おまたせしました。
前話のエウルア回、皆から「これエウルアメインヒロインじゃね?」と感想でも読んでくれている友達からも言われて、「綺良々も可愛いダルぉぉ!?」と情けない返ししか出来なかった作者です。
こちら、自分のXアカウントです。執筆の進行状況とか、お話のリクエストとかを受け付けています。良ければフォローよろしくお願いします!
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リンク先が50超え聖遺物なのは偶然デスヨ………?
割と色々あった経費旅行1日目を終え望舒旅館で泊まった次の日。
旅館内のベットの中で俺は目覚めた。
「んんっ…」
瞼をうっすら開ける。目線だけで壁に設置された時計を見ると朝8時前。
夕方までにはモンドに着きたいのでそろそろ起きないとな。俺は体を起こそうとして、そこでようやく自分の上に乗る何かに気がついた。
俺は嫌な予感がして隣、…綺良々が寝ていた方を見る。……もぬけの殻。
掛け布団で見えないが自身に乗る柔らかい重み。そして直に背中に回された腕の感触に、ダラダラと嫌な汗をかいた俺は恐る恐る布団をめくった。
「……oh」
俺の目に飛び込んできた光景に謎の言語が出てしまう。俺の上に覆いかぶさった俺の先輩、猫又の綺良々は予想を遥かに超える体勢ですやすやと眠りこけていた。…顔は見えないのだが、恐らく安らかだろう。
綺良々は俺の上に乗るどころか、俺の黒いインナーに頭から突っ込んでいた。インナーはよく伸びる材質だし、猫は狭いところに突っ込みたくなる習性を持ってはいるが、こんな事有り得るのか?つかどんな寝相だよ。突き出されたお尻から伸びる2本の尻尾がゆらゆら揺れている。この間があの無想刃狭間か(錯乱)
「んんぅ…」
綺良々は動いた俺に反応するように身動ぎをして、終いにゃ更に抱きついてきた。頭が俺の腹辺りにあるので位置関係的に、俺のアレに上着キャストオフ状態の綺良々の割とあるお胸がむにむにとダイレクト着弾し、俺の精神は彼方まで吹き飛ばされた。どこのお店ですかねぇ(走馬灯)
男の朝にその刺激はヤバすぎるので俺は勢いよくベットから脱出したが、その勢いで綺良々のインナーが少し捲れ上がるのが見えてしまった俺は空中で体勢を崩し、床に無様に墜落した。腰を打ちしばし悶絶する。……今までで1番やばかったぞ……。墜落した痛みのおかげで元気になりそうだったのが元に戻り、取り敢えず安堵。俺は未だにすやっすやの綺良々に呼びかけた。
「ほら、もう朝だぞ起きろ」
「……んぅ〜…まだねてたぃよぉ…」
かっわい(条件反射)
まだお眠の綺良々が布団の中に潜り込もうとする。大変可愛いのだが、時間が押しているので二度寝をさせるわけにはいかない。
「ほら、そろそろ起きないとモンドに着くのが遅れるぞ」
「………迅くんが起こして?」
もう目ぇ覚めてるじゃねぇか。綺良々は俺に向かって「ん」と両手を差し出してくる。いやめちゃくちゃ可愛いんだけども、それよりも捲れ上がってるインナーを直して欲しい。切実に。
俺はため息を吐くと、期待した顔で待っている綺良々の両手をすり抜け、右手をデコピンの形で持っていく。中々手が引っ張られないことを不思議に思って目を開けた綺良々に俺は雷元素付きのデコピン目覚ましを贈呈した。
「いいからはよ起きろ」
バチィ!
