職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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誠に勝手ながら、前回の話「荒海に迸る蒼い稲妻」を、削除致しました。
理由はご指摘を多数頂き、改めて読み直した結果、「まだ不要」と判断した為です。ご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありませんでした。

ということで、今回は過去最多文字による可愛い綺良々をお送りしたいと思います。

拙い文ですが、お付き合いの程、よろしくお願い致します。


3話 職場の先輩と休日に遭遇する時の気まずさ

 

 

「ふぁぁ……ねむ」

「んにゃぁ……」

 

朝7時、揃って大あくびをかましのそのそと起きると、きららと2人で朝食を食べる。…今さらっと人で数えちゃって、ふと思ったんだけど、やっば、似てるよなぁ。先輩に。俺は横でねこまんまを平らげて満足気のきららを見る。毛並みと目の色はホントにそっくり。ただ尻尾は普通に1本だし、人の言葉を喋り出したことも無い。

 

…試しにカマをかけて見るか。

 

「先輩?」

「…」

 

うーん。無反応。ちょっと、いやかなり恥ずかしいけど、言ってみるか。どうかハズレであってくれ。頼む。

 

「…綺良々。かわいいよ」

「……にゃ?」

 

やっぱ違うかー。

さすがに考えすぎかな。

俺は、不思議そうな顔でこちらを向くきららの頭を一撫ですると、食器を片付け皿洗いを始めた。

 

 

☆☆☆☆

 

 

ーーちょっとおおおおおおお!!?いきなりなにを言ってるのぉ!?

 

食器を持って部屋を出ていった迅くんを見送った私は、座った状態からこてんと横になり前脚で真っ赤になってる顔を覆った。

 

あっぶなかったぁ〜!あと少しで反応しそうだったよ!みみ耳元で「綺良々、かわいいよ」なんて!飛び上がらなかった自分を褒めてやりたいよ!猫の時にあんな事は1度も言ってくれなかったから、多分、あれは人間のわたしに向けての……にゃ〜!!

 

私はそのまま畳の上をごろごろと転がる。あーもう。今日はお休みだから1日猫で居ようと思ったけど、もう我慢できないっ!今すっごく人間の姿で迅くんに会いたいんだ。迅くんゲージ(?)はMAXです!そういえばこの前買ったアレが使える。急がないと!

 

私はそう思い立つと、急いで家から出ていった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

…なんかきららが凄い勢いで家から出ていった。

 

この前、落とし穴を掘り終え気持ちよく帰ってきたら、きららがめっちゃ邪魔な所で丸くなってて、モフろうとしたら引っかかれた。なんでや?

 

それから数日間毎日仕事終わりに魚獲ってきて捌いて好きなだけ食わせてたらあっさり機嫌戻ったけど、なんだったんだアレ。まぁいいか、よし、皿洗い終わりー。せっかくの休みだし、ばあちゃんに任せっきりで、普段できない家事をあらかたやっちゃうか。

 

掃除は家がそんなに広くないし、ばあちゃんが普段からやってるからゴミも全然出なかった。ならばと洗濯、こちらもばあちゃんが普段から(以下略)。だったらと風呂掃除、これも(以下略)。

 

速攻でやることが無くなった俺は無様に居間で大の字になった。なんか、その、ばあちゃん、普段からホントありがとうと、日頃の感謝を噛み締めている俺をばあちゃんは優しく撫でてくれた。

 

日課の霧切の手入れを始める。神里さんから餞別としてもらったこの刀だがお返しの品は実はきちんと用意してあるんだ。

 

本当はこの霧切を返したいんだけど、野郎が2年も握った刀をおいそれと返す訳にも行かないしな。それで綾華様に「少々、臭いますね」とか言われたら稲妻で生きていける気がしない。それで俺がお返しに決めたのは、璃月でオセル戦の報酬で頂いた、翠玉を磨いた片刃の宝剣。銘を「磐岩結緑」という。こいつもかなりの業物だし、なんとかお返しになるだろう。多分。

 

