エウルアと綺良々を出すと交互にイチャコラさせなきゃいかんので話がなかなか進まない今日この頃。
……おぉ神よ。
突然だけど、なぜ神は7人までなんだろうか。異議を唱えたい。
ま、この世界の神は、選ばれた7人の魔神がそう言われてるだけで、ちゃんと1生物として存在してるものなんだけどな。
それを踏まえて俺は、なんでその風神とか水神とかの中に「猫神」がいねぇんだと抗議したい。そして、もし本当に猫神が存在するとしたら、恐らく、いや間違いなく選ばれるのはこの綺良々になるだろう。
などと謎なことを考えながら綺良々を撫でる。猫耳を生やした彼女は朝食を食べた後でも手が勝手に吸い寄せられるほど魅力的だった。
「あっ、も〜…迅くん撫ですぎだよぉ」
そう言いながらも俺の膝枕で気持ちよさそうに顔を蕩けさせて大人しく撫でられている綺良々。全部この猫耳が悪い。飾りとかではなくしっかり本物で、ピクピク動く耳の先っちょや根元をわしゃわしゃしてやると満足そうに喉を鳴らす。人の状態でも喉って鳴るもんなん?かわいいからいいけど(馬鹿)
サラサラの髪の感触の気持ちよくて、時々指で梳いてみるが全く指が引っかからない。2本あるしっぽもさっきから俺の手をすりすりしてくるのが大変くすぐったい。このまま肉球も触らせてくれないかな……。
じっと足を見ていたのがバレたのか綺良々はささっとピンク色の肉球を隠した。
「い、いくら迅くんでも肉球はダメっ。くすぐったいから…尻尾ならいいよ?」
言われるがままに尻尾に手を伸ばすと2本のしっぽが俺の腕に絡みついた。今は手袋はしていないので、素肌にダイレクトにフワフワの毛がわさわさ触れて、なんとも言えない気持ちになる。
片方の手で綺良々の猫耳、もう片方で尻尾を堪能していると、皿洗いを終えたエウルアが戻ってきた。いつもの騎士服の上から着ていた黒エプロン(元々俺の)を外しながら歩いてきた彼女は寛いでる俺たちを見てため息を吐いた。朝食前にも同じ光景を見せて噛み付かれたが、もう呆れが勝ったらしい。俺の隣に腰掛けたエウルアは紺色のロングブーツに包まれた脚を組むと頬杖をついた。
「…君、ちょっと綺良々に甘くないかしら」
「綺良々って言うより猫に甘いのかもな。飼い猫と離れて3日だしなんか手が勝手に…。あ、朝ごはんご馳走さん」
「ごちそうさま〜」
「お粗末様。…だからあの時も毎日キャッツテール行ってたのね。ふんっ、付き合わされるこっちの身にもなって欲しかったわ」
「しゃあねーだろ保護者同伴って条件付けられちゃったんだからさ。そんなに嫌だったら断れば良かっただろ」
「そ、それは…」
そう言うともごもごと言い淀むエウルア。正直なところエウルアに断られたらもうアテが無かったのだが言わぬが仏だ。キャッツテールの話題も昔行ってた理由を話してから大人しくなった綺良々に内心ほっとしながらあーだこーだエウルアと喋る。
やっぱエウルアと話すと落ち着くわ〜。お互い気を遣わない感じがちょっと懐かしい。再会してから様子がおかしかったから、いつもに戻ってちょっと安心だ。今朝のアレとか色々な意味で。
俺の膝で伸びてる綺良々も相槌を打ちながら会話は進み、そして話題はキャッツテールのお酒の品揃いに。最近新メニューが追加されたらしく、それが中々美味しいらしい。俺はそこでポロッとこぼしてしまった。
「へぇ…ディオナにも会いたいし、その内行「迅くん」ハイッ」
なんか圧が増した綺良々の呼び止めに身体が勝手に反応する。恐る恐る下を見ると、ちょっと虹彩が丸くなってきた膝の猫神様の顔に「ディオナって誰?」と書いてある。
「ディオナはキャッツテールのバーテンダーの女の子よ。そう言う血筋の生まれで、貴方みたいに猫耳と尻尾が生えてるわ。」
どう説明しようか悩んでいるとエウルアがすかさず余計な説明を入れやがった。俺はバッとエウルアを見る。エウルアはそっぽを向く。綺良々は俺の膝の上に仰向けになったまんま、両手を俺の頬にやりこっちを向かせる。
「また猫撫でにいくの?」
「ちがうちがう!ただ挨拶するだけだって!」
「じゃあ向こうからすり寄ってきた時はどうするの?」
「そ、それは…」
今度は俺がもごもご返す。
全猫好きに問うけど、出先で知らない猫が近寄って来たらとりあえず撫でちゃうだろ!自分家に猫いてもなんか、それはノーカンっていうか?