「んに"ゃっ!?」
「うぅ…おでこいたいぃ…」
「1発目の優しいやつで起きときゃいいものを、そのままふて寝した綺良々が悪い。…結局ちょっと予定より遅れそうだし」
「まさか毎回アレで起こされるなんて思わなかったんだもん!神子様といい、雷元素の人ってみんなあれ使えるの…?」
向かいに座って朝食を食べている綺良々がぶーたれる。さっきからずっとこの調子なので俺は食べてた魚肉の焼き麺の魚肉を箸で掴んで差し出すとパクっと食らいついた。「ん〜っ」と味を堪能して機嫌が元に戻った。
ご飯を食べ終わると部屋に戻って荷物を整理し、チェックアウト。
望舒旅館をでた俺たちは北に歩く。日の高さを見るに10時くらいだろうか。このまま歩いていたら、石門を超えて清水町を抜け、モンド城に着くには夕方だ。その時間に騎士団に行くのはちょっと気が引ける。
そのようなことをリュックを背負って隣を歩いている綺良々に話していると、彼女はそうだっ!と俺に提案した。
「迅くん迅くん。前からちょっとやってみたかった事があるんだけど、周りに人もいないし、ちょっと私と競走しない?私たちが走れば遅れも取り戻せると思うんだ」
「お、それいいな。でもよーいドンだと流石に勝負にならなくないか?」
綺良々も妖怪なだけあって身体能力は人外そのもの。特に脚の速さは1時間で鳴神島から海祇島を往復する程なのだが、流石に短距離走は俺の方が疾い。
「それならちょっとハンデをちょうだい?私が出発してから20数えて迅くんがスタートならどうかな」
「おう。それくらいならいいハンデになりそうだな」
「おーけー!んじゃ私がモンドに着いたら勝ちで、途中で私を捕まえたら迅くんの勝ちね」
「了解。せっかくだし、なんか賭けるか?俺が負けたらなんでも言うこと聞くって事で」
ま、綺良々なら変な命令もしないだろうし。返事がない綺良々を見ると彼女の顔が紅潮していた。どした?
「ええぇっ!?なんでもいいのぉ!?」
「お、おう。そうだけど」
「いいんだね!言質取ったから!なんでもいいんだねっ!」
「ちょっと待ってなんか怖い。やっぱナシで」
鼻息荒く詰めてくる綺良々に本能的危機感を感じた俺は取り消しを願うが、「やだやだやだ!!」と昨日一緒の部屋に泊まるかの時よりも嫌がったので取り消せなかった。いや一体なに頼まれるんだ……?
「んで、綺良々が負けたらどうすんだ?」
「…わたしも、なんでもするよ?」
と、上目遣いで言われる。いやそれはあかん。
「いやいや、女の子がそれはダメだって!もっと他に「こんな事言うの迅くんにだけだよ」…ソウデスカ」
どこか真剣な顔の綺良々に秒で黙らされる俺。まぁ、何でもだからちょい軽めのを俺が言えばいいだろうと、枝で地面に線を書いて綺良々は走る準備をする。
「んじゃ、行くよーっ。よーい…どんっ!」
合図と同時に綺良々は宙返りをすると猫足が生えた箱状態に変身すると凄い勢いで走り始めた。俺は綺良々がスタートするのを見ると20秒数え始める。
「3、2、1、0!っし、行くか!」
しっかり数えて俺も出発する。前を見ると綺良々も見えなくなっていた。こりゃモタモタしてると先に着かれちまうぞと俺は脚に雷を纏うと、先程の綺良々を超えるスピードで走り始めた。
周りの景色が飛ぶように後ろに流れていく。俺は周りの木や岩などを足場にして跳躍し、進んでいく。
少しして石門に着くと、横の高い壁を登っている箱がうっすら見えた。石門には通行人がいた為、道を変更したのだろう。見ている内に崖を登り終えた綺良々は人に戻って俺の方を向きあっかんべーをしてきた。あんにゃろ。
俺は雷元素を脚に圧縮して跳ぼうとしたが、今立っている所は人が建てた木造の道。そんなところでこんな威力の踏み込みをしたら道は大変な事になる。それを読んでの崖登りだろう。このままだと石門を人に驚かれない速さで通るか、頑張って崖を登るかで大幅にタイムロスをしてしまう。雷を纏わせての高速移動は爆発的な加速を可能とするが、その分周りに与える影響が大きいのが欠点だ。
