職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしました。宵宮綾華モンド訪問、前編です。

前回は糖度検証のためにぶっ放して見たんですけど、まだまだ耐えれる人が沢山いて安心しました(ニチャァ)

うちの綺良々のかわいさは後3回、変身を残している………。


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8話 猫又顔隠して尻尾隠さず

 

 

 

「……で?何があったの?」

「せやで。あんなにニヤニヤしとって、うちらが気付かんわけないやろ?」

「そうですよ。綺良々さん……、兄さんと何があったんですか?」

「アバババババ」

 

亀甲縛りで天井に吊るされたわたしに、目だけが笑ってない3人が色のない声で尋ねてくる。

 

……迅くん、わたし、今日ここで死ぬかも。

 

あっ、これが走馬灯かぁ。なんでわたし、こんなことになってるんだっけ。

 

 

 

 

 

 

あのわたしにとっての衝撃事件から数日後。今日は宵宮ちゃんと綾華ちゃんが蛍ちゃんの塵歌壺を通ってモンドに来る日だ。昨日、群玉閣の建設が一段落したと蛍ちゃんがモンドに来た。そこで連絡を取り合ってもらって今日来ることが決まったってわけ。

 

ちなみに驚かせたいから、迅くんにはこの事は言ってない。と、いうかあれからあんまり話せてない。

 

一応表面上はちゃんとお話してるよ?でも、なでなでとかは前は1日に何回もしてもらってたけど、今は2日に1回くらい。膝枕もしないで隣に座って撫でてもらう。

 

だって、ここでまた膝枕して撫でてもらったら、わたし、もう我慢できなくなっちゃう。ここが稲妻のお家だったら迷わず飛びつくんだけど、一応今はお仕事で外国に来てるんだし、出先で問題を起こすわけには…とか言ってるけど、その、……夜に迅くんの部屋を尋ねて、寝顔を見るのにハマっちゃって……あれから毎晩ですっ……。

 

え?ちゅーしてないかって?…っいやいや!流石にそんな、アレは最初だけで、寝てる無防備な迅くんにちゅーなんて…

 

…………ごめんなさい…ほんとは、毎晩ほっぺにしちゃってます………。

 

なんか、ここで迅くんが起きたらまずいよねって考えて、最初はやらなかったんだけど、だんだんそのスリルが気持ち良くなってきて…。我慢はするんだけど、毎回去り際にしちゃってる…。

 

ぅぅぅ……わたし、変態だぁ…。

 

肩を落としながら、蛍ちゃんとの待ち合わせ場所に歩いてると、ずっとわたしの横を歩いていたエウルアちゃんは首を傾げた。

 

「それで?私達はどこに向かってるの?」

「えっとね、この街の外れの広場で待ち合わせしてるんだ。そろそろなんだけど…あっ!」

「おーい!綺良々ー!」

「こっちこっち」

 

わたしとエウルアちゃんが広場に着くと、先に来てたらしいパイモンと蛍ちゃんがこっちに手を振っている。その2人の横の空間に穴が空いていて、塵歌壺から出てきたっぽい。

 

「昨日ぶりだね」

「ええ。来たのはあなた達だけ?」

「ううん、綾華と宵宮は今壺の中にいるんだ。……おーい!」

 

パイモンが壺の入口に向けて呼びかけると、中から恐る恐るといった感じで綾華ちゃんと宵宮ちゃんがでてきた。

 

「こ、ここがモンドなんか?稲妻とは建物の造りが違うんやなぁ」

「はい、石垣とは違う造りの高い壁…壮観です…」

 

2人はモンドの街並みが珍しいのか、キョロキョロ当たりを見回していた。

 

「2人とも、久しぶりっ!」

「あっ、綺良々ちゃん!久しぶりやなぁ」

「お久しぶりです。…えっと、その後ろの方が、エウルアさんでよろしかったですか?」

 

そうだよ。とわたしが返すとエウルアちゃんが1歩前に出た。改めてエウルアちゃんをまじまじと見た2人の表情が強ばる。わかるわかる。わたしも最初見た時、想像以上の美人さんに驚いたもん。

 

「風神の御加護があらんことを。彼から貴方達のことは聞いてるわ。エウルア・ローレンスよ」

「初めまして、稲妻社奉行、神里綾華と申します」

「うちは宵宮。稲妻で花火を作って生計を立てとる。よろしゅうな」

 

