デート・ア・リベリオン 副題『男なのに精霊に転生しました』 作:岸温
ホントにチートなんですよ! 今時のオタクならそれが分かりますよね!?
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!
周囲を数十人の人間が囲い、中心にいる俺ともう一人に向かって歓声を浴びせている。
現在、精霊となった俺こと園枝那由他はアメリカに現界している。
本当は通常現界なのだが、<
自分の天使をどう使おうが勝手だしな。別に天使を有効に使ってない精霊を馬鹿にしているわけではない。
俺はただ八舞姉妹が天使を使って空を飛んでいるように、自分のできることの範囲を広げただけなのだ。誘宵美九のように他人の尊厳にまで踏み込んでいない。むしろ起きていたはずの災害を防いだのだから褒められてもいいんじゃないか。
……まあ、誰にも知られることのない徒労だけど。
――で。どうして俺はアメリカなんかにいるのか、アメリカで何をしているのか、と言うと。
「この俺が! ストリートチャンピオンだああああああああああああああああああ!!」
喧嘩のやり方を勉強してました。そんでいつの間にかチャンピオンになってました。
あの山で<
まず山の中という閉鎖環境を抜けたので、改めて状況を再確認することにした。
とりあえず今は原作で言うところの何時なのかを調べた。原作で特に年数が決まっていないから困りかけたが、時系列は意外と簡単に判明した。
原作で起きたイベント――精霊による被害を調べれば凡その予測ができたからだ。
どうやら――今は天宮市の大火災から『4年半後』らしい。つまり原作が始まるまであと半年、早ければ数ヶ月後といったところか。随分と準備のしやすい時期に転生したものである。
次に調べたのは、自分が起こした空間震の被害だ。調べようとすると心が悲鳴を上げるように体の動きが鈍ったが、受け入れなければならない罪として逃げずに受け止める。
空間震が起きたのはヨーロッパのヴァイスホルンという山で、空間震の影響で天頂が削れヨーロッパの標高ランク5位から転落したらしい。
そして………………俺が殲滅したのは
この出来事は『ヴァイスホルン大空災』と呼ばれ、調べていた時もテレビのニュースを賑わせていた。
「……しょうがないよな。これは」
現界してしばらくは食事が喉を通らなかった。精霊じゃなかったら衰弱死してたと思う。……衰弱死してたらよかったのかなあ?
俺だってやりたくてやったわけじゃない。この三十人の被害は――事故みたいなものなんだ。
転生したてで
――――もう二度と、こんな被害は出したくない。
だから俺はアメリカに来てからずっと、手加減をできるようになる練習をしていたのだ。
具体的には、アメリカ一治安が悪いというデトロイトを目指しながら、目に入った不良たちに喧嘩を売りまくっていた。
当然最初は負け続きで、レイプされそうになったら精霊パワーを使って逃げるのを繰り返していた。しかも挑む相手が大抵集団だったので(今後の<魔導師>対策に、一対多戦の訓練のつもりだ)、ボコボコにリンチされるのが常だった。
しかしそこは曲がりなりにも精霊。力を抑えていようと人間に殴られたくらいのケガなら数十分もあれば治っていたので、日に5~10回は喧嘩を繰り返していた。
――もしかしたら、無実の人たちを殺した罪悪感から逃れるための自傷行為だったのかもしれない。
ただ10日も過ぎれば経験した戦歴は百にも届くので、喧嘩のやり方も霊力の引き出し方も自然と身に付く。
そしてさらに5日後――時間は今に戻り、俺はデトロイトのギャングを纏めるリーダーと戦い、見事勝利を収めたというわけだ。
「文句あるやつは前に出ろ! 全員まとめて相手してやるよ!」
戦っていた時の興奮状態そのままに、私は観客どもに向かって鼓舞する。いくら体が女だろうと心はまだ男。勝利の悦には逆らえず気が大きくなっている。
しかしそこは自由の国アメリカでも一番
「俺の名は、園枝那由他!! 名前を言い間違えた奴はぶっ殺すぞ!! ほら言ってみろ!!」
「「「「「「NAYUTA! NAYUTA! NAYUTA!」」」」」」