そんな俺にどんどんほっぺが膨らんでいく綺良々。
「むぅ〜!やっぱ撫でるんじゃん!」
「それは不可抗力というか…」
「迅くんはわたししか撫でちゃダメっ!」
起き上がった綺良々は俺の手を自分の頭に載せてくる。いやわたしだけってかわいいかよ(ノイズ)それは殺生な!かわいいなぁ(ノイズ)。
「いやせめて飼い猫は許して欲しいんだけど…」
「………あっ、そ、それは仕方ないね!飼い猫は撫でるべきだようん!むしろどんどん撫でちゃって!」
「どういう基準?」
「とりあえず、キャッツテール行くならわたしも着いていくからね!」と腕を組んでそっぽ向いた綺良々に首を傾げていると、横からつんつんと突っつかれた。何?って振り返ると、お、おおおおおおお!?
「ど、どうかしら」
綺良々に謎の対抗心を燃やしたのかちょっと照れくさそうに、水色の猫耳カチューシャを付けたエウルアが言う。
好きです(反射)
はっ!?あっぶねぇちょっと惚れかけた。俺猫耳に耐性無さすぎだろ。いやしかし、エウルアに猫耳…今まで考えたこと無かったけどめちゃめちゃ似合う。元々の顔が美人過ぎるし、ちょっと照れてるのも相まってすげぇ新鮮だ。あ、やべぇ手が勝手に。
撫でようと自然にあがった右手を押さえ込もうとすると、エウルアが遠慮がちにその手を取って自分の頭の上に乗せた。
「別に…撫でたいなら撫でればいいじゃない…」
「あっ、ああ…」
せっかくならとエウルアの肩を抱く様な形で左手を後ろから伸ばして、優しく撫でてみる。綺麗な空色の髪は手入れが行き届いていてサラサラしっとりで、感触がくすぐったいのかちょっと身動ぎをする。顔は真っ赤でエウルアの目線があちこちに飛んでっていた。その中で思いがけず目が合い、お互い見合う。
「…ど、どう、かしら」
「え、さ…最高です」
「…っ、そ、そんなにいいなら …いつでも撫でていいわよ」
「お、おう」
あああ…エウルアとのこういう空気が慣れなさ過ぎて上手く言葉が出てこない。でもこの撫で心地と景色は間違いなく良くて、手が止まらない。次第にエウルアの目もとろんとしてきて、彼女はそのまま元々拳3つ分位の間隔で座ってた身体をゼロまで縮めてきた。当然身体がピッタリと密着し、男には無い、不思議な程柔らかい感触がくっついたところから伝わる。この間もずっとエウルアは俺の顔を見つめている。
エウルアはおもむろに俺の太腿に手を置いて、吸い寄せられる様に顔をーー「おらあああああああ!!」
「きゃっ」
「うぉっ」
目を釣り上げた綺良々が間を割くように飛んで来て、俺達は我に帰る。
揃ってそちらを向くとほっぺをぷっくーと膨らませた綺良々が俺のもう片方の手に頭をぐりぐりぐりーっとつむじドリルしてきた。
「2人の世界に入らないぃー!」
綺良々は「猫耳カチューシャなんぞに本物が負けてたまるかぁ〜」と右手を耳に置く。ああ、これこれ。エウルアの髪のいいけどやっぱ俺は猫耳の方が…と陥落しそうになった時、これまた左手が掴まれて空色の髪の毛の上に置かれる。見るとまだ顔を朱に染めつつも、上目遣いで睨んでくるエウルアさん。
「こっちも、撫でなさいよ…」
……天国かなここは。
両手が幸せすぎる。右手からはピクピク動くフワフワの猫耳、左手からは艶やかな髪の感触がして、ものすんごい勢いで癒されていくのがわかる。…ああ〜、これが整うってやつか(違う)。
それからしばらく両手でなでなでを続けていると、家の扉がコンコンとノックをされた。ん?誰だろう?
