職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしましたっ!



コーヒー推奨です。


17話 3日振りに会った猫の甘え方は5割増し

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「さて、それじゃあ色々と説明して貰いましょうか?」

 

綺良々を安心させるために色々な人に場所を聞いて、綺良々に会いに行った後。月海亭に呼び出された俺に凝光さんは尋ねた。ちなみにその場には跋掣戦に関わった人がそれぞれ居て、璃月七星に甘雨さん、蛍や申鶴、北斗さんの姿も見える。俺が起きたことを先程知らされたらしい刻晴と甘雨さん以外の面々と目が合うと、安心したような顔をされたので頷きだけ返しておく。

 

というか、さっき頂いた綺良々の不意打ちで正直頭があんまり回らない。言葉の意味を聞き返す間もなく呼び出されてしまい、綺良々が袖を引っ張って「…いこ?」と言ったのでそのまま来た感じだ。ちなみに綺良々はずっと俺の袖を摘んでいて、めちゃくちゃ目線を感じた。俺は回転数がガタ落ちの頭をどうにか回して話す。

 

「……えっと、まず俺がどこに行っていたかだけど、それを説明する前に、前日にファデュイから手紙が届いたんだ」

「ファデュイから?」

 

オセル戦の時から音沙汰が無かったのだろう。腕を組んだ凝光さんは、名前を聞いて意外そうに眉を上げる。

 

「内容は?」

「その手紙の実物はもう無いんだけど、書いてあった要件は、昇空儀式の日に指定された場所に1人で来い。もし来なかったり、情報を他に漏らしたりしたら、昇空儀式が賑やかになるだろう。…だったかな。その内容の手紙の他に、禁忌滅却の札も入ってた」

「禁忌滅却の札ですって…!?」

 

その単語に周りはざわつく。唯一首を傾げてた綺良々に甘雨さんが説明した。

 

「禁忌滅却の札は言わば、膨大な仙力を内包した札です。過去にファデュイがそれを複製して使用し、封印されていた渦の魔神の封印を少しの間とはいえ解きました」

「ええっ!?…じゃあ……」

「ああ。脅し文句としては最高だな。だから俺は1人で漉華の池近くの洞窟に行って、そこで待ってた執行官と一騎打ちしたって訳。執行官さえ潰せば札は発動できないからな」

 

俺がそう言うと、目を見開く一同。呆れたように北斗さんはこめかみを抑えている。

 

「あ、アンタ、強い強いとは思っていたが、執行官を単独で倒したって言うのか?」

「まぁ、ギリギリでしたけど。前線に復帰した時の分の力も残しとかなきゃいけないので大変でした」

 

ここだけの話、最初から蒼ノ雷光を使っていたらもっと早く決着が着いたのは内緒だ。最低でも仙力と溶かしてる元素は使う訳にはいかなかったので、邪眼相手にとんだ縛りプレイだった。

 

「えっと、迅。ちなみに誰と戦ったんだ?」

「1番戦闘狂のやつ」

 

ふよふよ飛んで聞いてくるパイモンに即答すると、蛍共々頭を抱える。その様子で察したらしい周りも「公子か…」とため息を吐いた。北国銀行にいる外交官として名と性格は知れ渡っているらしく、口を揃ってへの字にしている。

 

その後は「へぇ?その人が迅くんをあそこまで傷付けたんだね?」と瞳孔を細める綺良々をストッピングしつつ、儀式の日の顛末を伝え終えると、今度は俺自身の話になった。甘雨さんがめちゃくちゃ見てくる。

 

「それで、俺の正体は、夜叉の半々仙です。隠しててすみませんでした」

 

証拠に仙力を発現させ目の色を変えて言い放つと、今日1番の驚きがみんなを襲った。甘雨さんは口元を手で抑えている。

 

「…なるほど、だからだったのね。それを聞いてやっと納得いったわ」

 

凝光さんが思い当たる節があるようにため息を吐く。「道理で仙人と交流が……」などとブツブツ言っている。

 

ここでまだ首を傾げているのは初耳の北斗さん。

 

「ちょっと待ってくれ。…でも確か、迅は稲妻出身のはずだと聞いていたが…?」

「ああ。ちょっとややこしい話になるんだけど……」

 

