一応モンド編が前話で終わったということで、話の展開とか、話間の区切りで都合が悪くカットしたお話を乗せておきます。
・洞天お泊まり会〜髪を梳いて欲しい綾華〜
「ん?髪を梳いて欲しい?」
雨宿りから何故か派生した、蛍の洞天お泊まり会の夕食の後。リビングのソファに座って本棚から適当に選んだ本を読んでいると、机を挟んだ向かいのソファに腰掛けて磐岩結緑の手入れを終えた綾華が頼んできた。髪はまだ下ろした状態だ。
「は、はい……昔のようにして頂きたかったのですが…」
「そういえば、もう随分としてないな。いいよ。俺も久々だ」
「はいっ!よ、よろしくお願いしますっ。その、もう少し深く座って、脚を少し開いて頂いてもよろしいですか?」
「え?あ、ああ。別にいいけど……」
綾華は嬉しそうに机を周り込んでこちらのソファに来ると、俺に深く座るように促してくる。え?髪梳くだけですよね?
言われるがままに背もたれに着くまで深く腰掛けて脚を開くと「失礼しますっ」との声とともに綾華が俺の脚の間に座ってきたってえええ!?
一気に密着度が上がり、触れている部分が暖かいしやわっこい。
「あ、綾華?」
「で、ではっお願いしますっ!」
そういい櫛を渡してくる綾華。いや確かに昔この体勢でやった事はあるけどまだお互い12歳と8歳とかの話だぞ!?
そう思いつつもここまで来て断るのはアレなので大人しく綾華の背中まである綺麗な白髪に手を飛ばした。
ちなみに他の面々は皿洗い中。俺は料理を作ったから、綾華はデザートを作ったからと免除されていて、食器の戻しどころがわからないからと蛍は同伴している。つまり2人きり。妹相手だと言うのに何故かドキドキしてくる。いやいや俺はシスコンではない……とは言いきれないけど、そう言う目で妹を見る訳にはいかん!いよいよ変態じゃねぇか!
とは言いつつも、髪質良すぎんか?指が全く引っ掛からないどころか、絹のような手触りで触ってる方が気持ちいい。
「ふふ、昔を思い出しますね」
「そうだな。前はあんなにちっちゃかったのに、こんなに大きくなって」
「むぅ、偶に会う親戚の方みたいに言わないでください。兄さんが神里を出てから私、頑張ったんですよ?」
普段奥ゆかしい綾華がこういうことを言うのが珍しくて、目を丸くする俺。ちょっとずつ社奉行の神里綾華になる前に戻ってきてるな。櫛を入れながら少し笑う。
「ああ。めちゃくちゃ強くなってたし、凄く綺麗になったよ綾華は。再会した時びっくりしたんだからな?」
「……ぅぅ……兄さんはそういう事をすらっと言い過ぎです…」
「え?」
そう言って振り向いた綾華の顔は朱に染まっていた。
「本当のこと言っただけだけど?」
「むぅ〜!そういうところですっ!」
綾華は顔を更に染め上げるとぷいっと前を向いて、自分の脇にある俺の脚をぺちぺち叩く。
しばらく無言の時間が続いて、おもむろに綾華が口を開いた。
「あの、ひとつ、お願い事があるのですが…」
「ん?なんだ?」
「2人きりの時だけでいいので……また昔のように呼んでもいいでしょうか?」
声とともに後ろ手で手を握られる。手の甲をすりすりと指先で撫でられて少々くすぐったい。
「なんだそんなことか。もちろんいいぞ?…俺も昔みたいに綾華様って呼んでもいいか?」
「それだけはダメです。絶対に認めません」
「あっ、そう」
綾人兄さんや綾華を敬う呼び方は別に嫌いじゃないから言ってみたら食い気味で却下された。ちょっと握られた手をつねられた気がする。優しくやってくるところがなんとも綾華らしい。
そんなことをしていると台所から足音が聞こえてきた。皿洗いが終わったらしい。って、この状況見られたらどうやって説明するんだ?
