職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせ致しました。稲妻編最終話となります。ちなみに文字数最多記録更新(約13000文字)

今回、女子達のパートを三人称視点で書き上げております。今後は迅視点、綺良々視点と、綺良々を含めた女子が多い時や、一人称視点では描写しきれない部分があるパートは三人称で書いていこうと思います。

バリ今更ですが、各視点の移り変わりはこのようになっています。

☆☆☆☆☆→迅

☆☆☆☆→綺良々

☆☆☆→三人称視点


11話 洞天女子お泊まり会、青年ひとりトッピング

 

 

 

「うわぁ〜…、すっかりビショビショやぁ」

「ううう…髪の毛濡れるのあんまり慣れないなぁ」

「外に温泉があるから、体を暖めよう。一応男女の仕切りもあるから迅も入れるよ」

「ハイ」

 

俺は今、女の子特有のいい匂いがする大きなお家で、雨によってビショ濡れとなった美少女4人の、あちこち透けたなんやかんやを見ないように全力で後ろを見ながら空返事を返した。あ、パイモン居たわ。5人ですね。

 

何故こんなことになったかと言うと、セイライ島を冒険してたらいきなりの土砂降り&雷が降り出し、屋根もないので俺たちは瞬く間にびしょ濡れになった。急いで蛍ワープで帰ろうとしたのだが、この格好のまま家に帰るよりも1度設備も揃ってるし天気が変わらない洞天に入って服を乾かそうという考えだ。

 

ちなみに俺はもちろん断った。さすがに女子の家に風呂借りる訳には行かないし、第一濡れそぼった彼女達は非常に目の毒だ。

 

厚着気味の綾華と濡れてもそんなに影響がない綺良々はまだいいが、サラシの宵宮と白い衣装で割と肌オープン気味の蛍があかん。蛍は衣装が肌に張り付いて元々の色もあって少し透けているし、宵宮は真っ赤な顔でいつも脱いでる片袖にしっかり袖を通している。袖を通す時に「サラシが…透けてまう…」と言っていたような気がしたが、聞こえなかった事にした。

 

なので俺は蛍に自分だけ自宅に送り届けてくれと頼んだが、笑顔で手を掴まれ気がついたらこの洞天に。

 

もちろん俺は抗議したぞ?でも両脇を綾華と綺良々に固められて「迅くん(兄さん)が風邪ひかないか心配なのっ!(心配なんですっ)」と上目遣いで言われて俺は詰んだ。ここから断るの無理やん。

 

外にあるらしい温泉に向かった彼女達を見送った俺はため息を落とす。

 

とりあえず俺も入るか。仕切りがあるそうだし特に心配はないけど。

 

 

 

 

ーーーーと思っていた時代が俺にもありました。

 

「いやホントに仕切りしただけかーい!」

 

邸宅の窓から見えないように岩の壁を挟んだ屋外。一体どう言う原理で湧き出ているかは分からないが、石造りのキレイで大きな温泉があった。……絶対に今設置した、雑な浴槽を縦断する木製の壁を除けばだが。

 

思わず手ぬぐいを石畳に叩きつける俺。よく見ると浴槽内部は完全に仕切られておらず、端にお湯が行き通る用のくり抜かれた穴があった。マジか、これ女湯と浴槽同じ!?大丈夫なんかそれで。

 

つか壁もそんなに高くない。2mくらいしかないし軽く跳んだら向こう側が覗けてしまう。いや覗かないけど。そんなことしたら俺が昼間の蛍術士みたいになるわ。

 

反対側に耳をすませるが、物音1つしないのでまだ女子たちは温泉には出てきてないらしい。先手必勝。俺は服を脱ぎ捨てると爆速で頭と体を洗って浴槽に入った。何となく女湯側に背中を向ける。

 

「……っぁ〜……」

 

もうすぐ夏とはいえ全身濡れたのもあって結構身体が冷えていたからこの温泉がめっちゃ染みる。冒険者をしていた時は大体野宿だったので2年の間で勝手に風呂が好きになっていた。

 

「女子が来ると気まずいし、早めに上がるか」

 

ホントはもうちょっと浸かりたいが我慢して15分くらいで湯から上がった。にしてもみんな遅いな。何してんだろ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「兄さんの背中…凄い傷跡ですね…」

「うん、迅の素肌初めて見たけど、傷跡が多いからあんなに肌を隠してたんだ」

 

そんなこともあろう訳もなく。迅が温泉に入ってきた頃には人と風呂に入る事に恥ずかしがる綾華を引き摺り湯に浸かっていた宵宮、綺良々、綾華、蛍、パイモンの5人は、彼が来た瞬間に談笑をピタリと辞め、蛍秘蔵の覗き穴で迅の入浴をしっかりと見ていた(覗きはどちらからとも犯罪です)

