職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしました。

タイトルで察した方に言いたいことがあります。

つまり、そういうことです。



13話 大人のキスはケーキの味

 

 

 

「明日、璃月に戻ろうと思う」

 

蛍ノーパン事件から数日。綾華と宵宮も稲妻に帰り、久しぶりに感じる3人での夕食中に、俺は打ち明けた。

 

「ええ。そろそろだと思ってたわ。でも、また配達で来るんでしょう?」

「うんっ、モンドに来た時はなるべく顔を出すね?」

「もう、別にそこまで気を遣わなくてもいいのよ?私も任務で城を出ている時が多いから」

「そしたら遊撃小隊の場所聞いて会いに行くもん!ねっ、迅くん」

「そうだな。代理団長に頼めば小隊への配達物とか斡旋して貰えそうだし」

 

この2週間弱でエウルアと綺良々はすごく仲良くなった。時々アンバーが頬を膨らませることも多くなって、よく3人でいるところを見る。最初のギスギス具合が嘘のようだ。

 

「それなら、今夜は豪勢に行きましょう?ちょうど作っておいたケーキがあるの」

「おおっ!さっすがエウルアちゃんっ!」

 

まだ凝光さんに言われた日にちまでは数日あるけど、先に戻っておいて打ち合わせとか、街の様子とかを見ておくのもいいだろう。みんなでエウルア特製のケーキを堪能して、早々と眠りについた。

 

 

その夜。途中で目が覚めた俺はベットから体を起こす。時計を見ると午前2時。真夜中も真夜中で、みんな寝静まってて物音1つしないと思ったのだが、廊下にひとつの気配を感じた。足音を忍ばせてるような感じの足音がするが敵意は無い。俺はベットから立つと部屋のドアを開けた。

 

「ふぇっ!?じ、迅くん?」

「ん?綺良々か」

 

廊下を歩いていたのは綺良々だった。俺の顔を見て驚いたような顔をする。俺がこの時間に起きてるのが珍しいからかな?

 

「ど、どどどうしたのこんな時間にっ!?」

「ちょっと起きちゃってさ。綺良々こそどうしたんだ…って夜行性か」

「そ、そういうこと……あははは」

 

俺は綺良々を連れてダイニングに行くと、ホットミルクを作ることに。鍋で牛乳を温めて、少し砂糖とお好みでハチミツをいれて混ぜる。

 

「……私にもひとつ、貰えない?」

 

横から声がしてそちらを向くと、エウルアが立っていた。どうやらみんなも同じ気持ちらしい。顔を見合せて笑うとミルクをマグカッブに注いでダイニングチェアに座ろうとしたが、2人に手を引かれてソファに座らされた。すかさず両脇を固められる。お前らな…まぁ、今日くらいはいいか。

 

ホットミルク片手に3人で普段しているのと変わらない他愛ない話をする。滞在したのは10日程だけど、なんだかずっと前からここに住んでいたような感じがする。明日離れるのが少しだけ惜しい。

 

今は2人に頼まれて、仙力を元素力に変換して神の目に圧縮保存する所を見せている。璃月に着いたら出来なくなるし、今のうちに貯めておかないと。

 

俺はソファの上に胡座を組んで掌を合わせ瞠目し、仙力を引き出す。それを少しずつ雷元素に変えて神の目に貯めていくのだ。それが終わるとその逆で神の目から得た元素力を仙力と一体化して体に馴染ませる。

 

外から見ると俺の体が金色のオーラに包まれて、手に紫色の光が集まって見えるだろう。時々感嘆の声が2人から漏れていた。

 

「それにしても、そんなに璃月側に君の正体がバレるとまずいの?」

「最悪の場合って感じだから、別に徹底して隠してる訳じゃないよ。ただ、面倒なことになりそうだなって」

「璃月七星の人達にバレると面倒って前言ってたね」

「ああ。下手したら璃月常駐にさせられかねないし、バレないに越したことないんだよな。……でも甘雨さんや煙緋には言った方がいいかな…。刻晴のやつ、仙人嫌いだからもしかしたら嫌われるかも……先が思いやられる」

