職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしました。




読む前にこちらのMAXコーヒーいかがですか?(悪い笑み)


7話 猫又娘は夜目が効く

 

 

 

「「説明して」」

「ハイッ」

 

無相の風を倒した後、わたし達は迅くんを連れてお家に帰ってきていた。目的はもちろん、迅くんのこと!わたし、油断して無相の風の攻撃を食らいそうになったんだけど、迅くんが庇ってくれたんだ。受けた傷が結構深くて、血が止まらなくて…わたしは罪悪感と腕からボタボタ垂れる血に震えが止まらなかった。泣きそうな顔で謝るわたしに、迅くんがなんでもないように笑う。なんでそんな顔ができるの!?いくらなんでも優しすぎるよ!とわたしが詰め寄って応急処置をしようとした時、迅くんの瞳の色が変わったんだ。

 

いつもは綺麗な青色の瞳が金色になっていて、わたしはびっくりすると同時に昨日のことを思い出した。

 

そう、昨日迅くんとモンド城に向かって追いかけっこみたいなことをしてたんだけど、想像よりも早く追いついて来た迅くんに驚いて、躓いて高めの段差の上から落ちそうになった時に、助けてくれた迅くんの目もこんな色になってたような。一瞬だったしわたしの気のせいかと思ってたけど、勘違いじゃなかったみたい。

 

迅くんはそのまま怪我した腕に力を込めると、なんと傷が巻き戻しをするみたいに塞がっていった。それを見て、わたしは迅くんは人ではないことに気がついたんだ。

 

そこで1番に来た感情は、不安。

 

わたしが知る人以外の生き物は、わたしみたいな妖怪か、仙人の師匠がいるって言ってたから仙人さん達と、魔神くらいか知らない。もし妖怪なんだとしたらわたしが気づかないわけないし、残るは仙人関係と魔神って線。そう考えた時、前に妖狐さまと話したことが頭をよぎった。

 

『妖狐さま、魔神って今もいるんですか?』

『いや、大抵は魔神戦争の時に死んだか封印された。残っておる物もいないでもないが、大抵は力を失うか弱体化されておる』

『へぇ〜、もし、強い魔神が現れたりしたらどうするんですか?』

『そうじゃな…、現れた場所によるが、どの国の領域に現れてもそこの神が対応することになるのは確実じゃな。妾が考えられる範囲だと……少なくとも殲滅に動く神は多いと思うぞ?民にとっても国にとってもそれが1番安心じゃからな』

 

もし、迅くんが魔神の生まれ変わりなんだとしたら…それがバレたら国が敵になっちゃう→→迅くんの傍に居られなくなっちゃう!?仙人だとしても、仙人って璃月に居るものだから、稲妻に居られないことには変わりない。そんなのやだぁ!!

 

と、言うわけ。考え過ぎって言われるかもだけど、ほんとに怖いんだからねっ。

 

それで今は家に帰ってきて順番にシャワーを浴びて、迅くんを前にしてわたしとエウルアさん、アンバーちゃんとソファに座っている状態。

 

チラリと隣の2人の方を見てみると、エウルアちゃんは腕と脚を組んで迅くんを見ていて、彼女とわたしに挟まれているアンバーちゃんはこの雰囲気が気まずいのか、視線をあちこちに振り回している。

 

「……で?改めて聞くわ。迅、……君は何者なの?ただの人では無いのはさっきでわかったけど」

 

切り込んだエウルアちゃんの言葉に答えるように迅くんは少しだけ目を閉じて、開ける。その目にはいつもの青色じゃなくて綺麗な金色の瞳が私たちを見据えていた。改めて驚く私達に迅くんは説明を始める。

 

「っと、何から説明するか…。まず、俺は唯の人じゃない。璃月の仙人と人との子供、半分の仙人って書いて半仙って言うんだけど、俺は更にその半仙の子供、半々仙って種族なんだ。仙人の孫って表現した方がわかりやすいかな」

