おまたせしました。またもや12000文字での提供です。
どっかで切りたかったけど、流れ的に切れず……。
全話の迅くん詳細出すの割とビビっておりました。もしかしたら誰も興味無いんじゃないかなーって。ですが割と評判良くてびっくりしました。
正直、この小説で迅くんの話を書くのがちょっぴり怖いんですよね。
読んで下さる方達は皆、綺良々を見に来ていて、オリ主とかどうでもいいのかなーと(個人的に迅くんのお話も綺良々も両方同じくらい書きたい)
もし良ければ感想欄などでご意見貰えれば嬉しいです。
……迅くんが足りなぁーーーい!!!
お昼ご飯を食べようと商店街に歩いている迅くんの背中を見て、わたしは心の中で叫んだ。
うぅ…稲妻を出発してから迅くんに全然くっつけてないよ…。
死兆星号の中でも、わたしは他の船員さんたちに囲まれててなかなか会いに行けなかったし、特に寝る部屋が別々なのがすごく痛い。前、蛍ちゃん家に泊まった時は夜中に話して充電できたけど、今回はもうエネルギー切れそうだよぉ〜。
はぁ、迅くんが帰ってきてからはほぼ毎日家に帰ってきてくれてたから、ずっと一緒に寝てたけど、まさか1日でこうなるなんて……よく2年も耐えれたよね、わたし。
それに、わたしは宵宮ちゃんと綾華ちゃんに、外国の迅くんの女の子の知り合いについて調査を頼まれてる。まぁ、わたしもソコは気になってたから了承したんだけど、正直警戒するのはエウルアさんくらいだと思ってた。
とか、思ってたらさぁ!もう既に3人知り合い出てきたんですけどぉ!?
まだ凝光さんは依頼主、みたいな感じだったけど、もう1人の七星さんと、甘雨さんはちょっと怪しい。特に刻晴さん!迅くんを最初に見た時のあの表情…多分黒だよ!
我慢出来なくなった私は、迅くんの隣に並んでするりと手を握る。迅くんはちょっと驚いてわたしの方を振り向いた。
「その、人が多くてはぐれそうだから…」
「そ、それなら仕方ないな」
そう言い、迅くんは手を握り返してくれた。その瞬間、胸の中がぽかぽかしてきて、さっきまで気にしていた他の女の人の事が吹っ飛ぶ。
すっごくうれしいのに迅くんの顔が見れない。それでも離れるのはいやで、わたしは1歩彼に近づーーー
「あれ?そこにいるのは迅と綺良々じゃないか?おーい!」
「迅、もうこっち来てたんだ」
ーーこうとしたところに、元気な声が響き私はビュッと音が出そうな勢いで迅くんから離れる。そんな私たちの元に声の主のパイモンと蛍ちゃん、その後ろから白髪のすごくキレイなお姉さんが歩いて来た。
そのお姉さんは璃月港の人たちとはまた違う服装で、服の種類というか、雰囲気が甘雨さんに似ている気がする。すごく動きやすそう。そう思いながら少し視線を下げた私は戦慄した。み、神子様よりも大きい…。
なんだか迅くんを見ているような気がするけど…、まさか知り合いじゃないよね?そんなわたしを尻目に迅くんが片手を上げて挨拶した。
「よう。今日の午前に着いたんだ。凝光さんとの契約が終わってこの後モンドに出発する所なんだ」
「オイラ達は今群玉閣の再建を手伝ってるところなんだ!あ、紹介しないとな、こっちが…」
「久しいな、迅」
パイモンを抜けて歩いて来たお姉さんは迅くんを見て微笑んだ。はいやっぱり知り合い〜。女の人の知り合い多すぎぃ〜!迅くんはお姉さんに頷くと、挨拶を返そうとして…ってちょっとちょっとちょっとぉ!!?