何で俺みたいな平民が、社奉行の名家から刀を貰えたのかって所なんだけど、実を言うと、うちのばあちゃんと俺は血が繋がってない。俺は捨て子で鎮守の森に捨てられていた所を神里さんの家に拾われ14歳まで神里家で育てられた。だから、綾人様と綾華様と俺は元義兄妹ってことになるのかな。本来はそのまま神里家の使いになる筈だったのだが、俺に気を使ってくれた綾人様が、将来神里家に残るか、希望者の養子となるか選ばせてくれたのだ。それで俺はこのばあちゃんに引き取られた。あ、ちなみに神里流太刀術も少しは使うことが出来る。まぁ、この2年で大分崩れてしまったんだけど。

 

霧切の手入れを終え鞘に納める。うーん。これでもう家でできることはなくなっちゃったな。時間もまだ昼前だし、ちょっと町を色々回って見ようかな。

 

「ばあちゃん。俺ちょっと城下町に行ってくるけど、なんかお土産欲しい?」

「そうだねぇ、じゃあ団子牛乳を頼むよ」

「え、なんだそれ」

「今流行りの、すいーつって奴さね。城下町の屋台で売ってる筈だから、頼んだよ」

 

団子牛乳?団子を牛乳につけて食べるの?俺が出ている間に出来たやつなのかな?とりあえず了解とばあちゃんに返すと、俺は腰に霧切を差して城下町に向かった。

 

 

 

 

 

 

「や、やぁ!迅くん!奇遇だねぇ!」

 

なんか城下町の入口前に可愛いのがいるんだけど。

 

後ね、先輩。結構遠くから俺を見つけて、ブンブン手を振っといて奇遇はちょっと偶然君の幅広すぎじゃないですかね?足元の、多分ここで待ってた時に飲んでたであろう飲み物達の容器、隠せてませんよ。

 

と、めっちゃ突っ込みたいが綺良々先輩の笑顔が眩しすぎて語彙力吹っ飛んだ。

 

「こんにちは。先輩はどうしてここに?」

「いやー。せっかくの休みなのに、すっごく暇で、町をぶらぶらしてたことなんだ」

 

俺が挨拶するととてとてと寄ってくる先輩。かわいいかよ(n回目)。それを見ていると、俺はあることに気がついた。

 

「あれ、今日は人間の脚なんですね」

「うん。配達がないからね。偶にはいいかなって」

 

そう言うと先輩は自身の後ろで手を組んだ。足もだが、よく見ると今日は格好が少し違う。

 

いつもは黒地のインナーに水色の着物を羽織っているのだが、今日は着物の前を閉めて、いつもの腰巻が袴風の質感の紺色のミニスカートに、膝下のルーズソックス的なやつが膝上丈の黒いニーハイソックスに変わっており、靴もヒール付きのサンダルになっていた。髪型もポニーテールになっている。

 

「ど、どうか「めっちゃ似合ってます」…あっ、ありがと」

 

思わず即答してしまった。いや似合い過ぎだろ。ポニテにしたことによって見えるうなじといい、聖遺物『男を滅殺するファッション(スカートとニーハイ)』の2セット効果、男に与えるダメージ+50%(絶対領域)といい、何だこの先輩。俺を殺しに来たのか?

 

「先輩も暇なんですよね。良かったら一緒に町回りません?」

 

あっやっべ。思わず誘ってしまった。これ断られ「うん!いいよ!」かわいいなぁ(洗脳済み)

 

「何固まってるの?ほら、いこ?」

 

と笑顔で手を取り歩き出す先輩。こうして俺は綺良々先輩とデートをすることになった。

 

 

 

 

稲妻の町を先輩と並んで歩く。そこだけ見ると配達の時と同じなのだが、格好がいつもと違うのと、ご機嫌で鼻歌を歌いながら歩いている先輩が美人過ぎ(かわいい言い過ぎたから別の表現模索中)て、町並みよりもそちらを見てしまう。横顔に見惚れていると、先輩がこちらを向いてきたので慌てて目を逸らした。

 

「それで、まずはどこから見る?」

「そうですね…、ちょっと服を見たいかなと。手持ちの服が璃月やモンドのやつしかなくて」

「おーけー!こっちにいい店があるんだっ」

 