拍手や口笛が鳴り響く。何十人もの歓声が大合唱となって空気を揺らしている。そう、まるで空間震のように。
ふと横を見ると、先ほど倒した相手が起き上がろうとしていた。俺はそいつに手を差し伸べて起き上がらせる。
「さすがだな、ビーストガール。強かったぜ」
「お前も強かったぞケルベロス。戦った最初は絶対負けると思ったよ」
「だが戦っている間にお前は俺より強くなった。だからお前がチャンピオンだ」
ビーストガールというのは俺の異名である。そりゃあ日に何度も獣のように喧嘩を挑んでいたら有名にもなる。
ケルベロスと呼ばれるこいつは、私の胴ほどに太い両腕に狗の入れ墨を入れた巨漢の男だ。そのくせ戦闘スタイルはヒットアンドアウェイで距離感を取るのが上手かったり、必殺技にジャガーノートばりのヘッドクラッシュを持ってたりと、とにかく強い奴だった。
俺も精霊パワーによる底上げと殴られ蹴られながら覚えた人体の急所を狙う戦法を取ったが、それでも互角以上の戦いを強いられた。まず狙おうにもかわされるんだよコイツ。その上精霊パワーで殴っても倒れないとかバケモンだな。
「新しいリーダーの誕生を祝って、パーティーとしゃれこもぜー! ヤロウドモ!!」
誰かが上げた言葉にまたも歓声が上がる。シャンパンとチキン買ってこいとか騒いでいる。
言うまでもなく、新しいリーダーとは俺のことだ。タイマンの条件が「勝った方が新しいリーダーになる」だったからだ。
――――その条件を聞いた時、俺はここで新しい人生を始めようと決めた。
空間震を起こさず現界する術も、天使を十全に操作する技術も身に着いた。
原作など無視してしまえばいい。どうせ俺がいなくとも上手く回るはずだ。
――そう、このまま他の精霊と会うことがなければ。とフラグ的なことを考えて。
突然、雨など降りそうもない晴れ空から雨が降り出した。周りがなんだよー、と愚痴を漏らし、場所を移動するか止むのを待つか議論している。
……頭に嫌な予感がよぎる。数々の戦いによって鍛えられた直感は、自分の身に降りかかる悪運を正確に嗅ぎ取った。
――ウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――
鳴ったのは、
識別名<ハーミット>。内包する天使は<
――俺は
確かめよう。園枝那由他という精霊が生まれることで起きたイレギュラーはないのか。もしくは園枝那由他という精霊が生まれるほどのイレギュラーが起きていないか。
幸い四糸乃ちゃんなら、相対することになっても苦労せずに対話に持ち込めそうだ。――対話に苦労しそうなのは置いておく。よしのんがいるだろうし。
「……ケルベロス。皆をシェルターに連れて行ってやってくれ」
「おい……、お前まさか」
「ちょっと行くとこできた! 悪いけど俺パーティに参加できない!」
周りにいる奴らが戸惑いだす。まさかまた戦いに行くのかと。
せっかくリーダーになったのに、周りの奴らを放ってどこかに行こうとしている。でも俺を止めようという声は少ない。
ここにいる人間は皆、精霊のことを知らない。ギャングのリーダーであるケルベロスなら知っているかもしれないが、知っていようがいまいが俺を止めようとはしなかっただろう。
なぜならこの十日そこらの喧嘩生活で、俺がバトルジャンキーだという認識が伝わっていたおかげだから。喧嘩に勝っても負けてもすぐに別の相手を探していたので、ここから立ち去ろうとする俺を誰もおかしいとは思わなかった。
ケルベロスがため息を吐く。周りの奴らもやれやれといった表情を浮かべている。納得してくれてとても嬉しいよ。
「行けよ。ただし絶対に戻ってくるんだぞ。負けっぱなしは性に合わない。次は俺が勝つから死んでくれるな」
「ああ。なったばかりとは言え俺はお前らのリーダーだからな。手下を不安にさせる奴なんてリーダー失格さ」
――もし戻ってこなかったら、俺のことは忘れてくれ。
言外にそんなことをケルベロスに告げる。
「なんだなんだ。お前らしくもない。一体何と戦ってくるっていうんだ」
「ちょっと人類の敵を相手にな」
冗談を返したら、ケルベロスに思いっきり笑われた。お前らしいな、と。
やはりコイツは精霊のことを知っているのかもしれない。……でもそれは今気にしなくていい。