俺が慌てていると綾華が俺の脚の間から立ち上がる。櫛も俺から回収すると、顔を俺の耳元に寄せてきた。ふわっといい匂いが香ってサラサラの髪が俺の肩にも乗る。
直後、鈴を鳴らすような声が俺の耳元で響いた。
「……また機会があればお願いしますね?…お兄ちゃん」
そこからの俺の意識は無い。
・猫又は夜目が効く〜2人きりの時のエウルア〜
エウルア視点
「討伐完了よ。ジン、確認お願い」
「ああ、ご苦労だった。……ふむ、随分と討伐数が多いな。氷スライムの討伐は堪えるのではなかったのか?」
「まぁね、今日は調子が良かったみたい」
私が出した報告書に目を通したジンは目を丸くする。氷スライムは神の目持ちが私やミカの氷元素しかいないから、遊撃小隊が苦手とする相手。それが大量発生していたから丁度手が空いていたウチの小隊が請け負ったのだけど、とても憂鬱だったわね。……今朝までは。
だって、朝起きたら自分の愛しの人が暖かい朝ごはんを作って待ってくれたんだもの。元気が出ないわけがないわ。そのあともなでなでしてくれたし。いつもより剣を振るキレが増してたような気がする。
報告を終えた私は騎士団本部を出て帰路に着く。帰ったらまずはお風呂に入ってそれから存分に甘えなきゃね。朝補充した迅ゲージが切れそうだもの。綺良々が噛み付いて来るだろうけど、こっちだって必死なの。本当は任務なんてサボって1日中迅にくっついていたいけど、わたしがモンドを守る理由をくれたのが彼だもの。蔑ろにするわけにはいかないっていう気持ちと共に彼への気持ちが胸を温める。
私は道行く人にお裾分けを貰いながら家まで歩いた。毎度断ってるんだけど、お礼を言われながら渡されるからいつも受け取ってしまう。
この恨み……って恨みじゃないか。えと、このお礼は必ずモンドを守ることで返していくわね。
「ただいま」
「…おかえり。晩飯出来てるぞ?それとも先にシャワー浴びるか?」
……結婚して欲しい。切実に。
私は階段を登る音で先に玄関を開けて出迎えてくれた
「先にシャワーを浴びるわ」
「了解」
「…綺良々は?」
「あー…、なんか今寝ててさ。凄い幸せそうな顔で寝てるから起こすのも忍びなくて」
え、それって2人きりってこと?(食い気味)
「そ、そう。なら先にふたりで済ませてしまいましょ」
「ああ、そうだな」
台所に戻っていく迅を尻目に寝室に入ると綺良々がすやすやと眠りこけていた。なにかいいことがあったのかしら、凄い笑顔ね…。確かにこれは起こせないわ。
満面の笑みで眠る綺良々に苦笑しタンスを開けて寝巻きを取り出す。い、一応下着は新しいやつを……って何を想像しているのよっ!そ、そんなことある訳……もし、迫られたら…断れない、いや断らないわよね……。少し想像してしまって顔が熱くなる。
妥協案(?)で清楚めな下着を選ぶと迅の顔を見ないようにしながらお風呂場に直行。服を脱ぎ捨てお湯を頭から被った。涼しいのが好きで偶に寒中水泳をする私だけど、別にお湯が嫌いってわけではない。シャワーを浴びながら、目の鏡で自分の身体をまじまじと見る。
スタイルはいいと自負しているわ。維持にも良く気を遣ってる。よくアンバーや綺良々に羨ましがられるし、正直邪魔とさえ思ってた2つのコレが迅相手では有利に働くことを知ってからは活用させてもらっているけど。
ここで前に綺良々が言っていたことが頭をよぎった。
『迅くんが触りたいって言ってきたらどうするの?』
本当に迅がそういう事を要求してきて……例えば、今、迅がここに突入してきたとしたら、私は……受け入れちゃうのかな……。そんな想像をしてしまってお腹の奥が熱くなった。わ、わたしったら何を考えて……!
何をどう考えても「そういう」方向に思考が行ってしまって頭を振る私。彼がそんなことを考えてるわけないわ!いやでも、実質2人きりなんてまたとない機会…。
そんな考えがぐるぐると頭の中を回り、私がシャワーから出るのに普段の倍近い時間がかかった。
「……随分遅かったな」
「……ちょっとね」
誰のせいだと思ってるのよっ。私は台所の迅を一睨みすると肩を跳ねさせる。首を傾げてる彼を尻目に席に着くと、料理をお盆に乗せて持ってきて皿を私の前に置いた。これは…ビーフシチューかしら。よく煮込まれていて、飴色のお肉が如何に柔らかいかを教えてきて、唾を飲みそうになる。
「ビーフシチューに蒲公英酒を使ってみたんだ。自信作」
そう言って自信に満ちた顔で対面に座る迅。本当にそういう顔は私だけの前でしなさいよね。普段の雰囲気からのギャップでやられそうになる。
そしてグラスに蒲公英酒とオレンジの果実を入れてオレンジジュースで割ったカクテル「サングリア」も用意してくれる。私が前に葡萄感が強い蒲公英酒が少し苦手と言っていたことを覚えててくれたようで、飲みやすいようにしてくれている。君、ホントに他の女の子にそういう事しないでよ?さっきから仕事から帰ってた女の好きなポイントを的確に突いてきてて、最早狙ってるんじゃないかと疑心暗鬼になってくる。
