スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染【掲示板】・【小ネタ集】   作:成田 きよつぐ

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 今回の小ネタ話を読んで下さって本当にありがとうございます!

 以前にご感想にて提供を頂きましたシチュエーションから、こんな話を書いてみたいなと思い立ち、思わず書き殴ってしまいました(苦笑)

 ※お互いの時系列なのですが……
 ・原作スペちゃん→日本ダービー後あたり。
 ・二次作スペちゃん→宝塚記念後あたり。

 この様に、一年のアドバンテージがある設定となっております。





小ネタ回
もしも、原作スペちゃんと二次作スペちゃんが入れ替わっちゃったら?①


 

 

 

 

 

 座学終了のホームルームを終えるや否や、“中等部”の教室から逃げる様な勢いで飛び出して行き、クラスメイトたちが驚いたり静止の声を上げかけた事をよそに……

 “スペシャルウィーク”は、どこか不安げな面持ちでカバンから携帯を取り出しながら人気の少ない校舎裏へ、周りの人達を避けつつも急いでいた。

 

 

 学園内の創りなどは当然ながらいつもと変わらない。

 

 

 広大な学園ゆえに編入当初は迷子になってしまう事もあったが、初めて迷子になってしまった時、小さい頃と同じ様に自分を見つけてくれた大好きな“彼”と、『折角だから』と一緒にお昼ごはんを食べたあの日以降……

 

 時折二人きりで、その日と同じ様にお昼ごはんを楽しむ様になったお気に入りの場所。

 そんな想い出が詰まった場所への道を間違える筈もなく、スペシャルウィークは教室から最短ともいえるルートを通って校舎裏へと到着する。

 

 

「え、えっと、れ、LANE……昨日、“お兄さん”と『新しくできたクレープ屋さんに一緒に行こう』って約束したから、一番最初にお兄さんとの会話が──あ、あれ……っ?」

 

 

 スペシャルウィークは到着してすぐ、取り出していた携帯を両手で包む様に持ち替えて画面を開き、いつもの様にLANEのアプリから彼へと連絡しようと試みるも……

 表示されたトーク履歴の欄には、昨日までやり取りしていた筈の彼との会話が消えているどころか、全く身に覚えのないやり取りで埋め尽くされていた。

 

 

「お、お兄さんの、れ、連絡先すら消えてる……な、なんで……っ? ど、どうして……っ?」

 

 

 声を震わせ、少し過呼吸気味になりながら、LANEや他のアプリ、そして電話アプリの連絡先から──“お母ちゃん”の下に表示されている筈の“お兄さん”の連絡先を探し求め、

 スペシャルウィークは、何度も何度も震える手で画面をタップするも……何度やっても“お兄さん”の痕跡が表示される事は無い。

 

 

「……そ、そうだっ。お兄さんの番号っ、それにかければ──」

 

 

 そう呟きながら、スペシャルウィークは開いていた電話アプリのキーパッドからお兄さんの電話番号を入力し、祈る様に緑色の通話ボタンを押した。

 

 

「お願いっ、かかって……っ」

 

 

 まるで真冬の寒さで手が悴んでいるのかと思えるほど、プルプルと手に持った携帯を震わせながら画面を覗き込むスペシャルウィーク。

 そして通話ボタンを押して三秒ほど……“プツッ”という音と同時に電話が繋がった──

 

「──あっ! お兄さ『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』……っ……」

 

 やっと大好きな人の声が聞けると思った矢先……

 冷たいアナウンスが耳に届き、スペシャルウィークはアナウンスを遮断する様に耳をキュッと絞り、息を呑みながら口を一文字に結んで俯く。

 

 

 その後も、もしかしたら番号を間違えたのかもしれない。という淡い願いを込めて掛け直すも結果は変わらず……

 スペシャルウィークは、涙が溢れそうになるのを必死に堪えながら、再びその場から逃げる様に駆け出した。

 

(違うっ。これはきっと……きっと夢だ……そ、そうだっ、チームのお部屋に行けばっ! お部屋に行けばきっと──いつもみたいにお兄さんが居るはずっ!)

