いつも騒がしい城学といえど、夕日が傾く頃には部活や補習なども終わり生徒は帰宅していく。そんな中、ミストルティンは夕日が差し込む教室で一人佇んでいた。いつもは温室に行くのだが、今日は用事があってここにいる。
【今日の夕方、教室で待て!!】
まさかの果し状スタイルの呼び出し。目立たないように暮らしてきたのだが、先日の方天画戟との女子力指導の件で注目を集めたのは間違いない。当然、話しかけに来る生徒もいたのだが…。
「コイツに手を出した奴は殺すぞ?」
方天画戟によってミストルティンに手を出すなと宣言。もちろん反発した生徒が喧嘩を挑んだが、校庭に無惨にも散った屍の山が築かれていた。そう言うこともあり、学園内では以前と変わらぬ静かな生活を過ごせていた。だからこそこの手紙はあまりにも不可解だった。方天画戟に相談する事も考えたが、迷惑はかけられないと、一人でこの場に来たの。しかしやはり心細く、今か今かと緊張でいっぱいいっぱいだ。夕方という大雑把な時間で名前も無いため、誰がいつ来るか分からない。黒板の上にかけられた時計の針は縦に一直線になっている。まだ相手は来ないが、これ以上は学校側にも迷惑になりかねないので、恐る恐る動き始めると…
「よぉ。」
突如後ろから声をかけられる。気配なく忍び寄った誰から逃げるように飛び退くが、目の前には黒板。逃げようと振り向くと、逃さないとばかりにミストルティンの顔の側を手が通りすぎて思わず目を閉じる。胸元も何かで抑えられ、身動きが取れない。もう駄目だと身構えたが、鼻腔には覚えのある香りが通り抜ける。忘れもしない共に育てた花の香が。
「はは、悪い。驚かせたみたいだな?」
恐る恐る開いた視界には、肌色が広がる。視線を少し上げると紫水晶のような瞳がこちらを見下ろしている。美しくも勇ましい覇王、方天画戟だ。となると肌色は彼女の巨大な胸。重石のように押さえつける大きさと弾力は流石といったところか。
「方天さん……どうしてここへ…?」
「どうしてって、手紙書いたの俺だからな。」
その言葉を聞いて緊張の糸が切れて、方天画戟に凭れ掛かる。彼女の胸の谷間に顔が挟まっているがそんなことを気にする余裕がないほど、力が抜けきってしまったのだ。
「おおっと、大丈夫か?」
「こ、怖かったです…。」
「ほんとに悪かったよ。サプライズしたかったんだけどちょいと効きすぎたなこれは。」
「サプライズですか?」
「わぁ!ミトゥムちゃん、壁ドンですよ。」
「ミトゥム様だって身長があればアレくらい……。」
聞き慣れた声に振り向くとそこにはここにいないはずのシタ、ミトゥム姉妹の姿が。
「み、皆さんどうしてここに!?」
「やらなければならない事がありましたので。」
「ほら、方天!これ!」
ミトゥムが方天画戟に手渡したのは青薔薇の花束。しかしその姿には見覚えがある、いや馴染み深いものだ。
「これって…!」
「温室で俺が育てた薔薇さ。そいじゃ、せーの…。」
『お誕生日おめでとう、ミストルティン!』
呆気に取られて数秒後、涙が溢れ出してくる。またしても崩れそうになる身体を3人が支えてくれる。こんなにも優しい友達に祝われる学生生活なんて想像していなかった。こんな幸せを受けていいのだろうかと思うこともあるが、きっと3人は何度でも肯定するのだろう。
「そういえば、ミストルティンって花言葉も詳しいよな!」
「そんなのあったな…。シタが言う本数で束ねたよな?」
「はい、13本です。私達全員からのメッセージですよ。」
花言葉は種類や色で様々な意味があるが、本数にも意味がある。青薔薇には奇跡や神の祝福などだが、温室における方天画戟の代名詞でもあるので気にしなくてもいいはず。そしてその本数に込められた意味は。
「永遠の友情…。」
「そりゃいいな!俺達にピッタリだ。」
「はい…そうですね!」
温室を守り抜いた事、不思議な指導関係。本来は交わることが無かった少女たちは不思議な縁に導かれ、絆を作り上げたのだ。
「あー、っと…。悪いんだけど花束から一本貰ってもいいか?今日の思い出に俺も残したくなっちまって…。」
「大丈夫ですよ。じゃあシタさん達にも…。」
「私達は同じ家なので1本だけ頂きますね。良ければ、方天さんの物を押し花かドライフラワーにしましょうか?」
「おぉ!じゃあ頼むぜ。それじゃ、解散するか。ミストル、荷物かさばるから家まで送ってやるよ。」
「ありがとうございます。」
楽しげに先を行くミストルティンと方天画戟。それを見送った姉妹たちも帰路を歩んでいく。
「そういえばミトゥムちゃんは11本の花言葉は知っていますか?」
「そっか、花束の意味変わっちゃったのか…。なんだっけ…?」
「ふふふ。11本の花束は…。」
【最愛】