俺は皆に俺の出生と、何故稲妻にいたのか、どうして仙人に弟子入り出来たのか、何故黙っていたのかを説明する。ちょっと長くなってしまったけど、所々から「あ〜…」と理解したような声が聞こえてきたので、話を締めくくった。

 

「……って訳です」

「あのね、璃月七星は別に貴方をそんな束縛みたいな事はしないわよ」

「……ほんと?」

「正真正銘の璃月の英雄にそんなことしないわ。貴方の名前は他の国でも有名なのだし、独り占めなんかしたらブーイングの嵐よ」

 

心外と言わんばかりに言う凝光さんと刻晴に肩透かしを食らう。なんだよ、それなら別に隠す事無かったんじゃんか。って、そろそろめちゃくちゃ気になるから聞いてもいいっすか?

 

「で、あの、なんで甘雨さんはそんなに泣いているのでしょうか」

「あっ?……す、すみませんっ……まさか、生きていたなんて…」

「その口ぶりだと、迅のことを知っていたの?」

 

ハンカチで涙を拭う甘雨さんの背中を擦りながら刻晴が尋ねると、こくりと頷いた。

 

「はい。当時私は迅の出産に立ち会っていました。元より半々仙の新生児は不安定で、もし暴走したとあらば封印するしか手だてはありませんでした。その中で生まれたのが彼…迅だったのです。…ですが、産まれて間もない彼はやはり、その身に余る仙力を内包していました。彼が亡くなるのも時間の問題、と結論づけた仙人達でしたが、彼の母親は「せめて最後の時までは自分が抱いていたい」と故郷である稲妻に戻ろうとしたのです。本当はダメなのですが、彼女の熱意に押されて、仙人達はそれを黙認しました。……まさか、生存していたなんて……」

 

まじか、甘雨さん俺が生まれる所に立ち会ってたの?とっくに死んだと思っていた赤ん坊が実は生きてて成長してましたとか、そら驚くわ。

 

「……と、まぁ、こんなところですね。さっき人的被害の方は聞いたんですけど、璃月港は大丈夫でしたか?」

「街の方は無事だけれど、津波攻撃の余波で大きい船が軒並み損傷してしまったわ。本当なら稲妻に返してあげたいのだけれど、定期船も死兆星号も現在修理中よ」

「すまないな」

 

あの津波は馬鹿でかかったし、むしろそれくらいで済んで良かったと言うべきか。申し訳なさそうな顔をする北斗さんに綺良々と2人で首を横に振っていると、刻晴が「危ない、忘れる所だったわ」と棚から布に包まれたものを持ってくる。

 

「迅、貴方の刀の破片、回収出来たから渡しておくわね」

 

受け取った布を解くと霧切の切っ先が包まれていた。

 

「海に落ちたのに、よく見つけて来れたな?」

「まだ刀身に元素が残っていたみたいでね、海面から光っているのが見えて、港の漁師が持ってきてくれたの」

「そうだったんだ。ありがとう」

 

切っ先を包んだ布を懐に入れると、刻晴が代わりにと1振りの剣をくれた。彼女と同じ型の物で銘は「匣中龍吟(こうちゅうりゅうぎん)」。刀身に印が刻まれてあって、炎もしくは雷元素が着いた敵に対して威力が上がる効果を持つ。

 

霧切も無くなってしまったし、ありがたく受け取る。霧切と違って直刀なので扱いは変わるが、慣れれば問題ない。俺が刻晴にお礼を言ったところで場は解散となった。

 

そこで俺たちは蛍とパイモン、申鶴に詰め寄られる。どうやら俺が蘇生されている所を見たらしく、心配そうな顔をされた。そうとは言われても俺にその記憶が無いので、綺良々と刻晴に聞くと、甘雨さんが有無を言わさず心臓マッサージをしてくれたらしい。いやもうほんとに頭上がらん。もう様付けで呼んだ方がいいんじゃないかと試しに呼んでみたら、ものすごく嫌がられた。というか「様付けだけはやめてください…!」と懇願された。俺の様付け呼び、綾華といい甘雨さんといい、マジで全員却下してくるけどそんなにダメなの?