 

 駆け出しながらそう思い立ち、スペシャルウィークは自身が所属する〈チーム・ノヴァ〉のチーム部屋がある場所へと進路を定める。

 

 

 座学が終わり、学園内はこれからチームで、あるいは友人と、はたまた個人で、トレーニングに励むのであろうジャージ姿の者たちが続々と準備を行い賑わいをみせていた。

 

 仲間同士で会話しながらトレーニングコースの方へと向かって行く者。隅っこの方で円になってストレッチを行う者。巨大なタイヤを複数人で運ぶ者……

 そんな者たちを横目に見ながら、スペシャルウィークはチーム部屋を目指して駆けて行く。

 

 ……走りながら感じる風の感覚や匂い、そしてほんの少しの息苦しさなどが『決してこれは夢などでは無い』という現実を突きつけてくる事を、必死に考えないようにしながら……

 

 

 駆けることしばらく、スペシャルウィークは無事に目的地に佇む、学園から各チームに共通して貸し出されるプレハブ小屋の前へと到着する。

 

(良かった、ちゃんとあった!)

 

 いつもと変わらぬ風景に胸を撫で下ろし、いつもと同じ様にきっと──何かトレーニングに向けての準備を行いながら、こちらに気付くと優しい笑顔と声で挨拶を返してくれるお兄さんが、今日も部屋で待っていてくれている事を信じて、スペシャルウィークはドアノブを回した。

 

「お兄さん、お疲れ様です! 今日も一緒に頑張りましょう──ね……」

 

 元気よく挨拶をしながら部屋へと足を踏み入れようとしたスペシャルウィークだったが──その目に飛び込んできたのはお兄さんの姿ではなく、ましてやいつものチーム部屋の風景ですらなく……

 埃を被った古い学校机や椅子、そして鉄の部分が茶色く錆びた器材や折れた木材などが乱雑に積み上げられている……まるでずっと物置き小屋として使われている様な雰囲気の内装であった。

 

「な、なんで……ここは、確かに私たちチームのお部屋なのにっ……」

 

 変わり果てた部屋の雰囲気に、スペシャルウィークは思わず後退りながらドアから離れる。

 

「──あ! ちょ、ちょっと君!」

 

「──っ!?」

 

 そんな状態で突然、後ろの方から呼び掛けられた事でスペシャルウィークは“ビクッ”と肩を震わせ、肩に掛けたカバンの持ち手をギュッと握りながら、恐る恐るといった感じで後ろを振り返る。

 

「君、そこは使われていない廃材なんかが積まれていて危ないんだ。怪我をするといけないから、とにかくそこを離れて。私が扉を閉めておくから」

 

 そう言ってやって来たのは警備員の男性であり、男性は少し駆け足気味にスペシャルウィークの横を抜け、腰にぶら下げたキーリングから鍵を選別すると、そのまま扉を閉めて鍵をかけた。

 

「ふぅ、これで良しっと。まったく昨日の見回り担当が戸締りを忘れたんだな……君、怪我はしてないよね?」

 

「──ぇ……あ、は、はい……」

 

 身体の向きを直し、今にも消え入りそうな小さな声でスペシャルウィークは返事と頷きを返す。

 

「そうか、それなら良かった。しかし、君は何でこの小屋に? 何か探し物でもしてたのかい?」

 

「い、いえ、えっと……あ、あの、この建物って、〈チーム・ノヴァ〉のお部屋じゃ……?」

 

「え、チーム? この小屋は何年も前からずっと物置きとして使われている筈だけどね……」

 

「も、物置……な、何年も、前、から……?」

 

「それと君が今言った──チーム・ノヴァ、だったかい? そんな名前のチーム、この学園には無かったと思うけどね?」

 

「……う、嘘っ……」

 

 そう呟きながら俯くスペシャルウィークの顔から段々と血の気が引いていく。

 

 

「それに君、中等部のスペシャルウィークさんだろ? 君が所属しているのは確か、沖野さんとこの〈チーム・スピカ〉じゃなかったかい? スピカの部屋ならあっちに──」

 

