職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

30 / 80

おまたせしました。


今回はラブコメ0、戦闘100%でお送りしております。


この回もずっと書きたかった。

ちなみに跋掣がゲーム本編よりも強めに書いております。ご了承ください。


15話 邪雷を断ち切る蒼雷

 

 

☆☆☆

 

 

璃月港の北西、漉華(ろくか)の池の畔にある洞窟を、紺色の鞘に納められた太刀「霧切の廻光」を携えた青年、迅が静かに歩いていた。

 

今頃向こうは俺を探して大騒ぎになっているだろう。そのことを心底申し訳なく思いながら、迅は洞窟を進んだ。

 

この洞窟は時折「爆炎樹」と呼ばれる怪物が確認され、よく冒険者が派遣される。炎元素による耐性とコアを破壊しなければろくにダメージを与えられない難敵として知られているが、その樹はもう(・・)いなかった。

 

爆炎樹がよくいる洞窟の広場に、1人の男が座り込んでいた。その隣で爆炎樹だったものが半ばから切断されている。

 

歩いてくる俺を見つけた、赤い面を付けた茶髪に青眼の男は嬉しそうに手を振ってきた。

 

「やぁ!迅君っ、久しぶり!元気にしてたかい?」

「ああ、久しぶり、悪いけど俺、この後予定があるんだ。だから用があるなら早めに言うか、また後日にしてくれないか?こんな回りくどい手紙なんか寄越さずにさ」

 

手にしたファデュイの紋章と「禁忌滅却の札」をぴらぴら見せながらそう返した迅に、茶髪の男ーーファデュイ執行官「公子」にして、迅の修行時代からの友人、タルタリヤは笑みを更に深めた。

 

「なんだ、せっかくの友人との再会なのに。ちょっと冷たくないかい?」

「ああ、だからまだダチの態度で聞いてやるよ。……これはどういうつもりだ?」

 

迅がこの時間にここに来たのは当然バックれなどではない。

 

彼の部屋に昨日、手紙が届いていたのだ。しかも「誰にも見せるな」と忠告付きで。

 

手紙の内容はこうだ。

 

『明日の午前10時、漉華の池の近くにある洞窟に1人で来てくれ。ただし、この手紙の内容を他の人物にバラしたり、バックれたり、君以外の者を連れて来た場合、明日の昇空儀式はさらに賑やかになるだろう。

 

公子』

 

その手紙と一緒に、禁忌滅却の札まで入っていた。

 

恐らく、「賑やかになる」というのは禁忌滅却の札で再封印されたオセルを再び呼び出す気だ。ファデュイからしたら、璃月の被災は恩を売る絶好の機会だろう。

 

「見ての通り。ファデュイからしたら、ちょっと璃月が痛い目見てくれれば、高ーく恩を売れるし、元から傍観の姿勢だったんだ。でも、君がそれに参戦しちゃったら渦の余威なんて楽勝だろう?だからこうして足止めしてるのさ」

「…随分高く買ってくれてるんだな」

 

迅は雷で手紙と札を消し炭にしながら言う。最悪、迅が居なくても渦の余威はどうにかなりそうだが、なんだか嫌な予感がするし、タルタリヤは説得で行かせてくれるような奴じゃないことはこれまでの付き合いでわかっている。それに、本当に向こうが禁忌滅却の札を持っているとしたらまたオセルが復活する。

 

「そりゃあ当然だよ。君が本気を出せば、それこそ余威なんて楽勝だろう?……仙人の末裔?」

「……ったく、そんな事も知ってるのかよ」

「ファデュイの情報網を舐めないでくれ。…で?これからの予定はどうするつもりだい?迅君」

「お前もわかってんだろ?」

 

そういい、腰の霧切の廻光の柄に手をかける迅。タルタリヤはそれを見て嬉しそうに笑った。

 

「ハハハハハッ!いやぁ、夢みたいだよ。1度君と戦ってみたかったんだ!」

「俺はお前とはただの酒飲み仲間でいたかったよ」

「フフッ、それも良いけど、こうやって戦うからこそ友人と言えるだろ?」

「お前が何言ってるかわからんが……執行官様相手なら、出し惜しみてる場合じゃねぇかな?」

「別に惜しんでくれて構わないさ。……俺が出させるだけだからねっ!」

 

タルタリヤの神の目が輝き、両手に水元素が集まっていく。それは2本の剣を象った。

 