先輩に連れられ、服屋に入ると先輩は楽しそうに俺の服を選び始めた。

俺が今着てる服はもっぱら任務用(ディルックの課金スキンの藍色版みたいな感じ)の夜だと見つかりにくいやつで、仕事ならまだしもただ遊びに行く時に着ていくものではない。それに結構ボロいし。

 

「これなんてどうかな?似合うと思うよっ!」

 

と、差し出された着物を素直に着てみる。色は白と深い青の組み合わせで袖や裾の青に描かれてある金色の稲光が綺麗で、左肩には肩当がある。下は膝下までの黒い袴に草履と一体化した足甲で、鏡を見てみると自分で言うのもなんだが、結構いい感じではなかろうか。霧切も差して試着室から出てみると、綺良々先輩と店員さんが目を輝かせていた。

 

「わぁ!やっぱりっ!すっごく似合ってるよ!」

「はい。よくお似合いですね。このまま購入して行かれますか?」

「はい。買ってこのまま着ていきます。先輩も、選んでくれてありがとうございました」

「ううん。喜んでくれて良かったよ」

「あの、よろしければ元着ていた服のほつれている所を修繕致しますか?追加でモラがかかりますが…」

「あっそうなんですか?それなら、お願いします」

 

俺は元の任務服を服屋に預け、この1式と、普段使いの服を幾つか買うと服屋を出た。買った服は紙袋に入れて手に下げる。

 

いや、ホントにこの着物いいな。めっちゃ動きやすいし、涼しいし、懐に色々仕込めるし(実戦脳)モラはそこそこ掛かったけど全然満足だ。

 

そろそろ昼ご飯を食べるにはいい時間だ。ご飯にしますかという俺の提案にさんせーっと返事した先輩と、行けつけらしい木村料亭に向かって歩いていると、ひとつ、違和感のある視線を感じた。目線自体は町を歩いている以上貰うものだが、俺が感じた視線は若干の好奇心と、イタズラ心が含まれているような。こんなことをする奴は俺の知り合いには一人しかいない。このまま笑いものにされるのも癪なのでと、綺良々先輩に話しかける。

 

「先輩」

「ん?なーに?」

「俺たち、誰かにつけられてるみたいですね」

「ええっ?ほ、ほんと?」

「はい。あ、でも俺の知り合いなんで安心してください。ちょっと懲らしめるだけです。先輩。ちょっとすみませんね」

「ふぇ!?」

 

俺は突然綺良々先輩の手を引いて、路地に入ると、彼女を横抱きにして上に跳躍した。

 

壁を何回か蹴って屋根に着地。追っ手の様子を上から見れる様にすると先輩を降ろそうとするが…あれ?先輩?

 

「いっいまの、おっひ、…おひひひひひ」

 

やばい。先輩が壊れちゃった。今までで1番顔が赤い。つかずっとこっち見てる。あの?今首に手を回されましても?あの、降りて欲しいんですけど…。

 

「先輩?」

「あっひぃ!わわわわわごめん!すぐおりるね!」

 

わたわたしてる先輩を腕から降ろすと、丁度追いかけてきた人物が路地裏に入ってきた。

 

「あれっ?確かにここに入ったんだけどなぁ…迅のヤツ一体どこいったんだ?」

「うーん。なんだか途中から尾行に気づかれてたみたいだし逃げられちゃったのかなぁ」

「へぇ、結構前からつけてたのか、いつからだ?」

「綺良々がそわそわしながら誰かを待ってる時からだけど……え?」

「お、おい、旅人……後ろ」

「……おわった」

 

カタカタと震えている旅人こと蛍。そいつの脳天に俺はゲンコツを落っことした。手に持ってる写真機見えてんだよ。続いて共犯のパイモンにもデコピンする。

 

脳天とデコに衝撃を食らった蛍とパイモンは「おぉぉ」と崩れ落ち、それぞれ手で押さえて呻いている。蛍の手から零れ落ちた写真機の中身を見て変なのを撮られていないか確認していると、屋根上の先輩が顔を出した。

 