「んむ!?」
「「!?」」
「1年ほど振りか。師匠も会いたそうにしていたぞ?」
「んー!…んんー!」
お姉さんは挨拶しようとした迅くんの首の後ろに両手を回すと自分の胸に迅くんの頭を埋め込んだ。迅くんも必死に脱出しようとしてるけど、息ができないのか上手く力が入っていない。私はすかさずお姉さんに噛み付いた。
「ねぇちょっとなにしてるの!?」
「む?ただ挨拶しているだけだが?」
そう言い迅くんを抱え直すお姉さん。迅くんも酸素が危ないのか、少しくたぁ〜としてきた。
ぐ、ぐぬぬ…、わたしじゃ出来ないことをぉ〜…。迅くんと手を繋いで気が和らいでいたさっきとは一転して、わたしは涙目だ。
「し、申鶴?迅がそろそろ窒息死しそうだから、離してあげて…」
「それはいけないな」
そう言い、お姉さんは迅くんを離す。わたしは息切れしている迅くんを慌てて支えた。
「じ、迅くん大丈夫?」
「し、死ぬかと思った…ありがとう綺良々」
「ううん、気にしないで。…あの人迅くんの知り合いなの?」
「すまぬ、自己紹介がまだだったな。我は申鶴という。迅の姉だ」
「へ?」
「「「!?!?」」」
キレイなお姉さん…申鶴さんがぶっ放した衝撃発言に場が凍る。ギギギと油を刺してない機械のような首の動きで旅人とパイモンの方を見たけれど、2人も「知らない知らない」と首をぶんぶん横に振った。当の迅くんも心当たりがないのか、若干震えた声で呼びかけた。
「し、申鶴?」
「迅、我の事はお姉ちゃんと呼べ」
「な、なぜ?」
「我は迅の事を支えたいからだ」
「……それで?」
「我の事をお姉ちゃんと呼べ」
「???」
あ、迅くんが停止した。完全に思考がオーバーヒートしたみたい。
固まってる彼の横から汗をかいたパイモンと蛍ちゃんが顔を出す。
「えっと…、申鶴って迅と血が繋がっていたのか?」
「いや?血は繋がっておらぬぞ?」
「ならなんでいきなり姉なんて言い出したの?」
すると申鶴さんは懐から1冊の本を取り出した。裏表紙に「八重堂」と書かれていたのが見えてしまい、私と迅くんは目を見合わせる。あ、迅くんも察したみたい。こめかみに手を当てている。
「この本に書いてあったのだ。支えたい人がいるなら、その人の姉になればいいとな」
「…ん?この本、八重堂って書いてあるぞ!これたしか神子のところが出してる本じゃないか!」
「…なんで稲妻の本が璃月にあるの?」
「ああ、それはーー「しーんーかーくー!!!!」む?」
そう言い、申鶴さんが口を開いたその時、わたし達の背後からこちらを呼ぶ声が聞こえてきた。振り返ると、頭に怒りマークをつけた甘雨さんがこちらに走ってきて、申鶴さんに飛び付いた。かなり慌ててるみたいで、申鶴さん以外は目に入ってないっぽい。
「申鶴っ!あなたまた私の部屋から本を持ち出しましたね!!」
「自由に読んでいいと言ったのは姉君ではないか」
「持ち出していいとは言ってないですっ!あああ…しかもよりによってその本を…。私がこんな本を持ってるなんて迅に知られたらどうしてくれるんですか!」
「ん?知られても良いではないか。やましい事でもなかろうに」
「やましい事なんですよ!とととにかく申鶴。早くその、ほんを…こちらに……」
「「「「………」」」」
あ、やっとわたし達に気がついた。甘雨さんが真っ赤な顔でこちらをゆっくりと見る。どうでもいいけどやましい事ってなに?んん??
迅くんも気まずいのか。咳払いをすると、甘雨さんに軽く手を挙げる。
「………ども」
「…………………ち」
「ち?」
「ちがうんですぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「甘雨さん!?」
これ以上無いってくらい真っ赤になった甘雨さんは、本をひったくるように申鶴さんから奪って、両手で顔を隠して猛烈な勢いで走り去る。それを見た蛍ちゃんとパイモンも申鶴さんを連れて後を追おうと走り出した。
「甘雨!待ってくれぇ!」
「申鶴!甘雨を追うよ!追って謝って!」
「致し方あるまい。迅、お姉ちゃんとまた会おう」
「それは続けるのな」
蛍ちゃんとパイモンもわたし達に「またね!」と挨拶すると、その場から走り去っていく。あっ、蛍ちゃんに伝えたいことがあったのに!