「半々仙…迅くんは、稲妻の人じゃないってこと?」

「ああ。俺が生まれる前に半仙の父親が亡くなってたらしいし、仙人の話だと俺の母親は俺を抱いて稲妻に帰ったそうだ。その先で俺は拾われたらしい」

「その、拾われたって、迅さんのお母さんは…」

「母親は、拾われた俺の横で倒れていたらしい。既に息を引き取っていて、妖魔になりかけていた。拾われるのがあと半日も遅かったら、俺は殺されてただろうな。…母親を退治をした八重宮司の話によると、璃月圏内の妖魔の穢れがついていたって事だから、多分父と同じだと思う」

 

ま、その頃の記憶は全く無いんだけどな。と、少し開いて座った脚に肘を置いて、手を組み少し俯いてそう言った迅くんに、わたし達は息を飲んだ。化け物になった母親に殺されかける。想像するだけで震えてくるような光景だ。

 

そんな迅くんにエウルアちゃんは話してくれたことにお礼を言うと、次の質問に入った。

 

「…君の出身はわかったけど、何故ずっと隠していたの?」

「理由は2つ。まずこの仙人が持つ『仙力』っていう力は人に長い時間当てていると色々な悪影響が出ること。純粋な仙人は存在するだけで仙力が漏れ出ているけど、ある程度コントロールできて、漏れ出た仙力を元素力に変換できるようになったから、今は大丈夫だけどな。2つ目は、自身の正体自体を最近になって知って、公に言うことの明確なデメリットもあったからだ」

「最近…ということは、仙人に会った時に知ったってことかしら?」

「その通りだ。向こうは死んだと思ってたらしくて、大層驚かれたよ」

「迅くんその、デメリットってなんなの?」

 

そう聞くわたしに、迅くんは「まぁ、俺の勝手な推測なんだけど…」と頭を搔く。

 

「師匠にもそう言われたし、自分で言うのもなんだけど、俺の名って結構通ってるだろ?それも割と誇張して」

「誇張なんてされてないと思うよ?1年依頼達成率100%の冒険者で、魔神オセルの攻撃から璃月を救った英雄、なんて呼ばれてるじゃん」

 

アンバーちゃんに言われて、ちょっと照れたような表情をする迅くん。はい今の顔、綺良々メモリに保存されました!横を見たわたしとエウルアちゃんと目が合う。エウルアちゃんも同じこと考えてたみたい。今の表情、破壊力やばかったよね…、これは早急にフォンテーヌに行って写真機を確保せねばって違う違う!今は真面目な話中っ!

 

「そ、それで、俺は前にも璃月七星専属の冒険者やってたんだ。大層に聞こえるけど、要は七星のパシリな。稲妻に帰る時もだいぶ渋られたからまだ俺を狙ってる可能性が高いんだよ。そんなとこに俺が実は仙人の末裔って知られてみろ。絶対稲妻に返してくれねぇってのがひとつと、単純に他の国に常駐してる仙人とか変な目で見られるかなって思って…」

「ふぅん、私としては君が璃月に残ってくれた方が恨みを精算しやすいんだけどね。今ならどうなの?璃月に住まわされるとしても流石にちょくちょくは帰してくれるんじゃないの?」

「あー…、ま、そうなんだけどなぁ」

「なによ。なにかどうしてもな理由がある顔ね」

 

エウルアちゃんからジト目で見られた迅くんは目を泳がせ、最終的にわたしと目が合う。わたしを見た迅の目がちょっと柔らかくなったのは気のせい?すると、迅くんはちょっと恥ずかしそうにこう言った。

 

「だって、……毎日飼い猫撫でられないだろ?正直今でもキツいのに、年1とかムリ。死ぬ」

 

それがわたしの耳に届いて、意味を理解した瞬間、わたしは顔を迅くんに見られないようにくるりと後ろを向いた。

 

「えっ、なんで後ろ向くんだ?」

「なんでもないっ!今ちょっと顔見ないでっ!」

 

だって、……絶対今わたしニヤけてるからっ!

 

あああどおしよぉ…あれだけ頑なに帰りたがってた理由がわたしを撫でたいからぁ〜?もうっほんとそういうところだよ迅くん!!やばいぃこのままじゃ迅くんの方向けないよぉ。お願い戻ってぇ〜戻ってわたしの顔〜!