「迅くーん。もう降りてもいい?」

「あ、はい。いいですよって、先輩!?今日「え?……あっ!」ッスゥーー」

 

時すでに遅し。多分いつもの感覚で飛び降りたのだろう綺良々先輩は、空中で今日の自分の格好に気付いて、慌ててはためくスカートを押さえたが叶わず、俺にお尻を向ける格好で落ちてきた。…黒のシンプルタイプでした。なんか本当にすみません。

 

綺良々先輩はバシッとスカートの裾ごとお尻を押さえ、真っ赤な顔でこちらを見た。余程恥ずかしかったのか若干涙目だ。

 

「じ、迅くん、見た?」

「…見て「「バッチリ見てた!」」クソがぁ!…本当にすみませんでした」

「いや…私が悪いから大丈夫だよ?その、大変お見苦しい物を…」

「いやいやいや!全然そんなことないっすよ!?」

「なるほど、そんなことないって分かるくらいにはしっかり見てたんですね」「こりゃ確信犯だぜっ」

「お前らは一旦、黙っててくれ頼むから」

 

 

☆☆☆☆

 

 

うわああああああああああ!!

 

みっ見られたぁ!なんで?猫の時は服なんて着てないのに、人間の時はこんなに恥ずかしいの!?どうしよう…顔爆発しそうぅ…。私がほっぺの熱を冷まそうと手でぺちぺちしてると、旅人さんと、お友達のパイモンちゃんが手を合わせて謝ってきた。

 

「綺良々〜。つけるような真似してごめんな〜」

「やりすぎた。ごめんなさい、デートの邪魔しちゃって」

「でっ!?…う、うん、私は大丈夫だよ。それと久しぶり、旅人。髪型、教えてくれてありがとね」

「どういたしまして。今日の髪型も可愛いよ」

「えへへっ、ありがと」

 

良かった、髪型変じゃなかったみたい。安堵していると、そこに不機嫌顔の迅くんがやってくる。

 

「なんだよ。俺には何にもないのか?」

「落とし穴の仕返し。それと、久しぶりだね」

「ああ、久しぶり。それと、鎖国取っ払うきっかけを作ったのお前なんだろ?ありがとな」

「どういたしまして。お礼に今度、絶縁秘境手伝って?」

「だからなんで毎度雷バリア張るやつが出るとこ誘いやがるんだ」

「えー。あ、そういえば綾華が君に会いたがってたよ。私がいっぱい噂広めといてあげたから」

「明日行くつもりだよ…。あとお前あれまじでやめろよ!歩いてたら時々握手求められるんだぞ!」

「ふふっ、私も歩いてたら声掛けられるから、道づれ…」

「コイツ…」

 

旅人さんと迅くんが凄い気安い感じで喋ってる。なんか、いいなぁその関係。お互いからかい合ってるけど認め合ってて仲はいい、みたいな。

 

私ももうちょっと気安い関係になりたいんだけどなぁ。今度、先輩呼びを止めさせてみようかな。

 

「あ、すみません。放ったらかしにしちゃって」

 

私が悩み顔してるのに気が付いたのか、迅くんが寄ってきてくれる。

 

「ちょっと考え事してただけ。ありがと、気遣ってくれて」

「こんくらい当たり前ですよ」

「さっきから気になってんだけど、なんで迅は綺良々の事先輩って呼んでるんだ?」

 

と、パイモンが聞いてくるので、私と迅くんで軽く経緯を説明した。

 

「へぇ〜。迅は狛荷屋に入ったのか」

「冒険者は辞めちゃったの?」

「いや、まだ冒険者のカードは残しているから依頼は受けられるけど、今は配達があるから冒険にはそんなに行けないな」

「先輩、ね。でも確か歳は迅の方が上じゃないの?」

「え、そうなんですか?」

 

迅くんは驚いて私を見る。あれ?だから先輩呼びの敬語だったの?んーと、確か私は…生まれは分からないから、迅くんの家に来たのを1歳ってすると。

 

「えっと、わたしは今年で17歳かな」

「あっそうだったんですか?妖怪だからてっきり長生きしてるかなと…」

「私、まだ猫又としては若いんだよね。まだ5年目だし」

「そうなんだ…でも仕事の先輩ではあるし、口調はこのままで「やだ」え?」

 

私は無意識に、迅くんの着物の袖を摘んだ。さっきの旅人との会話に少しやきもちしていたのか私の頭は「迅くんに気安く呼ばれたい」という気持ちでいっぱいで、浮かんだ言葉が脳のフィルターを通さずに口から出る。

 

「ね、私の事、呼び捨てで呼んで?せんぱい命令っ」

 

そう言うと、迅くんは目を見開き、照れたようにそっぽを向いて。

 

「…綺良々」

 

あっ。………っぅ〜!

