頭の悪い作品が出来てしまった。
かなりぶっ飛んだ内容なので覚悟して見てください。
地下闘技場
そこに集う観客達は、これから始まる戦いへの期待で興奮し、目を輝かせている。
会場のボルテージは、戦いの時が近づくにつれて高まり続けていた。
そして、ついにその時が来た。
ドォン!
「この闘技場で行われた史上最大トーナメント。
その決勝での最強の兄弟喧嘩はあまりに有名!
もはや説明無用!
今日、強くなるために明日を捨てた男!
範馬の血を引く噛みつきファイター!
西、ジャック・ハンマーだぁぁぁああ!!」
西の門から現れたジャックへの期待で観客が歓声を上げる。
このジャックの前に今日の対戦者も噛みちぎられる犠牲者に過ぎないのか?
それとも返り討ちにあうのか?
東の対戦相手の入場を待つ。
ドォン!
「ついにこいつが地下闘技場にやって来た!
俺を噛みちぎるだぁ?
面白い、やってみろよ!
多くの挑戦者をへし折ってきた鋼の如きボディー!
日本人の歯が折れる原因、堂々第一位!!!
東、あずきバーだぁぁぁぁああ!!!」
噂には聞いていた。
それでもこの闘技場で目にする事になるとは思わなかった。
日本人なら誰もが思い描く世界最硬。
誰もが一度は思い立ち、その硬さの前に絶望し、諦めていく。
あいつを噛み砕ける奴がホントに居るのか?!
今日、その挑戦に名乗りを上げた馬鹿野郎がいる。
この異色の対決に会場のテンションは一気に跳ね上がった。
「「「「うおおおぉぉぉぉおお!!!」」」」
闘技場に台に置かれたあずきバーが現れる。
「もちろん、お互いにベストコンディション!
あずきバーもキンキンに冷えております!」
そして、レフリーが試合開始の合図を出す。
「始め!」
「さあ、始まってしまったぞ。
どうなる、この試合!
いったい、神はどんな結末を用意しているのか!」
ジャックは姿勢を低くしてあずきバーに鋭い視線を向けている。
ジリジリとまるで間合いを図るかのように。
「ジャックが様子を伺っている!
タイミングを見計らっているのか?
あずきバーはアイスです!
時間が経てばそれだけジャックが有利になります!」
ニヤリ
実況の声を聞いてジャックの顔に笑みが浮かぶ。
次の瞬間
「おおっと!ジャックが動いた!
全力ダッシュで一気に間合いを詰める!
時間を待ち、溶けたあずきバーを相手に勝利するなどと言う結末をこの男が望むはずがない!」
パシ!
ジャックは、台のあずきバーを取ると目の前に掲げる。
「さぁ、どうする?
どうする?ジャック!
一気に行くのか!」
ジャックは、余裕の表情で大きく開けた口にあずきバーを差し入れる。
「ついにジャックの歯が振り下ろされたぁ!」
がきぃぃぃぃん!!!!!
(なっ、なんだいこれは?)
ジャックの表情が驚愕に歪む。
自身の歯から伝わってくる異常な硬さ。
並の男ならここで諦めていただろう。
だが、ジャックに諦めなどと言う弱い心はない。
明日を捨てたジャックにとっては、いつだって崖っぷちなのだから。
「ジャックの腰が下がる!
顔にもの凄い血管が浮き出ているぅ!!」
ギシギシギシギシ!
「力《りき》が入っている!力《りき》が入っている!
一度離れて、勢いをつけて再チャレンジと言う選択肢もあるでしょう!
ですが、ジャックは引き返すと言う道を選ばない!
明日を捨てた以上、前へと進み続ける。
これがジャックと言う男だ!」
凄まじい軋みを上げるほど力強く噛み締めるジャックを見つめる観客の中にルミナがいた。
(ジャックさん、なんて自分に厳しい人なんだ。
あずきバーはアイスだ!
