リクエストにお応えして書いてみました。
私は、武藤カズキに何をした?
何をしてしまった!?
彼女は知らなかったのだ。
自分の行動がこんな事態を引き起こすなどとは。
それは純粋な善意だった。
死にゆく命を救いたいと思い、抉られた心臓の代わりに核鉄《かくがね》を埋め込んだ。
それが、少年をホムンクルスとの戦いに巻き込むことだと知りながら。
事実、カズキは人喰いの化け物であるホムンクルスに再び襲われた。
ホムンクルスの牙がカズキを噛み砕かんと迫る。
その時、カズキの中に埋め込まれていた核鉄の力が目覚め、眩い光と共にその姿を現す。
がきいいいぃぃぃいん!!
凄まじい音と共にカズキに飛び掛かっていたホムンクルスが弾き飛ばされていた。
カズキの手には、核鉄の真の姿である武装錬金が握られている。
それは巨大な・・・・あずきバーだった。
物語は冒頭に戻る。
はっ?
斗貴子は最初、その武装錬金の姿を理解できなかった。
いや、斗貴子もあずきバーは知っている。
問題は何故あずきバーが武装錬金なのかだ。
あずきバーはアイス、つまり食べ物だ。
食べ物なのに武装、なんでぇ?!
私が何かやらかしたのか?
心臓の代わりにするのはやはり無茶だったか?
本来の用途とは別の形で使用したことで誤作動を引き起こしたのかもしれない。
斗貴子の頭の中で次々と疑問が浮かび、心は千々に乱れている。
それでも事態は待っていてはくれない。
突然あずきバーが現れた事で弾かれはしたがホムンクルスは健在だ。
態勢を立て直し、再び襲い掛かろうとしている。
カズキもあずきバーを構えて迎え撃つ態勢だ。
いや、なんであずきバーに疑問を抱かずに臨戦態勢に入っているんだ?
どんな精神力なのよ!
斗貴子は、カズキに突っ込みたい気持ちを抑えて戦いに介入しようと前へ出る。
流石にあずきバーで戦わせようとするほど鬼ではなかった。
「カズキ君、あずきバーで戦うなど無茶だ。
ここは、私が戦うから下がってなさい」
そう言って自らの武装錬金を出そうとする斗貴子をカズキが手で制する。
「大丈夫だよ、斗貴子さん。
俺は戦える」
「いや、君の手元をよく見なさい。
あずきバーなのよ!」
「問題ない!
何を隠そう、俺はあずきバーの達人だ!」
カズキがドヤ顔で宣言する。
「あずきバーの達人って何よ?」
訳のわからない言葉に唖然とする斗貴子を残して、カズキがホムンクルスへと駆け出した。
空気を読んで斗貴子との会話が終わるまで大人しくしていたホムンクルスも動き出す。
カズキはあずきバーを前に突き出し、直感のままに叫ぶ。
「
あずきバーにエネルギーを纏わせ、すごい勢いで巨大なホムンクルスの口に飛び込んでいく。
ホムンクルスは、口の中にあずきバーを差し込まれた事で本能的に噛み締めてしまった。
その結果は語るまでもないだろう。
人を捕食する強靭なホムンクルスの牙もあずきバーの前に粉々に砕かれてしまった。
「ぎぃぃやぁぁああぁぁ!!」
あずきバーに牙を砕かれた痛みにのたうち回るホムンクルス。
その姿を前に斗貴子は呆然とし、言葉を失っていた。
彼女は過去の辛い経験からホムンクルスに飢えて死ねと言うのかと問われたなら死んでしまえと返すくらいには憎んでいる。
それでも、この光景にホムンクルスに対してちょっとだけ同情してしまっていた。
えっと、あずきバーを噛み締めたから牙が砕けたのよね?
確かに硬いもんね、あずきバー。
うん、納得・・・出来るかーーーー!
それ以上に理不尽な謎武装錬金に混乱していた。
そんな斗貴子を他所にホムンクルスが口を押さえながら立ち上がる。
その目からは涙が流れていた。
牙が折られて痛かったのだろうか?
いや、ホムンクルスは痛みで泣いたりしない。
絶望から泣いているのだ。
「ううっ、牙が・・・これでは、もう人間を食べる事が出来ない。
これから、どうやって生きていけばいいと言うのだ?」
そう、人間を噛み砕くための牙を失ったことで人間を主食にしていくことは不可能になった。
だが、ホムンクルスは人間以外を食料として受け付けない。
この場で殺されなくても餓死する未来が確定してしまったのだ。
嘆くホムンクルスにカズキが優しい微笑みを浮かべて話しかける。
「心配しなくていい。
人を食べなくても生きていけるさ」
そう言って、手に持つあずきバーを再びホムンクルスの口に差し入れる。
本能的に噛み付くホムンクルス。
すでに牙はなく、甘噛みになってしまう。
こんな状態では人間どころか固形物は何も食べれない。
気落ちするホムンクルスにカズキが言葉を続ける。
「あずきバーの前では歯なんてあっても意味はない。
うっかり噛んでしまえば砕けるだけだ。
舌で舐めて溶けるまで待つ。
それだけがあずきバーを食べる唯一の方法だ」
カズキの声は優しく、人を喰らう化け物であるはずのホムンクルスが従い、大人しくあずきバーを舐めている。
それはあり得ない光景のはずだった。
ホムンクルスが人間を襲わず、大人しく従うなどこれまで確認されたことのない現象だ。
だが、さらに奇跡は続く。
「これは!