ここは一応エウルアが出た方がいいんじゃないかと彼女を見たが、心做しかくてぇっとしてて、目で君が出てと促されたので、俺はいつの間にかまた夢の中に旅立っている綺良々の頭を膝から下ろして、廊下を通って玄関を開けた。
「えっ?迅さん?…あれ?ここってエウルアの家じゃ……」
「…ちょっと事情があってな…、取り敢えず入ってくれ、アンバー」
扉を開けると俺が出てきたことにびっくりしていたのは、西風騎士団の偵察騎士、アンバーだ。昨日酒場とある頼み事をしたのだが、その前にエウルアに会いに来たらしい。
「う、うん、おじゃまするけど…エウルアは?」
「リビングにいるよ。綺良々も一緒だ」
「……なんか察したよ。やっぱりジンさんからここの鍵貰ったんだね…」
「まさかエウルアがここに住んでるとはな。多分確信犯だぞあれ。バーバラに言いつけて叱って貰うか」
そんなことを話しながらリビングの扉を開ける。
「…あらアンバー…きたのね…」
「zzZ」
「…え"っ?」
「違うんです」
…あとから聞いた話だけど、俺のなでなではなんか特殊な効果があるらしい。
撫でてるときは気付かなかったが、数十分撫でられ続け、未だソファでくてっとしたままのエウルアの頬は紅潮し、ちょっと息が荒い。暑かったのがちょっと騎士服の胸元が緩んでいて、俺という枕が無くなったのでエウルアの膝枕に移動して寝ている綺良々も相まって、まるでさっきまでエウルアと変な事をしていた様にしか見えなかった。
1歩後ずさりしながら引き攣った声を出すアンバーにすぐ様否定する俺。
「じ、迅さん…、エウルアになにしてたの…」
「ちがうちがう!俺はその、頭撫でてただけだって!」
「こんな真っ昼間からぁ?そ、それに頭撫でてあんなにならないでしょ!」
「いやホントなんだって!…なっ、エウルアっ」
少し落ち着いたらしいエウルアは呼吸を整えると、俺を見てニッコリと笑った。
「迅ったら、私はあんなにやめてって言ったのに…」
「ほらぁ!!」
クソがぁ!コイツ裏切りやがった!つか撫でてって頼んできたのはお前だろうがっ!
