世界最硬のアイツ   作:ソロモンは燃えている

2 / 5



Fate/Azuki Barです。
日本人、一億三千万人の信仰の後押しが有ればきっと宝具にだってなれる。
これはそんなお話です。


Fate編

 

 

 

 聖杯戦争、それは日本の冬木市で行われる魔術儀式である。

 60年に一度、7人の魔術師と彼らに召喚された7人のサーバントの7組が殺し合い。

 最後まで生き残った勝者が願望機たる聖杯を手にする事が出来る。

 5度目を数える今回の聖杯戦争において、様々なイレギュラーが発生していた。

 その最たるものが8人目のサーバントの存在だった。

 聖杯戦争も終盤に差し掛かろうとしていた時に彼は姿を現した。

 黄金の鎧を身に纏う英雄王。

 セイバー曰く、第4次聖杯戦争においてアーチャーとして召喚されていたサーバント。

 無数の宝具をまるで使い捨てのように撃ち出し、まるで正体が推測できない。

 ただ、その宝具は全てが一級品の神秘が込められており、脅威以外のなにものでもないことは確かであった。

 

 

 聖杯戦争参加者の一人、衛宮シロウはパートナーであるセイバーとサーバントを失った同盟者である遠坂凛と共に聖杯にされたイリヤスフィールを救うために柳洞寺へと向かったが、泉の上で聖杯となり、空に孔を開けているイリヤスフィールの前で英雄王たるアーチャーに屈しようとしていた。

 孔からは今も悍ましい呪いの泥が溢れ出ている。

 一刻も早く止めなければと思うがアーチャーが立ち塞がり、近付く事も出来ない。

 いや、それどころかシロウ達の命も風前の灯だった。

 アーチャーは、今まで使っていた使い捨てではない、自身の切り札と言うべき宝具を構えていた。

 それは剣と言うには異形であった。

 3つの円筒からなり、魔力を込める事でそれぞれが回転し始めている。

 それに込められた魔力、神秘は正に圧倒的で生半可な物では対抗できないのは明らかだった。

 セイバーの切り札、約束された勝利の剣《エクスカリバー》ですら正面からぶつかれば押し負けるだろう。

 

 そんな絶望的状況下の中、シロウは思考を止めずに打開策を考え続けていた。

 正義の味方ってのは最後まで諦めないものだ。

 考えろ!考えるんだ!

 極限まで集中し、脳を回転させているシロウの脳裏に何故か日常のワンシーンが浮かぶ。

 それは友人の一成との何気ない会話だった。

 

 

「喝、やはりあずきバーは硬いな」

 

「どうしたんだ?一成」

 

「いやなに、あずきバーで前歯が折れそうになっただけだ。大した事ではない」

 

「いや、それは大した事だろう。

 大丈夫か?」

 

「本当に大したことはない。

 すぐに負けを認めて引いたからな。

 いかに俺でもあずきバーに無謀な挑戦はせんよ」

 

「そうか、まあ、あずきバー硬いもんな」

 

「うむ、何でも昔、二丁拳銃を使う暗殺者がいたそうなのだが、彼に殺された者達も懐にあずきバーを忍ばせていれば死ななかったかもしれんな」

 

「いや、懐中時計じゃないんだから、いくら何でもアイスでそれは無理だろ」

 

「いやいや、あずきバーはダイヤモンドの次に硬いサファイアすら凌ぐほどの硬度があると実証されているのだぞ。銃弾を止めるくらい余裕なはずだ」

 

「へぇ、あずきバーって凄いんだな」

 

「あずきバーは世界最硬、日本人の常識だな!

 その上、うまい!」

 

 聖杯戦争ではその地の信仰による後押しを受ける事が出来る、日本人の常識、ここは日本・・・閃いた!

 

 同調《トレース》、開始《オン》

 

 創造の理念を鑑定し、

 

 基本となる骨子を想定し、

 

 構成された材質を複製し、

 

 制作に及ぶ技術を模倣し、

 

 成長に至る経験に共感し、

 

 蓄積された年月を再現し、

 

 あらゆる工程を凌駕し尽くしーーー

 

 ここに、幻想を結び剣と成すーーー!

 

 全工程《トレース》、完了《オフ》

 

 

 シロウが突然投影を始めた姿に遠坂凛は希望を抱いた。

 衛宮シロウの投影魔術は普通じゃない。

 なにせ、刀剣類限定とは言え宝具すら投影できるのだ。

 それも中身がスカスカのガラクタではない。

 その内包する神秘すら再現している。

 

 そんなシロウがこの絶望的状況下で投影しようとしている物は何なのだろう?