自分のグラスにも蒲公英酒を注いだ迅と静かに乾杯。サングリアに唇を付ける。うん、おいしい。強い葡萄の果実感がオレンジ方面に分散してて、飲みやすい。
そのあとはビーフシチューを食べてみる。スプーンで触れただけで崩れる肉をひとくち食べると、閉じ込められていた肉汁がどんどん湧き出てきて、私は思わずほうっと息を吐いた。
「……おいしい」
「そりゃ良かった」
今まで食べてきたビーフシチューで1番美味しい。そう断言できるほどの味だった。迅も満足気な顔をしてひとくち頬張り、笑みを見せている。
「どうやってこんなに口当たりをよくしたの?肉を取り出して濾したとしても、この甘みは…」
「ああ、仕上げに白味噌いれたんだよ」
「…白味噌?」
聞くと稲妻の調味料らしい。それを聞いてもう一口食べてみて、トマトの酸味がまろやかになっていることにも気づいた。
「まろやかな方が仕事帰りのエウルアに合うかなって。パンチあるのも良いけど、偶にはこういう染みるやつもいいだろ?」
もう本当に結婚してくれないかしらこの人。私が働くから毎日こういう夕食を作って待ってて欲しい。いやむしろ遊撃小隊に一緒に付いて来てもらえば……そうすればおいしい料理も食べれるしいつでも甘えられるし一石二鳥ね。
…私がさっきからときめきまくりだって言うのにこの男は。当たり前のように私を気遣って、自分がどれだけ女の子からポイント稼いでいるのか気がついていないのかしら。この恨み、覚えておくんだから。
食後、お酒が結構入った私は酔っ払って甘えん坊モードに突入していた。今迅はお皿を洗っているところだけど、私は1人でソファに座ってるのが寂しくて、彼の背中に引っ付いている。
「ちょっと、皿洗いにくいからっ」
「や。我慢してあらいなさい」
そう言って逃がさないように後ろから迅の身体に腕を回してぎゅ〜っと抱きつく。隙間無く押し付けられた私の胸が彼の背中に合わせて形を変えて、背中がビクリと震えた、それがなんだか可愛くて何度も押し付ける。
その間、迅はなにかブツブツと唱えて「解!」と唱えてた。もう、何してるのよ。
皿洗いを終えて疲弊してるようにも見える迅は私をソファに座らせるけど、わたしが逃がすわけないじゃない。彼を手を引いて隣に座らせると、私は彼の膝の上を跨るようにして向き合う形で上に乗った。丁度胸の辺りに来る迅の顔を抱き寄せて胸に埋めさせる。
「んむっ!?」
「いつもは私がなでてもらってるもの。お返しよ?」
私の今の格好は薄着のTシャツと気合を入れたミニスカートだから、迅の体温が伝わって、変な気分になってくる。私の胸に包まれた彼の頭を撫でてやると、少し硬めながらサラサラの藍色の髪が指を撫でた。
少し苦しそうだったので胸から迅を離すと、流石にあのポーカーフェイスも剥がれたようで、頬を染めて私の身体を離そうとしてくる。
「エウルアっ、流石にこれは…」
「や。ずっとこうしたかったの。少しは私につきあいなさい。……きみからも、だきしめて?」
「……っ」
ふふ、観念したみたい。彼の腕が私の背中に回されて、抱きしめて来てっんぅ〜〜……!!
ただ抱きしめられただけなのに、甘い痺れに似た何かが私の体を巡る。嫌な感じじゃなくて、お腹の奥が熱くなって何か満たされたかのような感覚がとても心地いい。
思わず私も力いっぱい彼を抱きしめ、肩口に顔を埋めた。吐いてしまった息を取り戻すように息を吸い込む。
すると、彼の匂いが強烈に香ってきて、思わず腰がビクリと動いてしまった。
「え、エウルア?大丈夫か?」
「…すーっ」
私は夢中で彼の香りを吸い込む。服は私と同じ洗剤だから匂いも同じだけど、その奥から彼の匂いが感じられて、たまらない。
「じんっ」
「エウルアってええっ?」
我慢が出来なくなった私は、迅ごとソファに倒れんだ。彼の腰あたりに跨って、慌てふためく彼の顔をのぞき込む。スカートが捲れ上がってる様な気がしたけど、もうそんな事は気にならなかった。むしろ見てほしい。
「え、うるあ」
「じん…」
私は迅の手に指を絡ませて、彼の顔に自分の顔を寄せていく。
……すき。
彼のことが、堪らなくすき。
だいすきっ
キス、しちゃ………お………
ーーーそこで、私の意識は闇に落ちた。
遠くなる意識の中、焦ったような彼の声がうっすらと響いた。
「………寝たか…。…………いままで1番やばかった……」
翌朝起きた私は、お酒を飲んだあとの記憶がすっぽり抜け落ちていた。
度数が高めの蒲公英酒をあれだけ飲んだんだから、当然か。久しぶりに飲みすぎたわね。
昨日はなにかなかったかと迅に聞いたけど、彼は特に何も無かった。よく寝てたぞ?と言っていた。ホントかどうかはわからないけど、彼が言うならそうなんだろう。迅は寝てる私になにかする様な人じゃないのは私がいちばん分かってるし。
それはそうと、綺良々のニヤつきがすごく気になる。聞いても下手くそにはぐらかすし、怪しいわね……。
まぁいいわ。今度調査してやるんだから。抜け駆けは許さないわ。