 

勝手に上がる口角を必死に手で抑えているわたし。隣のアンバーちゃんが頭上に「?」を出しながら見てるその奥で、エウルアちゃんがどこか羨ましそうに見てくる。

 

「…私の猫カチューシャじゃ駄目って事かしら?」

「えっ、あ、あれはあれで…」

「なら、毎日してあげようか?」

「………………」

 

おいこらぁぁ!!そこぉ!人がニヤけてるとこでなにしてんのちょっと揺らいでるんじゃないよ迅くん!!

 

その次は仙力の固有能力って言うのを色々聞いた。迅くん曰くこすとぱふぉーまんす?が悪いらしく、滅多なことでは使わないそう。治せるのも命に別状がない傷までで、致命傷を治すと仙力を使い切って死んじゃうみたい。能力を使ったのも今日が1年ぶりだと迅くんは言っていた。

 

この後も色々と話し込んで、だいぶ迅くんの事を知ることができた。迅くんに、綾華ちゃんや綾人さん、宵宮ちゃん達には言わないの?と聞くと、自分の正体の事は璃月の人にばらさないでくれれば良いと言っていた。今度モンドに来た2人には話してみようかな。なんだか迅くんの秘密を私たちだけが知っているのが不公平に感じたんだ。

 

ひとまずっ、わたしの不安は杞憂でよかったー!迅くんは璃月に残ることを望んでない。稲妻に居たいって言ってくれてた。えへへ、だってわたしを撫でたいからだもんねっ?その事が胸に反芻する度に、胸が暖かくなって、気が緩むとニヤニヤしちゃう。

 

長らく話してたから外は日が沈みそう。アンバーちゃんをお家に返した後、お家に3つめのベットが届いた。それを風の翼が置いてある部屋に置こうとしてた迅くんと、一緒に寝たいけど恥ずかしくてそんなこと言えないエウルアちゃんと、猫になれば一緒に寝れるけど猫になったら即バレなので唇を噛むしかないわたしの三つ巴の戦いが起きそうになったり(結局寝室は別になりました。くそぉ)、隠してたお詫びだと疲れているはずなのに私たちに料理を振舞ってくれた迅くんに2人してときめいたり。あ、風の翼を教えてくれたアンバーちゃんには帰す前に1番豪勢なお弁当を渡してるよ。

 

そんな感じで夜がふけていった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ーーそんなこんなで、俺たちがモンドに来てから5日が経った。エウルアは今日任務があるので朝から家を出ていて、今は起きてきた綺良々と朝食後にだべっている。家主は仕事行ってるのに居候の俺達がぐーたらしてるのはアレなので、一通りの家事は終わらしてある。

 

ちなみにエウルアは今日の任務には行きたくないらしく、肩を落として寝室から出てきた彼女を、基本早起きの俺が朝飯作って出迎えたら小さく「…結婚して…」とか言ってたような気がしたが、気のせいだと信じたい。

 

朝ごはんを振舞った後、出発まで少し時間があったのだが、その時のエウルアは凄かった。

 

俺をソファに座らせた後、俺の腿の上に頭をこてんと乗せてきて「…なでて」と言ってきたのだ。しかも猫耳カチューシャ付きで。そんなことされたら俺が抗えるはずもない。最早手が勝手に動いてひとしきりエウルアを撫でると、彼女は満足そうな顔をして「私の家で綺良々と変なことしないでよ?」と言い捨てて任務に向かっていった。んな事するか。せいぜいなでなでくらいだぞ(無自覚)

 

んで、今は前みたいに霧切の手入れをしてたら寄ってきた綺良々の頭をなでなでしている。彼女は嫌がる素振りも見せず、うつ伏せで俺の太ももに顎や頬を乗せて俺のテクニックに陥落中、喉をゴロゴロ鳴らしている。つかなんで人でゴロゴロ鳴らせるん?