 何にせよ、シロウの目には諦めは見えない。

 この危機をどうにか出来ると信じているようだ。

 なら、私も信じてみよう。

 そう思って見守っていた。

 

 そして投影が完了する。

 

 それは巨大な・・・あずきバーだった。

 

「はっ?」

 

 あまりに予想外の物が投影された事で呆然とする凛。

 それでも事態は進んでいく。

 

「セイバー、これを使ってくれ!」

 

「これは・・・分かりました。

 シロウは、凛と私の後ろに」

 

 シロウから巨大あずきバーを受け取り、木の棒の部分を両手で掴み、まるで大剣のように青眼で構える。

 セイバーのスキル、魔力放出により身体から凄まじい魔力が立ち登る。

 その膨大な魔力があずきバーに込められていく。

 

 セイバーがあずきバーを肩に担ぎ、腰を落とし前傾姿勢を取る。

 アーチャーが乖離剣『エア』の真名を解放しようとしている。

 それでもセイバーの顔に先程まであった畏怖の表情は消えていた。

 決して引かない。

 そんな意志を感じさせる精悍な顔。

 セイバーは、それ程にマスターであるシロウを、そして託されたあずきバーを信じていた。

 

 そして、激突の時は訪れる。

 アーチャーがエアを振り抜く。

 

「天地乖離す開闢の星《エヌマ・エリシュ》!」

 

 凄まじい威力の斬撃が放たれる。

 その力は正に対界宝具と呼ばれるに相応しい物だった。

 本来であれば全て遠き理想郷《アヴァロン》によって防ぐしかない。

 この時空ではアヴァロンは未だシロウの中にある。

 その時点でバッドエンドしかないはずだった。

 だが、私達は負けない!死にもしない!

 セイバーには、そんな確信があった。

 

「全ての歯を折る《あずき》・・・」

 

 裂帛の気迫と共に振り下ろす。

 

「狂気の氷菓子《バー》!!!」

 

 激突によって凄まじい衝撃波が辺りに吹き荒れる。

 果たしてセイバー達は無事なのか?

 

 衝撃波が収まった後、その場にはアーチャーとセイバー達が変わらず立っていた。

 あずきバーは、エヌマ・エリシュを防ぎきったのだ。

 

 それだけではない。

 アーチャーのエアが砕けている。

 対界宝具と言う最上級の神秘を内包する宝具が砕けると言う事態に流石のアーチャーも呆然としていた。

 だが、それほど不思議な事ではない。

 あずきバーは、幾多の挑戦者を返り討ちにし、その歯を悉く折ってきた。

 そんな日本人の常識を概念として宿したあずきバーは、概念武装すら超えて宝具の域にまで到達している。

 その概念によりあずきバーは、防御用宝具でありながら攻撃してきた物を逆に砕くという超攻撃的防御宝具と言うべき物になっていた。

 日本限定とは言え、あずきバーはエアすらへし折って見せたのだった。

 

「馬鹿な、我のエアが砕けただと!

 かつて天地を切り分けた事すらある至高の宝具なのだぞ!」

 

 そんなアーチャーの叫びにシロウが静かに答えを返す。

 

「簡単な事さ、例え天地を切り分ける事が出来ても、あずきバーを切り分ける事は出来なかった。

 それだけの事だ!」

 

 アーチャーの顔が屈辱で歪む。

 

 状況の変化に着いて行けずに固まっていた凛がここで再起動を果たす。

 

「何がそれだけの事だ!よ!

 なんで、あずきバーなんて投影しているのよ!

 どうして、あずきバーでアーチャーのエアを防げてるのよ!

 それどころか逆にエアが砕けてるし!

 どうなってるのよーーー!」

 

 一気に捲し立てる凛にシロウが冷静に答える。

 

「何を言ってるんだ、遠坂。

 あずきバーが硬いのは常識だろう?」

 

「何を世界の真理ですって感じで馬鹿なこと言ってんのよ!

 確かに硬いけど、そんなんで宝具が防げてたまるかーーーーー!!!」

 

 ますますヒートアップする凛。

 しかし、ギャグ・パートの凛を置いて、シリアスな本編は進行していく。

 

「ちょっと待って!

 私がギャグ・パートなの?!

 おかしいのは私以外でしょ!

 なんでツッコミしてる私がギャグ・パートなのよ!」

 

 呆然としていたアーチャーが我に帰る。

 

「見事だ。

 日本人のあずきバーの硬さに対する信仰を見誤った我の負けだな」

 

「って、無視するなーーー!!

 えっ、私がおかしいの?

 なんで皆、あずきバーに対して疑問を抱かないのよ!

 だいたいセイバーも日本人じゃないでしょ!

 何を約束された《エクス》・・・勝利の剣《カリバー》!みたいなノリであずきバーを振り下ろしてるのよ!」

 

「凛、愚問ですよ。

 私はすでにあずきバーの洗礼を受けています。

 あずきバーの硬さを知らなかった私は無謀な戦いをしてしまった。

 砕けてしまった歯は復元しましたが、失った物は戻りません。

 その分、身体の魔力が薄くなってしまいました」

 

「それは千切れた腕を再生した時のセリフじゃない。そんなのアイスで前歯が折れたなんて間抜けな事で同列のように使わないでよ!」

 

「我の予想を超えて見せたのだ。

 褒美を取らす。

 此度の聖杯は、お前達に下賜しよう」

 

「アーチャーまで・・・

 この路線で進んでいくのは止められないのね。

 あはは、もうどうにでもなりやがれ!」

 

 凛のキャラ崩壊がだいぶ進んでいるようだが本編にはあまり影響はないので置いておく。

 

「何のつもりです?