 

いやだから、甘雨さんや刻晴とはなんも無いからそう顔を強ばらせないでくれって。「煙緋は知ってるけど、甘雨と刻晴って誰よ?」って顔をしてるエウルアに綺良々がすかさず耳打ちして、なんか誤解が広がったような……。

 

その後、ホットミルクの効果で少し眠気がでてきたので自分の部屋に帰ろうとすると、2人に腕を掴まれて女子部屋に引き込まれるってちょっと待って?なにしてんの君たち。

 

「今日くらい、いいじゃない…」

 

と寂しそうな顔のエウルアに言われたので断るのも忍びなく、俺が真ん中の形でベッドに入れられてしまった。でもこの前の酔っ払った件があるのか、抱きついてきたりはせずに普通に横に寝ている。冷静に考えて、それでもアウトなのに、それよりひどい環境を耐えてきたからなんでもなく思える辺り俺も麻痺してるな。

 

俺は、横になって睡魔が襲いかかってきたのか直ぐに寝息を立て始めた2人の頭を優しく撫でた。

 

「……おやすみ」

 

 

 

 

 

 

翌朝。綺良々が掛け布団とすり変わっていたこと以外はとくに問題もなく、普通に起きて普通に朝ごはんを食べた。昨日の残ったケーキを堪能し、俺たちは荷造りをして璃月に行く準備を完了させた。

 

「よし、じゃあいくか。エウルア、ありがとな」

「エウルアちゃん!お世話になりましたっ!」

「ええ。モンドにまた来た時は遠慮なくここを使って。……そういえば綺良々。リサが出発する前に貴方が借りた本を返して欲しいって言ってたわよ?」

「ああっ!そうだ忘れてた!!」

 

へぇ、ここ最近綺良々が本を読んでいると思ったら、リサさんから借りたものらしい。あの人本の返却期限にはうるさいから破ったらめちゃくちゃ怒られるぞ。ちょっと急いで返してくるっ!と本をもって部屋を出ていった綺良々を見送っていると、不意に腕を掴まれた。

 

「…さて、2人きりね」

「……なんか怖いんだが」

 

俺の右腕を持ったエウルアが微笑んで、後退りしようとしたが、腕を押されられて動けない。そんな俺にエウルアはちょっと躊躇したような間を見せると、俺の目を見て聞いてきた。

 

「じ、迅。その、あの時の飲み会での話なんだけど……」

「…おう」

「わ、私が君に…き…キスしたって、本当なの?」

「へ……あ、ああ、あれは、ごめん、俺の嘘だ」

「……どうして嘘をついたの?」

 

そうか、記憶が飛ぶだろうからっていった嘘なんだけど、しっかり残っていたらしい。

 

「前にエウルアが酔っ払ったとき、その日の記憶が残らなかった時があったろ?……この前は早く潰す必要があって、そのために……」

「……そうだったのね。……よかった」

 

俯いて白状すると、怒ると思ったエウルアから出た言葉は安堵だった。思わず顔をあげた瞬間。

 

「…んっ」

「んむ!?」

 

俺の口が、何やらとんでもなく柔らかいものに塞がれ、先程食べたケーキの味がした。

 

未体験の感触に見開かれた俺の視界には、顔を真っ赤に染め、目を閉じたエウルアの顔が超アップで映る。エウルアの腕が首に回されて俺の首を逃がさないように固定していて、顔を離せない。

 

「…んっ……むっ」

 

エウルアは俺にキスをしながら自分の身体をピッタリ密着させてくる。俺も俺で振りほどこうとしたが、未知の感触で身体に上手く力が入らない。

 

「……ぷはっ」

「…お、おま、お前っ」

 