 警備員の男性がそう言いながら斜め左あたりを指差すが……

 当のスペシャルウィーク本人には、その声はもはや聞こえておらず、ただただ呆然と俯きながら立ち尽くしていた。

 

「……き、君、大丈夫かい?」

 

 スペシャルウィークの、そんな只事ではない雰囲気を感じた警備員は、少し焦った様子で彼女に声をかける。

 

「嘘だっ……お兄さん……お兄さん……っ!」

 

「え? あ、ちょっと!?」

 

 呼び掛けても返事が無かったため、肩を軽く叩こうと伸ばされた警備員の手が触れる前に、スペシャルウィークは迷子の子供が必死にお母さんを探す様な声を上げて、トレーナールームがある校舎の方へと警備員の静止も関係なく走り出した。

 

 

 

 

 スペシャルウィークは、先程からずっと何か変だとは感じていた。

 

 5限目を終えた後の休み時間。突然の睡魔に襲われ耐えきれず、6限目に使うレース座学の教科書と、自身の腕を枕に仮眠をとっていた最中……

『──シャルウィーク、スペシャルウィーク!』と、教師が自身を呼ぶ声で目が覚め、慌てて返事をしながら立ち上がると、既に周りの娘たちは全員が起立して授業の開始を待っている様子が目に入った。

 

 周りから苦笑が漏れる中、教師からも『授業を始めますよ』というお叱りを受け、スペシャルウィークは最初、ただ自分が授業開始のチャイムに気付かず寝過ごしてしまったのだと、気恥ずかしさに包まれながら『すみません……』と一言謝り席についたのだが……

 

 違和感を感じたのはこの後だった。さっきまで自分が受けていたのは“高等部”の授業だった筈なのに……たった今始まった授業は、既に昨年学び終えた“中等部”時代に教わった内容そのまんまだったからである。

 

 更におかしいのはそれだけでは無かった。さっき用意していた筈の教科書は中等部のモノに変わっており、ノートの内容も書いた覚えのない事が記されていた。加えて筆記用具に至っては、お兄さんとお揃いで買ったペンなどが一切無くなっている有様だ。

 

 教室の風景も中等部時代に戻っており、極め付けは海外遠征を行っている筈の“エルコンドルパサー”が一緒に授業を受けている様子が確認でき、逆にさっきまで一緒に授業を受けていた“ツルマルツヨシ”の席には誰も座っていない。

 

 どういう事? と状況が理解できない困惑と、夢を見ている様な浮遊感、そして徐々に膨れ上がってくる恐怖とも言える不安……

 授業の内容など全く頭に入ってこない中、とにかく今のこの不思議な状況を少しでも理解しなければと葛藤している内に、気がつけば授業は終了し、そのままの流れでホームルームが行われ……

 

 その間の凡そ1時間の刻を有しても、全く状況の理解や、グチャグチャに混ざり合った感情をコントロールする事が出来ず、

 今まで自分の事を何度も何度も救ってくれた──大好きな幼馴染に助けを求めようと、ただ側に居てくれるだけで温かい安心感をくれる彼に『会いたい』と願うも……

 

 彼の事を探せば探すほど、それすら叶わない状況に置かれているのだという事を、スペシャルウィークは残酷にも突きつけられてしまう。

 

 

 

 向かったトレーナールームにも、お兄さんは居なかったどころか全く面識のない女性トレーナーが部屋を使用しており、またしてもお兄さんの痕跡すら確認できず……

 

(どうして、どこにも……っ)

 

 現在、スペシャルウィークは俯きながら重い足取りでトボトボと、三女神象がある噴水広場の辺りを歩いていた。

 放課後のトレーニングタイムということもあってか、周りには誰も居らず独りぼっちである。

 

(お兄さんという人が……最初から、居なかったみたいに……っ)

 

 どれだけ探しても、大好きな人の手掛かり一つすら見つける事が出来ない。それどころか、そもそも存在すらしていなかったかの様な雰囲気であり……

 