私が蛍ちゃんを呼び止めようとすると、走っている蛍ちゃんが私の方へ向き、洞天通行証を見せながらウィンクした。どうやらもう話は伝わってそう。良かった。
取り残されたわたし達は顔を見合わせる。
「なんか……なんだったろうな」
「………お姉ちゃん、ね」
「ひっ」
わたしが低い声でポツリと呟くと肩を跳ねさせる迅くん。ちょっと面白い。
「…いまのが仙人さんのお弟子さんなの?」
「あ、ああ。そうだ」
「申鶴さん、甘雨さんのこと姉君って呼んでたけど…もしかして甘雨さんって…」
「ああ、本人は周りに伏せてるみたいだけど、あの人は仙人とのハーフなんだ。だからあの2人は俺の姉弟子、ってことになる」
「ふーん。…さっきは仕事の付き合いだけって言ってたくせにっ」
「へ!?いやそれはなっ」
「しーらないっ。ほら、ご飯食べて、モンドに向かうよっ」
わたしはあたふたと慌てる迅くんの手を今度こそ引いて、商店街に向かうのだった。
☆☆☆☆☆
「ううう〜…まだしたがしりひりしゅる〜」
「まったく。だからあの赤いのはやめとけって言ったのに」
チ虎岩にある万民堂で昼食を済ませた俺たちは、再度璃月の北側に歩いていた。
万民堂は璃月人みんなから愛される大衆食堂で、俺も当時はよく行ってたのでついでに顔を出した感じだ。店主の卯さんとその娘の香菱に迎えられ、ちょっぴり豪勢な昼食を頂いた。
ちなみになんで綺良々がこんなんになってるかというと、俺の制止を超えて黒スズキの唐辛子煮込みを食べたからだ。璃月料理は辛いのが美味しいと稲妻で聞いていたようで意気揚々に頼んで1口食べ、口から炎元素。
「あのな、璃月人の辛さ耐性はちょっとおかしいレベルだって言ったろ。その人たちが辛いって言う料理だぞあれ」
「反省してましゅ〜」
どうでもいいけど、辛くて舌っ足らずの綺良々がさっきからかわいい。舌がまだ熱いようで、「れっ」て舌を出しながら喋ってるから噛まないかちょっと心配だ。
「ま、狛荷屋の名前売るってアレからしたら成功じゃないか?口から火ぃ吹いてる猫又とか、凄い目立ったろうし」
「うう……迅くんが意地悪だぁ」
なお、まだ手は繋いだままである。店を出てから辛くて息遣いが荒い綺良々がちょっと寄りかかってきてるので密着度といい、周りの男どもの視線といい、色々まずい。
俺は途中露店で買った牛乳を飲ませて辛味を軽減させながら歩き、璃月港の北門まで歩いてきた。牛乳のおかげで元に戻った綺良々が俺に問う。
「ここからモンド城までどうやって行くの?」
「モンドはこの道をずっと北に行くと着くぞ。でもそろそろ夕方になりそうだから途中の望舒旅館で1泊する予定」
「望舒旅館?」
「望舒旅館は璃月とモンドの中間にある旅館だな。飛び込み用の宿だから客室もいっぱいあるし、景色も綺麗だ」
「へぇ〜!楽しみ〜!」
「…………ひとへや?」
「そう1部屋。今はそこしか空いてないわ」
望舒旅館のオーナー。ゴレットさんにそう言われた俺は、思わずこてんっと首を傾げた。
「……ひとへや」
「今再建中の群玉閣の浮き石を探すんだってたくさんの人が帰離原に来てたのよ。その人たちが一斉に泊まりに来てこの有様。残念だったわね」
「…………………………ひとへや」
「だから1部屋だつってんでしょうが。何度聞き返しても部屋は増えないわよ。……別に彼女となら同じ部屋でもいいでしょう?」
「彼女じゃないです」
「あら。仲良くお手て繋いできたからカップルかと思ったわ」
「………」
なんにも言えなくなった俺はすごすごと綺良々の元に戻る。
「ん?迅くんどしたの?」
「それが…部屋が1部屋しか空いてないって」
「1部屋しか空いてないのぉ!?」
なんで嬉しそうなん?