「さて、……『公子』」

「おや?名前で呼んでくれないのかい?迅君」

「あぁ、これは今から本気を出すための合図というか、スイッチだから、俺の発言には気にしないでくれ。お前とはまた普通に飯食いに行きたいし」

「ん?それは嬉しいけど、一体どういう事だい?」

「……すぅ……」

 

首を傾げる公子を尻目に迅は霧切に手を掛けたまま瞠目して深呼吸をした。すると、途端に迅の周りの空気が変わる。同時に迅の表情がどんどん抜け落ちていく。それを見て何かを感じた公子は油断なく水双剣を構えた。

 

まるで機械のような無表情になった迅の口が淀みなく動いた。

 

「…貴様だけは。貴様だけは。何があっても。どこまで逃げようと。何を言おうと。何をしようと。必ず。必ず。絶対に。…………。」

 

迅の口から出た言葉は普段の彼からは絶対に出てこない怨嗟の言葉。優しい青年から、殺戮の侍に変える魔法の詠唱。

 

「……殺すッ」

 

そして開かれた金色の目にはもう感情が乗っていなかった。静かに見据える双眸の奥に、公子に向けた強烈な殺意が元素波と共になって降り注いだ。

 

「へぇ…!こりゃ凄い。ここまでの殺気、並の人ならもう意識を持ってかれている。これが君の本気か…!」

 

対する公子はとても良い笑顔だ。瞳がキラキラと輝いていて、まるでヒーローショーの最前席の子供のよう。

 

迅が今行ったのは、魈に教えて貰った仙術の1つ。名を「羅刹心」という。自分のあらゆる感情を相手への殺意に変換させ、脳内麻薬を引き出して相手に対しての反応、行動を目的(殺害)に向かって最効率の行動を取らせるといったもの。

 

相手が1人で、死んでもいい相手にしか使えないのが難点だ。今回の場合、迅はいつもの立ち回りでも勝てるかどうかわからない相手だったので使用に踏み切った。公子ならば死んでくれないだろうという信頼の元である。

 

「それじゃ、双方準備整ったみたいだね」

「…………」

 

無表情の迅は霧切を鞘から抜くと、油断なく下段に構えた。公子も水双剣を中段に構える。

 

両者に訪れる静寂の中、余威出現による雨が降り注ぎ、その水滴が1滴、洞窟に落ちた、瞬間。

 

迅の姿が消えた。

 

「ッ!?」

 

公子は殆ど勘で双剣をクロスさせてガードの体勢を取った瞬間、強烈と言うのも生温い衝撃が腕を襲った。踏ん張りを効かせる間も無く身体が宙に浮いて、そのまま洞窟の岩壁に叩きつけられる。

 

叩きつけられた衝撃で壁に放射状にヒビが入る。一応受け身を取ろうとしていた公子だが、ガードしたというのに受け身が効かない。食いしばった口から呻きが漏れそうだと思う間も無く、またもや勘に従ってその場から首を逸らす。

 

その直後、螺旋状に元素が絞られた霧切が一瞬前まで公子の顔があった位置を跡形もなく抉り飛ばす。少しでも回避が遅れていたら即死だったことに内心ゾッとしながら負けじと双剣を迅の首筋に逆手で切り上げるが、振り抜かれた水刃と同じ向きに回転する事で薄皮1枚で躱され、遠心力が乗った霧切が振り抜かれる。

 

それを壁を蹴って転がり、広場の中央に逃れた公子は攻勢に出ようと振り向いた瞬間、雷を纏って心臓に向けて蹴りこまれた致死威力の蹴りが飛んで来たので身を逸らして避ける。外れた蹴りは地面を打ち、少しだけ隙が出来るはず。そう思って双剣の柄を繋げて槍にした水刃を振り抜いた。

 

「シッ!」

 

気合と共に振り抜かれた水刃は迅の雷を纏ったもう片方の脚に踏みつけられて難なく止められると、そのまま水刃ごと公子の足を踏みにかかる。公子はギリギリで足をどかした。

 

直後迅の足が地面を踏み付けた後、さらに衝撃波が巻き起こり、堅い地盤が簡単に割れた。

 

(沈槌劲とか、俺の足をぺしゃんこにする気か?)