 

「…迅くんは、わたしのこと撫でるの好きだねぇ〜」

「あ〜、なんか自然に伸びてるんだよな手が。もし嫌な「嫌じゃないよ」…そ、そうすか」

 

食い気味で被せてきた綺良々にちょっとびっくりする。彼女は、頭を撫でてる俺の手を取ると膝の上で仰向けになり両手で俺の手を弄び始めた。未だにに見慣れないいインナー姿の綺良々が体勢を変えたときにふるりと揺れた2つの丘に目線が吸い寄せられそうになる。

 

ここで、綺良々のインナーのデザインについて説明しよう。

 

インナーと聞くと、無地の黒い薄めの上下を思い浮かべるだろうが、こやつは違う。まず、生地の面積が割と狭い。横を向くと横乳が少し見えるし、胴を回る生地も幅が細め。終いにゃ肩紐じゃなくて首の後ろで縛るタイプだ。余った紐を何周か首に巻くデザインらしく、なんか扇情的だ。

 

ここまで長々語っといてなんだが、要はオシャレなビキニの上みたいな感じのインナーなので非常に目の毒だってこと。普段はいつもの法被を羽織っているのだが、狙ってんのか知らないけど俺になでなでを頼む時は決まって脱いで来やがる。ラフな格好の方が撫でられやすいとの事だけど、ホントかな……。

 

「…手の方も傷跡だらけなんだね」

「元素を操る基本は手元からだからな、綺麗な手ではないだろ?」

「ううん。そんなことないよ?わたしはこういう手、好きだな」

 

なーんでそんなこと簡単に言うんですかね。好きになっちまうわ。

 

「あ、そうだ!わたし、前から迅くんに頼みたいことかあったんだっ」

「頼みたいこと?」

 

かばりと起き上がった綺良々が思い出したかのように言う。起き上がる時に揺れた綺良々の丘に目線が行ってしまった俺の目を潰そうか悩んでいる俺に、綺良々は元気に言った。

 

 

 

「迅くん、わたしに剣の使い方を教えて欲しいなっ」

 

 

 

 

 

 

 

はい、やって来ました風立ちの地。可愛くお願いされ即答した俺は綺良々を連れてここまで来ていた。広場の中央に大きな木そびえ立っていて、近くに川もあるため休憩も好きに取れる。

 

俺は騎士団から借りてきた木剣を綺良々に渡すと、俺も同じく木剣を手に構える。

 

「綺良々に神里の剣術や、西風騎士団の形を教えてもこんがらがっちゃうと思うから、俺がそこら辺から有用なやつを教えるな」

「はーい!」

 

綺良々の良いお返事を聞き、俺は木剣の柄を両手で持って正眼に構える。

 

「人間は普通、こうやって剣を両手で扱うんだ。理由は片手より力が入って、力が多く伝わるって事は扱いの幅も広がるってことな。でも、綺良々は妖怪だから力が強くて片手でも十分な威力が出ると思う」

「ふむふむ…」

 

まずは綺良々に剣の握り方と、大まかに上段中段下段の構え方を教える。

 

その後は基本の振り方を教えてみて、綺良々自身がやりやすいように改良していく。

 

いつもは人間の爪に妖力を纏わせて攻撃しているようで、それと組み合わせながら剣を降っている。あ、剣ぶん投げた。

 

「あっ!剣がぁ〜!」

 

思わず右手で引っ掻こうとして剣を離しちゃったっぽい。慌ててすっ飛んで行った剣をでででっと走って追いかける綺良々にちょっと笑ってしまう。

 

「…なんだか楽しそうなことをしているね?」

 

その時、声と共に風が吹く。横を見ると大きな木の根っこに人が座っていた。

 

「…ウェンティ。今日は酒持ってきて無いぞ?」

「僕がお酒だけ求めて歩いてる奴だと思わないで欲しいな」

「違うのか?……所で、俺が稲妻帰る前に貯めてったツケはまだか?」

「……んんっ、金銭に囚われた哀れな冒険者よ。この風神バルバトスが君にお告げをするよ。……過去のことは忘れ、未来を掴むために、前を向きなさい」

「おうコラ払う気ゼロじゃねぇか」

「いてててて!?ほっぺ引っ張らないで!?ごめんごめん次には返すからぁ!」

「そのセリフ12回目だそ騙されるか!あとお前、あんま自分で神を騙るなよ。バチ当たるぞ」

「いやいやホント!本当なんだって!僕があの風神バルバトスだよっ!」

「はいはい」

「むぅ〜!!」

 