 

迅の体に残された傷跡は、昨日目の当たりにした宵宮と綺良々はリアクションはそれほどだが、初めて見る綾華と蛍は唖然として迅の背中を見ていた。

 

「なぁ旅人?良いのか覗き見なんかして?」

「ここは私の洞天だから私がルールです(暴論)」

 

不安そうな顔で、背丈の都合上温泉に入る段差のところで肩までお湯に浸かっているパイモンにのたまった旅人こと蛍は、迅が完全に温泉から去るのを確認すると壁から背を向けんんーっと伸びをする。その横で皆と一緒に風呂に入ることがまだ恥ずかしい綾華がバスタオルで体を隠しながらぽそりと呟いた。

 

「兄さん…あんな姿になるまでの鍛錬とは、一体どのようなものなのでしょうか?」

「うちらは昨日聞いたけど、確か目隠しで最高レベルの秘境とかやらされてたらしいで?なんか元素視覚の鍛錬とかで」

「そのような鍛錬を……あっ!昨日と言えば宵宮さんっ。兄さんのお家に泊まったって本当ですかっ?」

 

思い出した様に詰め寄る綾華。それをしまった!という顔で迎えた宵宮は目を泳がせた。それを見てさらに頬を膨らませる。

 

「むむむ…ずるいですっ。私でも泊まったことはございませんのに…。綺良々さんもそう思いますよねっ」

「へ?あっ、あー…、そ、そうだねっ」

 

いきなり話を向けられ、とんでもなく目を泳がせた綺良々。

 

「えっ?綺良々さん?…まさか…」

 

備考だが、綺良々は嘘が大の苦手である。それでも自分が飼い猫だと迅にバレないのは、序盤の鎌かけを耐え忍んだことと、迅が綺良々と話してる時の綺良々の可愛さによって知能が若干低下していることにより何とか助かっている。

 

当然この時の綺良々のしっぽは縦に揺れており、それほど深くない付き合いであってもそれが嘘をついているサインだと察していた綾華はわなわなと震えた。綺良々は助けを求める様に蛍の方へ視線を向けたが、彼女は面白いものを見つけたようなニヤケ顔でことの成り行きを見守っており、横の非常食も同様。

 

「なぁ綺良々ちゃん。もうこのメンツには話してもええんちゃうか?この5人で結構絡むのにうちだけ知ってるっちゅうのもアレやし」

「えっ?んん〜…、確かにそうかも…」

「なんだなんだ?なんの事だよ?」

 

パイモン共々頭上に「?」を浮かべる綾華と蛍に見えるように、綺良々は妖力を解き、猫の姿となって石畳に着地する。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして固まる3人に、少しドキドキしながら秘密を明かした。

 

「あの、私、実は迅くんのうちの猫なんだ」

「「えええー!?」」

「おっ、驚きました……」

 

目を見開いて素っ頓狂な声を上げる3人。その顔が見たかったらしい宵宮も満足気な顔を浮かべている。凝視され恥ずかしくなった綺良々は早々と姿を人に戻してお湯に飛び込んだ。顔の上半分を出してぶくぶくとさせる。

 

「で、昨日迅の家に泊まったときに、元々家に住んでる綺良々ちゃんも迅の傷跡を見てたっちゅー訳や」

「なるほど。羨ましいです…」

「なんや、綾華ちゃんも頼めばいいやん。妹なんだから、嫌がらないと思うで?」

「社奉行のお仕事がありますから、それほど長居が出来る訳では御座いませんし、それに…」

「それに?」

「その、帰国後の兄さんを…あまり直視して話せないと言いますか…。とても魅力的になられましたので綺良々さんがいるとはいえ、緊張してしまいます…」

 

顔を赤らめ、もじもじしながら言う綾華に綺良々と宵宮は「わかるっ!」と大きく頷く。そこに、パイモンがぶっ込んだ。

 

「ん?綾華は、迅の事が好きなのか?」

「っ!?」

 

顔を真っ赤にして湯の中を後ずさる綾華と、うわ、聞きやがったと戦慄の表情を浮かべる他3人。ぶっちゃけ傍から見たら惚れてるのは一目瞭然なので、何となく触れないようにしてきたのだが、そんなことお構い無しなのがこのマスコット兼非常食だ。

 

綾華はぷるぷると震えていたが、さすが社奉行神里家の令嬢。覚悟を決めて口を開いた。

 

「っ…ええ、私は兄さんをお慕い申しています。…こ、これでいいですか…」

 