 

内心冷や汗を垂らした公子はその後も水刃を振るうが、全ていなされカウンターに貰ったら即死の攻撃が最速で飛んでくる。それを避けても急所狙いの攻撃が飛んでくる。それを受け止めても更に殺意の乗った攻撃が飛んでくる。

 

更に驚くべきことは、その間の迅の表情が全く動いていない。攻撃が外れようが、受けられようが、流されようが、眉ひとつ動かさずに「殺せなかった。じゃあ次はこれで殺そう」と言わんばかりに、まるで避けられることが最初からプランに入っていたかのように流れるように致死の攻撃を飛ばす迅に公子は内心舌を巻いていた。

 

それを続けている内に、公子は公子で、そんなに無表情なら俺がなんとかして表情を変えさせて見せるとムキになってきていた。というか、この戦っている相手は最早迅なのか?と少しずつ慣れてきた迅の致死攻撃を捌きながら考えるほど。

 

迅は霧切で脚払いを掛けるフェイントを入れ、即座に刃の向きを変えて流れるように斬り上げで脇の急所を狙うが、水刃の柄で受けられる。その柄を掴んで背負い投げをして頭から地面に叩きつけようとするが、掴んだ槍が分裂して、片方が迅の後頭部を狙う。その凶刃を普段は足場にする元素を固めて盾として展開し、刃を防ぎつつ、水刃で出来た死角を利用して公子の眼球に人差し指で抜き手を放った。

 

それを寸前のところで首を捻り躱す公子だが、完全には避けられず頬から鮮血が迸る。

 

公子は捻った回転を利用して空中から迅の首に水刃を振り抜き、それが迅の肩を斬り裂くと同時にカウンターの肘打ちが胴に入った。丁寧に雷圧縮元素によるバースト入り。

 

「ぐっ!」

 

思わず吹き飛ぶ公子だが、向こうにも攻撃が当たったので、追撃には来ないだろうと勝手に考えた頭を振り払って横に転がると、今まで頭があった位置の地面が綺麗に無くなっている。迅は肩から流れる血など気にせず、冷静に霧切を振るって来る。

 

このままでは勝てない。と判断した公子は神の目を禍々しい物に付け替えた。同時に面を被って、女皇から授かった邪眼を解放する。

 

「はあああっ!」

 

邪眼から迅を超える量の雷元素が迸り、雷刃となって形成される。

 

「ここから第2ラウンド目だ!」

「……」

 

現在、両者の傷の深さで言えば迅の方が深い。そして邪眼を使ったので元素量も上回った。それだと言うのに一切表情を変えない迅に少し苛立つ公子。

 

「全く、それじゃあ、誰と戦ってるのかわからないよ。機械と戦ってる気分だッ!」

 

言うと同時に、雷を纏った公子は音を置き去りにする速度で迅に迫る。それを元素視覚で捉えた迅は、霧切に雷を纏わせて打ち合おうとするが。

 

ドガァンッ!!

 

「無駄だよ。邪眼の出力は神の目の2倍。君の元素じゃ受け止められない」

 

あまりの威力に受け止めきれず、最初の公子のように岩壁に叩きつけられる迅。見ると内臓に来たらしく、口から血を吐き出している。だが、それでも表情は変わらない。直後、衝撃音と共に迅が消えた。同時に公子も消える。

 

この2人の打ち合いは常人の目では捉えきれないだろう。広場の至る所に紫電が迸り、壁が砕けて地面が割れる。

 

迅は今、保存していた元素を解凍して、邪眼と元素量を互角にして戦っているが、受けた傷が深い分、スタミナ方面で分が悪い。次第に捌ききれなくなっていき、腕や足などを浅く斬られる。

 

「ハハハッ!どうしたんだい?さっきの威勢がなりを潜めているよ!」

 

四方八方から迫り来る槍の斬撃を、迅はしゃがんで刃の被弾面積を減らしながら凌ぐ。上段斬りを霧切の腹で叩いて軌道を逸らし、横凪を転がって躱し、突きを霧切の鍔や柄まで使って受け止め、捌く。そうしているうちに、限界が来たのか、迅の身体がグラりとバランスを崩した。そこを公子は見逃すはずも無く。

 

()った!!」

 

居合をしようとしたのか、重心が崩れていて無防備な迅の胸に目掛けて、公子は雷槍を突き込んだ。ーーーその瞬間。

 

「…シッ」

 