「へ、変態……!」
アンバーの蔑んた目がいちばん刺さる。終わった。一応仕事、出張としてモンドに来ている身として、出先で問題起こすとか、首飛ぶだろこれ…。俺がちょっと傷ついていると、横からクスクスと笑う声が。
「え、エウルア…大丈夫なの?」
エウルアは自分に駆け寄って肩を抱くアンバーに「大丈夫よ」と声を掛ける。
「アンバー、彼の言ったことは本当よ。私から頭を撫でて?って頼んだの。今のは私がちょっと恨みを精算しただけ」
「えっ、…そ、そうだったんだ…。えと、迅さん、ごめん…」
「アンバーは悪くないよ。こっちこそ誤解させてごめん…」
誤解が解けて、平謝りする俺たち。2人してエウルアを睨みつけるが、彼女はどこ吹く風だ。そんな彼女にアンバーはニヤニヤしながら言った。
「なぁんだ、ちゃんとやって貰えたんだ。良かったねっエウルア」
「やって貰えた?」
「ちょ、ちょっとアンバーっ!」
さっきの余裕はどこへやら、慌てた様子のエウルアがアンバーに詰め寄る。
「いやね、エウルアったら、迅さんと再会したら頼みたい事をリスト化してたんだ。ほら、エウルアって迅さんが稲妻戻る前ら辺の時期、当たりが強くなった時期があったじゃない?その時にちゃんとお礼言えなかったからむぐっ」
「あなたっ!ちょっと黙りなさいっ!」
どうやらそういうことだったらしい。俺はモンドの住民がちゃんとエウルアを見てくれるようになっただけで満足で、別にエウルアがそんなんなのは慣れてるし、気にはしてなかったけど…。
「そういうことなら、俺で良ければなんでも頼んでくれ」
俺が胸に手を当ててそう言うと、エウルアとアンバーは同時にこっちを振り向いた。エウルアに目で「本当?」と尋ねられたので頷きを返しておく。え、だってあのエウルアがやっと人とコミニュケーション取ろうと頑張ってるんだろ?そりゃ応援するだろ。
なんだかエウルアの目が怖い。ギラギラしているというか、活力がみなぎってるなら良い事だけど。
すると、腕をアンバーに突っつかれた。見るとこめかみに手を当てている。
「迅さん……そういうとこだよ?」
え?何が?
「それで?アンバーはどうしてここに?」
いつの間にか服装の乱れを直したエウルアは、起こされてまだおねむの綺良々のほっぺをつまみながらアンバーに尋ねる。
「えっとね、昨日酒場で話したんだけど、迅さんと綺良々ちゃんの飛行免許のことで相談を受けてね。今日風の翼の練習をする予定だったんだ。それでエウルアが今日非番だって聞いたから、誘おうと思って…」
「あらそうだったのね。じゃあ私も一緒に行こうかしら」
「あ、エウルア。そういえば俺がここに置いてった風の翼って残ってるか?」
「ええ。ちゃんと定期的に洗濯もしといたわよ」
「おっ、流石」
4人で寝室とは別のもうひとつの部屋に行くとそこのクローゼットにいくつかの風の翼が入っていた。
「わぁ…!綺麗っ」
それを見て眠気が飛んだらしい綺良々が歓声をあげる。
入っていたのは全部で4つ。黒の始まりの翼、紺色の見守りの翼に、白と青の降臨の翼と綺麗な青緑色の蒼天清風の翼だ。ちなみに降臨はエウルアが使っている。元々俺のだけど似合ってるし、贈呈した。
綺良々に似合いそうなのは…これかな。
「綺良々にはこれあげるよ」
「えっ!?いいの?」
「おう、みんな貰いもんなんだけど、使うのはひとつだし」
俺から「蒼天清風の翼」を受け取った綺良々は、背中につけて一回転する。法被と色が同じなので良くあっている。…ああ、遂に綺良々に羽が生えてしまった。これが天使か(馬鹿)。
「えへへっ、ありがとっ!」