覚悟は最後まで持たなかったようで、顔を両手で隠してしまった綾華におぉ〜っと歓声をあげる。その様子に目を輝かせた蛍とパイモンがさらに詰め寄った。

 

「で、いつから好きなんだ?ちなみにどこが?」

「いつから……明確には言えませんが、兄さんは私が幼い頃から遊び相手や色々なお世話をして下さいました。両親が他界し、綾人お兄様が当主を継いで仕事詰めになってしまった時も兄さんは私が寂しくならないように傍にいてくださったり、お兄様のお仕事を自ら手伝ったりと、神里家が没落しなかったのは、兄さんのおかげなんです。そこから憧れが募り…、自覚したのは兄さんが稲妻を出て、直ぐに鎖国令が出されて下手をすれば一生会えなくなる。という焦りを感じた時でした。その日の夜、一晩中布団の中で考えて、兄さんを…綾人お兄様と別の感情で見ているということに気づいたんです。……は、はいっ、私は言いましたよっ?宵宮さんと綺良々さんはどうなんですか?」

「「えぅ!?」」

 

唐突に向けられた矛先にびっくりしながらも2人も自分の自覚した時や迅とのエピソードを語り合う。少しした頃には昨日の宵宮と綺良々との恋バナみたいな和やかな雰囲気が醸し出されていた。

 

楽しくなった3人の次の矛先は当然横で見ていた蛍に移る。蛍はうーんと顎に指を当てて口を開いた。

 

「私は、モンドにきて最初に会った人が迅だったんだよね。そこから旅の先々で会う度に、知らず知らずの内に探しているお兄ちゃんにちょっと似てるなって思う時もあって…。私がどんなイタズラをしても構ってくれるし、面倒な秘境に誘ってもなんだかんだいいながら付いて来てくれるし、うーん…よくわからないけど、壁がない良い友達?みたいな感じかな」

「オイラも迅のことは好きだぞ!いつもご飯食べさせてくれるし!」

 

前に迅と蛍のツンケンしているようで仲がいい会話を聞いていた綺良々や初耳の宵宮と綾華も自分にはなれない関係性に羨ましそうな顔で見ている。

 

そこから女子風呂らしくキャッキャとおしゃべりをしながら体を温める。みんなで中々取らない綾華のバスタオルを剥がしに行ったり、不意打ちで宵宮が後ろから綺良々に抱き着き色々堪能したりと、音声を録音して売りに出したら飛ぶ様に売れそうな光景を生み出しながら、ゆっくりと温泉を堪能するのだった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「ふぃ〜、いい湯だったぜ〜」

「ううう、宵宮ちゃんのえっち…」

「ごめんて綺良々ちゃん…手が勝手に」

「勝手にってなに!?」

「うふふ…皆さんとお風呂に入るのは初めてでしたが、とても楽しかったです」

「その割にはずっとバスタオル離さなかったけどね」

「ううう…蛍さんっ」

 

 

お、風呂から上がったか。……………はッ!?

 

 

荷物から予備のインナーを着用して、邸宅の中の椅子に座って霧切の手入れをしていた俺は扉が開き中に入ってきた女子達を見るや否や、そっぽを向いた。いや見るや否やじゃないわ。結構凝視してもうた。

 

ちくしょう…!風呂入っても入んなくても目に毒には変わらねぇじゃねぇか!!

 

一体何が目に毒かというと、女子たちのお風呂上がりの格好である。

 

みんな自分の服が乾くまで蛍の服を借りて着ているようで、稲妻勢のレアな洋服姿が晒け出されていた。

 

みんな揃ってワンポイント入った白Tに紺やベージュのホットパンツを着用していて、普段膝丈のスカートの綾華や蛍の脚が全て晒け出され、特筆すべきは全員お風呂上がりだからか、髪を下ろしていて攻撃力と対男ダメージバフをバランス良く盛っている(?)

 

特に髪を結んでない蛍と屋敷にいた頃から割と見慣れている綾華はまだしも、昨日見たけど未だに目線が吸い寄せられるセミロング宵宮とハーフアップを解放しただけなのになんでそんなに可愛いんだ綺良々。思わず椅子ごと謎の力で吹き飛びそうになった。

 

それを強引に押さえ込み、霧切を鞘に収めて壁に立て掛けると彼女達の目以外に目線が行かないように気を付けながら出迎えた。

 

「おかえり。蛍、温泉ありがとな。いい湯だった」

「どういたしまして。お礼に絶「楽団の他に剣闘士もあげたんだから我慢しろ」……むぅ」

 

不満そうに頬を膨らます蛍。コイツ、50越えの羽の他に良さげな時計もあげたのにまだ要求しやがるか。その横から宵宮が割と至近距離で顔を出した。その勢いで下ろされた髪がふわっと揺れて女の子特有のいい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「なんや、うちらのこの格好にはノーコメントか?」

「……………宵宮?」

「ちょいまちぃ!?今、え?誰?みたいな顔で見てたで!」

「そんなことねぇよ」

 

あまりの攻撃力にちょっと意識飛んでただけだ。

 

あれ?コイツこんなに可愛かったっけ。そうやってそっぽを向き続けていると、今度は綺良々が目に入る。彼女はどうしたの?と少し前かがみになって必殺の上目遣いで俺を見ている。すると、割とオーバーサイズなTシャツの襟が広がり、奥からーーー

 

っッァァ!!