実はその体勢の崩れは迅が意図的に起こしたフェイント。そのまま横に倒れるはずだった身体を踏み出した左脚が、地面を破壊する踏み込みで支えて鞘に納めた霧切と鍔と鯉口の間に磁界を生成。斥力で加速した霧切を全力で、振り抜いた。

 

「がっ!?」

 

公子は垂直に振り上げられた霧切を、咄嗟に発動した魔王武装の鎧で間一髪受ける。もちろん無事にとは言わず、口から盛大に血を吐いて吹き飛んだが幸い死んではいない。

 

公子はなんとか足から着地したが、今ので脳を少し揺らされたらしい、まだ膝を着いて立てずにいる。

 

「………っち、やっぱまだ倒れねてねぇか…」

「はぁ、……はぁ…なんだ、もうそのモード終わりかい?」

 

羅刹心の効果が終わったのか、表情が戻った迅が少し笑う。もうお互い攻撃を受けまくって血だらけだ。

 

公子は全体的に切り傷があり、一番酷いのは先ほど貰った肘打ちと顎に貰った抜き打ち。肘はモロに胸に貰ったのでアバラは何本かイッてるだろう。

 

迅も羅刹心の効果で、自分が死なない程度の深手は受けながら攻撃していたので、重症度は迅の方が上だ。特に深く斬られた左肩の出血が酷い。

 

「はははっ、いやぁ、楽しかったよ。まさに死闘だ。…でも、これは勝負が、あったんじゃないかな。俺はまだこの魔王武装があるけど、もう君は切り札を失ったろ?」

「…それはどうかな。……最後に一合。打ち合いと、いこうや」

 

そういい、震える手で霧切を納める迅。もう圧縮保存していた元素も残り少なく、神の目の元素を圧縮して霧切に込める。

 

それを見て、タルタリヤも槍に雷を圧縮する。宙に浮かぶと槍を構えた。

 

「いいかい?」

「……ああ、いつでも」

 

少しの間2人に流れる静寂。それを破ったのはタルタリヤの方だった。

 

「ッゼアアァァァ!!」

 

タルタリヤは圧縮した槍を逆手に構えて猛烈な勢いで落下してくる。今の状態で打てる最高の攻撃。避けれはする軌道だが「打ち合う」と言ってくれた迅が迎え撃ってくれることを信じて槍を振り下ろした。

 

直後、ずっと閉じられていた迅の金色の目が開く。納められていた霧切が蒼く輝き、光が点ったかと見紛うような神速の抜き打ちが垂直に放たれた。

 

「蒼雷一閃、断空ッ!!」

 

蒼い剣閃は、元素ごとタルタリヤの魔王武装を斬り裂き、天井も吹き飛ばして跋掣の影響で空を覆っていた暗雲さえも割った。日光に照らされたタルタリヤはゆっくりと広場に落ちてくる。魔王武装があったので辛うじて死んではいないが、戦闘不能には十分なダメージだろう。

 

「は、ははは、それが、蒼い雷…。これが君の本当の本気かい?」

「はぁ、…はぁ……ま、そんなとこだ」

 

大の字に倒れながら「負けちゃったなぁ」とボヤくタルタリヤに、ふらつきながら霧切を納めた迅は、踵を返して外に向かおうとする。

 

「そこまで痛めつけた俺が言うのもなんだけど、その体で行って何が出来る?」

「うっせ。……約束したんだよ。守るってな。……じゃあな。また今度会った時は酒でも呑もう」

 

その言葉に目を丸くするタルタリヤ。ぶっちゃけ絶交覚悟だっただけに驚きも大きい。

 

「いいのかい?」

「今回はそっちの組織の意向で敵だっただけだろ?次会った時は違うことを祈ってるよ」

 

あまりにもお人好しの言葉に柄にもなく嬉しくなる。タルタリヤはそのまま洞窟を出ていく迅の背中をずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

ああ、くっそ、ここまでダメージ受けたのは久しぶりだ。俺は痛みに顔を顰めながら璃月港を目指す。もう作戦開始時間から1時間は経っているがまだ暗雲は空を覆っているから、手こずっているのかな。予定では30分で片をつけるはずだったのに。

 