話しかけてきたのはモンドの吟遊詩人(タカり呑兵衛)ことウェンティ。こうしてたまに俺に絡んできては自分は神だとか言うちょっと変なやつだ。いやいや、いつも宴会になるとどこからともなく湧いて出て、好きなだけ飲んで騒いだ挙句酒代払わず遁走する奴が神な訳あるかい。

 

んな感じで絡んでくるウェンティをあしらっていると、剣を回収した綺良々が戻ってきた。ウェンティを見るとあ!と声を出して走り寄ってくる。

 

「あっ!この前の吟遊詩人さんだ!」

「昨日振りだね、猫又ちゃん」

「は?」

 

そしてそのまま普通に会話を始める綺良々とウェンティ。え、君ら知り合いなん?

 

「この人が昨日やってたショーを偶然見たんだけど、それがめっちゃよかったんだよっ!」

「あはは、ありがとうね。…そういえば、風の噂で聞いたんだけど、君、もうすぐお酒が飲めるようになるらしいね?よかったら僕がいろいろとお酒の飲み方についておしえてぷべらっ」

「吟遊詩人さん!?」

「お前綺良々にたかる気だろ!絶対させねぇからな!」

 

俺はなんだかモヤモヤして、綺良々にジリジリにじり寄るウェンティを裏拳で吹き飛ばす。木の方にぶっ飛んでったウェンティから遠ざけるように綺良々の両肩を掴んで抱き寄せた。「ふわっ」

 

ったく、油断も隙もない。綺良々にお酒デビューさせる時はコイツ出ない家で呑んだ方が良さそうだなと、ウェンティの方を見ながら腕に力を込める。「んぅ」

 

「いててて……暴力反対だよ〜。ま、お酒は残念だけど、お邪魔になりそうだし、僕はこの辺で失礼するよ。猫又ちゃん、今度のショーも見に来てくれると嬉しいな」

 

そう言ってウェンティは城の方に歩いていった。結局なんだったんだアイツ。思ったよりあっさり引き下がって意外に思う。いつもなら足にすがりついてくるのに。あ、綺良々を放ったらかしだった。

 

「迅くん…いきなり……ずるい」

「あっ、ごめん」

「ヤダ」

 

ここでようやく自分たちの体勢に気がついた俺は身体を離そうとするが、綺良々に腕を回されて失敗に終わる。身長差的にちょうど顔が俺の胸の辺りにくる綺良々は顔を埋めて、腕に力が込められた。

 

「…そんなにわたしとお酒飲みたかったの?」

「エッ、いや、アイツ、結構ひとに酒代たかるやつだからさ…俺はそれを止めただけっていうか……?」

「……ほんとうは?」

「ぅ………そうです」

「えへへへ〜」

 

白状した俺の体を綺良々はぎゅ〜っ抱きしめ、話してくれない。彼女はその体勢のまま背伸びをして、俺の耳元に口を寄せる。

 

「わたしも、同じだよ?迅くん以外の男の人とは絶対飲まないからっ」

 

綺良々の息が首筋に当たって大変くすぐったい。

体を離した綺良々は後ろを向くと、からかう様な声音で言う。

 

「へぇ〜、そっかぁ〜…、迅くん、私が他の人とお酒飲むの嫌なんだ〜」

「ああ、嫌だ」

「へぅっ」

 

一体、俺はどうしたんだろうか。

 

前までの俺だったら、こういう時色々言ってはぐらかしていた筈だ。でも今は何故か、この気持ちを口だけでも否定したくなかった。

 

正面からキッパリと否定すると、後ろを向いた綺良々の肩が跳ねた。

 

ここまで言ってもう引き下がれるかっ。俺が綺良々に近づいてこっちを向かせると、リンゴみたいに赤くなった綺良々が慌てている。かわいい。

 