ひとまず挨拶を交わして、にこやかにお互い握手をする。…やっぱり目は笑ってなかったけど。…多分酒場でのわたしもこんな感じだったんだろうな…、人の笑顔ってここまで怖くなれるんだ。

 

そんなわたし達に、横から蛍ちゃんとパイモンが首を傾げた。

 

「……で、これからどうするの?」

「またオイラたちの壺に入るか?」

「ひとまず私の部屋でお茶をしましょう?色々積もる話もあるようだしね」

 

エウルアちゃんのその言葉にピクリと反応する綾華ちゃんと宵宮ちゃん。2人もそのつもりだったようで、そのままお家に移動を始めた。

 

先導するエウルアちゃんの後ろを歩いていると、後ろの宵宮ちゃんに手を捕まれ、綾華ちゃんの元に引き込まれる。なっなななんですかぁ!?2人はコソコソとわたしに耳打ちして来た。

 

(ちょっと綺良々ちゃんっ、エウルアさんってひと、めっちゃ美人やん!スタイルも良いし…)

(ええ、あの方は強敵ですね…、所で、兄さんはいらっしゃらないのですか?)

(迅くんは暇だからって冒険者協会で依頼探してるよ。綾華ちゃん達が来ることは言ってないから安心して)

 

2人から解放されて、一息ついていると今度は前のエウルアちゃんがわたしを引き込んで来た。もうっ、なんなのぉ!?

 

(ちょっと、聞いてないわよっ)

(何が!?)

(あの2人、幼なじみと義妹って言ってたわね…、あんなに美人だなんて、アイツは一言も言ってなかったわ!)

(ま、まぁ、迅くんは女の子の容姿で優劣決める人じゃないし…)

(そ、それはそうだけど…)

 

エウルアちゃんからも解放されて、ヘトヘトのわたし。蛍ちゃんを見るとくすくすと笑っていた。くぅぅ、他人事だからってぇ!

 

 

 

☆☆☆

 

程なくしてエウルアの部屋に着く。玄関を通った稲妻勢の2人は初めて見る部屋の造りに歓声を上げた。

 

ちなみにエウルアの部屋の間取りは、玄関から正面に伸びる廊下に、入ってすぐ左の扉が迅の部屋で向かいが風呂とトイレ。奥にキッチンとダイニング、リビングが一緒の部屋になっていて、リビングの右手側に女子部屋。所謂2LDKという種類の部屋だ。

 

「稲妻と違って、とても明るくて綺麗なお部屋ですね…」

「うう、うちの部屋がゴミ屋敷に見えてきたで…」

 

当然お部屋は綺麗好きのエウルアと迅が片付けてて常に綺麗。ホコリひとつ落ちていない。片や自分の屋敷とは違う種類の綺麗さに、片や自室と比べて打ちひしがれてる2人を自分と綺良々の対面に、蛍をお誕生席に座らせた黒エプロン姿のエウルアは、苦笑しながらお茶とお手製のお菓子を運んできた。

 

「稲妻の人は紅茶は初めてかしら。レモン味のシフォンケーキと一緒に食べると合うと思うわ。よかったらどうぞ」

「「「わぁ…!」」」

「相変わらず上手だね」

 

綺良々曰く、エウルアちゃんが作るお菓子はほんとにヤバい。めちゃくちゃ美味しくて、いくらでも食べれちゃう。だそうだ。事実、エウルアの料理の腕前は普通にお店を開けるレベルだ。特にお菓子関連にハズレは無く、毎度絶品を提供してくれる。

 

ちょこちょこエウルアが休みの日に迅とお茶会みたいなことをするのだが、綺良々がお菓子に夢中になってる間に歳が近い2人の間で大人の雰囲気(綺良々並感)が醸し出され、とても綺良々じゃ入れない空気感にお菓子を食べる手が加速したりしなかったり。

 

目の前に置かれた綺麗な黄色のシフォンケーキに、レモンの皮がすりおろして入ってるらしいクリームがかけられて、目を輝かせる女子達。それぞれに紅茶も配られる。ちゃっかり綺良々には冷たいアイスティーなのが綺良々の心に染みた。みんなでいただきますと言うやいなや、ケーキを口に運ぶ。

 