キスされていた時間は5秒もなかっただろうが、俺にはその何十倍にも感じた。顔が離れたので身体も離そうとするが抱きしめられていて、逃げられない。エウルアは未だ真っ赤の顔のまま、俺の顔を見てにやりと笑った。

 

「ふふっ、流石にここまでするとポーカーフェイスも崩れるのね。……これで、嘘じゃ無くなったわ」

「お、お前…、どういうつもりで……っておいっ!?」

 

エウルアは身体を離すと、俺の手を取って自分の左胸に当てがった。前に腕では感じてはいたが、本当に人の体なのかと疑問に思うほど柔らかい感触が手に伝わり、指がエウルアの胸に沈み込むと同時に彼女の体が少し跳ねた。

 

「…んっ、これで、宵宮とも並んだわ。……ねぇ、迅」

「な、なんだよ。あと手を離して欲しいんだけど」

「…貴方が好きよ」

「…っ!?」

 

エウルアは真っ直ぐに俺の目を見ると、見惚れるような笑顔でそう言ってきた。薄々感じていたとはいえ、諸々の出来事が衝撃過ぎて、俺は固まってしまう。

 

「ふふっ、それほど驚いていないって事は、やはり感づいてはいたようね」

「ど、どうして俺なんかを?」

 

俺がぽろりと零した言葉を拾ったエウルアはジト目になる。

 

「君ね、私の為にモンドの住民に頭下げてローレンス家の偏見から守ってくれて、色々気遣いができて、料理上手で、顔が良くて、強くて優しい人を私が好きにならないわけ無いでしょ?」

「…それくらいやる人なら他にも居「居ないわよ」…っ」

「居ないわ。そんなお人好し、迅以外。と、いうか君、自己評価低すぎよ。綺良々達が聞いたら怒るわよ?……まぁ、そういうところも好きだけど」

 

そういいエウルアは正面から抱きついてくる。俺は、エウルアにどう応えるべきか、心の中で悩んでいた。

 

遂に、恐れるべき事が起きてしまった。まだだまだだと先延ばしにしてばかりいた俺に「答えを今出せ」と叩き付けてくる。

 

ここで悩む時点で、もし付き合ったとしても恋人として向き合ってやれないんじゃないか、ひとつ言えるのはここで最悪の答えがどっちつかずの「キープ」だということは俺でもわかる。

 

……………。

 

心を決めた俺は肩に顔を埋めるエウルアに向かって口を開いた。

 

「エウルア、俺は、君の想ーー」

「あ、言い忘れていたけど、君の答えは聞いてないから。…んっ」

「んむ!?」

 

俺は続くセリフをエウルアの唇で塞がれて言えなくなる。

 

「んっ、はぁ。どうせ今の自分じゃ答えを出せないから、なあなあで関係を続けるくらいなら断ろうってんでしょ?嫌よそんなの」

「いや、何でだよ。それは流石に不誠実だろ。お前が覚悟を決めて俺に伝えてくれんだから、俺もそれに応えるべ…んっ!?…ちょ、お前、俺のセリフをそれで塞ぐなよ!」

「あら、この体勢で口を塞ぐならこれしかないわ。仕方ないじゃない」

「離れりゃいいだろ…」

「嫌。離れたくないわ」

 

俺が喋る度に口にキスをして止めてくるエウルアに噛みつくが、彼女はどこ吹く風。

 

「言っとくけど、私、君に断られても諦めないからね」

「っ」

「だって、私には貴方しかいないもの。断言するけど私のこれからの人生、君以上に素敵な男性になんて絶対に出会わないわ。だから貴方に何度断られても諦めない。最悪愛人にでもなってやるわ」

「お前すごいこと言ってんぞ」

「とにかく、私の覚悟は言ったわよ。私は貴方がどうしようもないくらい好き。今言ったのは次会う時まで期間が開きそうで我慢が出来そうになかったからよ。今言わないと次会った時襲いかねないもの」

「現在進行形で襲われてんだけど……」

「それはそれ。これはこれよ。だから、あなたの答えは聞かない。私側から強制キープ状態にしたわ。儲け物ね」

 