舌で舐めて、温めて溶かせば簡単に噛み砕ける。
まして、今は口の中にあずきバーを入れている状態だ。
少しくらい舌が触れてしまっても仕方がないじゃないか!
それでもジャックさんは、舌を一切触れさせずに歯と噛む力だけで勝とうとしている)
そんなジャックの愚直とすら言えるストイックさに見守っていた刃牙も困惑している。
「駄目だよ、兄さん。
そんな状態で力を入れ続けたら・・・」
そんな刃牙の心配は的中する事になる。
パキ、パキパキパキパキ!!
ジャックの歯からひび割れていく音がする。
本人が気づかないはずがない。
それでもジャックは怯まない。
むしろ、さらに力を込めていく。
だが、それは蛮勇だった。
そして、その時が訪れた。
バキバキ!バキン!!
大きな音と共にジャックの歯が砕け散り、その欠片がこぼれ落ちていく。
ジャックも膝から崩れ落ちる。
「勝負あり!」
レフリーが勝負の終わりを宣言する。
「決っちゃ〜〜〜〜〜〜く!!
幾多の挑戦者の歯をへし折ってきたあずきバー。
しかし、この男ならもしかしたら。
そんな思いを私も持っていました。
しかし、あずきバーの壁は高く、分厚かった。
あのジャック・ハンマーですら、文字通り歯が立たなかったのです!
勝者、あずきバー!!!」
数ヶ月後
徳川邸で茶を啜る徳川光成の前に座るジャックの姿があった。
「ふむ、どうやら新しい歯の調子は良さそうじゃの」
光成の言葉にジャックが笑みで応える。
その開かれた口からは金属の輝きが放たれていた。
「総チタン性の義歯か。
それに世界を周り、噛みつきの新たな境地を見たと?」
「はい、嚙道と名づけました」
「大層な名前じゃの。
じゃが、お主は一度あずきバーに敗れておる。
その事についてはどう思っとる?」
「決して変えることの出来ない事実であり、身を焦がすほどの屈辱であり・・・そして、過ぎ去った過去に過ぎない!」
穏やかでありながら力強く宣言するジャックの様子に光成は気圧されていた。
(こやつ、精神的にも成長しとる)
「良かろう、雪辱を果たす場を用意してやるわい」
こうして、リベンジマッチの開催が決定した。
地下闘技場
「あの男が帰って来た!
文字通り歯が立たずに敗北した屈辱の日。
あの日、男は自らの歯を失った!
しかし、チタンの義歯と言う更に強力な武器を手に入れて男は復活しました!
そう、ジャック・ハンマーぁぁぁぁ!!!」
会場の声援を受けるジャックの前にあの時と同じ姿であずきバーが鎮座している。
「対戦相手のあずきバー。
もちろん、今日もキンキンに冷えております!」
会場は異様な熱気に包まれていた。
あのジャックがリベンジマッチを挑むのだ。
なんの勝算もないはずがない。
なら見れるかもしれない。
あれが敗北する姿を。
「始め!」
そんな雰囲気の中、開始の合図が出される。
観客は皆、前回と同じく静かな立ち上がりを予想していた。
前回の敗北の記憶が、その痛みが前に出ることを躊躇わせるはずだ。
再び負けるかもしれない。
ジャックがそんな恐怖を克服した時、試合が動く。
観客達の予測は裏切られた。
試合開始と同時にジャックは動いていた。
スタ、スタ、スタ
まるで散歩にでも行くかのように軽やかに歩き、あずきバーの元へ近づく。
その姿には恐怖も不安も欠片もなく、自信、いや確信に満ち溢れていた。
あずきバーを手に取り、目の前に持っていく。
向けられるジャックの視線は穏やかで優しいとすら言えた。
ゴクッ!
会場の観客達が固唾を飲んで見守る。
ここからだ!ここから動けるのか!