 

ーー見える前に間一髪で目線を逸らした。まじで、次から次へと油断ならねぇ。俺は疲弊した精神を安定させる為に綾華を見る。

 

俺とバッチリ目が合った綾華は何やらあわあわしていて、目線を外すとどこからともなく取り出した扇子で顔を覆った。そんな様子の義妹に癒されていると、ふと気がついたというか、さっきから気になっていたことがある俺は綾華に質問した。

 

「綾華?なんで今の格好でも磐岩吊ってんだ?」

「こっ、これは……!」

 

そう、激レア衣装であるTシャツラフスタイルの彼女たちだが、勿論手持ちの武器は風呂に入る前に邸宅の物置に置いてある。しかし、綾華だけが風呂に行く時も、そして帰ってきた今でも大切そうに磐岩を装備してしたので、気になった次第だ。まさか風呂にも入れてないだろうな?

 

「綾華…だから絶対突っ込まれるよって言ったのに」

「あ、お風呂には入れてないから安心してね」

「ううう…、兄さんから頂いた、大切な剣ですので…。その、ずっと持っていないと落ち着かないんです……」

 

大事にしてくれていることは嬉しいんだけどな……、まぁ、俺も霧切は割と肌身離さないし、俺がとやかく言えることじゃないけど……。

 

この後も俺は「じゃ、風呂に入って身体も温まったことだし、俺はこの辺で…」と泊まりを拒否して帰ろうとしたのだが、通行証を持ってない俺は蛍に送って貰うしかない。ちなみに蛍にぬるっと無視され、俺は泣いた。

 

 

 

 

その後、俺達は二手に別れて夕飯の準備と衣服の洗濯をすることに。オーダーは外国の料理ということもあって、料理をするのは俺と蛍だ。自分の服は自分で洗濯するからいいと言ったのだが、有無を言わさずに持っていかれた。今日、俺の意見何一つとして通ってなくね?

 

「で、夕飯何作る?稲妻勢の口に合わせる外国料理なら、無難にモンドだと思うんだが」

「そうだね。満足サラダと…鳥肉のスイートフラワー漬け焼きにしようかな」

「…それ、お前が食いたいやつだろ」

「…ちがうもん」

 

漬け焼きは丸鶏そのままだと食べにくいから、モモ肉で作ろうか。

 

帰宅案を即却下された俺がへの字口で肉を漬けるソースを作っていると、横で満足サラダに乗せるリンゴをくし切りにしている蛍が呆れた顔をする。

 

「もう、なんでそんなに帰りたがるの?」

「あのな、女の子5人の中に男1人で、気まずいからに決まってんだろ。それに今のお前らの格好…見て喜ばない男は居ないと思うぞ?」

「…へぇ〜、じゃあ迅も私の服見て喜ぶんだ?」

 

そう悪戯に微笑み、少し身体を寄せてくる蛍。これが綺良々だったら慌て物だが、これまでの付き合いからこいつがただからかってるだけなのを知っている俺は、視線を手元から離さずにカウンターを打ち込んだ。

 

「それ以上近づくと俺、蛍のこと大好きになってモンドのアルバートとファンクラブ立ち上げて追っかけ回すからな。愛称は「ほたちん」なんてどうだ?」

「ごめんなさい。勘弁してください」

 

顔を青くしすぐさま離れる蛍。ちなみにこれは実話で、モンドの危機を救った栄誉騎士こと蛍が、その整った容姿も相まって野郎共に大人気になった時期があった。その時に立ち上がったのはご存知バーバラファンクラブ会員No.1のアルバート。趣味はバーバラ様の観察。いやお前はバーバラ一筋だろとの俺のツッコミは流され、バーバラと蛍でユニットを組ませようと企んでいた時期がある。その後会員を募ったら大量の野郎が集まり蛍の愛称を「ほたるん」か「ほたちん」か。2分した野郎共が夜中に大乱闘を巻き起こし全員騎士団にしょっぴかれるという事件があった。それの当事者ならその反応にもなるよな。

 