甘雨さんがいるから大丈夫だとは思うけど、今更ボロボロの俺が行ってなにか役に立つのだろうか。つか、俺向こうからすると散々頼んだのに当日バックれたクソ野郎に見えているわけで、信頼も地の底に落ちてんだろうなとか、綺良々もめちゃくちゃ怒ってるんだろうなとか、身体の痛みも相まってネガティブな考えが頭をぐるぐる回る。

 

そうだとしても、ここまで手こずっているのはおかしい。何かあったのかもしれない。

 

嫌な予感がした俺は、痛む身体に構わず雷を纏って走り出した。今の俺の身体の状態を言っておくと、ぶっちゃけ立ってるのが不思議な位の重症だ。この量の傷を自分の仙力で治したら俺は間違いなく死ぬから能力も使えない。特に深く斬られた脇腹と左肩が酷いな。血ぃまだ止まってないし。

 

それを我慢しながら急いで璃月港に着くと、俺の目に想像を絶する光景が飛び込んできた。

 

「…マジかよ」

 

今見たことをそのまま言うと、水の壁がこちらに向かって来ていた。正確には跋掣が起こした津波なんだろうけど、高さが軽く50mを超えている。

 

しかし、その津波が直後に凍り付いて止められる。この規模を凍らせられる氷元素使いは甘雨さんか申鶴くらいしか思いつかないので、多分その2人だろうな。氷の波が崩れ落ちて全体が見えるようになると、戦況は少し悪かった。

 

まず、跋掣の首が予想では1本だったのが3本になっている。それぞれが帰終機隊、群玉閣、死兆星号に攻撃している感じで、攻め手に出れないような感じだ。弧雲閣から帰終機の矢が飛んでいないのを見ると何かあったのかと背筋に冷たいものが走るが、甘雨さんが戦っている時点でそれほど心配はないだろう。死兆星号は津波を回避しようとした影響で体勢を立て直しているところか。

 

俺は誰も居ない璃月港を走って宿に行き、自分の荷物から風の翼と鎮痛剤を取ると、薬を打ち込み翼を着た。

 

外に出ると、今度は跋掣が群玉閣を集中砲火していた。凝光さんと思われるシールドが辛うじて守ってはいるけど被弾も時間の問題というところ。

 

ひとまず綺良々の状態がみたい。俺は残りの元素を振り絞って電磁離斥すると、弧雲閣に向けて飛んで行った。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

「皆!あともう少し頑張って!」

「くっ!せめて私が帰終機に仙力を注ぐ時間さえあれば……!」

 

飛び合う兵士さん達の怒号と激励する刻晴さんの声。わたしは何度目か分からないシールドを帰終機と兵士さん達に貼りながら、跋掣の攻撃を凌いでいた。

 

最初は順調だったの。でも、首が3本に増えてから作戦が意味をなさなくなっちゃった。元々1つの首想定だったから、攻撃がそれぞれの部隊に振り注いじゃって、まだ大きな被害は出てないけど、攻撃どころじゃなくなっちゃった。何度かされている大きな津波は、一度は岸側から申鶴さんが止めてくれたそうなんだけど、その後からは甘雨さんが弓矢1発で止めてくれるから、甘雨さんがいなかったら本当にあぶなかったと思う。

 

わたしは無意識に、迅くんと写った写真を握りしめていた。

 

……迅くん……!

 

「……っ!?水雨、来ます!!」

「っ、皆!上から来るわよ!綺良々っ!」

「うん!」

 

跋掣が上から降らせた水攻撃をシールドを貼って防ぐ。……えっ?な、長いっ!

 

跋掣は3つある部隊をひとつずつ確実に潰すことを考えたみたい。3部隊に散っていた雨攻撃がこっちに全部集中して降ってきて、シールドが割られそうになる!

 

「くっ!」

 

甘雨さんも氷元素でシールドを貼ってくれているけど、それでも足りない、水雨は次第にシールドにヒビを入れていって、ついにわたしの近くに着弾した。直撃はしていないけど、衝撃はものすごくて、わたしは木の葉のように吹き飛ばされた。

 

「きゃあああっ!?」

「綺良々っ!」

「綺良々さんッ!」

 

なんとか受け身はとったけど、みんなと離れた場所に落ちてなかなか立てないわたしに跋掣は狙いを定めて…間髪入れずに大きな口を開けて突進してきた。

 

わたしは自分を飲み込もうとする大きな口を見ることしか出来ずに、口だけが無意識にこう動いた。

 

「…じ、…迅くん……!!」

 

