本編の合間にこういう話もありかな?ってささっと書いたやつです。
本編に比べて短いですが、良ければどうぞ。
影ちゃんかわいいよ影ちゃん
何気影ちゃん視点なのは初かも
「………はぁ、暇ですねぇ」
いつもの一心浄土での瞑想中、ぽろりとこぼれた自分の声に気が付いた私は慌てて首を振ります。
い、いけません。今は「永遠」について考えている時間。そんなことを考えている暇は………迅さん、早く帰ってきませんかねぇ……はっ!
全く、まだ彼が稲妻を出てから3週間だと言うのに情けないです。自分が思ったより彼との鍛錬の時間を楽しみにしていたことを最近知って驚いています。本来なら今日がその鍛錬の日。ですが彼は今仕事で稲妻を出ています。ひと月で戻ると言っていたのであと半分。鍛錬の日で言うとあと2回耐えるだけです。
そこまで考えて、また首を振る私。いや、稲妻の神たる私が1人の人間と鍛錬をするのに会えないのを我慢するなど…でも、あと2週間は……って何を考えているんですか私っ!
そういえば、彼…迅さんは人間なのでしょうか。立ち振る舞いや雰囲気が人間のそれなのですが、なにか、体の内に妙な力を感じたことが数度あります。もしかしたら、妖怪との混血などでは…そうだとしたら妖力を感じる筈、今度彼に聞いてみましょう。
瞑想どころではなくなった私は一心浄土を出て、外の人形の雷電将軍に意識を移します。いつもこうして団子牛乳を買っているわけですね。こういう時はやはり甘味に限ります。
もうすっかりこの日に外に出るのが習慣になってしまいました。最初に旅人さんと外に出た時は住民に酷く驚かれたのですが、今は皆、普通に挨拶をしてきます。
「あっ、将軍さま!見回りですか?お疲れ様ですっ!」
「ええ、貴方もご苦労さまです」
別に見回りでは無いのですが……、言わぬが仏ですね。1人だけ甘味を買いに来たことが少し恥ずかしくなって、にこやかを装ってその場を通り過ぎる。
「…なんか、最近の将軍様、前とは違ってどこか、可憐になったような…」
「ばっ、お前聞こえたらどうするんだっ。不敬罪で斬られるぞっ」
「だってよぉ、お前もそう思うだろ?なんか前より話しやすくなったというか…そう、可愛くなった」
「お前本当に斬られるぞ!……まぁ、わかるけど」
むぅ、そこの2人、聞こえてますよ。神様イヤーを舐めないでください。…こ、この私が、可憐……そ、そんなことは……。
顔が少し熱くなるのを誤魔化しながら、いつもの屋台に出向く。本当は奉行衆に申請すれば買ってきてくれるのですが、…流石に団子牛乳を10瓶買うのを知られるのは少し……恥ずかしいので…いつもこうして自分で買いに来ています。
「あっ、将軍さま!いらっしゃいませ!いつものですか?」
「はい。お願いします」
「はいっ!こちらの箱に全部で10本ですね。15000モラになります」
私はお金を渡して商品を受け取ると、店主の青年は興味深そうに箱に入った団子牛乳を見てきた。
「ありがとうございます!…いつも思うのですが、その数の団子牛乳、どこかでお配りしてくださっているのですか?私としては店の宣伝になって頭が上がりませんが」
「へっ?…ああ、い、ま、まぁそうですね…」
まさか全部自分で飲むなんて言えないので目を逸らして答える私。そのままその場を後にする私の背中に店主の感謝の言葉が刺さって少し痛いです…。
そのまま足早で天守閣には戻らずに、彼とのいつもの待ち合わせ場所…城下町の外れの桜の木の下の長椅子に座ります。一応人避けの結界を貼りまして……。箱から団子牛乳を2つ取り出し、片方を長椅子の反対側に置きます。
置いた団子牛乳は、気分的にここには居ない彼の分です。それを見てくすりと笑うと蓋を開けて団子牛乳に口をつけました。
んん〜っ、何度飲んでも美味しいですね。このまったりというか、ドロドロとまでは行かない舌触りと甘さが癖になります。
うう、そろそろ迅さんの作るコーヒーと練乳を入れた方が飲みたいですね…、出発前に彼がいくつか残してくれていましたが、わすが1週間で尽きてしまって…。……うう。
ですかコーヒーを入れなくても美味しいものは美味しいので、どんどん飲んでいきます。…あぁ…これを飲んでいる時が2番目に癒されますね、え、1番は何か、と?それはもちろん彼との鍛錬です。