「でも、皆も迅の事が心配だったんだと思う。だって1番雨に打たれてたでしょ?」

「まぁ、そうだけど…」

 

蛍がキャベツを刻みながら言う。実を言うと、雨が降り出してから直ぐに洞天に来た訳じゃなくて、少し雨宿りをした。俺は皆をセイライ丸の中に避難させて、自分だけで鳴草と天雲草の実を回収して戻った話がある。

 

「それに、迅はこういう時に何か間違いを犯す人じゃないって知ってるし。私、結構人見る目あるつもりだよ?」

 

などと珍しく随分と褒めてくれる。まぁ、元々なんかするつもりは無いけど、そんなに信頼されてるなら裏切る訳には行かないな。

 

ソースを作り終わった俺は、そこにフォークを刺して塩胡椒で下味を漬けた鳥もも肉を漬け込む。ちなみに今日の主食は米なのでご飯に合うように甘めのソースに醤油を加えてひと煮立ちさせた甘辛の白米が飛ぶヤツ。肉はこのまましばらく放置だ。ソースの味見をした蛍は「女の子にこんなにご飯が進むものを食べさせるなんて……悪魔」などと言っていたが、お前。しれっと研いでる米を1合足したの気づいてるからな。

 

肉を漬け込んでいる間にネギを刻んでサラダに余ったキャベツを鳥の骨から取った出汁にぶっ込み溶き卵を落としてスープを作っていると、蛍がぶっ込んだ。

 

「で、迅はあの3人だったら誰が好みなの?」

「ぶっ!?」

 

いきなり何を聞きやがるコイツ。鍋に降ってた胡椒の瓶をあわや落としかけ、何とかキャッチする。蛍はそんな俺が可笑しいのかクスクスと笑った。

 

「な、なんだよいきなり?」

「いや〜、あれだけ好かれてたら気にもなってくるでしょ。なんか気づかないようなフリしてるみたいだけど、他の人に向けられる意識とか視線とか、逆にそういうの鋭い方でしょ君」

「ぐっ…」

 

図星とばかりに視線を外す俺に、ニヤニヤと笑う蛍。

 

「…仮にそうだとして、俺にはそういうのあんまりよく分からないんだ。この歳で何言ってんだって感じだけど……今までずっと修行漬けだったし」

 

実際、あの3人が俺に好ましい意識を向けてくれていることは所々察するところはあった。ただ、それがどの意味の好意か俺にはわからない。家族としてなのか友達としてなのか、後輩としてなのか。それに欲張りかもしれないが心地いい今の関係を俺側が意識し出すことによって崩れるのが嫌だという思いもある。そんな俺に蛍は指を立てて聞いてきた。

 

「うーん…、その子が他の男の人と仲良く喋ってるのを想像して、どう思う?」

「……ん、綾華は元々皆から人気だし、宵宮はコミュ力お化けすぎて逆に仲良く喋ってない時の方が驚くし…綺良々も明るくてよく喋るからあんまり…」

「だめか…。じゃあ、エウルアは?すごく仲良かったでしょ?」

「エウルアはまた事情が違うんだよ。アイツが男と仲良く話してる所…なんか泣けてきた」

「なんで!?」

「いや、アイツが騎士団やディルック以外の人と邪険にされずに喋ってるとか感動もんだろ」

 

蛍から素晴らしいジト目を貰い受けたので真面目に考えてみるが、多分これは嫉妬をするかっていう質問なんだろう。もうちょっと具体的に考えてみると、なんだろ、綺良々が他の男と仲良く手を繋いだり、お姫様抱っこされてるのを想像した時、少しだけ苦しくなった。ただ、それが蛍にバレるとろくな事にならないなと思った俺は少し誤魔化して答えを出した。

 

「うーん、…なんか、俺、みんなのことをどっちかと言うと家族?として見てる節があるかも」

 

妥協の考えを俺が顎に手を当てて言うと、蛍はため息をひとつ落として「ま、そこがわかっただけいいか」と出来た満足サラダをお皿に盛り付けた。そのお皿を手に持ちリビングに向かう所で振り返る。

 

「じゃあ、私達を家族として見てるなら、今日泊まってっても大丈夫だよね」

「あっ、言質取られた」

 

 

 

 

 

 

「あっ!迅くんっ!みてみて!宵宮ちゃんにこの髪型やって貰ったんだ!」

「兄さん、お料理お疲れ様でした。皆さんに髪型を教えて頂いたのですが…いかがでしょうか?」

「ちょっ、この髪型はうちには似合わへんって…、迅はあんまり見いひんといてぇ」

 

俺、やっぱ3人とも好きなのかなぁ(馬鹿)

 