何故?
あずきバーを美味しく感じる。
その甘さが身体に染み渡るようだ。
人間しか受け付けないはずなのに、あずきバーを栄養として吸収することが出来ている!」
「なっ!?」
ホムンクルスの言葉に斗貴子は驚愕を抑えきれず、思わず声が漏れてしまった。
ホムンクルスは、人間以外を食べて生きていくことは出来ない。
それが今までの常識だった。
その常識が覆されたのだ。
「あずきバーには、添加物などは一切使用されていない。
その身体に優しい甘さが身体を満たしてくれる。
それを拒絶できる生き物なんて存在するわけがないんだ!」
カズキが、この世の心理のようにあずきバーについて語る。
その姿は、確かにあずきバーの達人と呼ぶに相応しいものだった。
食べることが出来なくなり、死を待つばかりだと絶望していたホムンクルスにとって、そのカズキの姿は後光さえ見える気がした。
跪き、手を合わせるホムンクルス。
人は偉大な存在を前にした時、祈りを捧げる。
ホムンクルスと言えど、素材となっているのは人間だ。
その事実がホムンクルスにこのような行動を取らせていた。
それだけ彼のホムンクルスにとってカズキの言葉とあずきバーの存在が救いになっていたのだ。
いつの間にか彼は人間形態に姿を変えていた。
その顔には、もはや人間を喰う化け物としての狂気は存在しない。
とても穏やかな表情を浮かべている。
「ありがとう。
これからはあずきバーを食べて、ひっそりと目立たないように生きていくよ」
ホムンクルスの素材には人間が使われている。
ある意味、化け物にされた被害者とも言える。
ホムンクルスが人間を喰らうのは、人間に戻りたいと言う未練がそうさせていたのだ。
食人の根底には、化け物へと変えられてしまった絶望があった。
そんな絶望をあずきバーの優しい甘さが癒した。
天然素材を使った身体に優しいお菓子だから栄養になったのではない。
そもそも、本来ホムンクルスに栄養など必要ない。
あずきバーは、ホムンクルスにとって心の栄養になったのだ。
こうして、ホムンクルスの主食が人間からあずきバーへと変わり、人間とホムンクルスとの長い戦いの歴史に終止符が打たれたのだった。
完!
武装錬金をお読みいただきありがとうございました。
作者の次回作にご期待ください。
「って、待てぇぇぇい!
コミックス第一巻で完結させようとするな!」
終わらせねぇよ!と斗貴子がツッコむ。
物語としては綺麗な終わり方だろう。
それでも、彼女の心の傷がこんな終わりを容認できなかった。
「ホムンクルスは死ななきゃいけない。
例え、今後人間を食べないとしてもこれまで喰らってきた命は戻らないんだ!
償うために死んでしまえ!」
武装錬金を展開して、殺意をむき出しにする。
その姿はとても痛々しく見えた。
そんな斗貴子をカズキが優しく止める。
「止めるんだ、斗貴子さん。
こいつは決定的な過ちを犯していない。
まだ人を喰っていないんだ。
そうだろ?」
「ああ、最初の獲物が君だったからな。
邪魔が入ったことで結局喰いそびれた」
「何を言っているんだ、カズキ君!
君は心臓を潰されて一度死んでるじゃないか!
被害者は出ている」
「ありがとう、俺のために怒ってくれて。
でも、今、俺は生きている。
斗貴子さんが救ってくれたんだ。
なら、もういいじゃないか」
「!・・・どこまでお人好しなんだ」
その様子を見ていたホムンクルスには、彼女が同類によって大切な人を奪われたのだろうと理解できた。
「私が言うのもなんだが、他のホムンクルス達もみんながあずきバーで生きるようになればいいな」
「そうだな、そうなればもう誰も悲しい思いをしなくて良くなる。
そのために俺は戦うよ」
「カズキ君・・・」
それは、カズキのこれからも共に戦うと誓う宣言だった。
巻き込まれたからではない。
自分の意思でホムンクルスとの戦いに飛び込んでいく決意を固めた。
その後、多くの戦いを駆け抜けていく。
時に蝶々の妖精とあずきバーの魅力について語り合い、友情を深めた。
やがて戦いは佳境に入り、ヴィクターの出現と明かされる黒い核鉄の真実。
ヴィクター化してしまったカズキは、仲間達から命を狙われることになる。
それでもカズキは前へと進み続ける。
その傍には常にあずきバーが寄り添っていた。