俺はため息を吐くと、後頭部をかく。はぁ、ま、1部屋しかないなら仕方が無いか。俺は何故か瞳がキラキラしてる綺良々にペンとサイン書を持たせる。
「じゃ、俺はそこら辺で野宿するから綺良々は部屋で泊まって」
「え!?」
俺がそう言うと綺良々は首をぶんぶん振り、そこから俺たちは一緒の部屋に泊まるか泊まらんかとぎゃいぎゃいやり始める。
「だダメダメそんなの!わたしは構わないから一緒の部屋で!」
「俺が構うわ!あとお前このダブルって意味わかって言ってるのか?大きいベッドが1つしかねぇんだぞ」
「エッ…………し、知ってたよぉ!」
「うそつけ絶対知らなかっただろ!ほら俺はいいから1人で泊まって来いって!俺は野宿とか慣れてるからっ」
「やだぁー!ならわたしが外で寝るっ!」
「それこそ駄目だ!女の子に野宿させて俺だけ部屋でのうのうと寝れるわけないだろ!」
「良いじゃん一緒の部屋で!行かないでぇー!」
もういいと望舒旅館の外に向かおうとする俺の腰にすがりついて止めてくる綺良々。
「いやなんでだよ!男女で同じ部屋同じベッドとか、綺良々は嫌じゃ「嫌じゃない!」…え?」
「…ぁ」
思わず綺良々の方を振り返る。彼女は彼女で口を抑えて赤くなっていた。
「えっと…」
それはどういう意味?と口から出そうになってギリギリで押しとどめる。
綺良々はだって…と立ち上がると、俺の顔を見て捲し立てた。
「だって、迅くんと船で全然話せなかったし…、璃月港にも知り合いが沢山居て、なんだか稲妻にいる時よりも楽しそうに見えて……」
「それって…寂しかったってことか?」
「っ………ぅん」
か細い肯定を返し、綺良々は赤くなった顔を手の甲で隠す。でも目線までは隠さなくて、チラチラとこちらをみる翡翠色の瞳と目が合った。
その姿があまりにも可愛らしくて思わず頭を撫でると、彼女は目を細めてなすがままにされていた。
……そこまで言われて断ったら俺の方が悪者だなこりゃ。
「……はぁ」
「……っ」
俺が手を離して再度ため息を吐くと、断られると思ったのか綺良々の肩が少し跳ねる。
「ま、しょうがないか」
「迅くん……!」
根負けして承諾した俺に、綺良々の表情がみるみる明るくなっていく。そんな俺たちにカウンターの裏のゴレットさんが甘さで気持ち悪くなったような顔をして、部屋の鍵を投げ渡してきた。
「はいはい、一緒の部屋でいいんでしょ?早く行った。……青いわねぇ」
「ありがとうございますっ!ほら早くいこっ?」
俺はご機嫌な綺良々に引っ張られ、部屋に向かった。
☆☆☆
綺良々に引っ張られ歩くこと少し。部屋に着いた2人は歓声を上げていた。
「うわぁ〜!お部屋綺麗〜!」
「ソウダナ」
綺良々の声に続き、若干死んだ声を放つ迅。それもそのはずだろう。この超絶美少女の綺良々と同じ部屋である。しかもダブル。部屋中央にでんと置かれたダブルベッドがいやに目を引き、目線が自然に窓の外へと向かうのは必然のことであった。
そんな彼のことはお構い無し、綺良々はハイテンションで荷物を置くと室内探検を始める。望舒旅館は大浴場的なものは無く、それぞれの部屋にシャワー室が備えられている。食事はロビー横のテラスで摂れるし、外の露店でも買える。
彼女自身も初めての外国、初めての旅館そして想い人と同室でだいぶテンションが上がっていてその顔はニコニコだ。そんな綺良々を見て悩んでる事が馬鹿らしくなったのか、迅も荷物を下ろして上着を脱ぎ、ベッドに寝転んだ。
「ひとまずここで泊まって、明日の昼頃にモンド城に着く予定だな。ご飯もう食べに行くか?」
「んー、もうちょっと休んでからにしよ?お昼ご飯遅かったし」
「それもそうだな」
なら少しゆっくりするか、と寝転がったまま天井を見上げていると「よいしょ」という声と共に迅の隣に綺良々が座った。何気なく彼女を見た迅は目を見開く。
「ん?どしたの?」
と、上着を脱いだ綺良々は迅の方へ振り向いて首を傾げる。
ここでいつもの綺良々の格好を説明すると、黒のインナーにショートスパッツ、その上に水色と白の法被を羽織って帯を閉めているのだが、今はその法被さんがキャストオフされていて、要は上下の薄いインナーのみの姿になっていた。インナーだけなので身体のラインがバッチリ浮き出て、お腹も肩も丸出し。二の腕まである黒のアームカバー的なものと猫脚のルーズソックス的なものはそのままなのでなんというか、すごい。
そして綺良々は結構スタイルがいい方であり、振り向いた姿勢での景色は絶景の一言。
あかん、このままだとガン見してしまいそうなので、迅は慌てて立ち上がる。目をぱちくりして見てくる綺良々を尻目に、迅は「歩いて汗もかいたから先にシャワー浴びてくる」と目の前の絶景から遁走を計った。
迅がシャワー室に入って行くのを見送った綺良々は溜めていた息を吐くと、早めの鼓動を打つ心臓を抑えてこてんとベッドに横になった。
(ちょっと攻めすぎたかな…?)