鳥肉も焼いてテーブルに運んだ後、料理の後片付けを終えてリビングに戻った俺を出迎えた3人娘に、俺は先程の悩みが全て吹っ飛んだ。もう全員俺のこと好きなんじゃないかな(錯乱)

 

さっきから髪型チェンジによって俺を討伐しようとしているのか、3人とも髪型をガラッと変えて俺の前に現れ、俺の悩みは全て吹っ飛んだ。あれ?さっきと同じこと言ってるような気がするけど、まぁいいや(目に全神経集中)

 

綺良々のハーフアップを真似た綾華は普段より清楚さが増してめちゃ可愛い。今は普段もみあげにつけてる飾りもとっぱらっているのでこれまた印象が違った。

 

ほんで宵宮。普段ひとつ結いが多いから、下ろしただけで別人化するのはお分かりだろうが、今回宵宮は赤いリボンでツインテールになっていた。多分この宵宮が俺と道端ですれ違っても全く気づかないだろう。そのくらいいい意味で別人だった。

 

そして対俺特効兵器きらーら。もうぶっちゃけなんでも可愛いのだが、目の前にずいっと現れたツーサイドアップの綺良々に俺の目は浄化された。あれ、なんか疲れが取れたような気がする。肩こりも治ったし、肌もツヤツヤになった気がするな。(全部温泉の効果)

 

ちなみにまだみんなは生足大開放の格好なのでできるだけ眼をじっと見ながらそれぞれ褒めると、みんな顔を赤くし俯いた。ちなみにここまで死ぬ気でポーカーフェイスを保っている。一応これは戦闘時に相手に自分の疲れ具合や感情を読まれないように仙人から習った技術なのだが。すみません魈仙人。全然関係ないところで大活躍してます。

 

 

その後はみんなで夕食を楽しんだ。料理はとても好評で、俺はまだ大口を開けて待機するパイモンに肉を放り込む遊びを敢行。皆も皆で白米に極限まで合うように作られたスイートフラワー漬け焼きに白米が飛ぶようになくなり、デザートに綾華が作った緋櫻餅まで平らげ、食後に正気に帰り膝から崩れ落ちる女性陣は必見だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「おにく……おいしかったなぁ〜」

「ほんとやなぁ…。うち、ご飯3杯も食べてもうた…、明日から調整せな…」

「昨日も迅くんのハンバーグ食べてたし…いいなぁ」

「あれもほんま美味しかったわぁ…、うわ、思い出しただけでまたヨダレが」

 

迅が振舞った絶品の料理と綾華特製の緋櫻餅を平らげてしまった年頃の乙女達は、蛍の自室に全員で布団を敷きだべっていた。

 

そこから話題は最近の美味しいお菓子のお店や、服屋の話等といかにも女の子らしい話題に華を咲かせ、次第にここにいない1人の青年の話に移ってくる。

 

「ねぇ蛍ちゃん」

「ん?なに?」

「いやね、前から気になってたんだけど、迅くんってどのくらい強いの?」

 

布団に仰向けに寝そべりながら発せられた綺良々の質問に宵宮と綾華も食いつく。3人とも一応迅の戦うところは見ていても、彼が「本気で」戦うところは見たことがない。それなら蛍は見たことあるんじゃないかと思って聞いてみたらしい。パイモンを膝に乗せて布団にお姉さん座りをしている蛍は膝のパイモンと眼を見合わせて。

 

「うーん、多分、この世界の人間の中ではかなり強い方だと思うよ。私も勝ったことないし」

「蛍さんも兄さんと戦った事があるのですかっ?」

「うん。ちょこっとだけね。お互い本気じゃなかったけど、勝てる気がしなかったよ」

 

そういい蛍とパイモンで、みんなに迅の強さを語り出す。主に蛍は技術面で、パイモンは旅の途中の大きな戦いで迅が見せた活躍などを、それぞれ話した。

 

「それで、迅の本気だよね。私は1回だけ見たことあるかな」

「ああ!璃月の魔神オセル戦のときだよな!オイラもよく覚えてるぞ」

「それでどんなんやったんや?魔神を一撃でやっつけたとか?」

 

そんな宵宮に蛍とパイモンはくすりと笑う。

 

「みんなさ、迅の2つ名あるじゃん。あれちょっと疑問を抱かなかった?」

「ぎもん?」

 

首を傾げる綺良々に、ほらさ、と蛍は続ける。

 

「蒼閃迅雷、って言われてるけど、迅にそんな青い要素あると思う?確かに瞳は綺麗な青色だと思うけど、雷元素の色は紫だし」

「言われてみればそうですね。なぜ…蒼い閃き、なのでしょうか」

 

言われてみればそうだ。蛍が言ったように雷元素の色は紫。扱うのが誰であっても基本的には紫色だ。揃って首を捻る皆にパイモンは自慢げに語る。

 