笑顔でお礼を言う綺良々に内心やられながら、俺は見守りの翼を手に持つ。
「よし、じゃあ星拾いの崖に行こう!あそこなら低い高度で練習ができるから」
「ふわぁ〜…ここ、風が気持ちいいねぇ〜」
はい、やってきました星拾いの崖。
モンド城の東にあるこの崖はなだらかな傾斜の坂になっていて、滑空をしたとしても足がそんなに地面から離れないので安全に着地できる。
背中に蒼天清風…長いからモンドの羽でいいか。それを付けた綺良々が大きな欠伸をした。気持ちはわかるけど寝んなよ。
俺も久々なので揃ってアンバーの講習を聞くことに。エウルアは坂に座ってこちらを見ている。身につけた降臨の羽の色合いが服とそっくりだ。
「はい、迅さんはもう免許持ってるから同じこと話すと思うけど、綺良々ちゃんは初めてだからしっかり説明を聞いててね」
「はーい!」
あらいいお返事。
アンバーが説明してくれたが、要約すると翼の使い方はこうだ。
①基本的には高いところから滑空するもので、工夫すれば速度も出るが安全面が下がるためオススメしないこと(特に綺良々は初めてなので絶対ダメ)
②羽と両手を広げてバランスを取る。あとは体の傾きで風を捉えて移動する。
③滑空なので急には止まれない。バランスを崩したら②の安定姿勢でじっとしていれば余程変な落ち方をしない限り姿勢は戻る。
④高度が高いところは気流が不安定で姿勢も崩しやすいため、上空からはあまり飛ばないこと。
これが基本だな。
綺良々は言われた通り、その場で跳躍すると羽と両手を広げた。すると早速羽が風を捉えて落下が止まり、滑空が始まる。
「わわわっ!?」
だがバランスを取るのが難しいようで、変なポーズのまま前にすぃーっと進む綺良々。そこをアンバーが捕まえた。
俺も飛んでみる。ジャンプして羽と手を広げる。重心はやや後ろにしてあげるとその場で止まりやすい。そのまま少しずつ身体を前に前傾させていくと前方に滑空を始めた。速度が出た所で今度は右に身体を傾けると右に旋回が出来た。そのままUターンし、最後に重心を思い切り後ろに。羽が上を向いてブレーキがかかり、スタッと地面に降り立った。
おー、久しぶりだけど鈍ってはなかったな。よかったよかった。
「うんうん。迅さんは相変わらず上手だね。綺良々ちゃん、彼の真似をしてみて?」
「うんっ…えいっ!」
元気な声を出してもう一度跳躍する綺良々。彼女は少しの間「むむむ」とバランスをとっていたが、ポイントがわかったようで、揺れが安定しだした。おおーっとアンバーが歓声をあげる。いや2回目でこれは上手だと思う。
「そうそうその調子!そのままお辞儀をするような感じで身体を前に倒してみて!」
「こ、こう?」
綺良々は少しずつ身体を倒す。すると少しずつ前に進み始め坂の下に送り始めた。
「おっ上手いな綺良々」
「うん!めっちゃ上手だよ!」
「ほんと!?」
羽を畳んで降り立った綺良々を褒めちぎる俺達に綺良々は今日1番の笑顔を炸裂させた。
1時間後。
「わぁー!すごーい!コレ楽しいぃ〜!」
あれからみるみる上達を遂げた綺良々もう自由に飛べるようになっていた。俺は3日かかったのに、すげぇなぁ。
綺良々は何度も坂を滑空して降りては箱になって坂を駆け上がり、また滑空してを繰り返していた。箱になった綺良々を見て飲んでたお茶を吹き出したエウルアとアンバーは見てて面白かったが。
「よしっ!じゃあ今度はみんなで崖から飛んでみよっか!」
とのことで、俺達はみんなで並ぶと星拾いの崖からひょいっと飛び降りた。そのまま星落としの湖まで飛び始める。