……なんて綺良々は考えてるんだろうが。
俺がいつまでもそんな欠点放ったらかしにしとくわけが無いだろうが。
俺は元素視覚の要領で雷元素を薄く、前方に飛ばす。元素視覚は全方位だが、1方向に集中すれば探知距離を大幅に伸ばせる。俺は綺良々が登った壁に向けて、まるでレールを引くように元素を延ばした。
「……
行うのは電磁吸引の逆。足元の元素と纏った元素に同じ磁極を付与し、俺はその場で浮かび上がった。そのままレールに身体と違う磁極を、通り過ぎたあとは同じ極を付与して俺の身体がレール上をとてつもない勢いで加速させ、そのまま撃ち出す。この磁力は雷元素にのみ反応するので周りの金属物にはなんの影響もない優れ技だ。一々地面を踏み砕かない為、急ぎの配達の時に重宝する。
一瞬で崖の上まで飛び上がった俺は、空中で1度だけ使える元素足場を作って今度こそ元素圧縮。地面スレスレの角度で解放し、地面と身体の間に斥力を挟んで摩擦を0にし、凄まじい速度で飛ぶ。
途中で絡まれたからぶっ飛ばしたらしいファデュイ先遣隊が地べたに伸びていたのでごめんと心の中で謝って横を抜ける。また少し走ると崖があり、そこからアカツキワイナリーが見えた。そして、そこの横の砂浜を走っている猫又を発見。地盤を踏み砕く勢いで脚に元素を圧縮すると、崖を湖ごとひとっ飛び。本来は迂回して砂浜に降りてくるルートをショートカットして綺良々に迫る。
想定よりも遥かに早く追ってきた俺に綺良々はびっくりして脚をもつらせた。不幸にも段差の端で下は岩だ。それに綺良々も気づくが驚いていた事もあり、体勢が悪い。このままだと頭から落ちそうだ。彼女の表情が青くなっていた。俺も追いつこうとするが、距離がある。
「綺良々!!」
俺はこのままだと間に合わないと判断すると、身体に仙力と混ぜて圧縮保存してある元素を解放。爆発的に増えた元素量を極限まで圧縮しながら身体に伝え、一瞬だけ
どうにか間に合い、辛くも落ちる綺良々の身体の下に自分の身体を差し込む。
衝撃。
飛んで来た勢いで落下地点もずらし、何とか草原に綺良々を抱えて背中から落下する。いてて。
俺は腕の中の綺良々の安否確認をする。
「綺良々、ケガ無いか?ごめんな驚かせちゃって」
「う、ううん。大丈夫。……あれ」
「それなら良かったけど…、どうした?」
「なんか、今迅くんの目の色が金色になったように見えたんだけど……」
やっべ。コレ一応仙術だから使うと目の色変わっちゃうのか。
「あー、いや、気のせいじゃないか?」
どうにか誤魔化すと、綺良々は「だよね」と俺の目をじっと見た。
「うん。綺麗な空色だぁ。ありがとっ!助けてくれて」
ここで「綺良々の瞳も綺麗だよ」とか言えたら良いのかなと頭をよぎるが、いやいや流石にクサすぎると却下する。つか、起きるかと身体を起こそうとするが上に乗った綺良々がどかない。
「あの、綺良々さん?起きたいんですけど…」
「…そういえば、わたし負けちゃったね」
「あ」
「……なんでもするよ?」
俺の上に馬乗りになってそんなことを言うのはほんとに心臓に悪い。
「……かんがえとく」
「…ならよしっ」
なにが?綺良々はひょいと俺の上から降りて、手を差し伸べてくれる。手を取って立ち上がる。気を取り直して歩こうとしたが、綺良々はその手を離してくれなかった。俺たちは横目で一瞬目を合わせると、手を繋いだまま歩き出した。
その後は平和にモンドまで歩いた。途中道を塞ぐように柵を建てていたヒルチャールをやっつけたり、途中でシードル湖に魚と共に上がった水柱に驚いて「あれ何!?」って聞いてくる綺良々に「モンドの風物詩だよ」と遠い目をして答えたりしたくらいで大した問題もなく、遅れも取り戻して予定通り俺達はモンド城に到着した。