「それがな!オイラ達が璃月の群玉閣ってところから仙人達とオセルを攻撃してた時に、相手の反撃を受けたんだ。なんか白い光がばぁ〜って空に昇ったと思ったら、たくさんの光が降ってきて…オイラもうダメかと思ったぞ!でもなっ、そこに迅が駆けつけてくれて、降り注ぐ光を全部吹き飛ばしてくれたんだ。空を覆うくらいの数だったのに剣圧だけでだぞ!」

「わぁ…!そら凄いなぁ」

「それで駆け付けた迅を見て皆驚いたんだ。あの仙人達が目を見開いてるのは必見だったぞ!」

「お、驚いたとはどういう事ですか?」

 

珍しく空を飛ばずに布団に正座で思い出話をするパイモンさながら講談師のようで、それに他の3人が真剣に話を聞いている。そこで蛍は口を開いた。

 

「その時の迅、纏っている雷が青白かったの」

「「「ええっ!?」」」

「ああーっ!旅人!おいしいところだけ話すのずるいぞっ!」

「えっ、ちょいまちぃ!雷元素の色って…」

「うん。だから皆驚いたんだと思うよ。しかもただ色が違うだけじゃなくて、元素力が物凄く強くて、妨害に出てきたファデュイがまるで相手になってなかったよ。最終的にオセルの首を全部吹き飛ばしてた。再生されちゃってたけど」

「蛍さんは、兄さんにその青い雷の事は聞かなかったのですか?」

 

まだ驚きから覚めていない綾華が手を上げて質問する。

 

「うん、もちろん聞いたよ。でも迅のホントの奥の手らしくて、ほとんど教えてくれなかった。…これが私達が見た迅の本気」

 

そう話を締め括り。ぶーたれてるパイモンの頭を撫でる蛍。話を聞いていた3人は想像を超えるスケールの話に若干現実味がわかなかった。

 

「んん〜、話がとんでもなくて圧倒されちゃったけど、とにかく迅くんは凄いって事だよね!」

「凄い!ってそれでええんかいな綺良々ちゃん…」

「うふふ…、良いではありませんか。兄さんの強さを知れて良かったです。蛍さんにパイモンさん、ありがとうございました」

「いえいえ」

 

 

 

そこからみんなできゃいきゃいと迅について色々と話す。特に神里にいた頃の迅のエピソードは綾華以外には貴重で本人が聞いたら羞恥で床を転がり回るような話もどんどん話されていく。

 

そうして話してるとしばらく。そろそろ日付も変わる時間帯になったあたりで、普段規則正しい生活をしている綾華が船を漕ぎはじめた。

 

そろそろ時間も遅いし寝ようかという雰囲気になったところで、綺良々があぁっ!と声をあげた。

 

「わわっ、どうしたんやいきなり。綾華ちゃん起きてまうで?」

「わたし、報告しなきゃいけないことがあったの忘れてた!エウルアさんの事っ!」

「エウルアさん?知らん名前やけど、その人がどうかしたん?」

「…多分、稲妻を出てる2年の間で、迅くんと1番仲がいい女の人」

「なんやて!?」「なんですって!?」

「うわっ、綾華ちゃん起きたぁ!」

 

綺良々の口から発せられた外国のライバル出現によって眼を剥く宵宮と飛び起きる綾華。それに驚く綺良々。それを見ながら蛍はわぁ、ついに広まっちゃったと頬杖をついて見守っている。ちなみにパイモンはとうに夢の中である。

 

「蛍ちゃんはエウルアさんって知ってる?」

「うん。友達だし」

「どんな方なんですかっ?」

 

興奮して蛍に詰め寄る宵宮と綾華。正直もう寝たい蛍はおざなりな返事を返した。

 

「美人、スタイル抜群、料理上手、すごく強い、騎士団の遊撃隊長」

「完璧やんけ!」

 

しかもかなりの強敵と見た。宵宮と綾華はわなわなと震える。

 

「た、確か兄さんと綺良々さん、来週お仕事で璃月とモンドに行かれるのでしたよね…」

「うん…、多分エウルアさんと遭遇するかも…」

 

頭を抱える3人娘。出来ることならついて行って一言なり話してみたいのだが当然花火屋と社奉行の仕事がある。同行は絶望的であった。

 

「ふ、2人とも?大丈ーーヒィッ」

 

俯いて動かなくなった2人に心配して声をかける綺良々は両肩をガシィと捕まれ悲鳴がこぼれる。顔を上げた2人の目が笑ってない笑顔に更に震え上がった。

 

「迅くんが他の国の女の物にならないかは綺良々ちゃんにかかっとる。…頼むで?」

「お願い致しますね、綺良々さん……!」

「ほ、蛍ちゃん!たすけーー」

 

両脇から凄まじい圧をかけられ、綺良々は思わず本日何度目かの蛍に助けを求めた。

 

「…すー……すー…」

「って、寝てるぅーー!」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「や、やっと全員寝た…!」

 

全員寝たことを確認したわたしは2人に色々引っ張られて乱れた服を着直す。もー…、2人とも怖いんだから…。

 

でも、今日はすごく楽しかった!皆で冒険できて、突然の雨でこんなことになっちゃったけど、皆でお泊まりするってこんなにワクワクすることなんだね!