普段から使っているエウルアやアンバーはお手の物で初めて高度高めの滑空をする綺良々も猫だからかあまり怖さは感じてないようだ。楽しそうに景色を見回している。
俺達はそのままお互いにぶつからないように気をつけながら滑空を続け星落としの湖に着いた。湖中央の七天神像の前に座って湖の湖をぱしゃぱしゃしている綺良々が満足そうに息を吐いた。
「やー、滑空って楽しいねぇ!普段の配達でもこれ使おうかな?」
「稲妻城の天守閣の屋根上から飛んでみようぜ。あそこからなら遠くまで飛べそうだ」
「おっ、いいねぇって、ダメダメダメダメ!!そんなことしたら天領奉行が飛んできちゃうよっ?」
「なら俺らも飛んで逃げるか」
「…もしかしたら幕府軍も全員風の翼持ってるかもしれないよ?」
「…皆飛んでるのを想像したら怖いな。烏の大群みたいで」
「あははははっ!」
暖かい気温といい感じに冷たい水が気持ちよくて、ノリでアホな会話をする俺たち。
そのままエウルアが持って来てくれたお弁当を食べ、午後は風域を使ってる飛んでみることに。あ、弁当のサンドイッチはマジで美味かった。ひとくち食べたあとのアンバーと綺良々の勢いが凄くてどんどんなくなっちゃったが。個人的料理上手いランキングは知り合いの中だとエウルアが1位だと思う。ばあちゃんの料理は別ベクトルで最強な。ばあちゃんは殿堂入りのランク外。久しぶりにエウルアが作るパイを食べてみたいな。
「よーし、じゃあここに風域を作るから、望風山地に飛んでみよう」
エウルアに水面を凍らせて貰って湖の対岸に渡り、アンバーは懐から風の種が入った瓶を取り出した。栓を開けて中の種をほおり投げるとその場に強烈な上昇気流が噴き出す。
そこに綺良々、アンバー、俺エウルアの順で飛び立つ。綺良々を最初にしたのはもしバランスを崩したらあとから来る俺達が支える為。
だがそんな心配も杞憂だったようで、見事に上昇気流に乗って滑空に入る綺良々。下から風に当たる体験は初めてだったようで、超楽しそうだ(かわいい)。
そのまま望風山地に降り立った俺達は現在、風の翼を使って戦うことが出来る無相の風に挑んでいる。
無相の風は元素が噴き出す地脈の入口などに形成される高純度の元素生命体のことで、名前の元素に対して完全耐性を持つ。
「あっ!吹き飛ばし、来るよっ!」
アンバーの声が響き、無相の風がダイヤモンド状のコアの周りに風元素の蝶の羽を形成する。
俺とエウルアがバックステップをした直後、その位置に風域とは比べ物にならないほどの上向きの突風が発生した。あれを食らうと風の翼でも捉え切れないほどの勢いで上空にはね上げられてしまう。
攻撃が終了した無相の風は、一定時間コアがむき出しになる。それを見逃さず、俺とエウルアはほぼ同時にコアに走り出した。
雷を纏い、エウルアを追い越した俺は雷を付与した霧切で一撃見舞い、すかさず左にズレると、入れ替わるように追い付いたエウルアが大剣を腰だめに振り抜いた。
「結霜せよっ!」
刀身に纏われた氷元素が無相の風についている雷元素と超電導反動を引き起こし、打たれ脆くなる。冷気を纏ったエウルアは横薙ぎの体勢のまま脚を入れ替え、ダンスのターンのような動きでさらに回りながら大剣を振り上げた。
ズガァン!!と心地がいい音が響き渡り、エウルアは大剣を背中に預け、相手に背を向け、続いて大剣を縦に振り回して勢いをつけると体を横向きにして遠心力と重力を乗せた一撃を放った。
堪らず吹き飛んだコアは、風のキューブを集め直し、空高く浮かび上がると、キューブをコアの四方に展開し、元素で出来た立方体を連続して飛ばしてくる。