自分の格好を改めて見て、ちょっと赤くなる。先程上着を脱いで迅の隣に座ったのも、もちろんわざとで好奇心3割、他の女性の嫉妬3割、寂しさ4割でやってみたのだが効果は抜群だった。
実を言うと、綺良々は自分の身体付きが良いのを最近洞天でお泊まり会をした時に初めて知った。それまでの自分との比較対象は八重神子位しかおらず、その本人がテイワット上位のスタイルの持ち主だったので、自分はそうでもないんだ。というのが綺良々自身の印象だった。
温泉にみんなで入る時、当然それぞれの身体が見えるのだが、その時にスタイルが良いと全員に言われた。綺良々から言うとみんなもめちゃスタイル良いし、可愛いと思うのだが。
皆曰く、特にくびれやお尻周りがずるいらしい。初めて人になった時からずっとこの身体だし、太ったことも無い。多分猫の姿の方でどれだけ食べても人の時の姿は変わらないよ?と言った瞬間皆が飛びかかってきて怖かった。と綺良々は思い出し震えをした。
少し脱線してしまったが、しっかり迅に効果はあったようで綺良々は満足そうな笑みを浮かべると、いそいそと上着を気直した。
帯を締め、いつもの格好に戻ると部屋に備え付けてある鏡の前に出る。
「うーん、もうちょっとかわいい服を着た方がいいのかな…?」
インナーの上に法被を着ただけの姿は動き易いっちゃ易いが、ちょっぴりみすぼらしい。せめて髪を結んでるヘアゴムに何か髪飾りやリボンとか付けたいな。迅くんはどういうのが好きなんだろ?などと百面相をしていると、迅がシャワーから出てきた。しっかり精神統一できたようで、無駄に顔がキリッとしている。そんな彼を見てちょっと笑ってしまった。
その後は綺良々も交代でシャワーを浴びて汗を流し、お腹も空いてきたので夜ご飯を食べに行くことに。
今度は辛いのを避けて綺良々が頼んだのは揚げ魚の甘酢餡掛けと龍髭麺。個人的に生魚が好きな綺良々だが、人間になってからは火を通した魚も好きになって来ていた。カリッと揚げられた魚に甘酢餡が絡み、1口食べる度に声にならない声を上げる綺良々に迅は苦笑していた。
迅は夕食を食べ終わると部屋に戻る綺良々と別れる。当然彼女は着いて行きたがったが、綺良々がいると多分出てこないので、後で何をしたか話すのを条件に、部屋に戻って貰った。
迅は、旅館内の螺旋階段を下って、言笑に頼んで厨房を使わせて貰うと、慣れた手つきで杏仁豆腐を作り始めた。前にここで厨房のバイトをしていた経験があり快く貸して貰えたが、ニヤニヤした言笑に「あの別嬪さんは誰なんだ?彼女か?」と横で絡んできたのが大変ウザかった。
そんなこともあり杏仁豆腐を2人分作り終えた迅は盆を持って今度は階段を1番上まで上がる。望舒旅館の最上階はロフトになっていて、日没後とはいえ月明かりで広大な璃月が眺められる場所となっていた。
そこに着いた迅はおもむろに杏仁豆腐の盆を自身の横に差し出した。
「……食べます?」
「…はなから断られる事など考えていなかっただろうに、白々しいな」
何も居ないはずの横から声が響き、盆が受け取られる。笑みを浮かべた迅が横を見ると、翠色の髪に黄金の瞳、仙人の装束に翡翠色の槍を背負った美少年が杏仁豆腐の盆を持っていた。言わずもがな、仙衆夜叉ーー降魔大聖、魈である。
「迅、久しいな」
「魈様からしたら半年なんて一瞬に過ぎないでしょうに、白々しいですね」
挨拶をされた迅が返した、少し雑とも言えるセリフに薄い笑みを浮かべる魈。これを他の仙人や旅人が見たら驚いて場は騒然となるに違いない。それほどまでに2人は他から見て打ち解けているように見えた。
迅と魈はそこに座り込むと、それぞれ杏仁豆腐を口にする。この料理は修行時代に魈に師事してもらう時に毎度作っていったもので、少し柔らかめに仕上げて口当たりを良くしてみた。食べ心地は団子牛乳に近い。