私自身人間と手合わせするのは初めてではありませんでしたが、私に夢想の一心を抜かせたのは彼が初めてですね。もちろん本気で抜いてしまうと彼が消し飛んでしまうので、願力は乗せずに出しましたが。
それから何度も戦ううちに、何時しかそれが私の楽しみになってきました。やっぱり戦いが成立するというのは面白いものです。大抵の人間は私と戦うとなると尻込みするのですが、彼は違いました。毎回全力を持ってぶつかって来ます。
戦う度に動きのキレが上がっていき、前回苦戦していた技にも対応してきます。毎回私を驚かせるような新しい技を使ってきます。本当にあの時間だ楽しいですね。
「ふぅ」
気づけば全て飲み干してしまいました。空き瓶を屋台に返しに行くとまた店主に「もう飲んでしまわれたのですか!?」と驚かれました。自分で全て飲み干しましたと言えない私は愛想笑いだけをして、天守閣に引き返しました。……うぅ。
「なんだ、外に出ておったか。お主が天守閣におらぬから1人で待ちぼうけでいたぞ?」
「神子、来ていたのですか」
私が天守閣に戻ると、その入口に神子が立っていました。貴方はいつも気まぐれな時間に来るのでこういうこともよくあります。彼女は娯楽小説を持ってきたようで、手にした紙袋を満足気な顔で見せびらかしました。
「今日は今度発売予定の新作を持ってきたんじゃ。いつもベタなものばかりだから、偶にはこういうのもいいじゃろう」
神子はいつもこうして私に娯楽小説を読ませてきます。前に旅人さんと読んでからその事を本人に伝えたら、それから毎回持ってくるようになりました。最初は文面を理解出来なかったのですが、数を読むうちに段々「設定」というものがわかるようになってきました。こうして読んでみると中々面白いものですね。
「ふむふむ、この新作は面白いですね」
「じゃろう?何せ妾の直筆じゃからな」
「これを、神子がですか?」
「そうじゃ。きちんと実体験の内容も入っているぞ?」
編集長自ら小説を書くとは、珍しいですね。確かに、これまでの作品とはまた違うお話です。
「そうですね……、この猫又の少女が主人公を想う気持ちが鮮明に描かれています…。……ん?……神子、神子」
「なんじゃ?」
「この主人公……凄く見たことがあるような……」
「…気のせいではないか?」
そういい顔を逸らして口笛を吹いている神子。いやいやいや、この主人公…髪の色や刀が少し違いますが、どう見ても私の鍛錬相手……。
「神子、貴方もちろん、この小説を作るにあたって本人から許可を取ったのでしょうね…?」
「…………」
「神子?いくら貴方でも無断は許しませんよ…?」
「わかったわかった、冗談じゃ!謝るからその刀を仕舞ってくれんか?」
そう言われ、渋々半ばまで抜いていた「夢想の一心」を納めます。
「全く、冗談の通じん奴じゃ。鍛錬相手が稲妻を空けて最近上の空だからこうして持ってきたというのに」
「そっ、そんなことありませんっ。この私が1人の人間に執着するなど…」
「……そうか。そういえば、この前その童に会った時に、そなたにボコられるのがしんどい、本当は行きたくないと言っていたような」
「……えっ」
えっ、か、彼がそんなことを…?わ、私、そんなに痛めつけていたのでしょうか……。………彼は、もう私と一緒に鍛錬をしてくれないのでしょうか……。…そうですよね。彼は今は配達員。私みたいに日夜腕を磨く必要がもうありません……私が彼を縛り付けてしまっていたのでしょうか…。もしかしたら今回を口実にもう来ないつもりでは…そ、それはダメですっ。せめて私に一言を……。
「…冗談じゃ」
「もうっ!ほんとに心臓に悪い冗談はやめてくださいっ!」
心臓が止まるかと思いました!な、なんて冗談を言うのですかこの妖狐はっ!……よ、よかったです…。
「ほぅら、執着しているではないか」
「…うっ」
だって、彼以外に私が満足して戦える相手が…いないんです。
「ふふふっ、あの影がこうまでなるとは。あの童も罪作りじゃのう。流石仙人の末裔じゃな」
「…仙人?」
え、どういうことですか?迅さんが仙人の末裔?
