フローズと水族館へ行った日の翌日、今年一番の酷暑を堂々と自慢するように陽炎が店先にも出来ていた。
「あぢ~~」
古臭いこの本屋に冷房などあるはずもなく、卓上に置かれている扇風機しか涼める空間はない。昔はまだ比較的涼しかったのだろうけれど、40度近い現代では死活問題だ。
「フローズ、冷蔵庫にアイスがあったはずだから取っておいで」
「マジか!行ってくるぜ!」
疾風迅雷の速さで扇風機から離れ二階へ階段を駆け上がる。よし、やっと自分の方へ扇風機を向けられる。
しかし、読書用に買った眼鏡も夏場ばかりは付けるのを躊躇う。汗で堕ちてしまいかねないが、それでも眼鏡なしの視界では活字を読むのに少々目を凝らさねばならない。ハリネズミのジレンマではないが、どちらかを取ればどちらかを失う。本当に困ったものだ夏というのは。
「おいオマエ、アイス取ってきて―――あっ、取ったな!」
やっと本に集中できると思ったのもつかの間、元気な看板娘が帰って来た。
「ちゃんと名前書かないのが悪い……おや?」
今日は誰も来ないだろうなとたかを括っていたが、どうやらこんな馬鹿暑い日に外に出るやんちゃ者がいたようだ。
「昨日ぶりですね。シュウさん」
ドアベルを鳴らしたのは昨日共にイルカショーを見たレオンだった。半袖短パンと自分が西洋風の顔と身体であることを理解しているような服装が余計こちらの熱さを掻き立たせる。レオンの肩に乗っているピースも白のワンピースと夏を心底楽しんでいるようだ。
「ピース!!来てくれたんだな!」
「レオンさんにピースちゃん。本当に来るとは思いませんでしたよ。しかもこんなクッソ暑い日に」
「いやぁ、ピースが行きたいって言う事聞かなくって。日本文化に興味津々なんすよ。それに家が近かったのもあって」
「ん?家が近いってどのくらい?」
「歩いて五分くらいっすかね。コンビニよりも近くて良かったっす」
「マジか。言ってくださいよぉ、配送とかしますよ」
なんてやり取りをしている間にもピースとフローズの仲は深まっている。あれは完全に従妹を見る目だ。私には分かる。
「なぁ、ピースがアタシの部屋見たいって!連れていっていいよな?」
「どうぞお好きに」
なんか悪いね、とレオンが軽く頭を下げる。ピースにとっても他種族というのは貴重なんだろう。
「しかし暑いっすね~」
「すいませんね。うちにゃ冷房なんて高次元なもの置いてありませんよ」
軽く談笑しながらレオンは雑然と並ぶ本に目を光らせる。
「おい、オマエも来いよ!」
暫くレオンと本について語り合っているとフローズからご指名がかかった。どうやら私には余暇などないようだ。
店前の看板をクローズにしてレオンを連れ二階へ上がる。無論リビングは冷房完備なので本屋よりも何倍と涼しい。
珈琲を淹れながらレオンとホストファミリーあるあるで盛り上がっていると部屋を紹介し終えたフローズがピースと共にリビングへやってきて先ほどの残りのアイスに手を付けた。
「元気だなぁ」
「そっちのなかなか負けないですよ。うちのフローズがこんなにはしゃいでるのそうそう見ないですから」
「人間さん、ピースもアイス食べたいな~」
「だそうで。一つ貰っていいっすか?」
どうぞ、と冷蔵庫から二つに分けられるアイスを取り出す。この時期アイスが切れることは死を意味するから余分に買ってあるのだ。
「シュウさんの家ってフローズ一人っすか?」
「そうですよ。自慢の看板娘です。そういうレオンさんは?」
「うちは二人っす。ピースともう一人、モスマンのアクティアって子が」
「その子はうちには来ないんですね」
「いやぁ、誘ったんだけど出不精で……」
アクティアという子はどうやらなかなかクセの強い子のようで、昼夜逆転の瀬戸際にいるそうだ。
しかし、ホストファミリーというだけでも珍しいのにその内二人以上の他種族と一緒に暮らしているとなるとほんの数パーセントもないのではないだろうか。
「うちももう一人ぐらい雇おうかな……」
珈琲片手になんてことを呟くと、さっきまでピースと盛り上がていたフローズの笑い声がぴたと止まる。
「アタシがいるからいいだろ……」
「何か言った?フローズ」
「何でもねぇよ!ピース、アタシの部屋におもちゃあるからそれで遊ぼうぜ」
「え?う、うん!人間さん、ピース行ってくるね!」
「いってらっしゃーい……いやぁ、今のはシュウさんが悪い」
「何のこと?」
その真意を尋ねてもレオンはニヤニヤ笑うのみだった。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。最近の悩みは専らこの二次創作をハーレムものにしようかフローズとの二人だけにしようかですね。今ならどちらにも舵を切れるのでどうしようか悩み中です。モンスター娘のいる日常の二次創作である以上ハーレムの方が需要高そうだけど本屋っていうのには似合わないんじゃないかなぁ……と悶々としています。よければご意見お聞かせください。もしかしたら貴方の妄想が私の小説となって現実となるやもしれません。
では、またの機会に。次回はもっと早く更新できるよう精進致します……