「ちょっと改良してみたんですが、どうです?」
「……悪くない」
魈基準での高評価を貰い、満足。少しして食べ終わると、璃月を離れていた間の話をしていた。もっとも、魈は話を聞くだけで迅ばかり話していたのだが、これがいつもの光景だ。するとおもむろに魈が話しかける。金色の瞳が迅を見据えた。
「迅。それでお前の
「…今のところは大丈夫です。瞑想も怠ってませんし、あの頃よりも遥かに安定してます」
「それならいい」
「……魈様」
「なんだ?」
迅は立ち上がると眠る仙力を少し解放する。金色のオーラに包まれ瞳の色まで金色に変化した迅は彼に問うた。
「……俺が人の身でありながら仙力を得た
そんな迅を見て魈は少し考えると、「そうだな」と薄く微笑んだ。そんな姿を見るのが初めての迅は、金色の目を丸くする。
「あの時のお前の『目』は本気だった。自分の犯した過ちの罪悪感に潰される訳でもなく、前を向き、身一つで我ら仙人の前に跪いた。並の覚悟ではああはならない。我らもお前の『事情』を把握していたから迎えたのは事実だが、それが無くとも「好きにしろ」位は言ってやったかもな」
「……ありがとうございます」
「それと今見たが、随分と腕を上げたな。稲妻にも妖魔が出るのか?」
安心した顔になった迅は仙力を解く。いつもの空色に戻った瞳を煌めかせた迅はこの事は話してもいいのかと少し迷ったが、魈なら他言はしないだろうと教えることにした。
「実は、ひょんな事から雷電将軍と知り合いまして、定期的に彼女と手合わせをさせて貰ってるんです」
「…神と鍛錬をしているのか?」
魈は少し羨ましそうに見てくる。迅からしたら毎回命懸けなので喜んで戦いたい、という程でもないのだが。毎回「もう二度とこねぇ」と思っといて、影のあまりの可憐な「次はいつ来れますかっ?」の笑顔に断れなくてズルズル戦っている始末である。
「…魈様も鍾離さんに頼めばいいんじゃないですかね」
「…そんな事頼めるか」
そっぽを向き答える魈。大体、神と対等に話している旅人や気軽に週一で模擬戦してる迅がおかしくて、この反応が普通なのだ。そらそうかと心中で考えた迅は、ずっと前から気になっていたことを魈に聞く。
「普通に故郷に返してくれた辺り今更の話なんですけど、俺は璃月に残らなくてもいいのですか?一応血筋の4分の1は仙人なんで…」
「お前は帝君と契約していない。だから璃月を守る義務も特には無い。……ただ、稲妻に帰りたいのなら璃月七星にはバレるなよ。あいつらは戦力的にも外交的にもお前を欲しがっている。もしバレたらありとあらゆる手で璃月に残らされるぞ」
「はい。承知してます」
そろそろいい時間だ。部屋の綺良々も心配しているだろう。迅は盆を持つと、魈に「また来ますね。次はチ虎魚焼きとかどうですか」と聞くと「…考えておく」と言い残し消えていった。魈基準で「次も楽しみ」の意味を持つ言葉を頂戴した迅は「相変わらずだな」と苦笑すると皿を返す為に階段を降り始めた。
さて、ここで迅の出生と過去について説明をしよう。
迅の生まれは稲妻ではなく、璃月である。先程の会話から見るように、迅は純粋な人間では無い。
種族は両親に半仙の父と稲妻人の母を持つ。いわゆる仙人と人間のクォーター。璃月では半分の半分の仙人、『半々仙』と呼ぶ。
半仙の父親も2000年以上生きていて、魈の下について妖魔退治を行っていた人物だったのだが、妖魔討伐の時に飛び散る穢れが彼を蝕み、迅が生まれるひと月前に亡くなってしまう。
そんな中生まれた迅の体質はかなり人間よりで生まれたのだが、しっかりと仙力を保有していて、父親から遺伝したのかその量が生まれつき多かった。
