モンスター娘のいる本屋   作:口十

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大変お待たせして申し訳ありません……リアルがちょいと多忙でして。
どうぞごゆっくり見ていってください。


水族館

 事件から二日が経過した水曜日。客足は相変わらず鈍足だが、先日は二人客が来てくれた。フローズの接客はその二人にも好評だったようで、すっかりフローズは元気さを取り戻していた。取り戻していた……のだが、一つ気がかりがある。

「フローズ?」

 朝目が覚めるとぎゅっと体が拘束されていた。犯人はフローズだ。私を抱き枕にすぅすぅと寝息を立てていた。肩を掴んで力強く引き離そうとしたが、背中に回っている爪がぐいぐいと食い込んでくる。

 そう。やけに距離が近いのだ。家族、というより恋人としての好意を寄せられている気がしてならないのだ。そして、今のお腹丸出しの寝間着もそうだが恋人のあまりいなかった人生を送った私にとって刺激が強い。

 しかし待て。食い込んでくる?寝ているなら力入れることもないのではないか?

「起きてるな、フローズ」

 私の声に反応して寝息が一瞬止まる。そして再び規則的な寝息が流れた。

「離さないと本棚整理させるぞ」

「分かったぜ……しかたねーな」

 余程嫌なのかすぐに手足の拘束を解いてくれた。

 やれやれ、と起き上がり、やってやったぞと尻尾を振って待っているフローズの頭を撫でてやってから部屋を出る。

「なーなー、ちゃんと離してやったぞ」

「そうだね」

「おいおい、それだけか?」

「それだけ」

「うー……」

 リビングに入ったところで、フローズががぶっと私の左腕を噛んだ。先日の本気噛みではなく甘噛みだ。つまり構え、ということだ。

「……ブラッシングしようか」

「しゃーねーなぁ♪」

 何が仕方ないな、だ。それを待っていたくせに。

 私たちは朝食もそこそこに棚からブラッシング用具を一通り出してソファで忠犬のように待つフローズの後ろに座る。

 まずは櫛でフローズの髪を梳く。先週は嫌がっていたのに虫の居所がいいのか、鼻歌まで歌ってる始末だ。

「オマエやっぱうめーな」

「ありがと。こんなのやったの初めてだよ」

「やっぱオマエ見込みあるぜ」

「はいはい。にしても先週はあんな嫌がってたのにね。あ、尻尾触るよ」

「ひぅっ……あ、あぁ。まぁ、アタシも成長するってことだ」

 可愛い声が聞こえたのは気のせいだろうか。

 談笑しているとあっという間にブラッシングが終わってしまった。

「はいおしまい」

「あんがとよ。にしても意外だぜ。一週間でこんなに上手くなってるとはな」

 どうも、と適当に返してブラッシング用具を片す。

 それから暫くフローズとテレビを見て談笑しているとインターホンが鳴る。

「はいはーい」

 私が面倒にソファから腰を上げ玄関へと降りる。

「なんすか墨須さん」

 私が尋ねると墨須さんはふふふと笑ってサングラスをくいと上げた。

「随分と丸くなったわね。やっぱ貴方にフローズちゃんをお願いしたのは正解だったかしら」

「私は別に。元からこんなもんですよ」

 そう言いながら墨須さんを家に上げる。フローズをホストファミリーとして招き入れてから抜け毛だったり爪痕だったりで多少汚くなった。これでも三日に一回は掃除しているのだが……

「あら?」

 二階のリビングに入るや否や、墨須さんが素っ頓狂な声を上げた。サングラスの隙間から目が見開いているのが見える。

「グレイプニルつけてないじゃない。それに何だか……棘がないというか」

「グレイプニルは不便そうなんで外しましたよ。別に義務じゃないし。棘がないのは接客の影響じゃないですか? ほら、小石も川で流れると角が取れるって言うでしょう」

 うーん、と納得いかないように唸る墨須さんだったが、即座にまいっか、と顔を上げ骨の玩具を噛んでいるフローズの下へと寄っていった。その間に私はキッチンで珈琲を挽く。

「フローズちゃん、ここの生活には慣れた?」

「生活か?楽しいぜ。読める日本語もどんどん増えるしな。昨日は絵本読めるようになったんだぜ!」

「あら凄いじゃない。本当にこの家にして正解だったわ」

 墨須さんが感傷に浸っている様をフローズが怪訝に眺める。

 それから暫く珈琲を片手間に墨須さんを交えて談笑しているとそうだ、と思い出したように墨須さんがポケットから二枚の紙を取り出す。

「貴方たちに渡そうと思ってね」

「何ですかこれ」

「水族館のチケットよ。せめてものお礼よ」

「とか言ってペアチケットだったから使い道無かったんでしょう」

 びくっと墨須の肩が上下した。図星か。

 しかしいい機会だ。せっかくの休みだから何処か行こうと思っていたし、家でじっとしているよりかは外で羽休めした方がフローズの性格を鑑みてもいいだろう。

「フローズ、せっかくだし行こうか」

「お、おう。仕方ないからな。行ってやるよ」

 なんて口では言っているが尻尾がぶんぶんと左右に揺れている。嘘がすぐに露顕する辺り、不便な種族だ。

 

 

 

 

 三十分ほど車を運転しているとその水族館が見えてきた。夏休みということもありなかなかの賑わいを見せている。

「他種族も意外といるもんだね……」

 車を駐車場に留め入口まで歩いている最中も他種族の姿が散見された。とはいえ、ラミアやケンタウロスといった大型の種族は矢張り少なく、獣人みたいな人間に近い種族が殆どだ。