綺良々は「えっ、あっ…、ぅぅ…じんくんっ」などとしどろもどろしているが関係ない。後に引けなくなった俺は、構わず綺良々の目を見て捲し立てた。

 

「俺は、綺良々が別の奴と飲むのは嫌だ。と、言うかその…綺良々が別の男と仲良くしてると、なんかおもろくないっていうか……だから、俺は綺良々がいいんだ」

「はうっ」

「実はその、街を歩いてて結構言われるんだ。君を紹介してくれってさ。でも、俺は何故かいつも断ってた。でも、最近気がついたんだ。俺、綺良々といると楽しいんだ」

「ん、んぅ…」

「だから、ウェンティに誘われてる時、思わず止めてた。本当は綺良々に委ねるべきなのに。だからさ……なんて言うかわからないけど、これだけは言える。俺は、綺良々と一緒がいいんだ」

「………」

 

わぁ〜!全部言ってもうた!多分俺の顔も真っ赤だろう。頬がめっちゃ熱いし。それに、綺良々の方も凄かった。

 

「…ぇ……ぅ……ぁっ………ぅ…じ…ん…くん…」

 

多分今まで見た中で1番顔が赤い。耳どころか首まで紅く染め上げ、口はパクパクと開閉して、目は潤みながらも俺から離そうとしない。

 

彼女はボバっと頭を爆発させると、わたわたと俺から距離を取る。胸を両手で抑えていて、顔は茹でタコみたいに真っ赤。2本の尻尾は感情の昂りか、上にピンと張っている。

 

「そっそそそうなんだぁっ!し、じんくんがそ、そう言ってくれるなら、わ、わっわたしも嬉しいかなって……ぅ」

 

視線があちこちに飛びながら噛み噛みでそう返す綺良々。

 

「お、おう……」

 

俺もそんな綺良々に掛ける言葉が見つからず、両者しどろもどろ。

 

すると、沈黙に耐えきれなかったのか、声を出したのは綺良々が先だった。

 

「アッ、そろそろ日も傾いてきたし戻らないとねっ!今日は色々教えてくれてありがと!コレ騎士団に返してくるねっ!!迅くんは先戻ってて!」

「えっ、ちょっ、綺良々っ?」

 

綺良々はそう捲したてると俺が止めるまもなく箱状態となり一心不乱に街へと駆けて行った。

 

……だ、大丈夫だよな?

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「これっ、ありがとうございました!」

「はい。また頼む時は私に言ってね。……貴方、凄く顔が赤いけど、大丈夫?熱とかあるんじゃ……」

「イエっ!?だ、だだ大丈夫ですっ!」

 

嬉しい、好き。

 

「あら、猫又ちゃんこんにちは、家に帰るところかい?」

「は、はい!………それではっ!」

「ああ、またね。……あの娘、やけに顔が赤いけど、大丈夫かい…?」

 

嬉しいっ、大好きっ。

 

「お、綺良々じゃないか。迅雷の奴は一緒じゃないのか?」

「が ガイアさんっ?いえ、迅くんは………〜〜っ!いえっ!今日は見てないですっ」

「おお、そうか。…どうした?熱でもあるのか?」

「いえ、お構いなく…、さよならっ」

「お、おう。…さては、何かあったな?(満面の笑み)」

 

好きっ好き好き好きっ。

 

『綺良々が、いいんだ』

 

〜〜っぅぅぅううっ。

 

わたしが剣を返してお家に帰るまでに、色んな人が話しかけてくれてたらしいんだけど、その時のわたしの記憶には残らなかった。

 

ずっとずっと、わたしの中でさっき迅くんが言ってくれた言葉が何度も何度も胸の中で浸透して、わたしの頭の中が「すき」の感情でいっぱいになる。

 

ただからかう目的で、迅くんの赤面が見れればいいなって言ったつもりだったのに。予想を遥かに超えるカウンターが飛んできて、わたしがずっとずっと欲しかった言葉を面と向かって言ってくれて、わたしは嬉しさやら迅くんへの好きの気持ちでおかしくなっちゃいそう。

 

思わず逃げちゃった。本心ではあのまま迅くんに抱き着いて、存分に甘えたかったのに、気がついたら体が逃げていた。

 

それに、わたしに嫉妬してくれてた。

 

嬉しいっ、すきすきすきすきすきすきっ!