 

ただ名前を呼ばれただけなのに、私は胸の当たりが苦しくなった。ただ、それはほんの一瞬で、その後は胸がポカポカしてくる。迅くんに「きらら」と呼ばれたことは猫の時で慣れているのに、人間の姿で呼ばれただけなのに、私は堪らなく嬉しかった。もっと呼んで欲しいな。もっと…。

 

「もういっかい」

「え?」

「もういっかい、綺良々ってよんで?」

「……き、綺良々」

 

はぅ…。

 

袖を掴んでいた私の手は、無意識のうちに彼の手を握っていた。そのまま少しずつ近づいていく。

 

「迅くん…」

「綺良々?ちょっと近いですよ?」

「けいご、だめ」

「…綺良々、近いからちょっと離れてくれ」

「やだ」

 

えへへ。暴走が止まらない私は、そのままーー

 

カシャ!

 

その音で我に返った私は、迅くんと一緒に音がした方をゆっくり見た。

 

「わーお、これは凄いのが撮れた」

「尾行してる時よりもヤバいものがとれたな…」

 

旅人とパイモンちゃんが少し頬を染めて撮った写真を見ている。それを見て今、自分が何をしようとしていたかを思い出した。顔を熱暴走させた私は、バッと音が出そうな勢いで迅くんから離れる。

 

「あっ!ごごめん!」

「おっ俺は大丈夫だから…」

 

見ると珍しく迅くんも顔を赤く染めていた。そっぽを向いて隠そうとしているが耳も真っ赤。えへへ、迅くんもそんな顔するんだ〜。

そのことに謎の達成感に包まれていると……あっそうだ写真撮られたんだ!

 

「たっ旅人っ!」

「これは私達はお邪魔そうだから、退散するしかないね(満面の笑み)」

「そうだな旅人!(満面の笑み)」

「「じゃ!」」

 

2人はとてもいい笑顔でこちらにウインクすると、一目散に逃げていった。

 

「ちょっお前ら!写真は消せよ!」

 

という迅くんの叫びは虚しく、2人は路地を出ると、人混みに紛れて見えなくなった。

 

「行っちゃったね」

「くっそ、あいつら次会った時覚えてろよ」

 

凄く破天荒だったけど、私としては嬉しいことの方が多いからよし!私は迅くんの方へ向き直ると手を後ろで組んで微笑んだ。

 

「ほら、有耶無耶になっちゃったけど、ご飯いこ?」

「そうですね、綺良々せん「ん!」…ご飯、食べに行くか、綺良々」

「よろしい!」

 

この後も、迅くんとのデートは続いた。

 

美味しいご飯を食べたり、千手百目神像を見に行ったり、今流行りの団子牛乳を飲んだり、道端の長椅子で座ってお喋りしたり。

 

すっごく楽しかったし、何より迅くんの私への口調が柔らかくなったのが本当に良くて、私は夢中で迅くんと過ごした。

 

 

 

その帰り。

 

いてて、やっぱり人間の足は慣れないや。

 

デートはすっごく楽しかったんだけど、人間の足で慣れない靴を履いたので靴擦れをおこしちゃった。私が今日履いていたのは、猫足と比較的同じ感覚で立てる踵が高い、親指と人差し指の間に柱を挟んで履くタイプなんだけど、歩いているうちに足の親指と人差し指の間が擦れてきて少し痛いんだ。

 

多分、迅くんにはバレてない。痛いのを我慢して普通に歩き続けたし、別れたあとちょっとそこら辺で休んでいこ。

 