仙人にとって仙力とは、己の生の長さと鍛錬によって増やしていくものである。増えていく仙力に合わせてそれに耐えられる肉体を作っていかなければならない。ただ、仙人という種族は無論凡人よりも頑強な肉体を持っているので大した問題は無い。
ただ、ここでのイレギュラーが迅だ。彼は仙力を持つとはいえ肉体はほぼ人間だ。精々治癒能力が高く病気などに強い位で身体の強度などは普通に人間と同じ。そんな子供には余る量の仙力が内包されていたのだ。
迅はその仙力に身体が耐えきれず、すぐに死んでしまうと思われた。夫も失い、心の支えと生まれた子供ももうすぐ死ぬ運命。残された母親が取った行動は、仙人達の制止を振り切り、故郷の稲妻に帰ることだった。
しかし、またここで不幸が襲った。
父親から穢れが母親にも移っていたのだ。今の魈が人間に近づかない理由の1つに穢れが移るから。というものがある。ただ夫婦という関係上、離れられる訳もなく。ほんの少しの逢瀬の間で少しだが、神の目を持たぬ人間の彼女を蝕むには十分な量の穢れが移って来てしまった。
迅を抱き、森を進んでいる途中で母はとうとう力尽きた。
1人残された迅はそのまま死んでしまうと思われた。だが、仙力は仙人達の生体エネルギーだ。迅はそのまま仙力を糧として生きながらえ、神里家の当時の当主に発見されるまで2週間の間奇跡的に生き続けたのだ。生存の為に仙力を消費し続けたので体が耐えきれず死ぬことも無く、無事に拾われ、神里家に引き取られた。
そして迅は神里に育てられ、今まで生きてきた。剣術の腕や武道などが不自然に上達しなかったのは、内包していた仙力が身体を阻害していたからに他ならない。しかし、己が璃月の仙人の末裔なことなど知る由もなく、奉行内で肩身が狭かった迅にそんな事が分かるはずもない。
武力で自身の居場所を維持しなくてはならず、身体を鍛え続けていたことが功を奏し、仙力が暴走することは無かった。
それから時が経ち、稲妻の外に出たいと願ったのは殆ど本能的なものだったのだろう。
迅は璃月へと旅立ち、神の目を獲得し、調子に乗って失敗し、仲間を殺し、モンドに逃げ、エウルアに助けられ、彼女の友人の璃月の法律家の煙緋からピンばあやへと知り合いを増やし、仙人達に会うこととなったのだ。そこであの赤ん坊が生きていた事を知った仙人達は驚き、後に本人に伝えられることになる。
そして仙人達は彼の持つ仙力をコントロールさせようと修行をさせたのである。
そのコントロールの方法は神の目で生成される元素力と仙力を混ぜ合わせるもの。そうすることで溢れた仙力を元素力として変換し保存できるようになる。彼の異常とも呼べる元素力の量とコントロール技術はこれから来ていて、1年の修行で凡人以下だった迅の能力を一気に引き上げた。
迅は自身が半々仙なことを周りに隠している。知っているのは1部の仙人や一緒に修行した申鶴のみで、甘雨や煙緋も半々仙が生まれた事は知っているが、それが迅だと言うことは知らない。先程魈も言っていたがもし凝光などに正体がバレたら恐らく逃がさないだろう。
何せ稲妻、璃月、モンドに顔が広く、実力もあり、ある程度自由に動かせる冒険者で、しかも仙人だ。璃月のものと言い張れる材料もある。バレたら最後、言いくるめられて狛荷屋の璃月支店店員か、最悪璃月七星専属冒険者に逆戻りだ。おいそれと言える訳がない。
ただ、本当に親しい間柄の人物には話そうかな、と猫又の少女を思い浮かべ、考えている迅であった。
☆☆☆☆☆
魈様と話をしてお皿を厨房に返し、客室に戻った俺は、扉を開けた瞬間に飛び込んできた衝撃映像に、魈様とした割とエモめの会話が吹き飛びそうになっていた。