あっ、これが走馬灯かな。わたしの耳に千岩軍の兵士さん達や刻晴さんと甘雨さんのわたしを呼ぶ絶叫が聞こえる。ゆっくりと跋掣の大きな口が迫ってきて、……わたしは迅くんのことを想いながら、目を……。

 

衝撃音。

 

「……え?」

 

いつまで待ってもわたしを口が襲うことはなかった。恐る恐る目を開けると、跋掣の顔は、横から来た誰かに蹴られて思いっきり横を向いている。その人影は跋掣の顔に飛び上がると、紫色の刀(・・・・)を納刀して叫んだ。

 

「蒼雷一閃、三ッ燕(みつばめ)ッ!!」

 

直後、蒼い剣閃が縦に三本走って、跋掣の首が半ばから吹き飛ばされた。それを呆然と見つめていると、甘雨さんと刻晴さんに身体を支えられ、安全圏内に運ばれた。涙目で無事かと聞かれて頷いていると、近くに1人の人が着地したんだ。さっきの攻撃を見て確信していた私たちは、守ってくれたわたしの大切な人、迅くんへ向けて走りよる。

 

「迅くんっ!!」

「迅っ!いままで何処ほっつき歩いてたのよ…って、えっ」

「迅っ、貴方今まで何処に……迅?」

 

嬉しそうに詰め寄る2人が固まったのが見えて、わたしも今頃気がつく。刻晴さんや甘雨さんは口元を手で覆っている。

 

「し、迅くん……その傷、どうしたの…?」

「綺良々…無事で良かった。これはまぁ、色々あったんだよ」

「色々って、は、早く横になりなさいっ!」

「そうですよっ!その傷……立ってるのも精一杯でしょうっ?」

 

迅くんの身体は信じられないくらいボロボロだった。体中血だらけで、特に肩と脇腹がヤバい。3人で寝かせようとするが、その手を迅くんは振り払った。

 

「戦況はわかった。立て直す時間が必要なんだろ?……俺が時間を稼ぐ」

 

そんなことを言う迅くん。いやいやいや!そんなの絶対ダメだよっ!今の迅くんの身体でそんなことさせる訳にはいかないよっ!

 

「えっ、だ、ダメよ!そんな身体でさせるわけないでしょッ!」

「でも、それしかないんだろ?甘雨さん、何分あれば帰終機が撃てるようになる?」

「そ、それは…5分もあれば、いけます。残りの首は2つ。この部隊が攻撃を再開出来れば、群玉閣も死兆星号も攻撃に転じられると思いますが……ですが、無茶ですっ!」

 

わたし達が必死に説得するけど彼はどこ吹く風。刀を抜いた迅くんは目を閉じて集中してる。

 

「…仙氣解放」

 

ぽつりと迅くんが呟くと、迅くんの身体から金色のオーラ、仙力が吹き上がる。ただ唯一違うのがその量。いつも見せてくれる時と比べ物にならない程の仙力が引き出されている。それを見て、甘雨さんと刻晴さんは震えた声を出した。

 

「じ、迅?そ、その力は……?」

「この力、仙力…?…もしかして……っ!あ、貴方っ!まっ、まさかあの時のッ!」

 

迅くんは、解放した仙力を雷元素に変換していく。金色の光がだんだん紫へ、そして青白く変化した。

 

蒼い雷を纏った迅くんは金色の目でこちらに振り返るとちょっと申し訳なさそうに笑った。

 

「じゃあ、俺が死ぬ前に頼むわ。行ってくる」

 

そう言って風の翼を広げて、飛び立っていく彼を呆然と眺めることしか出来ないわたし達だった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

仙力、つまり俺の生命力は残り1割ってとこか。仙力から無理やり元素を引き出してなってるこの状態(蒼ノ雷光)の限界時間は約5分。その間に一撃でもまともに貰ったら死ぬし、時間が過ぎても死ぬと。こりゃやべぇ賭けだな。

 

人ってこういうどうしようもない時冷静になるよね。風の翼で海面スレスレを飛んでいる俺は1人笑う。とりあえずてめぇクソ蛇。よくも俺のかわいい先輩を食おうとしてくれやがったな。覚悟しやがれ。

 

いや、マジでギリだったわ。行く前鎮痛剤2本目打つか迷ったんだけどやめといて良かった。2本目やってたら綺良々食われてたじゃねぇかよ。

 