「ここ……何処?」

 

 そう言って立ち止まり虚空を見つめるスペシャルウィークは、ここにきて自分が置かれている状況を理解し始める。

 

 この学園も、感じられる空気も、周りの人たちも、全てが自分の知っている世界と殆ど同じではある。

 

 だが明らかに……自分が今いるこの世界は、表面上だけ同じなだけの──全く別の世界であるのだという事を。

 そして自分は、何故かそんな世界に迷い込んでしまっているのだという事を、スペシャルウィークは分かり始めていた。

 

(お願いっ、夢なら早く覚めて……帰りたい……お兄さんに、会いたい……っ)

 

 手と手を擦り合わせて温める時の様な形で両の手を自身の胸元に当て、瞳には涙を溜めて、唇を震わせながら再び俯いてしまうスペシャルウィーク。

 

「助けて……っ……お兄さん……助けてっ……」

 

 どうしようもない不安と絶望で、その場にへたり込んでしまいそうになったその時──

 

 

 

『──スペちゃん』

 

 

 

「──ぇ……?」

 

 そんな自分を呼ぶ声と共に、スペシャルウィークは優しい温もりに包み込まれる。

 そのまま一瞬、目の前が真っ白になったかと思うと……突然辺りが噴水広場から、どこか神秘的な雰囲気の草原へと景色が変わる。

 

「──……」

 

 突然の出来事に惚けるスペシャルウィーク。

 そして、そんな彼女の両の手は──目の前の人物に優しく握られていた。

 

「──ぁ……っ、あぁ……っ」

 

 その人物の姿を確認した途端、スペシャルウィークの瞳から涙がポロポロと零れ落ち、表情はまるで氷が溶けていく様に笑顔へと変わっていき──

 

 

「──ぐすっ、お兄さん……お兄さんっ!」

 

 

 スペシャルウィークは飛び付く様な勢いで──目の前の“お兄さん”へと抱きついた。

 

 

「お兄さんっ、お兄さんっ!」

 

「あぁ……良かった、スペちゃんっ」

 

 何度も名前を呼びながら、会えた喜びをちゃんと確かめる様にお兄さんの胸元に顔を擦り寄せるスペシャルウィーク。

 そんな彼女と同じぐらい、再会できた事への喜びと安堵感を噛み締めながら、お兄さんもスペシャルウィークの頭を優しく撫でてしっかりと彼女を抱き締め返す。

 

 そうしてしばらくの間、二人は言葉を交わすことなく静かに抱き合い……お互いの温もりをしっかりと確認し合ったところで、ゆっくりと身体を離して見つめ合う。

 

「会いたかったです、お兄さん。……それで、あの……此処は?」

 

「あぁ、それが……正直、俺もよくは分からないんだけど……」

 

 そう言って辺りを見渡す二人。

 

「ただ……スペちゃん、君はどうにも不思議な現象に巻き込まれちゃってるみたいだね」

 

「あっ、は、はいっ。言葉にするのが難しいんですけど、何だか──突然違う世界に来ちゃった様な……」

 

「……そうか。実は今、元居たこっちの世界にも……君と全く同じ事を言って、君と全く同じ容姿をした──“スペシャルウィークさん”というウマ娘さんが迷い込んじゃってるんだ……」

 

 その言葉に、スペシャルウィークの表情には動揺の色が広がった。

 

「──え? そ、それって……」

 

「うん。あくまで仮説にはなるけど……どうやら君たち二人は入れ替わってしまっている様だね。それも、身体や精神は元居た世界の状態そのままに」

 

 仮説……と言いつつも、お兄さんの中で今回の事象について“二人が入れ替わってしまっている”というのは殆ど確信していた。

 

 普通に考えれば先ずあり得ない事象ではあるが……自身に備わっているチート直感が、そうだと告げているのならば信じる他ない。

 そもそも自分自身も、“転生”や“チート”なんて摩訶不思議な恩恵を授けてもらっているのだから、今回の様な入れ替わり現象が身の回りに起こっても可笑しくないのかもしれない……と、お兄さん自身は考えていた。