ジャックの動きが変わる。
穏やかだったのはここまでだった。
まるで頭突きを叩き込むかのような勢いで噛み付く。
シャクッ!!
そんな音と共にジャックの手元には、歯の形を残し、そこから先が消えているあずきバーの姿があった。
ガキン!ゴキン!バキベキ!
もごもご、ぺっ!
咀嚼していたジャックの口から吐き捨てられた物。
それは、あずきバーの噛みちぎられた棒の部分だった。
ザクッ!サクッ!
2度、3度と噛みついた後には指で摘んだ部分の棒だけが残っていた。
ぺっ!
再び棒だけが吐き捨てられる。
あずきバーが一瞬にして噛み砕かれ、食い尽くされてしまった。
「しょっ!勝負あり!!!」
レフリーが試合終了を宣言する。
「しゅ、瞬殺ぅ!!!
かつて歯が立たなかった相手に見事なリベンジ!
ジャックがやってくれましたぁ!!!」
興奮し、賞賛の声を上げている観客の中にビスケット・オリバの姿があった。
彼の表情はあり得ない物を見たような呆然とした顔だった。
(居たんだな、オーガ以外に。
あのあずきバーを真正面から噛み砕くことが出来る奴が)
ジャックが勝ち鬨を上げる。
「俺は、あずきバーを超えた!」
この夜は伝説になった。
某所
一人掛けのソファにゆったりと座っているオーガこと範馬勇次郎の前にストライダムが座っている。
彼が勇次郎に伝えに来たのだ。
ジャックがあずきバーを噛み砕いたと。
「とんだダークホースだな。
オーガ、お前の次は刃牙の坊やだと思っていた。
思わぬライバル出現と言ったところか」
ストライダムの言葉に勇次郎は、ソファの肘掛けを引きちぎりながら爆笑していた。
「あずきバーは所詮硬いだけのアイス。
物言わぬ、反撃もせぬ、ただの菓子に過ぎない。
ただ、菓子を喰らった。
それだけじゃねぇか。
それに何の意味がある?」
「そうは言うがな、勇次郎。
あずきバーの硬さはお前も知っていよう。
常人にとっては絶望的な硬さ、それを普通のアイスのように事もなげに齧ってしまったのだ。
私には、刃牙の想像上の巨大カマキリに並ぶ見事な挑戦状に思える」
ストライダムの返しに勇次郎の顔に先程までとは違う笑みが浮かぶ。
「ストライダムよ。
お前の言うことが本当なら、俺は親孝行な息子達に恵まれたなぁ」
望み続けた自分を満足させる事が出来る存在が生まれたのかもしれない。
そんな期待に満ちた顔だった。
某製菓会社
「なっ、なん・・・だと・・・
本当なのか?
勇次郎氏に続いて二人目が現れたと?」
「は、はい!
間違いありません。
まるで普通のアイスのように齧られてしまいました」
ざわざわ・・・ざわざわ・・・
その凶報に周りのあずきバー担当のスタッフ達にどよめきが起きる。
「落ち着け、事実は認めなければならない」
「しかし、主任。
我々のあずきバーがまさか、そんな!」
「逃げるな!
勇次郎氏は例外。
地上最強の生物だから仕方ない。
そんな風に言い訳して、直視する事を避けていた現実を受け止めるんだ。
二人目が現れたんだ。
認めよう、あずきバーは齧れると」
「くっ、それでは我々の誇りはどうなるのです?!」
「ラボに戻るぞ!
あずきバーには、まだ先がある!
