だらだらACGデッキ 作:継橋
クソデッキは、生み出されなければならない。
有史以来あらゆるカードゲームで、洗練された美しいデッキリストが生み出されてきた。そして同時に、何の原石にもなれなかったデッキリストも。ACGもその軛から逃れることはできない。
では、完成されたデッキレシピ以外は不要なのか。
そうではない。
完成されたデッキレシピは、おびただしい数の死体の上に立っている。
デッキビルダーは、死体の側になることを恐れてはいけない。
すべての挑戦を受け止めなければいけない。
飛ぼうとした意志を笑ってはいけない。
失敗を、愛さなければいけない。
だから私は愛をこめて、あえて「クソデッキ」と呼ぶ。
失敗であることを自分に刻み込むために。
次こそは高く飛ぶために。
これはただの一個人が、ひたすらに高みへ向けて飛ぼうとした記録である。
ブルドラ環境は終わった。
『青嵐の軍勢』は、一言で言えば《ブルードラゴン》と《竜笛》のパックであった。ACGをプレイされている諸氏なら、その意図は理解していただけるだろう。
パック情報解禁ともにあらゆるデッキビルダーの耳目をかっさらい、特殊絵柄の情報公開とともにあらゆるコレクターの視線を集め、そして環境への投入とともにあらゆるプレイヤーの脳裏に住み着いた伝説の竜。それが《ブルードラゴン》である。
では、そんな暴風が吹き止んだ今、『青嵐の軍勢』は過去のパックなのだろうか。
再録カードに普段より枠を取られた、カードリストを見る必要のないブースターなのか。
答えは、否である。
あえて正確に言うのなら、「まだ否」である。
理由は単純。まだ掘りつくしていないから、だ。
誰もが《ブルードラゴン》に目を奪われた結果、『青嵐の軍勢』のカードは考察が終わっていない。そもそも同期の《ブルードラゴン》がいない環境など、他のカードゲームのようなローテーションが突然導入されたとしても本来考える必要がないはずだ。
つまり、今この環境においては誰もが同じ地点にいる。振り返って過去のブラッシュアップに励む者もいれば、新パックの次なる《ブルードラゴン》に思いを馳せる者もいる。
だが私は、金の鉱脈である可能性もあるこの山を、すべて掘り尽くさずにはいられなかった。
それだけの話である。
【1.妄想編】
クソデッキ、壁に行き当たる。
とはいえ、そうそう混沌とした環境のブレイクスルーが転がっているはずもない。
《ブルードラゴン》がパッケージを務める『青嵐の軍勢』は、当然のことながら有翼動物である新種族の竜を主軸に置いたパックである。
ではなぜ、先の環境において【青嵐有翼】デッキは存在しなかったのか。既存のあらゆるデッキに《ブルードラゴン》が投入される試みがされたのに、デザイナーズデッキであろう竜シナジーは使われず、《ブルードラゴン》と専用サポートである《竜笛》だけが環境という大空を満喫していたのか。「有翼生物には有翼生物」という基本を誰も守れなかった理由とは。
理由は至極単純である。他の竜が弱いのだ。
もちろん、《ブルードラゴン》の強さの前にはすべての動物が霞むのは仕方がないことだ。
だがそれを差し引いても、ブルドラのいない天空を【有翼】が翔けるには問題が多い。
過剰なまでのコスト、攻撃力に振った結果火力で簡単に墜ちる体力、薄いか長いわりにピンポイントなテキスト欄……。弱い理由は様々だが、それらをビートダウンデッキとして集めるのにはかなりの無理が必要に思えた。
唯一可能性があるとすれば【有翼コントロール】だが、有翼シナジーを活かすために有翼動物やシナジーカードを増やせば増やすほどリソースや除去、妨害に割く枠が削られていき、有翼の専用妨害やドローソースは定着しやすい重い有翼とは噛み合わず、普通のフィニッシャーに普通の妨害と除去を2つ構えたほうが強い。結果として「有翼フィニッシャー4枚で【有翼コン】名乗れるの?」問題が常に頭をよぎるのは目に見えていた。
あえて言うのであれば、「有翼動物は今までの有翼動物のバリエーションで作ったけど、有翼サポートは《ブルードラゴン》基準で作りました」……とでも言わんばかりに噛み合っていなかったのだ。
目玉である有翼シナジーはデッキとして完成しきれないとするなら、他にカードは無いのか。目を皿のようにしてカードリストを探し、構築のヒントになるものはないかと大会結果を漁る。
時代はブルドラに抑え込まれていたコントロールとビートダウン全般が我が世の春とばかりに暴れ回り、コンボもややピーハンの割りを食ってはいるが結果を残している。新パック前の多様性の塊のような環境だ。
今、環境には最高速で走り抜けるアグレッシブなビートダウンと、最低速で相手をいなしきるパッシブなコントロールが同居している。大会で勝つなら、この両方を見る必要がある。
そんな多様性に富んだデッキは組めるのか?