「わぁ〜…めっちゃおいしいわぁ」

「ええ、こんなにおいしい甘味は初めて頂きましたっ」

「このクリームが絶品だね。相変わらずスイーツはエウルアには勝てないや」

「オイラ……幸せだぁ…」

「そんなに褒めても、何も出ないわよ?」

 

実は主食よりもお菓子が好きな宵宮が顔を蕩けさせる。他の面々の評価も上々で、綾華は顔を綻ばせ、蛍も目を輝かし、パイモンに至っては天に昇って行った(物理)。

 

口々に絶賛する綺良々たちに、素っ気ないこと言いながらもちょっと照れてるエウルア。

 

と言うか、誰も手が止まっていない。酸味が効いたクリームを乗っけた甘めのケーキを口に運んで、紅茶を飲むとテーブルのあちこちから満足そうなため息が漏れた。

 

少しして全員が食べ終わると、紅茶のおかわりを注いだエウルアは組んだ手に顎を乗せて、本題に入った。

 

「それじゃあ、みんなアイツの共通の知り合いとして、まずは関係性から聞こうかしら」

 

ついに来た本題に場の雰囲気も強ばる。敵情視察の筈が普通にケーキとお茶を楽しんでいた宵宮と綾華も我に帰って真剣な顔になる。

 

エウルアの言葉にじゃ、うちから話すな。と宵宮が手を挙げた。

 

「うちと迅は、俗に言う幼なじみってやつや。アイツ、昔はこの綾華ちゃんのお家で育てられてたんやけど、うちはその頃から顔見知りやったんや。今は迅が勤めとる狛荷屋をうちが使うから、よく遊んだり、休みに買い物や花火の素材の採取に付き合ってもらったりしとるで」

 

横から「おさななじみ……」と小さく聞こえてきてちょっと笑いそうになる綺良々。エウルアにとって幼なじみは強力な肩書きらしい。次に、綾華も話し出す。

 

「お次は私ですね。兄さんが神里に拾われたのは私が産まれる前だと聞き及んでおります。私が赤ん坊の頃から沢山お世話になりました。今は家をお出になられて、配達などで顔を出しに来てくださいます。私の1番の恩人ですね」

 

またもや隣から「に、兄さん…」と小さく聞こえ、吹き出しそうになるのを必死に堪える。義妹という血が繋がってないけど結婚ができる関係はエウルアにとって強力だったらしい。エウルアの頬に汗が伝う。

 

「あ、私はみんな知ってるからパスね」

「今更言う必要もないもんな〜。あ、エウルアっ!ケーキおかわり貰ってもいいか?」

 

パイモンの体からすると大きめのケーキなのだが、関係ないらしい。おかわりをねだるパイモンに追加分を渡したエウルアは体勢を建て直して、にこやかな笑みを浮かべた。

 

「綺良々の事情は全員知ってると聞いてるわ。だとすると、私が最後ね、私と迅は……そうね、お互いに恩人同士、って言った方がいいかしら、私もアイツを助けたし、私は迅に、自分の一生をかけても返せないくらいの()があるの」

「「っ!」」

 

自信満々に言った言葉に綾華と宵宮の表情が強ばる。2人とも落ち着きを取り戻す為にティーカップを傾けるがカタカタ音がしている時点で動揺しているのは確実だった。

 

「へっへぇ〜、お互いに恩人かぁ〜。それはなんか、いい関係やなぁ…」

「は、はい。ちなみにその、一生かけても返せないご恩というのは…」

「話せば長くなるけど…」

 

エウルアは迅との間にあった出来事を皆に語った。本人とではそれで自分と迅の関係性の深さを見せつけてやるつもりだったのだが。

 

「…ぐすっ、エウルアさんっ、苦労してたんやなぁ…」

「…ええっ、兄さんが解決して下さって、良かったですぅ…」

「えぇっ、あ、貴方たちね…」

 

エウルアの過去の話に涙ぐんだ2人は身を乗り出し、エウルアの手を包む。悔しがる所か共感してくれるとは思ってなかったエウルアは目をぱちくりとさせた。横を見ると綺良々はね?いい子たちって言ったでしょ?と笑い、事情を知っている蛍とパイモンも微笑んでいる。

 

そんな様子にバツが悪くなったエウルアは、2人に軽く頭を下げた。

 