「うわぁ!璃月とは全然違うんだね!門の前にいる鎧を着た人たちは?」
「ああ、西風騎士団な。モンドは『自由の国』って言われてて璃月や稲妻みたいに国を統治する組織ってのが無いんだ。西風騎士団はそこの治安維持とか、城の防衛をする組織だな。今からそこに行って狛荷屋の契約をするんだ」
「へぇ〜!」
並んで正門の前の橋を渡る。途中にいる鳩に食い入るような視線を向けていた綺良々にチョップし、その鳩に餌をあげていた少年、ティミーに挨拶した。
「よ。久しぶりだなティミー」
「ん?…あ!蒼閃迅雷だっ!」
「グハァ!?」
「迅くん!?」
笑顔で返された
「だ、大丈夫?迅雷さん」
「カッ!?おっ、おう。大丈夫だ」
「ね、ねぇ。どうして迅くん。異名の方で呼ばれてるの?」
「それはね!モンドの代理団長さんと迅雷さんの名前が一緒なんだ。だからどっちか分かるように『迅雷さん』とか『蒼閃迅雷』って呼ばれてるんだよ」
虫の息の俺に変わって説明してくれるティミー。有り難いけど一々言う異名が追撃に刺さりまくっている。
その後どうにか起き上がってティミーと別れると今度は門番の2人に異名を叫ばれ、俺はシードル湖に飛び込もうとした所を綺良々に羽交い締めにされる。
「落ち着いて迅くん!別に減るものじゃないし、呼ばれても良いじゃん!」
「減るんだよ俺のSAN値がァ!」
忘れてた。俺ここだとほぼ全員に異名で呼ばれるんだったわ。よくこんな魔境で半年も生活してられたな昔の俺。
そんな事もあり、瀕死の状態で騎士団の本部に着く。内装に興味津々でキョロキョロしている綺良々を連れ、入って左の扉をノックした。
「どうぞ」
扉越しに声が聞こえたので、部屋に入ると執務の休憩中だったのか、コーヒーを淹れていたジン代理団長と目が合う。
「久しぶりだな。代理団長」
「おお、早かったな。ここに掛けるといい」
「お、お邪魔しま〜す」
代理団長が「紅茶でいいか?」と尋ねてくるのを頷いて綺良々と並んでソファに腰掛ける。
「さて、ようこそモンドへ。それと久しいな。迅雷騎士」
「いつ俺が騎士団入ったんだ。…こっちは綺良々。俺と同じく国外配達員だ」
「初めまして!」
「ああ、よろしく頼む。…ひとつ気になったのだが、稲妻にも猫の特徴を持った人がいるのか?」
「えっと、私妖怪なんです。稲妻だと猫又って呼ばれているんですが」
興味深そうに見てくるジンに揃えてソファに置いている2本の尻尾を見せる綺良々。
「ほう、最初見た時はキャッツテールの従業員かと思ったのだが。失礼した」
「いえいえ!…その、キャッツテールというのは?」
「ああ。猫が店内に多くいる酒場だな。迅のお気に入りで行き過ぎて出禁になっていた」
「余計なこと言わんでくれ」
「…へぇ?」
隣から悪寒がしたので恐る恐る見ていると綺良々が超冷たい目で睨んできていた。瞳孔が細くなり、今まで見たどの顔よりも怖い。
「…そんなに他の猫が良かったの?」
無表情の綺良々が俺に詰め寄ってくる。怖い怖い!普段にぱっとしてるからそれとのギャップでめちゃくちゃ怖い。口にしている暖かい紅茶がアイスティーに変わったんじゃと思えるくらい空気が冷たくなった。
助けを求めるように向かいの代理団長を見るが、彼女はくっくっと笑いを押し殺していて、味方になってくれる気がしない。このままだと喉笛かっさばかれそうなので素直に白状することに。
「いや、その…長い間家を離れていたし…自分家の猫が恋しくて…な」
「……そ、それなら、しょうがないな〜、も〜……えへへへ」
判決待ちの被疑者みたいな感じに俯いていたのだが、返ってきた綺良々の機嫌がだいぶ良くなってたので顔を上げて隣を見るとさっきの寒波はどこへやら、とろけるような笑顔で俺の肩をバシバシ叩いてくる。ちょっお前見た目に寄らず力あんだからって痛てぇ!?