結論から言うと、過去にはあった。
あらゆるデッキが存在すると言われるACGの歴史の中に、そのデッキコンセプトに噛み合うは存在した。
《一本釣りの竿》。
設置してからターンを重ねるごとに釣れる魚トークンが大きくなるこの置物は、一時期はコントロールデッキの数少ない勝ち手段の常連だった。序盤に妨害されづらく置けるこのカードは、コントロールミラーで大いに役に立っていた。
ではなぜ環境から姿を消したのか。現代の序盤から強力な動物にライフを詰められるのを嫌うと序盤で釣り竿を引き上げなければならず、壁を作るばかりでいっこうに魚トークンで相手のライフを削りに行けない。追加の勝ち手段を他に採用するならそっちをメインにすれば、置物破壊を避けることもできる。要するにこのカードは中途半端だったのだ。
だが、アグロに対しては壁生成、コントロールに対しては圧をかける勝ち手段というのは今も変わっていない。
そしてこの《一本釣りの竿》が、4枚ではなく8枚だったとしたら? 複数の圧に屈して大振りになった動きを、狙いすましたように刈り取れるなら?
『青嵐の軍勢』の青は空のみにあらず。
「ドラフト用か?」とまで言われた大海原の支配者が、『青嵐の軍勢』の名を再び大会に轟かせるかもしれない。
【2.爆誕編】
クソデッキ、ヒット。
「新弾が出たときチェックするべきは、強いカード・速いカード・既存のカードの5枚目以降に使えるカード」、「デッキコンセプトが成立するには同じ役割のカードが8枚は必要」。
かつて尊敬するデッキビルダーが構築記事に書いていた言葉である。
今はその先人の教えに従い、デッキを組み上げよう。
それがこのデッキ、【8 Whales】だ!
(デッキレシピ略)
※現代のデッキです
《アオクジラ》。《ブルードラゴン》よりわずかに重いコストにそこそこのボディ、そしてターン終了時にどんどん大きくなる効果を持つこのカードは、まさに5枚目以降の《一本釣りの竿》……いや、釣り竿のほうが5枚目以降の《アオクジラ》だろう。
魚トークンも《アオクジラ》も水棲生物である以上、《潜水》で除去耐性をつけることができる。除去からは守りながら小型中型の攻め手は身体で止めたり受け流し、そのうえで《潜水》からの全除去で海上をキレイサッパリ流せば、あとは無人の海原を行くがごとし。ターン数さえ稼げば魚なり哺乳類なりが泳ぎ切ってくれること間違いなし!
既に「全体除去と《白鯨》でよくない?」と思われているだろうが、それは違う。《白鯨》を取るとさらにここからデッキが重くなる。ブルドラ以前に一部で流行りを見せた【冬眠コントロール】と違い身を守る方法が置物ではなく除去頼りな以上、《白鯨》プラス妨害まで構えられるまで待つとなるとゲームの中盤~終盤まで何もやることがなく、コントロールミラーだと《潜水》による耐性というメリットを超えて置くタイミングがないデメリットが勝つだろう。
それを踏まえると、この環境で水棲コントロールを回すのであればやはり《アオクジラ》が第一候補だ。
序盤を固めるために採用した《イワシの群れ》と《一本釣り竿》はそこはかとなく大物を釣り上げてくれそうな雰囲気を序盤から醸し出してくれる。
水棲生物の新たなアドバンテージ源として(一瞬)注目を浴びた《暖流》も、水棲生物がいれば少し軽くなるという形で貢献してくれる。
そう、ACG制作チームが『青嵐の軍勢』という鉱脈に隠したのは黄金ではなく、海へと注ぐ溢れんばかりの地下水脈。
今こそ立証するべきだろう。青嵐などではない、本物の嵐と海の恐ろしさを!