チラリと仲間の方を確認すると、綺良々とアンバーは草元素のシールドで守られ、エウルアは大剣を盾にして防いでいる。無相の風は4人の中で唯一防御体勢に入っていない俺を集中して狙ってきた。風元素のキューブが矢を超える速度で俺に迫ってくる。
彼女達は棒立ちの俺を見て目を見開き、声をかけてくるが、笑みを返した俺は全身に雷を纏い、霧切を構えた。
というかこれをしてもらう為に態と構えを解いていたのだ。俺の魔物用の技は威力が高く、隣とかに仲間がいると使いにくい物が多い。だからこの状況は好都合ってわけ。
よっしゃ、ここんところ殆ど戦ってなかったし、運動といきますか。
俺は自分に迫り来るキューブを、霧切を閃かせ一度に全て叩き落とすと同時に予め足に圧縮しといた元素を解放。空高くにいるむき出しのコアの目の前に瞬間移動と見紛う速度で接近した。
気合と共に刀身の圧縮元素をバーストさせ、霧切を猛烈な勢いで振り下ろす。
直後、衝撃音と、腕に残る会心の一撃が出た時特有の痛快な感覚。
無相の風のコアはとんでもない勢いで元居た広円状のフィールドに叩きつけられる。
俺は満足気にスタッと着地するとエウルアとアンバーに若干引いた目で見られた。
「…君、前より格段に強くなってない?配達員なんじゃないの?」
「実は、自分でも疑わしいんだ」
綺良々は「カッコイイ…」と輝いた目で俺を見つめている。ウッ(浄化)
「よぉし!わたしも負けないよー!」
綺良々は俺に感化されたのか、キューブが再生している無相の風に箱状態で突っ込む。無相の風が竜巻を起こして綺良々を狙うが、箱状態の綺良々の速度は速く、小回りも効く。すいすい竜巻を避けながら近づくと、俺が攻撃したことで雷元素がついてるコアにどこからか取りだした狛荷屋の箱を思いっきり叩き付けた。
中には草元素がパンパンに詰まっている綺良々の必殺技らしく、叩き付けたところが草激化反応によって大爆発を起こして、猫の形をした草元素の塊が10個ほど散らばった。あ、ねこだねこ。さわりたい(発作)
おお〜っと歓声を上げて見ていると、アンバーが懐から自分をデフォルメしたような人形を取り出した。
「これでトドメ!おりゃぁー!」
アンバーはだした人形のうさ耳リボンをむんずと掴むとハンマー投げの要領でブン投げた。クルクルと回転してぶっ飛んでいく人形の顔がなんか切ない。
人形がコアにヒットした瞬間、またもや大爆発。周りの猫型の草元素も巻き込んで大炎上する。あ〜、ねこが…(もうええて)
「「いぇーいっ!」」
アンバーと綺良々がハイタッチ。さすがに終わったかな?炎でなんも見えないけど、討伐したんだったら近くに地脈の花が……無い。
俺とエウルアが顔を見合わせ、2人に向かって走り出す。
「おいッ!まだ倒せてないぞ!!」
俺が叫び、え、と2人がこちらを向いた瞬間、炎上してた炎が風で割れた。その中からボロボロだが、何とか持ちこたえていた無相の風のコアが現れ、綺良々に向けて圧縮された風元素で蝶の羽をかたどった。…まずいっ!
「綺良々っ!」
直後、周りの俺達まで踏みとどまる程の突風。
そんな風をモロに受けた綺良々は声も上げられずに上空に舞い上げられた。ギリギリシールドが間に合ったみたいで怪我はしていないようだが、この攻撃には続きがある。綺良々と一緒に上がってきたコアは無防備な彼女に向けて再度元素を圧縮し始めた。風の蝶で打ち上げられると次の風の刃が直撃してしまう。無相の風と戦う時には絶対に被弾してはいけない攻撃だ。綺良々のシールドでも多分防ぎきれないだろう。
どうするっ!雷を纏って跳べば間に合いそうだが、身体の雷で綺良々が怪我をしてしまう。もう迷っている時間は無い。……だったらッ!