もう箍が外れたからか、言いたい放題だな。俺の意思に関係なくキープにもって行きやがった。

 

もちろん、好きだと言われて嬉しくないわけが無い。俺が稲妻に戻らずにエウルアとだけ過ごしていたら即刻受け入れていただろう。

 

だけど、俺は最低の人間。だってエウルアに告白されたときにも綺良々達の顔が過ぎったのだ。その状態で出した答えなんて誠実とはかけ離れている。

 

「なんだか自分が悪いみたいな顔をしているけど、悪いのは答えを聞かない私の方よ。貴方が苦しむと知ってこの想いを伝えた私こそ自分勝手。嫌ってくれて構わないわ」

「そんな…こと」

「でも好きなの。貴方のことが。理性とか、頭の中の考えとか、全て通り越して口から出ちゃったわ。だから、いつか、貴方の気持ちを聞かせて?」

「エウルア、本当にごめんな……こんな奴で」

「ほら自己嫌悪禁止よ。つぎネガティブなこと言ったらキスするからね」

 

それはまずいと慌てて前を向くと、すこし不満顔の彼女が顔を覗かせた。顔は余裕そうだが、耳は対照的に真っ赤なことに気がつく。エウルアはあ、と俺の耳元に顔を寄せた。

 

「そういえば、キスしたからもう、あの時の口説き文句は本物になっちゃったわね?確か『キスまでされて俺が我慢出来るわけないだろ?』だったかしら。…我慢できなくなったらいつでも、私で恨みを晴らしてね?」

「…っ!?」

 

その言葉に背筋がゾクッとなった俺はばっと彼女から離れた。エウルアは満足気な顔をしている。その時、部屋の外付けの階段から足音が聞こえてきた。綺良々が帰ってきたらしい。エウルアは玄関の方を見た隙に、俺の頬にちゅっとキスをすると、行く前に洗濯物を取り込んで来るわねと部屋を出て行った。

 

俺がその姿を見て若干放心していると、ドアが開いて綺良々が戻ってきた。

 

「ただいまー!な、なんとかリサさんに怒られずに済んだよ…」

「お、おう、おかえり」

「うんっ!あれ?エウルアちゃんは?」

「今洗濯物取り込んでる。それが済んだら出発するか。今からでたら今日中には璃月につくし。途中で望舒旅館でご飯食べようぜ」

「賛成っ!」

 

元気いっぱいの綺良々にあてられてなんとか精神を元に戻す。え、エウルアのことは…ちょっとまた後で整理しよううん。するとエウルアが取り込みが終わったらしく、戻ってくる。

 

「綺良々も戻ったし、そろそろ行きましょうか」

 

なんかあいつだけいつもの調子で少し悔しい。こちとら初めてのキスの感触が生々しく残ってるって言うのに…。

 

「ん?エウルアちゃん、耳どうしたの?めちゃくちゃ赤いけど…」

「へっ!?あ、ああ、これはねさっきちょっとぶ、ぶつけちゃって…ね」

「ええっ!大丈夫!?」

「だ、大丈夫よ。い、いいから行きましょっ」

 

どうやらそんなことは無かったらしい。慌てた様子で部屋の外にかけていく2人を見て少し笑う。

 

俺もぐるりと部屋を見渡して、心の中でお礼を言うと、荷物を持って部屋を出た。

 

 

 

合鍵は返さなくてもいいらしい。若干含みのある目で言ってきたエウルアを見ないようにして承諾する。正門まで3人で歩いているのだが、告白して枷から解き放たれたエウルアが自由だ。今は俺を挟んで反対側の綺良々にバレない様に手の甲を俺の手にすりすりしてきて大変擽ったい。

 

チラリとエウルアの方を見ると、彼女の方はずっと俺の顔を見ていたらしく目が合う。すると花が咲くような笑顔になった。

 

