リクエスト企画第2段です。
ジェノスは、その日も師匠と仰ぐサイタマの部屋を訪れていた。
おかしい。
何故か今日に限って先生の部屋から違和感を感じる。
シャクッ
「どうした?ジェノス」
「いえ、何でもありません」
先生の様子に変化はない。
いつも通りのリラックスした表情でアイスを食べているだけだ。
ジェノスは、新ためて部屋全体を見回す。
部屋にも昨日と変わったところはない。
強いて言うなら、ゴミ箱にゴミが溜まっているくらいか。
そう言えば明日はゴミの日だった。
ゴミ出しの準備をしなければ。
「それで、ジェノス。
何か相談があるって言ってなかったか?」
「ああ、そうでした!
実は先生に聞きたいことが」
ジェノスはS級17位、ヒーロー名『鬼サイボーグ』の名で活動しているプロヒーローだ。
しかし、先日の怪人との戦いで負けてしまっていた。
「俺に足りないものは何でしょうか?」
「うーん、パワーじゃね?」
それは、ジェノスにとって天啓のように感じられた。
そうだ!
先生は常に手本を見せていてくれたんだ。
圧倒的なパワーで怪人共を倒す姿を示してくれていた。
「先生、ありがとうございます!」
パワーが足りないのならパワーアップすれば良い。
サイボーグのジェノスにとって、パワーアップとは身体を改造することだ。
直ぐに部屋を出て、改造してもらうためにクセーノ博士の研究所へ向かった。
シャクッ
「やれやれ、落ち着きのない奴だな」
食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に捨てる。
もう一本くらい食べようかな?
そう思って冷凍庫を覗くが、
「さっきのが最後の一本だったのか。
また買いに行かなきゃな、あずきバー」
Z市、地下『怪人協会本部』
怪人協会の幹部フェニックス男が参謀であるギョロギョロと話している。
「オロチ様は、私が育てた」
「!」
生物は死に瀕するたびにより強くなる。
ギョロギョロが提唱した仮説が正しければ、理論上、際限なく強くなることが可能だ。
ギョロギョロは、自らの理論が正しいと証明する機会を探し続けていた。
そして出会ったのだ。
あずきバーに全ての前歯を折られ、絶望していたオロチに。
当時の彼は、何の力も持たない只の人間だった。
そんな彼にギョロギョロは声を掛けた。
力が欲しいか?
あずきバーに負けないほどの力が。
彼の答えはイエスだった。
こうして彼は、強くなるためにギョロギョロの理論を実践していった。
彼は、理想的なサンプルだった。
どんな過酷な課題も文句も言わずにこなし続けた。
その結果が怪人王と呼ばれる今の姿だ。
「今のオロチ様ならあずきバーを齧れるかもしれないと言ったら信じるか?」
「なっ、あのあずきバーを?」
「ふっ、オロチ様はそれ程の高みにいるのだ」
フェニックス男の顔に汗が浮かぶ。
彼の中で恐れとは別に野心が生まれ高まっていた。
オロチ様を育てた方法。
これが本当ならば俺もなれるはずだ。
怪人王に。
あずきバーを噛み砕く自分を想像する。
誰もがへし折られる中、自分だけが齧れると言う優越感。
死んでも不死鳥のごとく何度でも蘇る自分の特性を考えれば決して夢ではない。
また一人、あずきバーに打ち克とうとする野心を持つ者が生まれた。
ヒーロー・サイド
S級4位『アトミック侍』が居合の構えを取り、目を閉じて集中を高めている。
細く、鋭く、心を研ぎ澄ませていく。
集中力が極限まで高まった時、
カッ
目を見開くと同時に刀を抜き、目の前の標的に向けて振り抜く。
ガキッッッ!!
「ちっ、まだ両断は出来ないか」
的はあずきバーだった。
刃は、1cmほど食い込んだところで止められている。
彼ほどの剣士でも斬れない。
あずきバーとは、そんな存在なのだ。
S級5位『童帝』が同じくS級10位『豚神』に問いかける。
「ねぇ、豚神さんはあずきバーを齧れる?」
「えっ、無理だよ」
「豚神さんでも無理なの?
食べることなら無敵だと思ってたけど」
「ほら、僕って丸呑みするから基本噛まないでしょ?
あずきバーも飲み込んで消化すればいいから、わざわざ齧ろうと思ったこともないよ」
「そっかぁ」
「どうして、そんなことを聞くんだい?」
「いつか、あずきバーを齧れるようになる発明をするのが夢なんだ。
だから、その参考になるかなって」
「出来るといいね」
S級6位『メタルナイト』ボフォイ博士
「また失敗か。
あずきバーを装甲に転用できればメタルナイトは無敵の存在になれる。
諦めんぞ。
必ず成功させて見せる。
そのためにはもっと技術が必要だ」
メタルナイトが戦闘後に敵の残骸を回収して技術を解析している真の目的はあずきバーの軍事転用だった。
クセーノ博士の研究所
クセーノ博士は、モニターに映る映像を見て驚愕の表現を浮かべていた。
なんてことだ。
信じられない。
カメラの故障か?
いや、ジェノスの眼球カメラは何度チェックしても異常は見られなかった。
映像にも加工などの細工の痕跡はない。
つまり、この映像は
「サイタマ君はあずきバーを齧っている。
それも全身全霊を込めてではない。
他のアイスと変わらない、日常に溶け込むほど自然にだ」
強化改造を受けるために寝台に横たわり、スリープモードに入っているジェノスを見つめる。
「ジェノスよ、とんでもない人物に弟子入りしたな」
クセーノ博士は、サイタマを心配してもいた。
サイタマ君は孤独だな。
並び立つ者がいない。
あずきバーを齧れなければ、同じステージに立つ資格すらないのだ。
現状、彼の前にまともに立てる者はいない。
いつか、サイタマ君の孤独を癒せる存在が現れるのだろうか?
我々としては、そんな未来が来ないことを願うが。
怪人王オロチは、確かにあずきバーを齧れるのかもしれない。
それでもサイタマの相手にはならない。
ギリギリ齧れるかもしれない程度では話にならないのだ。
サイタマとオロチの間にはそれだけの隔絶した差が存在していた。