そんな俺たちをニヤニヤしながら見ていた代理団長は席を立つと引き出しから書類をいくつか持ってくる。
「んんっ、では、そろそろ本題に入ろうか」
その後は璃月と同じく支店の場所や利益の振り分け、求人書を制作する。それらが終わる頃には日も傾き始めていた。
話し合いが終わったあと、代理団長が俺が前使っていた部屋を取ってあると言う。璃月の約束の日まで2週間ほどあるのでその部屋を使わせて貰うことにした。何故かさっきからニヤニヤしている代理団長から部屋の鍵を受け取る。
「ん?これスペアキーの方じゃないか」
「ああ、この前オリジナルは紛失してしまってな。今朝依頼を出したところなんだ。すまないな」
「いや、俺は全然いいけど…」
「迅くん迅くん。わたしはどうしようかな…」
綺良々が袖を掴んで不安そうに聞いてくる。自分は宿を取った方がいいのかなと顔に書いてあるが、俺の借りてた部屋は所謂2LDKと言うやつで、元々2人以上で使う部屋だ。綺良々が来ても特に問題はない。寝室も分けれるしな。
「俺の使ってた部屋、元々2人部屋だったからさ、綺良々が良ければ一緒でもいいか?」
「そうなの!?うんっ、お邪魔になろうかな」
「あ」
「ん?」
漏れたように聞こえた代理団長のつぶやきに俺たちが振り返ると咳払いをした。
「あー、それならベッドをもう1つ送っておこう」
「別に要らないんじゃないか?確か元々2つあったろ」
「いやな、き、君が帰ってきてから撤去してしまってな。寝床代わりになるソファはあるからすまないがそちらで寝てくれ」
「お、おう。……なんか怪しいな」
さっきからなんか隠してないかこの人?じとーっと見つめる俺とそっぽを向き続ける代理団長。ま、いいか。恐らく掃除してないとかかな?そんなん想定済みだから別に気にしなくていいのに。
「……ま、いいけど。じゃ、俺たちはこれで。10日位は滞在するから用があったら何時でも声掛けてくれ」
「お邪魔しました!」
「あ、ああ。こちらこそよろしく頼む」
騎士団本部を出る。時間は午後4時くらいか、そういや昼飯も食いそびれたから、結構腹ぺこだ。俺は同じくお腹を抑えている綺良々に言う。
「どうする?先に部屋に荷物置きに行くか?」
「うーん…、置くって言っても荷物そんなにないし、先にご飯食べない?もうお腹ペコペコ〜」
「そうだな。先に飯食うか。オススメ…というか、俺が個人的に顔を出したい店があるんだけど」
「……キャッツテール?」
「違う違う」
行きたい店というのがエンジェルズシェアなんだけど、勘違いをしているのか表情が消え始める綺良々。これは前からなんだけど綺良々は俺がきらら以外の猫を撫でると怒る。特にその猫がメスだとめちゃ機嫌悪くなる。その後はちょっとスキンシップが激しくなるから俺得なんだけど、綺良々の無表情はマジで怖い。いや、ほんとにちびる。
「エンジェルズシェアっていう酒場なんだけど…、あれ、そういえば綺良々って今年18歳だったよな。誕生日聞いてなかったわ。何時だっけ?」
「えっと、
「マジか!?」
驚く俺に「色々あってすっかり忘れてたよ」と後頭部をかく綺良々。来週か、なんか用意しないとな。
「それなら、誕生日にお酒デビューしてみるか?誕生日会も兼ねて」
「いいのぉ!?」
テイワットではお酒とタバコは18歳からとどの国でも決まっている。俺が提案すると、瞳を輝かせる綺良々。
そのまま俺たちは初めてならオススメのお酒の話をしながら歩いていると、正面にエンジェルズシェアと書かれた掛札が目立つ建物が見えてきた。扉を押し開けて中に入ると、カウンターの裏から男の声が響いた。
「いらっしゃい。……珍しい顔だな」
「久しぶり。旦那」
「旦那はやめてくれ。ディルックでいいと前にも言っただろう」