「あ〜…そうか、そなたはその時絶賛引きこもり中じゃったからのう。彼奴は稲妻人と璃月の半仙との子供じゃ。向こうでは半々仙とか言ったのう」
「そ、そうだったのですか……ちなみに、どの仙獣の末裔なのですか?」
「ふふっ、聞いて驚くな。彼の仙獣が珍しかったから、発見した時に稲妻で保護することしたんじゃよ。………夜叉じゃ」
夜叉……夜叉!?
「夜叉ですかっ?ですが、夜叉は魔神戦争で降魔大聖以外は戦死したと聞きましたが……」
「そうじゃ。じゃが、その中の1人の夜叉が人間と子を作ってな。それが彼奴の父親じゃ」
「な、成程。なら彼も薄いですが夜叉の末裔ということなのですね。それならあの戦闘力も納得がいきます」
彼にそんな秘密があったのですね……。今度会う時に仙力を見せて貰えないか頼んでみましょうか。仙人と戦うのは初めてですね。楽しみです。
「影。そういえば将軍の方には伝えておらぬのか?彼のことを」
「…何度か、言おうとはしたのですが…」
そう。まだ彼には私と将軍、2人いることを伝えていません。いつも鍛錬の待ち合わせに出向くのは私の方なので伝える必要があるかと言えばそうなのですが…。
「もしかしたら、童の方からそなたに出向くことがあるかもしれぬ。その時に将軍と鉢合わせしたら、最悪斬られるぞ?まぁ、彼奴なら多少持ちこたえそうな気がするが」
「流石にそんなことはないとは思いますよ。将軍は手加減を知りませんから」
そんなことを話していると、もう外は夕刻ですね。全く、ここは時計がないから不便じゃのうとボヤいた神子は帰り支度を済ませました。
「それで?その小説はどうする?要らぬなら持ち帰るが」
「……そこに置いといてください」
そうかと笑う友人を天守閣に送り返すと、私はふぅと息を吐きました。
もう、神子のからかい癖は困ったものです。しかも少し心当たりがある所を突いてくる辺り、狡猾ですっ。
……迅さんは私との鍛錬をどう思っているのでしょうか。彼とはこれまで幾度と手合わせをしていますが、まだ私から1本は取れていません。も、もしかしたら、本当に私との鍛錬を嫌になったりなんて…。
私はそこまで考えていやいやと首を振りました。気分転換を兼ねての甘味だったのですが、まだ瞑想どころではありません。神子が置いていった娯楽小説を読むとしましょう。
……この主人公を彼だと認識してからちょっと読みにくくなりましたね。知り合いの痴態を覗き見しているみたいで複雑な気分です。
それにしても、この猫又の少女や花火屋の少女、社奉行の令嬢まで、本当に主人公と仲が良く書かれてますね。彼を想う気持ちが経験のない私の元まで滲み出てきます。
そこまで読んで、私はあることに気が付きました。
「これって、実体験も混じっていると、神子は言っていましたね……」
と、言うことは、この体験も彼が実際に……
……チクリ。
おや?なんでしょうかこの胸の痛みは。針、と迄はいきませんが、爪楊枝で突っつかれたような痛みが一瞬走りました。はて?一心浄土にそんなものは置いていませんし……なんなのでしょう?
私は首を傾げつつも、小説に目を通すのでした。