あの、別に俺はエウルアのことを嫌ってるどころか、割と好き寄りなんだよ元々。その所に今日のアレだ。意識しないわけが無い。

 

それを顔に出さないように必死なんだ。綺良々は綺良々で、袖を摘まんでいるし、時々発見したもので話しかけてくる度にこちらに向く笑顔で癒されて、エウルアのすりすりで意識して、また綺良々で浄化される。頭の中の感情が高速回転して変な感じになってきた。

 

程なくして門に着くと、そこには代理団長とガイア、アンバーが見送りに来てくれていた。

 

「おぉ、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ?」

「ガイア先輩も今来たばっかじゃない…」

「2人とも、今後は配達でモンドにくるのだろう?その時はまた歓迎する」

「ありがとうございます!わたし、モンドがすっごく気に入っちゃいました!」

「それは有難いな。是非また来てくれ」

「はいっ!」

 

代理団長やガイアと握手を交わす綺良々を見ていると、アンバーに突っつかれる。

 

「ちょっと迅さん?エウルアに何したの?」

「へ?何って?」

「私の目は誤魔化されないからね!さっきからエウルアの周りの空気がぽわぽわしてるじゃない!」

「ぽ、ぽわぽわ?そうか…?」

 

そういいエウルアの方を見るとずっと俺を目で追ってたらしく、目が合い、笑顔になる。

 

「ほらぁ!なんか今日のエウルア、おかしいって!一体何したのっ?」

「何したというか、されたというか…」

「なによ。私を前にして堂々と陰口かしら、見上げた根性ね。この恨み、覚えておくわ」

「「あ、いつものエウルアだ」」

 

俺たちの声が聞こえてちょっと照れてるらしい。口調が昔に戻っちゃっているエウルアと2人で話していると、挨拶を終えた綺良々が戻ってきた。しばらくは会えないので、綺良々とアンバー、エウルアが抱き合う。

 

「それじゃ、行くか」

「うん!皆っ!またねー!」

「綺良々っー!また遊びに来てねーっ!」

「うーん!」

 

俺も手を振りながらエウルアをチラリとみると、みんなにバレないようにウインクをしてきた。次来た時、俺無事に帰れるかな?

 

 

 

 

 

その後は午前に出たので夕方くらいには璃月に着いた。2週間振りの璃月は群玉閣の昇空儀式が近いこともあって前よりも賑やかに感じる。

 

ひとまず、甘雨さんあたりを探して今日泊めて貰える場所を紹介してもらおう。そう綺良々と話しながら中央の階段を登ると、登りきった先に、1人の少女が座って、退屈そうに空を見ていた。その少女は、喪服と見紛うような黒い服を着ていて、同色の帽子を頭に乗せている。長い黒髪をふたつに結って、梅の花のような虹彩が特徴的な少女と目が合ってしまった俺は、即座に逸らした。

 

「あーーーっ!!いま、目を逸らしたでしょ?ねぇねぇなんで逸らしたの?迅さんっ?」

「……とりあえず月海亭に行くか。そこら辺歩いてれば知り合いに1人ぐらい会うだろ」

「ねぇ無視しないでぇー!知り合いならここ!ここにいるよ!」

 

喪服の少女、葬儀業者「往生堂」堂主、胡桃は逸らし続ける俺に視界に入ろうとぐるぐる周りを回る。俺も視界に入れないようにぐるぐる。胡桃もぐるぐる。2人でぐるんぐるん。

 

「はにゃ〜…目がぁまわるぅ」

 

うっし、今だ。修行の甲斐あって三半規管が強い俺はこれしきでは目は回らない。おめめをぐるぐるにしている胡桃の横をすり抜けるようにして綺良々を連れて逃げようとするが、「行かせんっ!」と腰にタックルを食らってたたらを踏んだ。綺良々、こいつはちとめんどいんだ。だからその「この子誰?また女の子の知り合い?」みたいな顔は怖いのでやめてください。

 