俺は瞠目し短く集中。身体を循環している仙人の力を引き出す。
その仙力を全て身体強化に。
跳躍。
雷まとい程の速度では無いけど、一瞬のうちに綺良々の元まで飛び上がると彼女を抱き、庇うように身体を捻った。直後、鋭い突風が俺達を襲う。
「…ぐッ」
紅い血が俺達と一緒に空を舞った。完全には避けられなかったらしく、右の二の腕から鮮血が流れ出ている。こりゃ結構深くいったな。でも綺良々に当たるより200倍マシなので痛いのを我慢して、風の翼を広げて体勢を安定させる。
俺は力を使い切り、落ちていく無相の風のコアを尻目に叫んだ。
「エウルアっ!」
「砕け散れッ!」
エウルアは背中から大剣を抜刀しながら、落ちてきたコアに回転をたっぷり乗せた氷元素の一撃を叩き込み、今度こそ無相の風は跡形もなく消し飛んだ。
「あ…迅くん、助けてくれてありがと……えっ……じ、迅くんっ!血がっ…!」
「大丈夫だ綺良々。こんなの唾つけときゃ治る」
「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!!早く降りて治療しないと…!ごめん…わたしのせいで…」
「そんなん気にすんな。そもそも俺がもうちょっと早く気づければこんなことにならなかったんだ」
腕に抱かれた綺良々は、俺の腕を掴んだ時についた血に気がついたらしい。悲痛な声を上げると同時に、遂にバレてもうた。つーか、自分からバラしたんだわ。多分みんなから見た俺の目は仙力の影響で金色になってるんだと思う。着地した俺達に駆け寄ってきたエウルアとアンバーも、腕の傷を見て青ざめ、俺の目を見て驚愕の表情を浮かべた。
ポタポタと腕を伝って流れ落ちていく血。傷口を抑えて膝を付く俺にみんなが集まる。ちょっ、みんな近いっ。
「ちょっとっ!大丈夫なのっ!?」
「腕出して!うわっ…結構傷が深いっ、応急処置なんかじゃ…!」
「わたしがモンド城まで運ぶよっ!迅くん乗ってっ!
「だああ!ちょっと待てって!落ち着けっ」
慌てふためく3人に、俺がどうどうと抑えるが、ぎゅんと眉を釣り上げて3方向から怒られる。綺良々に至っては自分を庇って貰った傷なので涙目だ。
「だからっ、これくらい自分で治せるからっ!」
「自分でって、どうやってよ!」
「ちょっと見てろって」
俺は3人から1歩離れると、再び仙力を解放して、俺の仙力固有の能力を行使した。循環する仙力を腕の傷に集中させる。
すると、あれだけ深かった裂傷がみるみるうちに塞がれ始めた。そして数秒後、傷跡が残ったがほぼ元通りの腕が。
「…はぁ……はぁ…」
うぅ…、やっぱコレ使うと一気に消耗するなぁ。
今使ったのは俺の仙力の固有能力『超回復』。仙力っていうのは個人個人にその人だけの能力が備わっている。魈様なら速度が上がって、甘雨さんなら治癒能力が向上する、みたいな。そして仙力は仙人の生命力そのものだ。俺はこれを大量に消費する代わりに傷を即時で回復できる。
一見便利そうだが、自分の生命力大幅に削って傷癒すとかどの道死に近づいてることに変わりはなくて、傷だらけで死ぬか、消耗して死ぬかみたいな。なんとも中途半端。しかもどんな小さい傷でもコレで治すとしっかり傷跡は残る。
ここで察した人もいると思うけど、俺の身体中の傷はこの能力で無理やり直したものだ。1年しかない修行期間であんな数の傷普通に直してたら治療だけで1年過ぎちゃうわ。
と、言う感じで固有能力で元通りになった代わりに生命力をちょっと持ってかれた俺は呼吸を整えると、何とか立ち上がる。まだ目の色々変わったままなんだろうな。3人と俺の目が会いまくる。璃月港側に隠す上で仙力使うと自分で目の色変わったの気づけないのが難点なんだよ。だから今まで頑なに使わなかった。
その俺の瞳と、今起きた異常な治癒をみて、3人は唖然とする。
ま、話すしかないよねと膝をついてそう思いながら地面を見ていた俺の視界に、白色の猫足が映る。
見上げると俺の前に立った綺良々は、不安そうな顔をしていた。普段の元気な様子はなりを潜め、眉は八の字になっている。綺良々は意を決したように、恐る恐る、不安そうな声音で聞いてきた。
「迅くん…、君は一体、何者なの…?」
ただの4分の1仙人の猫好き配達員です。
無相の風の回復フェーズは?というツッコミは、しないで頂けると…(土下座)
・アンバー
みんなが原神を初めて出会う最初の女(語弊)。
エウルアの親友枠を綺良々に取られそうで内心焦っている。
実はモンドに隠れファンが多い。