しっかし、やたらカッコつけて来ちゃったけど、これ死んだら面目つかなそうだし、とうとう自分から正体バラしてもうたし。なんかもうタルタリヤから手紙もらってからもうめちゃくちゃだわ。今度会った時あいつに奢らせてやる。

 

さて、ここはいっちょ、死ぬ気で時間稼ぎをさせて頂きましょうか。目的は討伐じゃなくて撃退だし。ある程度ダメージを与えれば去ってくれるはず。最悪蛍に何とかしてもらおう。

 

俺は水ブレスを電磁離斥で上昇して躱すと、跋掣Bの首に霧切を叩き込んだ。手応えはいまいち。やっぱり首本体じゃないな。俺は通り過ぎながら俺狙いで撃たれた水の弾丸をバレルロールで躱す。

 

こりゃ位置取りも大切だな。流れ弾が璃月港に当たらないようにしなきゃいけないし、だからといって海側に回り込むと、跋掣が他を狙い出してしまう。

 

チラリと群玉閣を見ると、俺の姿を確認して意図を汲んでくれたみたいで、攻撃の準備をしている。死兆星号も同様だ。

 

「…ぐっ」

 

飛んで攻撃を避けている間に何度も意識が飛びそうになるが、頭を降って気合いで持ちこたえる。たぶん血が足りねぇなこれ。さっきから頭痛が本当に酷いし、痛みに関してはもう身体の感覚が半ばない。

 

それでも、みんなを守らないと。

 

俺は途切れる意識と戦いながら、跋掣の周りを飛び回ってヘイトを買い続ける。俺に興味を失ったら霧切で攻撃し、相手のブレスや噛みつきをギリギリで躱し続ける。

 

それを続けていたのは5分のはずなのだが、俺にとってはもう無限に長く感じた。

 

群玉閣の攻撃の合図の銅鑼で気がついた俺は、電磁離斥で上に飛び上がる。その瞬間、3方向から全力の攻撃が飛んできて跋掣を穿った。堪らず跋掣は仰け反るが、まだダメージが足りない。俺はダメ押しにと残った元素と仙力を霧切に注ぎ込み、チャージする。高圧縮された元素がチリチリと音を立てている。

 

俺は落下しながら跋掣の額に霧切を全力で突き込んだ。

 

「蒼雷一穿、散華ァッ!」

 

炸裂。

 

圧縮された元素が刀身を通じて跋掣の額の中に流れ込み、内側から破裂した。この技は相手の状態、防御を関係なく内側から破壊する技。ただ、長らく戦い続けたツケが来たのだろう。引き抜いたと同時に霧切の刀身が半ばから砕け散り、破片が海へと落ちて行く。あぁ、…ついに折れちゃったか。ずっとずっとお世話になった刀だから結構悲しいな。

 

その代わり、跋掣は断末魔を上げて、海中に潜っていく。潜ったことによって出来た渦に、申鶴と蛍が飛び込んでいくのが見えたけど、あいつらならやって帰って来れるだろ。

 

離島の方から歓声が聞こえる。滑空したまま振り向くと、千岩軍も綺良々達も俺に手を振っていた。俺は折れた霧切を鞘に納めると、手を振り返そうとして………………あ。

 

ここに来て突如、意識が急に薄れてきた。身体の中の仙力、つまり生命力を見てみると、……清々しいまでの0。

 

 

…あ、やべ。………こりゃ死んだわ。

 

 

地上の人達が俺を必死に呼ぶ中、俺の意識は暗い海底へと落ちていった。

 

 

 

 





・蒼雷一閃シリーズ
迅が蒼い雷状態の時に放つ、言わば必殺技。幾つか種類があって一長一短の性能をしている。

・蒼雷一閃 断空(だんくう)
居合いの垂直切り上げ。基本なんでも斬る。

・蒼雷一穿 散華(さんか)
鋭い溜め突き。相手が元素シールドつけてようが内側からダメージを与える。食らったらまず立てるやつは今のところ居ない。タイマンの切り札敵存在。

・蒼雷一閃 三ッ燕(みつばめ)
単体戦に優れた超高速の3連縦斬り。

・蒼雷一閃 廻旋(かいせん)
対空特化。の元素刃をしこたま飛ばす。オセル戦で使用。


あ、次からちゃんとラブコメに戻るので、ご安心ください。
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