その事を一番知っているのは我々じゃないか!」
「主任・・・はい!」
こうして新たなあずきバーの開発が始まるかに思えた。
しかし、現実はそう上手く行く事ばかりではなかった。
某製菓会社・ラボ
「くっ、なぜ認めてくれない!」
「ほっほっ、荒れておるの〜」
物々しい雰囲気のラボに徳川光成が入ってきた。
「これは、徳川様。
こんな所にどう言った御用件で?」
さすがに徳川光成が財界のVIPであると知っている主任は、苛立ちを抑えて丁寧に対応する。
「ふっ、お主こそ、あずきバーを改良すると息巻いておったのに随分と苛立っていたではないか。
何か問題があったのじゃろう?」
「何もかもお見通しですか。
ええ、会社の上層部が改良の許可を出さず、予算を付けてくれませんでした。
アイスが硬いことに何の意味がある?
夢や浪漫ばかり見てないで他の商品の開発に力を入れるべきだと。
我々は夢や浪漫のある商品で愛されて来たんです。
それが、偉い人には分からないんですよ!」
「なるほど。
まあ、そやつらの言っている事も分からんではない。
主任であるお主に聞きたい。
あずきバーの改良、本当に出来るのか?
何の見通しもなく言っているのではあるまいな?」
「みくびらないでください!
あいつのポテンシャルは、こんな物じゃない!
予算さえ付けてくれれば、あずきバーの可能性は無限大です!」
「よお言うた!
その言葉が聞きたかったんじゃ!」
「徳川様、何を?」
「予算はわしが出してやる!
あずきバーの改良。
思う存分やるが良い。
ただし!」
予算が付くと言う言葉に上がりかけた気持ちが条件付けの言葉に抑え込まれる。
どんな条件が付けられるのか?
彼ら技術者は、何時だって上からの要望に応えて来た。
どんな理不尽な要求であっても努力と工夫で少しでも理想に近づけようとして来たのだ。
さあ、どんな条件でも言ってくれ!
必ずそれを乗り越えてあずきバーを更なる高みに押し上げてやる!
そんな技術者達の前で言葉が続けられる。
「妥協は許さん!
予算に糸目は付けん。
その代わり、やるからには最善を尽くせ。
最高の結果を期待しておるぞ」
徳川光成の言葉を理解するのにしばらく時間が掛かった。
それは技術者が最も欲する言葉だった。
それを理解した時、技術者達の意欲は最高潮にまで高まっていた。
「お任せください。
必ず、最硬のあずきバーを完成させて見せます!」
こうして開発は始まった。
当然のように全てが順調になどいかない。
様々な問題が見つかっては、それを解決していく。
プロジェ◯トXの主題歌が流れるような悪戦苦闘の毎日が続く。
それでも技術者達は、挑戦し続けて行った。
そして、ついにあずきバーの改良型が完成の時を迎える。
「ほう、これが新しいあずきバーか。
これとジャックが戦えばどうなるか。
楽しみじゃのう!」
「徳川様のご期待には応えられないかと」
「うん?なんじゃ自信がないのか?」
「いいえ、その逆です。
今のあずきバーは、ジャック氏はおろか、あの勇次郎氏すら歯が立たないでしょう。
それ程に硬いのです!
もはや生物に齧れる硬さではありません!」
「ほっ♪それ程か!」
その日、一定レベル以上の闘技者達に衝撃が走った。
彼らの本能が感じ取ったのだ。
何かとんでもない物が世界に生まれたと。
それは表の世界だけではなく、裏の世界にまで影響を及ぼしていた。
世界各地から5人の死刑囚が東京に向かった。
彼らは一様に同じ言葉を残していた。
『敗北の味を知りたい』
最強死刑囚達が東京に集う。
彼らだけではない。
あの男も動き出そうとしていた。
最強であるが故に飽きていた。
そんな男にとって、その存在は放置など出来ない物だった。
自分ですら歯が立たない。
それこそ自分が求めていた物なのだから。
「くっくっくっ!
少しは歯応えがありそうじゃねぇか。
期待してるぜぇ〜」
地上最強の生物もまた東京へ向かった。
久しぶりにあずきバーを食べました。
その時、感じた硬さからこの作品が生まれました。
その場のノリって恐ろしいですねw