 

階段を2段飛ばして駆け上がって玄関の鍵を開けて寝室に飛び込む。

 

枕に顔を埋めたわたしは声にならない声を漏らしてベットに脚をバタバタさせた。キュンキュンと疼く胸を抑えて、呻く。

 

うぅっいたい〜胸がいたいぃ〜……でも、それを超えて。

 

好き。大好きっ。

 

ダメだ。もう頭から迅くんのあの顔が離れないよぉ。

 

「大好きっ、迅くぅん、すきぃ…」

 

わたしはその後も心の中、外問わずに「迅くんが大好き」という感情を放出し続けて、そのまま疲れて眠ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

「…………んんっ…」

 

わたしが目覚めると、もう夜中だった。あ〜寝ちゃったかぁ。起こさなかったのは多分、迅くんが気を遣ってくれたのかな。すき。

 

だいぶ落ち着いたわたしは横のベットで眠るエウルアちゃんを、起こさないように寝室を出る。猫は夜目が聞くので明かりもつけなくて大丈夫なのだっ。

 

時計を見ると午前2時くらい。わぉ、結構寝ちゃったんだね。

 

わたしはそのままシャワーを浴びる。お湯を浴びながら胸に手を当ててみると、あれほどうるさかった鼓動が落ち着いている。でも迅くんへの感情は1ミリも揺らいでいない。だいすき。

 

シャワーを浴び終えて、いつものインナーを着ると、部屋に戻ろうとして、ちょっとの好奇心で迅くんが寝てる部屋の扉をゆーっくり開けた。

 

「……すぅ………すぅ……」

 

…すき。

 

あっダメだ。迅くんの顔を見ると気持ちが収まんない。顔を見るだけでドキドキするし、触りたいなって思う。なんか、自分の中の迅くん好きのレベルが上がった感じ?取り敢えず迅くんの寝顔かわいい。好き。

 

迅くんの無防備なところって、この人を好きな女の子からしたらホントに強力。普段頼りになって、料理が上手で、戦いも強い人がこんなに子供っぽい寝顔とか、ほんとにズルい。すき。

 

ギシッ

 

気がついたらわたしは迅くんが寝てるベットに膝をついて寝顔を覗き込んでいた。ここまで自分が夜目が効いたことを感謝した日はないよっ。

 

ああ、ダメだ。実物を前にするとホントダメだ。止まらない。すき。すき、すき。

 

わたしは導かれるように迅くんに顔を寄せていく。

 

「んっ」

 

直後、わたしの唇が彼の肌に触れた。

 

ちゅーしたのはほっぺ。唇にはビビって出来ませんでした。ほら、起きちゃうかも知れませんし。流石に寝た状態で唇はちょっとズルい気がするのですにゃ(頬はセーフと思ってる辺り確信犯)

 

でもすっごく満たされた感じ。ちょっと、これ、ハマりそう……ってダメダメ!今度は起きてるときに向こうからしてもらうんだからっ!

 

わたしはそのまま寝顔を見ていたいって欲望を何とか引き剥がし、ベットから降りる。いやダメっここで振り返ったらまたちゅーしちゃう!ダメっわたし我慢してぇ!

 

欲に辛勝を収めたわたしは何とか部屋を出て、自分の寝室にもどって布団を被った。そこでだんだん冷静になってくるわたし。

 

んんっ〜!どうしようっ、ちゅーしちゃった!えへへでもめっちゃ幸せ……、唇だったらもっと良いんだろうな…えへへへ……すきぃ。

 

わたしは興奮してその晩、一睡も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「うわっ、なんかモンドの野郎からキスされる夢見た……寝覚め悪っ」

 





個人的にこの話の綺良々のように恋愛感情がオーバーフローしてる女の子が1番好きです。

・綺良々
好きが限界突破。将来キス魔の素質あり。

・迅くん
台無しだよ。


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