「その、悪かったわね。ちょっと警戒してて固くなってたわ」

「いえ、お互い様です。エウルアさんが兄さんと関わりが深い方と伺ってきましたので、私の方こそ態度が固くなってしまい、申し訳ありません」

「綾華ちゃんの言う通りや。こっちもごめんなぁ」

 

その後はいつもの如く「速攻仲良し空間」が形成される。警戒という壁が無くなった彼女達は、お互いのことをもっと知りたいと自分のことを話したのだった。特にエウルアと綾華が両方名門の出とあって礼儀作法や習い事の話で盛り上がったり、稲妻料理を覚えたいエウルアに料理上手な宵宮がレシピを教えたり、実際に卵焼きを作ってみてパイモンと蛍と綺良々に審査役を任せてみたり。穏やかな時間が続いていた。

 

 

………と、思われたのだが。

 

話している内に洞天お泊まり会の時と同様、ここには居ないそれぞれの意中の人の話になってくる。

 

「そういえば、迅の奴どこいっちゃったのかしら。私が起きた時には朝ごはんだけ作ってあってもう居なかったし」

「あれ、エウルアちゃん言われてなかったんだ。迅くん冒険者依頼受けてくるって言ってたよ」

「えっ、そんなの聞いてないわよっ?」

「昨日なでなでしてくれた時に言ってたよ?エウルアちゃん夢中になって聞いてなかったんじゃない?すんごい幸せそうな顔してたし」

「ちょっと、綺良々!」

「「!?!?」」

 

そんな会話に愕然とした表情になる幼なじみ義妹コンビ。それぞれ口から小さく「朝ごはん…?」「なでなで…?」などと小さく漏れている。

 

「え、えと、綺良々ちゃん?迅ってどこに住んどるん?」

「ん?ここだよ?」

「な、なんやてぇ!?」

「そ、それはどういうことですかっ!?」

 

椅子を蹴倒すようやく勢いで立ち上がる2人にあ、そのこと言ってなかったんだっけと冷や汗をかく綺良々。

 

「今私が住んでるこの部屋だけど、元々は迅の部屋だったのよ。で、迅がモンドを出た後に実家を出た私が借りてるって訳。別に何もおかしくはないでしょう?」

「それは、そうですが…」

「ふふ、貴方達の顔に思いっきり「ずるい」って書いてあるわよ?」

「そ、そんなこと思ってるわけないやろ!それと、なでなでってなんやっ?」

 

あのなでなでを説明するのは恥ずかしいのかエウルアがそっぽを向く。ちなみにいつもならここら辺で一言くらい茶々入れる蛍が静かなのはパイモンと一緒に目をキラキラさせてケーキを食ってるからである。

 

吃ったエウルアの代わりに綺良々が説明する。

 

「えっとね、稲妻から離れて時間が経って、迅くんの猫撫でたい欲が爆発してね。キャッツテールって言う猫酒場に飼い猫たるわたしの許可を得ずに行こうとしたから色々あってわたし達をなでなですることになったんだ」

「ま、まぁ綺良々ちゃんはそもそもが迅の飼い猫だからわかるけど、なんでエウルアさんまでなでなでされとるんやっ?」

「それはもう、エウルアちゃん。どうぞっ!」

「ぅぅ…綺良々だけ、ずるいじゃない」

 

そうモジモジしながらか細い声で絞り出したエウルアを見て同性の綺良々達ですらドキッとする。エウルアはもう開き直ったのか、みんなに迅のなでなでを自慢し始めた。

 

「だから、綺良々が撫でられてるところに猫耳のカチューシャつけてったら迅の目が釘付けになったの。あの時は心地が良かったわね。それから毎朝、任務に行く前に膝枕で撫でてもらってるわ」

「「ひ、膝枕っ!?」」

「え?何それわたし知らないんだけど?」

 

いつも遅めに起きてくる綺良々は初耳だったらしい。色のない声で横をむく。自分もなでなでしてもらってるし、なんならこの中で1番すごいことを毎晩している事など、見事に棚に上げている。

 

いいでしょ!と言わんばかりに胸を張るエウルアに対抗するように、綾華と宵宮も迅とのエピソードを語り始めた。

 

「う、うちだって前、迅にお姫様抱っこしてもらったで!」

「なっ、…ま、まぁ1度だけでしょう?私は毎日膝枕よ」

「わ、私は、兄さんと一緒のお風呂に入ったことがございますっ」

「お、お風……んんっ、小さい時の話でしょう?なんなら私は迅と同じベットで寝たこともあるわ!」

 

