星降る奇跡と軌跡の少女   作:りつくさり

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私は奇跡をいつまでも照らしてみせます。
だから月にでもなりましょう。太陽にでもなりましょう。
私に必要なのは軌跡だから――


プロローグ

「私の目標はVenusプログラムの頂点に立つことです」

 私、長瀬琴乃の目標はこれしかなかった。

『星降る奇跡』と呼ばれた長瀬麻奈がたどり着けなかったアイドルの頂点。

 妹である私がお姉ちゃんの意志を継がなきゃ駄目だという気持ちで今回のオーディションを受けに来た。

 アイドル――それは私からお姉ちゃんを奪った憎いものだ。

 今でも少し思うところはある。

 だけどそんな自分勝手な思いは関係ない。私はお姉ちゃんになる。

 目の前の男性、牧野さんはどうやらグループを組みたいらしいがそうはいかなかった。

「私もソロを希望します」

 思わず低い声が出た。

 お姉ちゃんはVenusプログラムをソロで駆け続けた。

 これは近年類を見ないことだ。

 お姉ちゃんはソロで私はグループを組まされる。

 それは長瀬麻奈の妹として絶対に避けなければならないことだった。

「条件が飲めないのなら合否を待たず断ってもらっても構いません」

「っ……」

 唇を噛んで押し黙る。

 ここで断ったら何もかもが終わってしまう。だけど受けてしまえば私はお姉ちゃんの意志を継いだと言えるのだろうか?

「不満そうだね、麻奈さんの妹」

 急に後ろから声がした。

 振り返るとそこには一人の女の子がいた。

 黒髪を後ろで束ね、ラフな格好でこちらをまじまじと見ている。

「あなたはさっきの……」

「澪! 今はオーディション中で――」

 牧野さんが戸惑うように声を上げた。

「それは100年前から知ってる」

 そんな言葉をどこ吹く風かという具合でこちらに歩み寄ってきた。

 年は同じぐらいだろうか? 観察するように全身を舐めまわしてくる。

 その視線にいたたまれず、三枝さんの方に首を向ける。

「その子は島津澪。少し前にうちの事務所に入った新人アイドルだ」

「新人アイドル?」

 今回のオーディションで合格した人間が星見プロダクションに入れると聞いていた。

いったいどういうことだろうか……?

「澪はすでに合格してソロで活動することが決まっている」

「っ!?」

 ソロで活動? それはお姉ちゃんと一緒で……

「ど、どういうことですか!? 今回のプロジェクトはグループ活動だってさっき――」

「澪はグループを組ませるよりソロで活動したほうがいいと俺が判断した」

「だったら私も……っ!」

 三枝さんの言葉が信じられなかった。澪という子はソロで活動できるのに何で私はグループを組まされなきゃ……

 思わずキッと澪を睨んでしまう

 「いいよ、三枝さん。妹さんも思うところもあるだろうし」

 余裕をもった澪の顔。それは見下されているようにも感じた。

「麻奈さんの妹なんでしょ? 歌ってみせてよ、今ここで」

「え?」

 その言葉に思わず素っ頓狂な声が出た。

「曲名は『First Step』。 麻奈さんを象徴する歌。もし私の目にかなうなら三枝さんに君をソロで活動するように頼んであげてもいい」

 その提案に瞼を大きく開けて驚く。

「姉のようになりたいんでしょ? だったらソロのほうがいいよね。どうする?」

私がここに来たのはお姉ちゃんの夢を継ぐため。そのためにはソロでの活躍は不可欠。

「煽るのは止めろ! そもそもこのオーディションの目的は……」

「あーあー。何も知らない聞こえない~」

 耳を塞ぎ牧野さんの言葉をシャットアウトする。

「本当に推薦してくれるんですか?」

「もちろん。三枝さん、いいですよね」

「駄目だ……といってもお前は我を通すんだろうな」

 三枝さんは諦めたように肩を竦めた。

『First Step』はお姉ちゃんのデビュー曲でもある。

 あの日以来、息をするように毎日聞いていた。

 私は立ち上がり澪の前に立った。

 背筋を伸ばし歌う体勢を作る。

 澪はさきほどとは打って変わって真剣な面持ちだった。

 私は長瀬麻奈の妹。三枝さんに何が何でも認められなきゃいけない……!

 私は歌い出すと自然とお姉ちゃんの歌う姿が頭の中で浮かぶ。

 浴びるほどに飛び交う歓声。知れば知るほど偉大さがひしひしと伝わる。

 認めたくないけどアイドルというものはすごいものだと実感させられてしまう。

 歌い終わると室内は静寂に包まれた。

 澪は目を伏せて何かを考えているようだった。そして口を開く。

「……残念だなぁ」

「え?」

 開口一番に予期しない言葉がでてきた。

 澪は大きくため息をついた。

「君は……本当に長瀬麻奈の妹なんだよね。なんでその曲を黒に染めることができるんだい?」

「どういうことですかっ!」

 頭に血が上り、拳を握りしめる。正真正銘馬鹿にされたような言葉に澪を正面から睨みつける。

「麻奈さんが歌うところには光が満ちる。桜が舞い、どんな暗い場所だって桃色に染め上げることができる」

 私の怒りを見て見ぬように言葉を続ける。

 しかし私をしっかりと見据えていた。

「ダンスや歌がうまいアイドルなんて星の数ほどいる。だけど――」

 澪が牧野さんのほうに視線を向ける。

「麻奈さんのように心を抱き留めてくれるアイドルはそういない」

 冷たい視線でこちらを凝視する。心の隅々が凍るようだった。

「君は新人にしては歌がうまいし、このままいけばいいアイドルにはなれると思う」

 さっきまで溜まっていた怒りは溶け、熱はとうに消えていた。

「けれど長瀬麻奈という存在には決して届かない」

「っ……!」

 そう言われて再び怒りが湧いてくる。急に湧いて出てきた人に私の何が分かるというのだろうか。

 確かに私はまだまだ未熟だ。だけど厳しい練習を繰り返せばきっとお姉ちゃんに届くはず。

「そこまで言うんだったら、見せてください、あなたの実力を……っ」

「……だってさ、牧野マネージャー。実力みせちゃってください」

「いや、何で俺が歌わなきゃ駄目なんだよ!」

 飄々とした態度に腹が立つ。

 こんな人がソロで活躍できるほどの実力を持っているのか疑問が浮かぶ。

 どうせすぐにアイドルの世界から消えるに決まってる。

 澪は止めていた髪を下ろし、柔らかく口角を上げる。

「今回だけだからね。出血サービス」

 そしてどことなく既視感に襲われる。

 この雰囲気。近くで――

 そして澪の声が響くように、応えるように、桃色に染め上げられた。

 これが私と島津澪との邂逅だった。

 

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