”の差があるとしても。

 

例え相手が光璃以上の努力を積んできたとしても。

 

例え100回やって1回勝てるかどうかの戦いでも、その1回を引き摺り出す。

 

それがこの試合、光璃が。いや、仲間たちと共に光璃がなすべきことだ。

 

「この言葉は好きじゃないけど、敢えて言わなきゃ。今日は、“絶対に”勝つ」

 

これは白水光璃の戦いでもない。

 

白水光璃、暮井灰都、黒羽影月の幼馴染3人組の戦いでもない。

 

野球部の戦いでもない。

 

“山ノ宮高校”の戦いだ。

 

そして大歓声の響く中、両校の選手がベンチ前に並び、審判の合図で駆け出す。

 

審判の試合開始の合図で、決戦の火蓋は切って落とされた。

 

互いの夢とプライドを賭けた戦いが始まる。

 

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