「ごめんごめん。ディルックがいるなんて珍しいな」
「…ちょうど
「なるほど」
俺は旦那ーーディルックに挨拶をする。横の綺良々も会釈を返し、四人席に案内されようとしていると、店の奥からも男の声が響く。
「おやおや、これはこれは。だいぶご無沙汰だな。迅雷騎士さん?」
「さっき代理団長にも言われたけど、なんだその名前。つか、もう呑んでるのかよ、ガイア」
俺の肩に手を置いて芝居がかった雰囲気で話しかけて来た、青髪の眼帯優男、ガイアに顔を顰めたが、彼は何処吹く風。飄々と受け流される。
そのままガイアは俺の服装を見て、刀を見て、最後に後ろの綺良々で目が止まった。
「なんだ、迅。仕事で来るとは聞いていたが、本当は彼女を連れて旅行にでも来たのか?」
「カノっ!?」
「違ぇよ。この子は俺の職場の先輩。なぁ綺良々。…きらら?」
「か、カノ……はっ!ははは初めまして!綺良々と言いますっ!え、えと、わたしは迅くんの彼女では……」
ビクビクしながら頭を下げた綺良々にガイアは笑った。
「はっはっは。冗談だから安心してくれ。……こりゃアイツが来たら荒れそうだな」
「ん?なにがだ?」
小声でボソッと言われたのが聞こえた俺はガイアに聞くが、「いや、こっちの話だ」とはぐらかされた。荒れるって、何が?さっきシードル湖の水面は荒れてたけども。
気を取り直して店の奥の4人がけの席に座るとそれぞれ注文をした。正直誕生日来週じゃ今日飲んじゃってもいいんじゃないかと綺良々に聞いたが、彼女は「せっかく迅くんが誘ってくれたから、その時の楽しみにする」と笑顔で言われ、いい子すぎて精神が浄化された。
俺は久しぶりに来たので届いた蒲公英酒を、綺良々はミントベリージュースを持ち、杯をあわせた。
蒲公英酒はワインの1種。ごくごく飲むものではないので、ちびちび1口ずつ飲むが、相変わらず美味い。他のワインよりも果実感が段違いで、飲み口が軽いため飲みやすい。甘みもちゃんとあるので、今度割って綺良々に飲ませようかな。
向かいでミントベリージュースに口を付けた綺良々も目を輝かせた。
「わぁ…!これ、すごくおいしい!」
瞬く間にごくごく飲み干し、おかわりを注文している様子を見て苦笑する。この子がお酒飲んだら悪酔いしそうだな。
その後は通行人から俺が来ている話を聞きつけたモンドの面々が次々に顔をだし、エンジェルズシェア内で軽い宴会みたいになってきた。
酒場の端で速攻で仲良くなったアンバー、ノエル、バーバラと綺良々がおしゃべりをしたり、冒険者時代に知り合ったベネットとフィッシュルに稲妻の話をしたり、それとなくガイアに「クレーは?」と聞いて「反省室だ」と即答されやっぱりと苦笑したり、「こ、こんな高価な料理…頂けません…!」とか言いながら何故か来たモナの口に料理を突っ込んだりしていた。ん?横でダル絡みしてきてる吟遊詩人はなんだって?知らない人ですねぇ。
綺良々も顔見知りがだいぶ増えたようで、何よりだ。
ウェンティを隣の席にぶん投げた俺が蒲公英酒のソーダ割りを飲みながらそれぞれの様子を見ていると、エンジェルズシェアの扉が開く音とディルックの「いらっしゃい」の声が響く。今度は誰が来たんだろ。入口に背中を向けるように座っている為、ここからじゃ見えず、一々振り返るのもちょっとめんどう。
そんなことを思いながらジョッキを傾けていると、その気配がコツコツとこちらに向かって来た。振り返ると、その
「ねぇ、相席いい?」
☆☆☆
響いた懐かしい声に迅も小さく笑う
「まぁ、返事は聞いてないんだけど」
「ちょ、おいコラ」
こちらが返事をする前に壁に大剣を立てかけ隣に座るエウルア。彼女はそのまま迅に距離を詰めてきた。