 貴方はあの泥で人間を滅ぼそうとしていたのではないのですか?」

 

「ふん、人類の間引きは次の機会で良い。

 所詮は余興に過ぎない。

 そんな余興で我を楽しませたのだ。

 我の宝を下賜されると言う栄誉に浴するが良い」

 

「俺達は聖杯を壊そうとしているんだぞ!」

 

 聖杯を望んでいたセイバーすらも、今の呪いを吐き出す孔を聖杯とは認めていない。

 シロウ達の目的は聖杯の破壊なのだ。

 

「それは、すでに貴様らに下賜した物だ。

 使おうが壊そうが好きにするが良い」

 

 一度下賜した以上は、相手の所有物だ。

 王が与えた物なのだから大切にしなければ許さないなどと言うと思ったのか?

 我はそんな小物ではない。

 アーチャーからは、そんな王としての矜持が感じられた。

 

「大義であった!」

 

 事実、アーチャーはセイバー達に背を向けてその場から去っていった。

 もう、聖杯までの道を塞ぐ者はいない。

 言峰綺礼は妨害するかと思ったが、アーチャーが認めた以上、手を出せば粛清されるかもしれないと判断し、撤退していた。

 イリヤスフィールは聖杯になっている。

 もはや救う術はない。

 この世全ての悪《アンリ・マユ》の復活は叶わなかったが、イリヤスフィールを救えずに苦悩する姿は見る事ができる。

 今回の愉悦はそれで満足しようと思っていた。

 

 しかし、それすらも叶わず、歯噛みする事になる。

 イリヤも救い出され、衛宮邸で血の繋がらない妹として住み始めたのだ。

 

 シロウが泉に入り、イリヤに近付く。

 孔から溢れ出た泥がシロウを襲うが、止まらずに歩き続ける。

 泥の呪いは確実にシロウに苦痛を与えている。

 それでもシロウの中にあるアヴァロンがイリヤの下へたどり着く事を可能にしていた。

 イリヤの身体を抱いあずきバーを構える。

 そして、セイバーに向かって叫んだ。

 

「最後の令呪を持って命ずる。

 聖杯を壊せ!」

 

 セイバーが令呪の後押しを受けてエクスカリバーを振り下ろす。

 閃光が疾り、孔を貫く。

 本来なら聖杯が砕かれたことで聖杯になっていたイリヤも共に砕けているはずだった。

 泥の呪いは人間だけを殺す呪い。

 聖杯という物になっていたが故にイリヤの身体を蝕むことはなかった。

 そして、泥と共に聖杯が吹き飛ばされた時、イリヤの前にはあずきバーが盾として立ち塞がっていた。

 孔から伝わってくる崩壊の衝撃をあずきバーが受け止めていた。

 あずきバーは、超攻撃的防御宝具だ。

 そして、エクスカリバーは孔を攻撃しただけでイリヤを直接攻撃した訳ではない。

 では、その特性は何処に向かったのか?

 聖杯から流れてきた衝撃は、聖杯に返された。

 この聖杯戦争の要となる大聖杯を砕いていたのだ。

 もう、冬木の地で聖杯戦争が行われる事はない。

 

 こうして、今回の聖杯戦争は終結した。

 セイバーは答えを見つけたと言って還っていった。

 シロウ達は日常に戻る。

 イリヤと言う新しい家族を加えて衛宮邸は賑やかになっていた。

 間桐桜が通い妻をし、遠坂凛がちょくちょく遊びに来る。

 衛宮シロウは、そんな日常を守りたいと思っていた。

 これからも正義の味方としての道を歩いていく。

 迷いはない。

 そのための力も聖杯戦争で得た。

 

 少し先の未来で新たな英雄が生まれた。

 常に人々の前に立ち、守り抜く。

 そんな英雄が構えるのは武器ではない。

 あずきバーを手にどんな困難にも立ち向かっていく。

 

 世界の人々も最初は困惑していた。

 何故あずきバーなのか?

 けれど、あずきバーの事を知れば納得していく。

 その硬さに関する伝説は、世界に広がっていった。

 英霊エミヤがあずきバーを宝具に持つシールダーとして召喚される世界があるのかもしれない。

 

 

 おまけ

 

「ねぇ、桜。

 もしよ、もしエクスカリバーとあずきバーがぶつかったらどっちが勝つと思う?」

 

「何を言ってるんですか?先輩」

 

 桜が凛に呆れたような目を向ける。

 

「そうよね!馬鹿な事を聞いたわ!」

 

 桜の反応に凛は喜んでいた。

 私だけじゃなかった。

 あの時、感じた孤独を癒してくれる存在を見つけた。

 そんな想いは、

 

「あずきバーが勝つに決まってるじゃないですか。

 ここは日本なんですよ」

 

 続く桜の言葉にぶち壊された。

 絶望のあまりフラフラと離れていく凛の後ろ姿を心配そうに見送る桜の顔には、

 

「あずきバーは、私のくすくすゴーゴーでもパックん出来ないのに、なんで姉さんはエクスカリバーで勝てると思ったのかな?」

 

 黒い入れ墨のような模様が浮かんでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。