飛んでくるエウルア的して欲しいリスト上位のエピソードが飛んできて、たたらを踏みそうになるが、何とか堪えてぶっ離したカウンターに、綾華と宵宮も悔しそうな顔をする。

 

ここで綺良々も参戦したいところなのだが、エウルアの「一緒のベットで寝た」発言を超える手札が毎晩の迅への夜這い(仮)しかないので話せずにいる。ちなみにケーキを食べる蛍とパイモンの飲み物が知らず知らずのうちに紅茶からコーヒーになっているのだが割愛。

 

その後も何回か迅とのスキンシップエピソードを言い合うが、全てエウルアに上を行かれてしまっていた宵宮は業を煮やし、真っ赤な顔でほぼやけくそで言い放った。

 

 

 

 

「う、うち、迅におっぱい揉まれたことあるもん!!」

「「「「「!?!?」」」」」

 

 

 

場の空気が凍った。

 

言ってもうた!と両手で顔を覆い、言い合い所では無い宵宮だが、他の女子達はもっとそれどころじゃなかった。

 

綺良々は下手したら自分が寝てる間にしたノーカンちゅーよりも強いかもしれない手札に白目を向いている。

エウルアはこの前の綺良々の話を思い出したのか、自分の胸を抑えて愕然とした表情で、シモ方面の話に耐性が皆無の綾華は顔を真っ赤にしている。パイモンは単純に「アイツ変態か!」と驚き、蛍もちょっと頬を染めていた。

 

そんな各々の様子を見た宵宮は赤い顔のまま目を逸らし。

 

「ちょっち、今のは聞かなかったことに………」

『詳しく』

「…はい」

 

 

……説明中。

 

 

 

「なるほど。事情はわかりました。……宵宮さんが悪いですね」

「ええ、綾華の言う通りね。宵宮が悪いわ」

「えええ……わたしが寝てる間にそんな事が…さすがにそんな起こし方した宵宮ちゃんが悪いね」

「右に同じ」

「オイラも同じく」

「味方おらん!?」

 

ジト目で口々に言う面々に声を上げる宵宮。

 

「いや、寝てる男の人に馬乗りになって体揺するとか、しないでしょ普通」

「普通肩を揺らすとかじゃないのー?」

「そ、それは…、迅の寝顔って、案外可愛いやん?もっと近くで見たいなぁって気づいたらあんな体勢に…」

「「わかる」」

「凄くわかりますっ」

「えっ?そうなのか旅人?」

「わ、私に聞かないでっ」

 

どうやら迅の寝顔可愛いは共通認識らしい。こくこくと頷く4人に寝顔なんて意識して見たことない蛍は今度見てみようと心に決めたのだった。

 

そうしてちょっと落ち着いた空気をこのお嬢様がぶっちぎった。

 

「そ、その宵宮さん、兄さんに、……されて、どうだったんですか…?」

「綾華ちゃん!?」

 

話題が寝顔に離れて内心ホッとしていた宵宮は無理やり話題を戻してきて、とんでもない感想を聞いて来た綾華に素っ頓狂な声を上げた。他の面々を見ると、全員そんな興味無い雰囲気を出しながらしっかり聞き耳は立てている。

 

「えっ、えぇぇ……感想かいな〜。……なんやこれ1番恥ずかしいんやけど!」

「そっそこをなんとかお願いします!後学に活かしたいのですっ!」

「後々自分でやる気なん!?」

 

真剣な顔でメモ帳まで持ち出し待機する綾華。恐らくこの中で1番迅との関係が浅いことを危機に思ったのだろう。義妹ポジションは別に浅くはないのだが、本人の性格も相まって距離を詰めづらい。もう手段を選んでられない綾華はど真剣である。そんな彼女に宵宮も断りづらい。少し時間を置いて、何とか絞り出した。

 

「な、なんか、すごかったわ。自分で触ってもなんも思わんのに、あの時は当分手の感触が消えんかった……なんか、痺れたみたいな?でも嫌な感じではなくて…」

『…………』

「なんか言いやっ!」

 

あまりに解像度が高い感想に全員頬を染めて何も言えなくなる。エウルアと綺良々は前に実際そういう想像をしてしまってるので余計だろう。2人とも頭から湯気が出そうだ。

 