「ったく、今までどこ行ってたのよ。私に何も言わずに8ヶ月もモンドを開けるなんて、この恨み、覚えておくんだから。…それとも今ここで清算しましょうか?」
「わり、普通に稲妻帰ってた。あと、ちょっと近すぎない?」
自然に距離を詰められたので、お互いの肩と脚が密着する。迅は思わず離れようとするが、手を捕まれ、指を絡ませてきた。
「逃がさないわ。…ねぇーー「貴方がエウルアさん?」
エウルアの声を遮るように向かいの席に座った綺良々は彼女の目を見据えて微笑んだ。が、目が笑っていない。その目線から察したエウルアも迅から視線を外し、綺良々と目を合わせる。
「ええ、そうだけど。…貴方は?」
「わたしは稲妻から迅くんと『一緒に』来た、綺良々だよ。半年前から『ずっと』お仕事で彼とコンビを組んでいるんだ」
「へ、へぇ。名乗らせたのなら、貴族のしきたりに習って私も返さないとね。西風騎士団、遊撃小隊隊長。エウルア・ローレンスよ。そうね、この人との関係を説明するには、一言じゃ、とても足りないわね」
そう言い、テーブルの下の迅と絡ませた指をにぎにぎするエウルア。なお、迅は手を離そうとしているのだが、エウルアに万力のような力で握りしめられているため中々外れない。綺良々も手の動きでにぎにぎを察し、目が細まる。
「ふ、ふーん。そうなんだぁ。ちょっと今迅くんと仕事の話をしたいんだけど、彼から離れてもらってもいい?」
「あら、こんな場所で仕事の話なんて硬いわね。ここは酒場。お酒を飲んで楽しく過ごす場所よ。迅も、少しは酔いが回っているでしょうし、明日の方がいいんじゃないかしら。ね、迅」
「エッ」
急に矛先を向けられた迅は、周りに助けを求めて視線を送る。
だが、周りの面々は皆観戦体勢で、ノエルやバーバラなどは興味深そうに、アンバーやガイアなどの騎士団は「ついに始まってしまった…」と乾いた笑いを浮かべている。
迅が居ない間のエウルアの様子はそれはそれは面白いもので、その想いも当然伝わっている為、まるで好きな物語の見たいシーンがとうとう来た時のような雰囲気になっていた。
一方、迅に付いてモンドに来た(役職的に立場は逆なのだが)猫しっぽと猫足の少女も、この宴会中に見た迅への懐きようと迅と他とで浮かべる笑顔の質の違いに何となく気がついていた『自由の国』の皆の心は一つであった。
『なんか面白そうだし、黙って見とくか』と。
ウェンティやガイアは論外。アンバーやノエルにまで「ガンバレ!」の視線を貰い、あ、ダメだと察した迅は、そろそろ切り上げるべく、優しくエウルアの手を離すと席を立った。
「ま、まぁそうだな。俺も回ってきたし、長居もしちゃったからそろそろ帰るよ。綺良々はどうする?」
「あ、わたしもそろそろお暇しようかな」
迅はディルックにここにいる全員の代金と、軽く宴会にしてしまった迷惑料をこっそり支払う。
「余った分はモンドのことにでも使ってくれ」
「…ふん、多すぎる気もするが、まぁいいだろう」
「ああ、ご馳走様。エウルアも、俺ら10日はモンドにいるから用があったら……」
「なに私を置いていこうとしてるのよ」
迅は綺良々を連れ、酒場を出ていくが、当然のようにエウルアが着いてきて、迅の袖をつまんだ。先を越された綺良々は行先を失った指先を彷徨わせる。
「ご飯とか食べに来たんじゃないのか?」
「そんなこと一言も言ってないわよ………。ただ、君に会いたかったから」
「ソウスカ」
「ぐぬぬ…」
前までの素直じゃないエウルアはどこへいってしまったのか。ストレートに感情を伝えてくる彼女に、酔いもあってさすがに持ち前のポーカーフェイスも貫通する。
そんな迅を見て、綺良々はお手本のような唸り声をあげた。