【3.実戦編】
クソデッキ丸、東の海へ。
数週にも及ぶ対戦のうち、とある平日大会の航海日誌をここに残す。
◆1回戦 VS バーン
初手に《イワシの群れ》が来たので置いたら《火球》でこんがり焼かれ、カードを引いてる間に《猟犬》を始めとした走ってくる犬に危うく食い散らかされかける。
単体除去を連打してどうにか捌ききるが、ライフが足りなさすぎて《アオクジラ》が大きくなるまで死ぬほど遠いし壁として立てておくしかない。最終的には相手の《狐火》を処理するために切らされた全体除去+《潜水》に対応で《焼き討ち》本体で灰にされた。
◆2回戦 VS ジラフバベル
ストレージそのまま掴んできた?みたいなデッキ量で相手のデッキが判明。今度は初手に《一本釣り竿》が来る。設置すると対面から「懐かしいですね」という声。そして和やかに談笑しながら置物破壊が2つ飛んできて、両方弾いたところで汎用サーチからバベルが積んできたのはなんと《干ばつ》。水棲生物を親の仇だと思ってるタイプか???
水棲生物が出せなくなり、置物破壊を探しにデッキを掘っている間に優雅に《キリンの背比べ》登場。
◆3回戦 VS にゃんにゃんコントロール
《一本釣り竿》2枚のうち片方は妨害されるが1枚は定着。コントロールミラーは基本的に先に動いたほうが負けるので、しっかり魚のサイズが育つのを待つ。お互いにドローソースを撃ち合い続け、1発KO圏内まで育ってから釣り竿起動。除去と《潜水》や妨害の打ち合いの末、攻撃した魚トークンは《斥候犬》に止められる。返しの《母猫》に打つ妨害は既に無く、一生子猫トークンに止められ続ける。《母猫》に除去を打った返しに2体目の《母猫》が着地し、祈るように引いたトップは《アオクジラ》。
何だこの小さい動物。
結果:0-3。
【4.後悔編】
クソデッキ丸、沈没。
構築時点でうすうす勘づいてはいたが、《鉄檻》や《冬》などの置物に頼らないコントロールデッキで勝ち手段を置物に頼ろうとすると腐っていた置物除去が舌なめずりしながら全部飛んでくる。テンポを取った、という虚勢を張ろうにも、《一本釣り竿》は盤面に維持し続けてこそのカードだ。あらゆるデッキに汎用置物除去が入っている現代において、その1:1交換に意義を見出すのは難しい。
あと《アオクジラ》がとにかく強く使えない。「出して守る」というコンセプトそのものは《一本釣り竿》と同じだが、《一本釣り竿》は最速で出して序盤を凌ぎにいくのに対して《アオクジラ》は大振りな関係で最速よりちょっと後に妨害や《潜水》を構えながら打つ必要があり、どっちも引いたときはどっちかいらなくなることが圧倒的多数という食い合わせの悪さ。デッキの中でもターン数えて勝手に大きくなっててくれれば即座の圧にもなろうが、数ターンは放置されることがままあった。
そして《ブルードラゴン》と違って有翼でもないので、普通に適当な動物で止められて時間稼ぎされる。コントロール同士のマッチアップだと《アオクジラ》を巡る攻防の末に相手が返しで立てた《フタコブラクダ》に3ターン稼がれてその間に手札を整えられることが多発した。もう少し小さくてジャンプできる動物に生まれ変わってくれと何度も思った。いっそそれなら有翼シナジー入れるのに。《潜水》は有翼シナジーと違って盤面に水棲生物を置いたうえで相手が除去を狙ってきた時だけ生きるカードで、水棲生物がなかなか出てこないこのデッキでは初手にあった時のストレス値がまあまあ高かった。
基本的に勝つのは火力系のデッキが《アオクジラ》を突破できずにモタついたところを壁に単体除去をつけてワンパンするか、相手が盛大に事故った時。これそのものは《アオクジラ》デッキのコンセプトとして間違ってはいない勝利だが、結局は「普通のコントロールデッキ」の勝ち方でしかない。
そして「普通のコントロールデッキ」なら、《アオクジラ》を入れる必要はない。
夢見た全体除去+《潜水》は、勝利に貢献することは1度もなかった。
環境は荒れる。
絶対王者は既にいない。あらゆる動物が、プレイヤーが、頂点を目指して手を伸ばす。たとえそれが、新パックまでの短い期間の天下だったとしても。
その頂点に挑むのはプレイヤーの権利だ。私もまた、別の道から頂を目指すだけである。
願うならそれがいつか、こういったクソデッキの経験値から叶えばいい。
まるで堤防に置き忘れた釣り竿のように、いつかは大物が掛かると信じて。
私は今日もカードリストに針を投げ入れるのだ。
それではまた次回。いいACGライフを!