そんな面々を頬杖をついて見ていた蛍が口を開く。

 

「なんか、みんな思ったよりピュア…でもないけどなんかアレだね。もっと迅と関係性が進んでるのかと思ってた」

 

確かに、お姫様抱っこだとか、一緒に寝たとか膝枕だとかそういう行動は沢山しているのに、キスとかそこら辺の決定的な行動はしていない。そう言った蛍にみんなは照れながら同意する。

 

「なんだかんだ、みんなビビりやからなぁ」

「告白をすることで、今の関係が壊れてしまうのが怖いのかも知れません…」

「でも、多分迅には伝わってるとは思うわよ?向こうが触れてこないだけで」

「えええっ?そうなのっ?」

 

どうやら知らなかったらしい。綺良々がびっくりしている。

 

「あれだけスキンシップしといて向こうがなんにも思ってないわけないやろ?迅はうちらが本題を切り出すまであえて触れんようにしとるだけよ」

 

そう、いつも仙人直伝のポーカーフェイスで耐えているだけで、迅は別に鈍感という訳では無い。ちゃんと彼女達の好意には気がついているが、本人自体どう対応したらいいかわからないのが本心だ。

 

「ふーん、それなら1番先にキスとかした人が1番に意識されそうじゃない?ほっぺとかでも威力あると思うよ?」

 

蛍が放ったその言葉に、各々電撃が走る。みんなも想像したのだろう、1名を除いてモジモジとしだす。

 

「せ、接吻ですか……うぅっ、恥ずかしいですぅ…」

「あはは……それはまだ照れるなぁ…。このメンツで接吻できる娘なんでおらんと思うで?」

「そ、そうね。キスはちょっと………綺良々?」

「えっ?へっ?ななに!?」

 

ここで一斉に綺良々に視線が集まる。それもそのはず、綺良々はものすんごくニヤついていた。それもさっきの「キス」の件から。その普段からは考えられないようなニヤニヤに何かを察した女子陣は綺良々に疑惑の視線を向ける。慌てる綺良々。

 

「なっなななんなのみんなその目はっ?いやいやわたし、別になんにも考えてないよぉ!」

『…………………』

「………………」

『…………………』

「…………………えへへ」

「……確保」

「了解っ!」

「にゃああああ!?」

 

額に青筋を立てたエウルアの号令で、綾華と宵宮が飛び掛って来て綺良々は椅子ごと後ろに倒れて避ける。

 

「イヤほんと!なんでもないから!キスとかしてないから!」

「貴方、嘘ついてる時尻尾が動くことに気がついた方がいいわよ?旅人っパイモンっ!捕まえるの手伝ってくれたら今度はアップルパイ焼いてあげるわ!」

「「御意っ!」」

「えっ、ちょっ、に、にゃぁああああああああ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「……で?迅と何をしたのかしら?」

「せやで。あんなにニヤニヤしとって、うちらが気付かんわけないやろ?」

「そうですよ。綺良々さん……、兄さんと何があったんですか?」

「ひぃぃ」

 

亀甲縛りでダイニングテーブルの上に吊るされた綺良々に、椅子に座って手を組んで、目だけが笑ってない3人が色のない声で尋ねてくる。でも毎晩夜這い的なことをしてるなんて言える訳が無い。そっぽを向いてだんまりを決め込んでいると、エウルアがポツリと呟いた。

 

「……黙ってるなら、迅が帰ってくるまでそのままね」

「言いますっ!言いますっ!ごめんなさいっ!」

 

 

 

後編に続く。

 

 




・綾華
自分が1番迅と関係が進んでいないことを知って内心焦っている。迅が稲妻に帰ってきたらもっと我儘を行ってみようか考えている。

・宵宮
今度また迅を起こしに来ようか迷っている。(別に迅は毎回寝起きに胸揉む訳では無い)多分女子陣の中で1番ムッツリ。ちなみに今話の間はずっと着物に両袖を通している。

・エウルア
実は今回出したレモンシフォンケーキを迅相手に事前に練習していた。みんな気に入ってくれたようで内心ほっとしている。冷蔵庫の中にもし口に合わなかった時用のはミントゼリーが置いてあった。

・綺良々
順調にキス魔に成長中。迅の寝顔を見る時はベットの端からではなくじんに触れないように上に覆いかぶさって眺めている。よくあいつ起きないよね。

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