アンバーやノエルと喋っていた綺良々は酒場に入ってきた彼女を見て、一目でエウルアだとわかった。彼を見つめる視線の熱が尋常ではない。まるで彼しか目に入っていない様な雰囲気。そのまま彼に話しかけたまでは良かった。久しぶりに再会したのだ、積もる話くらいあるだろうと、エウルアの友達らしい目の前の赤リボンの少女に確認を取りながらチラチラと見ていたのだが、隣に座って体を密着させ、迅に「恋人繋ぎ」をしたのを見て、身体が勝手に動いていた。
綺良々は元々、宵宮や綾華と同様にライバルとは言えどエウルアと仲良くなりたいと思っていた。その気持ちは今でも変わりないのだが、あまりの攻撃力の高さに、それに対抗するように喋ってしまった。
今は先にエウルアの家まで送ろうと3人で並んで歩いているところ。当然迅が真ん中だ。2人で迅の両脇をガッチリ固めていて、両方とも彼の着物の袖を摘んでいるので少し歩きにくそうだが、綺良々はこんな隠し玉がいたのかに対するモヤモヤと、そんなでもくっつかなかった迅に安堵する気持ちと色々ごちゃごちゃしていた。
かく言うエウルアも同じである。まさか連れがいるなんて思ってもいなかった。しかもエウルアから見てもかなり可愛い。迅が好きな猫要素も備わっていて、話を聞いた感じかなり仲が良さそうだった。幸いまだ付き合ってはないみたいだが、このままだと時間の問題だ。まずいとエウルアの額にも汗が流れる。
その間に挟まれている迅の心中も驚きに満ちていた。彼が知るエウルアはもっとツンツンしていて素直じゃなく、あんな可憐な顔で迫ってくるような女性では無い。確かに住民にエウルアの事をちゃんと見てくれよと頼みはしたが、ここまで変わるとは聞いていなかった。チラりとエウルアの方を見ると彼女と目が合い、ぱぁと表情に光が灯る。前までだったら「何見てるのよ。ふん、女性をジロジロ見るなんて、あなたは貴族以前に人としてのしきたりを学ぶべきね」位は言われてるはずなのだが。
「むぅ…」
そんなエウルアに対抗するように、綺良々が迅との距離を1歩詰めた。摘んでいた腕を抱えるようにして、女の武器をむにゅぅと押し当てた。基本手を繋ぐまでのスキンシップだったラインを一足飛びにし、迅といえど固まる。今度はそれに対抗するようにエウルアは再度指を絡ませた。
街の男達の視線がキツい様に思われるが、見ているのは基本『エウルアちゃんを護り隊』のメンバー達なのでエウルアを応援するような生暖かい眼差しだ。そんな視線を一心に受け、迅はぶるりと身体を震わせた。
三者三様の想いを馳せながらモンドの商店街を歩く。草と氷では元素反応が起きないはずなのだが、2人の間にはバチバチと雷元素が可視化していた。
つづく。
・エウルア
まさかの素面でこの攻撃力。明らか松韻より末路持ってそう。綺良々に続き、距離感ぶち壊れたヒロイン。正直、迅を逃したらそれ以上に素敵な男性は居ないと、氷元素らしく重めの恋愛感情を振り回す。大剣使いだしねしょうがないね(?)
綺良々のことは一目見た時から最大警戒。迅の好みが詰まった容姿に戦慄した。
迅が猫好きと聞いて、猫耳カチューシャと猫しっぽを購入していた目撃例有り。
・綺良々
エウルアの事は聞いてはいたが、ここまで美人で、ここまですきすきアピールが凄いとは思っていなく、基本ライバルとは仲が良くなる彼女だが、迅をかっさらわれそうな勢いに、可愛く対抗。
基本的に人相手は可愛くヤキモチを焼くが、猫相手の嫉妬は本気。この時の無表情&低トーンの綺良々は作中で1番怖い。
つ、遂に始まってしまった……この戦争が…!
前から書きたかったことがかけて満足です。次の話からどんどん激化するのでお楽しみに。迅くんは、ま、ガンバレ。メインヒロイン2人もありなんじゃね(適当)