胡桃とは知り合いというか、修行時代にお世話になった人が往生堂の客卿を務める人で、その人に会いに行く度に顔を合わせていたらいつしかこんな感じに。

 

胡桃はイタズラ好きな性格なので、俺を何度も驚かせようとしてくるが、大体タイミングが予想できるのでまだ1度も驚いてやってない。向こうがそれにムキになって絡んでくるので、ちょっとまだ会いたくなかった系の奴だ。嫌とかじゃなくて、体力持ってかれるから心の準備をしてからがいい。

 

「…はぁ、久しぶりだな。たお」

「そのたおって呼ぶのやめてって何回も言ってるでしょ!」

「え?だってお前の下の名前だろ?いいじゃんたおで」

「むぅ〜!……ところでそちらの人はどちら様?彼女?」

「か、かのっ!?」

 

何故みんな二言目には彼女?って聞いてくるの?

 

「違うわ。こっちは俺の今の職場の先輩」

「綺良々です!よろしくお願いしますっ」

「ああ!近いうちに璃月にも来る配達屋さんだったよね。私、結構本とか買うから使うかも!」

「そうなんですかっ?それでしたら…お近づきの印に、こういうのはいかがですか?」

 

一気にセースルウーマンの顔になった綺良々が、懐から券を取り出して胡桃に渡した。

 

「速達券です。これに記入して配達を依頼すると、速達券の方を優先的に配達するんですよ良ければどうぞっ」

「えっ、いいのっ!?ありがとうっ!……ところで、綺良々ちゃんは他にどんな配達とかしてるの?例えば、この世を彷徨う霊とか、それこそ往生堂のお客さん(死にかけの人)とかっ!」

「ほえ"ぇっ!?そっ、それはっ……」

 

うわ、綺良々から聞いた事ない声出た。2本の尻尾がピーンと伸びて毛が逆立っている。ちょっと触りたい。

 

綺良々はビビって俺の背中にサッと隠れる。尚も詰め寄ろうとしている胡桃を雷デコピンで止めた。

 

「こら、落ち着け」

 

バチコォン!

 

「みぎゃああああ!?迅さんそれめちゃくちゃ痛いんだからね!」

 

止まりはしたが、デコピンがクリティカルヒットしたらしい、自分でも驚くような爽快なヒット音を鳴らした胡桃のデコが後ろに跳ねて涙目で額を抑えた。と同時に背中に張っついていた綺良々がさっと離れる。振り向いていると俺のデコピンと涙目の胡桃を見て、カタカタ震えていた。そういやこのデコピン通算で綺良々が1番食らってる気がする。オーバーな綺良々がちょっと面白くて、もう1度溜めを作って1歩近づくと綺良々も1歩下がる。そのままズンズン前に歩くと綺良々は背を向けて脱兎の如く逃げ出した。

 

あ、見えなくなっちゃった。まあ元素をつけといたから視覚でわかるし迷子の心配はないけど。

 

「……迅さんって、やっぱりドSだよね」

「なんだよいきなり。心外だな」

 

額をさすさすしながらジト目で見上げてくる胡桃に、首を傾げる。そうかな?せいぜいちょっとビクビクされると楽しくなるだけで、別に普通だと思うけど。

 

「…あ、そういえば鍾離先生は元気?」

「いつも通りだよ。今日は山に散歩に行ってくるとか言って朝から居ないけど」

 

あー…、やっぱり仙人達も勘づいているんだろうな。渦の余威。多分そのことについて話し合っているんだろう。

 

そろそろ綺良々を追いかけないとな。日が傾きそうだ。俺は胡桃と別れようと手を振る。

 

「了解。また今度往生堂に顔出すよ」

「うん。良かったら来る時いい感じに死にかけのを何人か連れてきてね!迅さんなら自分でそういう人作れるでしょ?」

「舐めんな」

 

 

なんてこと言いやがるコイツ。

 

 




・エウルア
遂にやりやがったヒロイン1号。最強のライバルから最強のラスボスへと進化を遂げた。

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