 

「入れ、替わってる……じゃ、じゃあ今そちらに居らっしゃる、もう一人の私? にも、此処に来てもらえればお互い元の世界に帰れるんじゃ……?」

 

 入れ替わってしまったお互いが出会れば、この状況を何とか出来るかもしれない! と、スペシャルウィークは期待を抱く。

 

「……それが、どうもそうは簡単にはいかないみたいなんだ。何故だかこの場所には俺たち二人しか来られ──っ!?」

 

 だが、そんなスペシャルウィークの希望は通らず、この不思議な空間には彼女とお兄さんの二人しか入る事が出来ない様であった。

 そして、その事実を告げようとしたお兄さんの表情が言い切る前に突然歪む。

 

「お兄さん? どうしたんですかっ?」

 

 お兄さんの異変に気付き、スペシャルウィークは心配そうな声を上げて、彼の顔を下から覗き込む様な格好でグッと自身の顔を近付ける。

 

「ごめん、スペちゃん……折角逢えたのに──もう時間みたいだ……」

 

「時間? お兄さん、それはどういう──えっ!?」

 

 無念さを馴染ませ謝るお兄さんに、スペシャルウィークは最初どういう事なのか分からなかったが、その直後──彼女の目には、まるでシャボン玉の様な光に包まれながら徐々に身体が薄れていくお兄さんの様子が飛び込んでくる。

 

「そんなっ!? お兄さんっ!」

 

 再び離れ離れになってしまう事を恐れ、スペシャルウィークは大好きな人を何とか繋ぎ止めようと必死にしがみ付きながら、再び目に涙を溜めて声を上げる。

 

「本当にごめんね、今ここで助けてあげられなくて。でも必ず──必ず君を迎えに行くから。必ず何とかしてみせるって約束するから」

 

 そんなスペシャルウィークを少しでも安心させる様に、お兄さんは優しく微笑みながら、彼女の目元に自身の曲げた人差し指を当てて涙の雫を拭う。

 

「だから……もうちょっとだけ待ってて? スペちゃん」

 

 そして、その涙でキラキラと反射しアメジスト宝石の様な輝きを放つ彼女の瞳を、しっかりと見つめてお兄さんは約束の言葉をかけた。

 

「──はいっ、ちゃんと待ってます……私、ちゃんと待ってますから!」

 

 そんな、幼い頃から幾度となく自分を救ってくれた大好きな人の言葉は、どんなに困難な状況に陥ったとしても、スペシャルウィークの心に決して消えることない希望の光を灯す。

 

 

「あぁ、絶対に迎えに行くからね」

 

「──お兄さん……」

 

 もう身体は背景が透けて見えるほど薄れてしまっている中……

 お兄さんは自身の額を“こつん”と合わせ、スペシャルウィークもそれに応える様に“すりすり”と合わせられた額を擦り合わせる。

 

 そんなスキンシップを最後に、彼らの意識は別々の世界へと戻っていった……

 

 

 

 

 ……まるで眠りから目覚める様な感覚で、スペシャルウィークはゆっくりと目を開ける。

 少しぼや〜っと視界が霞んだもののそれは一瞬。視界が戻って真っ先に彼女の瞳に写ったのは、不思議な空間へと導かれる前に居た噴水広場の景色であった。

 

(……そっか、やっぱりここに戻って来ちゃったんだ……)

 

 やはりそのまま元の世界へと帰ることは叶わず、未だ別の世界に閉じ込められている事を自覚したスペシャルウィークは、先ほどまでお兄さんと逢えていた事による反動から寂しさが湧き上がるも──

 

(だめだめ! お兄さんが必ず迎えに来てくれるって約束してくれたんだもん。私も何か元の世界に戻れる手掛かりを探さないと!)