 

さてさて、人間のみんなは寝る時間になるんだけど、猫の私はこれからの時間が活動時間。といっても人間になれるようになってからだいぶ人よりになっちゃったけど、まだあんまり眠くない。ちょっと外の空気吸いにでも行こうかな。

 

わたしはみんなを起こさないように気をつけながら部屋を出るとリビングを通って外に出た。この家がある蛍ちゃんの洞天っていう空間はりーゆえの仙人さんが作ったものらしいんだけど、ちゃんと星空が出ててすごく綺麗。風も気持ちいいし、お昼寝したら気持ちよさそう〜。

 

わたしが周りを見渡していると、家からちょっと離れた岩の上に人影が見えた。透き通るような闇色の髪に綺麗な青色の瞳。洗濯が終わってすっかり元の格好に戻った迅くんが星空を見上げていた。そういえば迅くんは寝る前に夜空を見るのが日課だったっけ。

 

迅くんは近づく私に気がつくと、にかっと笑いかけた。…はぅ、さっきまで迅くんの話をみんなでしてたから彼の一挙一動がわたしの心を跳ねさせる。

 

「綺良々か。そろそろ遅いし寝た方がいいんじゃないか?」

「いーのっ、元々夜行性だしっ、迅くんこそ、そろそろ寝ないの?」

「今日は色々ありすぎて眠れないんだよ」

「ふふっ、なにそれ」

 

そういい、さりげなく隣に座る。迅くんはじっと私を見つめて、おもむろに頭を撫でてきた。いつもをこっちから頼まないとしてくれないからちょっとびっくりする。でも、嬉しい。わたしは迅くんの手に頭突きをするように頭を擦り寄せる。

 

そうしてしばらくなでなでされていると、迅くんが口を開いた。

 

「そういえば、来週だな。璃月行くの」

「うん!すっごく楽しみだよ!」

「ああ、俺も久しぶりだから仕事とはいえ楽しみだ」

「迅くんが帰ってきてから、もうすぐ半年だもんね。なんかあっという間」

「ああ。同感だ」

 

空を見上げながら言う迅くん。それを見てふと思ったことが自然と口から出た。

 

「迅くんは、狛荷屋に入って後悔はしてない?」

「ん?どうしたいきなり」

「だって、迅くんくらい有名なら冒険者でも食べて行けたんじゃないのかなって。そしたら自分の好きに色んな国に行ったりとかできるのに」

 

そう私が聞くと、迅くんは苦笑して私の髪を梳いた。

 

「全然後悔なんかしてないよ。確かに冒険者のままでも多分、宵宮や蛍、綾華とこうして関わったりはしたと思うけど、それじゃ一人足らないだろ?」

 

迅くんは私と顔を見合わせる。迅くんの蒼穹の瞳に吸い込まれそうになっている私に更に続けた。

 

「もしこの先、狛荷屋に入った事でマイナスな出来事があったとしても、絶対にあの日狛荷屋に行ったことは後悔しないって断言できるよ。だって、綺良々に会えたからな。その…、今の俺にとって綺良々が居ないとか考えられん。人生やり直す機会があったとしても、綺良々に出会うためになんとしても狛荷屋には入るからなっ」

 

やばい、今顔真っ赤だ。ううう…、なんでそんなこと言うの…もっと好きになっちゃうじゃん…。

 

今が夜なのが幸いして、多分見えては無いとは思うけど…。過去最大に赤面した私は、俯いたまま「ありがとう。変な事聞いてごめんね。おやすみなさい」と言いながらその場を離れるので精一杯だった。

 

「ああ、おやすみ」と迅くんの優しい声を背中に受けながら部屋に舞い戻り、布団を頭から被る。迅くんの撫でる優しい手つきや声がずっと残っていて、逆に身体が火照ってくる。

 

ううう〜、今夜寝れるかなぁ。

 

そうして、私は寝れない夜を過ごし、翌日朝食を食べている時に船を漕いでいるわたしを見てみんなは首を傾げるのだった。

 

 

 

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