私と迅くんは城下町の入口で止まった。

 

「じゃあ、私はここら辺で…」

「そっか、ありがとな。今日1日、楽しかった」

 

今日でかなり気安くなった迅くんににやけそうになりながら。私は頷いた。

 

「こちらこそ。わたしもすーっごく楽しかった!またいこ?」

「おう。また、今度な」

「うん!」

 

そういい、私は迅くんと別れると、脚を引き摺って少し道を外れて、近くの石垣に座る。

 

靴と靴下を脱ぐと、指の間の皮が剥けていた。

 

いててて。妖怪だから怪我の治りは早いけど、これだと数時間かかりそうだなぁ。お家に帰っておばあちゃんのご飯、食べたかったんだけど今日は諦めるしかなさそう。

 

私がため息をついて、日が落ちて目立つようになった月を見上げているとーー

 

ザッ、ザッ、ザッ

 

「ーー見つけた」

 

足音と、その優しい声に、私は目を見開き、恐る恐る振り向いた。

 

「やっぱり靴擦れしてたか。そりゃ慣れない足で慣れないもん履いたらそうなるか」

「じ…ん、くん」

 

え?なんでっ?どうしてここに?もうとっくに家に帰ったんじゃ?

 

「どうして…」

「綺良々、俺の為に痛いの我慢してたろ?ほんとは言いたかったけど、綺良々が気を使ってくれてたから、取り敢えず様子見して、ヤバそうだったら助けようかなって。一応、午後からは座るのを多めにはしたんだけどな。ほら、薬塗るから足出して」

「う、うん」

 

や、優しい〜っ!すきぃぃぃぃぃ!(心の大絶叫)

 

言われるがままに足を出すと、そこで買ってきたらしい大きめのタオルを渡された。どうやらスカートの中が見えなくする為らしく、その気遣いにときめいてる私の前に迅くんは跪いて、私の足を膝に乗せると、優しく薬を塗り始めた。

 

「っ…んっ…」

「っと、悪い、痛かったか?」

「んぅ…だ、だいじょぶ…」

 

足の指のあいだを触られるという未体験の感覚に思わず変な声が出てしまう。慌てて口を抑えると、迅くんは心配そうに見上げてくる。猫の時も人の時もいつも見上げてばかりだったから、こういうのも私にはクリティカルだよっ!

 

薬を塗り終わると絆創膏を貼られた。

 

「これでよし、まだ歩けないでしょうから、ほら」

 

迅くんはそう言うと、私の前に背中を向けて座ろうとして、辞める。

 

「どうしたの?」

「いや、背負って送ろうとしたんだけど、スカートだったわ…、綺良々、横抱きでもいいか?」

「へ?う、うんいいよ」

 

と、迅くんが送ってくれることに対しての驚きと何処に送って貰うか考えてたせいで、肝心の抱き抱え方をしっかりと聞けていなかった私は空返事をしてしまう。

 

「了解」

 

との声と共に、私の膝と背中に腕を通されて抱き上げられた。何で?お姫様抱っこで。

 

えええええええ!あっ、横抱きってこれ!?うう顔が近いし、身体も密着してる…。あっでも、この私がされるがままなのちょっといいかも……。

 

そんなことを考えている私に普段より倍距離が近い迅くんが送る場所を聞いてくる。人の状態でお家には帰れないから、今夜は妖狐さまのところで泊めて貰おう。

 

「さて、お客様。目的地はどちらで?」

「…じゃあ、ちょっと遠いんだけど、鳴神大社まででもいい?」

「畏まりました」

 

と声が聞こえると、迅くんは私を抱えたまま歩き始める。私は落ちないように迅くんの首に両腕を回すと、完全に身体を預け、この時間を満喫するのだった。





迅の着物は万葉の色違いっぽい感じ、綺良々のデート仕様は腹の露出が無くなり、腰巻が同じ柄のスカートになり、ルーズソックスがニーハイになった感じですね。


3話でした。

ちょっと攻めすぎたかな?


次の更新は来週の半ば、神里のお話になります。ちゃんと綺良々も出てくるのでお楽しみに。
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