まあこのまま話しているとどんどんこいつらと離れるのが辛くなりそうだ。さっさと行ってしまうことにしよう。
「じゃあ行ってくる! 俺のことは忘れないでくれ! 名前忘れて言い間違った奴は死んでも殺すから!!」
ケルベロスや皆の声援を受け、軽やかな走りで町を駆け出す。
心は不安で一杯だが、それでも足は前に向いている。
――四糸乃ちゃんと会って何がしたいのか決めないまま。
――そして、四糸乃ちゃんと会って俺は自分の行く末を決める。
――――――――――――――――――――――――――――――
四糸乃ちゃんは比較的楽に見つかった。戦闘音を聞き逃さず、<魔導士>たちを追いかける程の運動能力を持っているから原作の士道くんより簡単に追いつけた。
しかし俺は――四糸乃ちゃんを見るまで自分が何をしたいのか何も決めていなかった。原作通りか確かめるにしても、具体的にどうすればいいのか考えていなかった。
とりあえず四糸乃ちゃんを発見し、容姿が原作と大差ないこと、左手にちゃんとよしのんを着けていることを確認して、あとは手をこまねくつもりだった。
――――でも俺は四糸乃ちゃんを見ていて、10分もしないうちに考えが変わった。
<魔導士>たちに一方的に襲われ、恐怖している女の子を見捨てられるほど俺は人間やめてないんだ!
四糸乃ちゃんがどっかの建物に隠れるのを確認し、俺は自分の天使を顕現させた。
「さあ出番だ――――<
そう言って現れたのは、まさかまさかの茶色のダッフルコート。ファンタジー要素が微塵もないぜ! つくづくイレギュラーな存在だよ俺は。
そして<
――――霊力減退!
<
相手の
もちろん相手の力を半分から数分の一に抑えることもできる。まあ迂闊に周囲すべての電気エネルギーをゼロにしたら分子結合がなくなりそうだし、エネルギーをゼロにすることでどんな物理現象が起きるか分かったものじゃないから、基本霊力と魔力にしか能力を使っていない。
――『ヴァイスホルン大空災』で30人もの<魔導師>を凍死させたのは、魔力をゼロにしたまま熱エネルギーを減退させたからだ。抵抗力のない人間は直ぐに死んでしまった。
――四糸乃ちゃんの<
<
「<ハーミット>の霊力反応消失!
今俺がやったのは、四糸乃ちゃんの霊力を
おそらく自分の霊力が突然消えて、四糸乃ちゃんは目を白黒させているはず。早く迎えに行かないといけない。
空を浮かんでいる<魔導師>たちの目を盗んで建物に入るのは無理臭いので、ここは臨界を経由して疑似
人間とつるんでいるから忘れていると思うが、今の俺は通常現界状態なのである。通常現界から
ほんと<
ではさっさと四糸乃を迎えに行こう。
……………………………………………………。
「やっべえ!! 静粛現界したら<
現界してダッフルコートがなくなっていることに気付き、すぐさま再び
うわぁ……。絶対今の一瞬<魔導師>に四糸乃ちゃんの復活した霊力検知されたし、四糸乃ちゃんも不安になってるだろうな…………。<魔導師>たちが建物に突入してこないことを祈るしかない。
まあいい!! いざとなったら俺が<魔導師>と戦えばいい話だ! 手加減を覚えた今の俺には、<魔導師>など烏合の衆でしかない!
「もう誰も殺したり、むやみに傷つけることなんてない。何が起きても大丈夫だ!」
……でも不安になった四糸乃ちゃんを落ち着かせるのに苦労するよな絶対。
ああもう、まだ原作と過干渉するか決めてないのに、前途多難だなオイ!!
実を言うと、話を短くするために当初は四糸乃と関わらなかったんですが、
どうしても四糸乃を登場させたかったのと、主人公の内面の変化をしっかり書くために登場させました。
やっぱりロリは偉大だぜ!!!!!!!!
オリジナル天使についてですが、効果範囲や威力の制限を(わざと)定めていないので、原作の誰を相手にしても負けることがありません。エレンさんも反転十香も無力化してボコれます。
その上現界も消失も自在な上、自力で封印状態になれますからね……。
…………これって士道とキスしなくてもよくなってるんじゃ、とか言った奴屋上。
物語はまだまだ続きますので、感想や応援お願いします!