 

 彼に逢えた事で元気を取り戻したスペシャルウィークは、もしかしたら先程の空間に導いてくれたのかもしれない、目の前の三女神象に御礼を伝えながら一礼をすると、何か手掛かりは無いかと歩き始めた。

 

 

「うーん、何か手掛かりになりそうなモノ……取り敢えず、寮の方に行ってみようかな? 部屋の場所は変わってない、よね……?」

 

 歩き始めてしばらく、元の世界と変わらず噴水広場から真っ直ぐ歩けば正門、そしてそのまま行くと並ぶように建てられた〈栗東〉・〈美浦〉の寮二軒が目に入り、一先ずこちらの世界で過ごす自分の情報を少しでも得ようとスペシャルウィークは正門の方に向かって歩みを進める。

 

(……本当に元の世界とおんなじだなぁ……あっちの校舎の雰囲気も、植えられてる木や花壇のお花も、この道の感触も──あ、凄いこれも一緒だ……)

 

 寮へと向かう道すがらキョロキョロと辺りを見回し、学園の雰囲気が自身の世界と本当に瓜二つな事を改めて感じていたスペシャルウィークは、正門を目前にした辺りに設置されている──“とある看板”を見つけて立ち止まる。

 

《チームスピカ》・《入部しない奴はダートに埋めるぞ》

 そんなワードが赤文字で大きく記され、その写真には何故か──三人のウマ娘が頭から地面に埋められ脚だけが天に向かって出ている……何だか根野菜を思い出す様なヘンテコな看板が設置されていた。

 

(な、何回見ても凄い看板だなぁ……写真も文字も全く一緒だし……でも、こっちでもスピカの皆さんは楽しくて良い方々なのかな?)

 

 ルームメイトのスズカさんは勿論、昨年の夏合宿などで合同トレーニングを行うなど、スペシャルウィークとスピカ面々との関係は親しいものになる。

 それはトレーナー同士にも当てはまり、お兄さんとスピカの沖野トレーナーさんが、よく他のトレーナーさん達とも一緒に交友しているのをスペシャルウィークは知っていた。

 

(……寮のお部屋を確認したら、次は色んな人とお話をしてみようかn──)

 

 看板を見て、ふとスピカとの交友を思い出していたスペシャルウィークであったが、今は取り敢えず手掛かりを得るため寮を目指し、前を向き直して再び歩き出そうとした矢先……

 突然“ぽふっ”と自分の顔に何か柔らかいモノが当たる感触に襲われ、スペシャルウィークは驚いて思わず顔を上げる。

 

 

 するとそこには──

 

 

「「「……」」」

 

 

 サングラスと白いマスクで顔を隠した三人のウマ娘が、自分の行手を阻む様に仁王立ちしていた……

 

 

「──へ……?」

 

 そんな状況にスペシャルウィークは訳が分からず、目をパチクリとさせて固まりながら気の抜けた声を漏らす。

 

 

「サボり魔はっけーんッ!! スカーレット、ウオッカ、やっておしま〜いッ!!」

 

 一番背の高い芦毛のウマ娘が突如そう叫ぶと、何故か麻袋を取り出した栗毛をツインテールにしたウマ娘と、外ハネした鹿毛に後ろ髪を一束括って垂らしているウマ娘に両サイドから詰められるスペシャルウィーク。

 

「え、あ、あの、名前を言ったら変装をしてる意味がないんじゃ──はふっ!?」

 

 そして丁寧なツッコミを入れようとした彼女を──上から被せる様に麻袋へと詰め込み、そのまま大木を運ぶ様に担ぎ上げる三人のウマ娘たち。

 

「「「よっと! せーの──えっほ、えっほ、えっほ!」」」

 

「え!? ちょっ!? う、うわあぁぁ〜っ!?」

 

 

 袋に入れられ、くぐもった断末魔をあげながら──スペシャルウィークは一体何が起こったのか分からないまま、何処かへと運ばれるのであった……

 

 

 






 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!

 書いてると段々楽しくなってしまい……長くなると感じたので何話かに分けさせて頂きます(苦笑)

 チート育成に加え一年のアドバンテージがあるスペちゃんとチーム・スピカの会合。そして行われるであろうトレーニングや模擬レース……

 う〜ん、これは──事件が起きそうだ⭐︎
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