「……………」
「……………」
無言で見つめ会う俺と、ベッドに寝転んだ状態の
沈黙に耐えられなくなってきた所、綺良々が冷や汗を流す。
「………あっ!おかえり〜!もぉー!ほんとに何してたの?」
「いや無理だから。なんか普通に会話しようとしてくるけど、なんで俺の着物着てんの?」
「ヴッ」
にっこりと綺良々に聞く俺に観念したのか、彼女は俺の着物を抱きしめ、ちょっと恥ずかしそうに。
「……寂しかったんだもん」
ガッ!?(昇天)
あーもう、なんでこんな可愛いんですかねこの猫は抱きしめてもいいんかな(セクハラ)
などとキモイ考えが顔に出そうになるが気合いで抑える。ふぅ、とりあえず綺良々を撫でよう。
最近癖になっているのか、俺の右手が勝手に綺良々を撫でる。
「……最近迅くん、わたしの頭撫でるの癖になってるよね」
「あっ、ごめん」
パッと離した俺に残念そうな顔をする綺良々。そのまま俺の右手をじーっと見つめているので、おもむろに手を左右に揺らしてみると、猫じゃらしを前にした猫のように首で追いかけ始めた。なにこれ楽しい。綺良々は目線は俺の手をキープしながら腰掛けているベッドの隣をポンポンと叩いた。
誘われるがままに隣に座るとすかさずぐりぐりぐりーっと手に自分の頭を擦り付けて来る。そのままわしゃわしゃ撫でてやると綺良々は満足げな息を吐いた。
なんか、猫っぽい綺良々もいいな。でも、なんか既視感があるような…。
そんなことを考えていると、手につむじドリルしてる綺良々が聞いてきた。
「それで、さっきまでなにしてたの?」
俺は屋上で魈様に会った事を掻い摘んで話す。何となく自分の種族のことは伏せて話した。稲妻に帰ったらばあちゃんとか、神里家の人達と一緒に話そうと思う。
「へぇ〜!迅くんのお師匠さま!会ってみたかったなぁ〜」
「人の前に出るのを嫌がる人だから、綺良々が来たら多分出てこないな。望舒旅館の守護神〜!とか、荻花州の大英雄〜!とか叫びまくれば見かねて出てくるんじゃないか?」
「じゃあ迅くん今度やってよ」
「絶対ヤダ」
その後は夜が耽けるまで明日行くモンドの話をした。オススメのお店や、有名な観光地、騎士団の事など。ただ騎士団の話になった時にエウルアの事を度々聞かれてちょっと怖かった。
そろそろいい時間になったので、明日も早いしもう寝ることに。なんかもうここで「床で寝る」とか俺が言い出してもまた昼間のような光景になりそうだったので、大人しくダブルベッドの端っこで寝ることにした。
「迅くん迅くん」
「ん?」
ベッドに入って名前を呼ばれ、振り返ると上着キャストオフ版の綺良々が心無しか嬉しそうに布団の中を擦り寄ってきて、俺の耳に顔を寄せた。同じ寝床の中なので、女の子特有のいい匂いがふわっと香る。
「あのねっ、……わたし、ずっとこれを言ってみたかったんだ。……おやすみっ」
…………
………………今日寝れるかなぁ。
つづく。
・申鶴
脅威の無自覚自称お姉ちゃん。山で修行していた時からの仲で、ゲーム本編よりも早く璃月港で俗世の生活に順応中。甘雨の家に住んでいて、最近の趣味は小説読み。
・甘雨
皆大好き叡智服の社畜秘書。最近八重堂から買った娯楽小説にどハマりしている。良く申鶴にお気に入りの小説を持ち出され追いかけ回しているところを目撃されている。アモスの弓欲しい。
・きらーら
恋敵どころかお姉ちゃん登場で盛大に同様。今話の描写外の半分以上やきもちでほっぺが膨らんでいた。人間の姿で「おやすみ」が言えて嬉しい模様。
・魈様
迅の師匠を務めた留雲、削月、理水、降魔大聖のなかで戦闘面で1番多くの技を伝えた。迅の神と週一で戦っている発言に、帝君に頼んでみよう迷ってみている。
感想をくださいぃ〜!!