「なんだ目移りか?」

「流石に二人目はいいかな。そんな稼ぎもないしね」

 やけに不機嫌なフローズが話しかけてくる。さっきまでどの魚が美味いか語っていたのにどうしたというのか。

 しかし、タンクトップにホットパンツとなると、どうも目のやり場に困る。本人が涼しいからこれがいいって言うから仕方なくオーケーを出したが、すれ違う男どもを睨み付けるのも疲れた。

 入場口でチケットを見せ中へと入る。中は空調も効いており、酷暑の外と比べてより一層楽園に思えた。

「初めて見るようなやつばっかだな……」

 先ほどまでの不機嫌さもどこへやら。フローズは展示されている魚一匹一匹に食いついていた。

「あ、こいつ図鑑で見たことあるぞ」

「タツノオトシゴだね。オスが出産するらしいよ……食えないよ?」

「さ、流石のアタシもこいつを食おうとは思わねぇよ」

「目が泳いでるけどなぁ?」

 そんな私の提言など気にせずフローズはすぐに次の魚に食いついた。

 私にとっては幼少の頃によく来た思い出の場所なのだが、フローズにとっては魚自体珍しいことのようだ。特に淡水魚のエリアは食いつきが段違いだった。逆に深海魚のエリアは無関心というか奇妙さに戦々恐々としていた。観賞用だと言っているのに美味そうか否かでしか見ていないのは笑えた。

 水族館も終わりが近づきグッズ売り場が見えてきた頃、フローズの耳がぴくと動く。

「おいオマエ。誰か泣いてるぞ」

 話を聞いてみると、どうやら私には微塵も聴こえないのだが誰かがか細い声ですすり泣いているらしい。だが周りを見渡してもそのような子供はいない。

 何か薄ら寒いものを感じたその時、不意に答えは目の前に現れた。

「ちっちゃい」

 グッズ売り場のぬいぐるみの棚の一段下、丁度立っていると死角になってしまうところに手のひらに収まってしまうほど小さな他種族がしくしくと泣いていた。背中に幻想的な羽があることから、昔本で見た妖精を想起させるが、現実にいるピクシーという種族だろう。

「おい。どうしたんだ?」

 フローズが屈んでピクシーへと声をかける。

「ピース、ピースね。人間さんとはぐれちゃって……」

 フローズの手のひらの上に誘導されるように乗ったピクシーはそう言いながら押し殺すように泣いている。人間さん、というのは恐らくは世帯主のことだろう。

「落ち着けって。アタシたちが探してやるから。な、いいだろ?」

「私は別にいいよ。困ってるのを見過ごす方が寝覚めが悪い」

「ほら。アタシたちがついてるから泣き止もうぜ。な?」

 ピクシーの少女はそれを聞いて頷き、それから暫くして泣き止んだ。

 ピースと名乗った少女は世帯主について話し始めた。若い男で中肉中背。とても優しいとのことだが、それでは探す材料にならない。

「人間さんはとってもかっこいいんだよ!」

「コイツよりもか?」

 何を言っているんだフローズ。とりあえず対抗心を抱くのを止め給え。

 背格好こそ全く違うものの、同じ日本にやってきた他種族ということで二人はすぐ意気投合した。とはいえ、その話の大半がのろけ話なので聞いてるこちらとしては早く終わってくれと願うばかりだ。それでもピースの世帯主についての情報は会話の端々から結構取れた。

 アメリカ人とのハーフなので彫りが深いこと。髪を茶髪に染めていて、背丈は私よりも頭一つ高いらしい。私が百七十程度なので群衆に入っていてもすぐ見つかりそうなものだが……

 と話をしていると、ピースの名前を呼ぶ館内放送が耳に入った。迷子センターは一階の入り口付近のハズだからすぐさまそちらへと向かう。

「ピース!!!」

「人間さ~~~ん!!!」

 その世帯主が視界に入るや否やピースはその羽でフローズの肩から飛び立ち世帯主の腕へと抱き着く。世帯主もピースの頭を指で撫でる。

「すんなり見つかったな」

 そうだね、と返してフローズの顔を見ると安堵の裏にうっすらと淋しさが見える。

「友達が離れて寂しいかい?」

「う~ん……わかんねぇよ。友達とかできたことねぇし」

 どうやら本人にも分かっていないようだ。であれば詮索は無粋だろう。

 一頻り感動の再会を眺めていると、こちらの存在に気付いた世帯主の男がこちらに近づいてきた。確かに彫りが深く、日本人とは違う血筋のようだ。

「ピースを連れてきてくれてありがとうございます。オレはレオンって言います。よかったらこの後イルカショーあるみたいだから、一緒にどうですか?」

「イルカショー!? 魚がショーするのか!?」

「魚じゃぁないんだけど……いいですよ。フローズも見たいみたいだし」

 その日は夜までイルカショーの話で持ち切りになるのだった。




 改めまして、大変お待たせしました。書いてはいたんですが、オリジナル小説を書くのに夢中になってしまい、こっちを疎かにしていました。申し訳ありません。
 皆さん、あけましておめでとうございます。今年もハーメルンの更新はゆっくりではありますが、たま~に見に来てくれると嬉しいです。地震やら事故やらで落ち着いた正月ではありませんでしたが、まぁ何とかやっています。

 次回もいつになるかは分かりませんが、見て頂けると幸いです。あと、今月中にカクヨムという投稿サイトにてモンスター娘をヒロインに据えたオリジナルの小説を投稿する予定なので、よろしければそちらの動向も追って頂けるとありがたいです。これからはそっちメインになりそうなんでね。

 では、今年もよろしくお願いいたします。

 
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