 

ちなみに人工呼吸を誰がしたのかは、じっと俺の唇を見てくる綺良々が目に入ってなんか墓穴掘りそうだったので聞くのを辞めた。多分英断だと思う。

 

みんなと別れて外に出ると、俺がくたばっていた3日で大分噂が広まったらしく、街のみんなに褒め称えられた。いや俺、ただ時間稼いでただけなんだけど……。あまりに事細かに伝わっているので、嫌な予感がして出処を探ってみたら案の定ヤツ()だった。あいつ後でほんと覚えとけよ。

 

色々な人から絡まれつつ宿に戻る。自分の部屋に入ったところで、ずっと気になっていたことを口に出した。

 

「…あの」

「……なに?」

「君の部屋は隣ですよ?」

「そうだね」

「……戻ったら?」

「やだ」

 

月海亭からここまでずぅーっと俺の着物を掴んで離れなかった綺良々にそう言うと、彼女は俺の正面に回り込んでぎゅっと抱き着いてきた。

 

「わたし、当分迅くんから離れないから」

「なんで?(食い気味)」

「……こわい」

「へ?」

「わたしが離れたら、また君がいなくなりそうで……わたし、そうなったらもうダメになっちゃうよ……」

 

どうやらこの3日間で綺良々にかなりダメージを与えてしまったらしい。何度離そうとしても直ぐにくっついてくる綺良々を見てチクリと胸が傷んだ。

 

「ごめんな……。心配かけて」

 

俺が胸に顔を埋めた綺良々の頭を撫でると回された腕に力が入った。

 

しばらくその状態を続けていると、おもむろに綺良々が口を開いた。

 

「迅くん、わたしがさっき言ったこと、あんまり気にしないでいいからね?」

「さっき言ったこと?」

「もう、わかってる癖に。……んっ」

「ん!?」

 

唐突だったので思わずオウム返ししてしまうと、綺良々に軽く唇を塞がれた。

 

「わたしが迅くんを大好きなこと、正直気がついてたでしょ?」

「……まぁ、そうだけど」

 

唇を離してじっと見てくる彼女の顔がなんだか見れなくて、そっぽを向きながら返す。

 

「でも君は誠実な人だから、自分で決めるまで想いには応えられない。だから気付かないふりして、自分の気持ちと向き合ってた……って事であってる?」

「……その通りだよ。よく知ってるな」

「だって大好きだもん」

「っ」

 

あまりにも面と向かって言うものだから、俺も顔が熱くなって息を飲んでしまう。それを見て、綺良々は楽しそうに笑った。

 

「あははっ、ここまでするとやっと赤くなるんだね。いいこと知っちゃった。……ちゅっ」

「んむっ」

 

またもや不意打ちでキスされて、唇に半端じゃなく柔らかい感触と綺良々の体温がダイレクトに伝わる。

 

キスをされながら綺良々を見ると目を瞑りながらも、俺をからかうような表情が見て取れたので、ちょっとやられっぱなしで仕返しをしてやろうかなという反抗心がむくむくと湧き上がってくる。それに、このままじゃお話もろくに出来やしない。

 

俺は綺良々を抱き寄せようとしながら猫の共通の弱点、尻尾の付け根を触ってみる。

 

「んっにやぁぁ!?」

 

やはり弱点だったようで、唇を離して声を上げる。よし今だっ。

 

「どっせい!」

「にゃあ!?」

 

俺は体術を無駄に駆使して綺良々の後ろに回り込むと、後ろから抱っこしてベットに座った。これで突然キスはしてこないだろう。下手なことをはしないように手を掴んで身体の後ろに持ってくると、急に綺良々が静かになった。

 

「っ、き、気持ちは受け取ったから一旦落ち着けって。今ちょっと話がしたいんだよ」

「……っ、こ、このまま『する』の?」

「はい?」

「えっ、あっ!ち、ちがっ!ななんでもないよ!?」

 

手を離すとわたわた動かして否定してる綺良々。いやなにが?とりあえずまた後ろ向きで座らせると尻尾が手に絡みついてくる。それを撫でながら俺はココ最近で出した自分の考えを言った。

 

「俺さ、人を好きになる気持ちって最近まで分からなかったんだよ。子供の頃は大人はみんな俺を家から排除しようとしてきたし、体質的に効きにくいけど、眠り薬とか盛られたこともあったっけ。だから誰と話す時も疑いから入っちゃってさ。俺は人を好きになることがないまま死んで行くんだろうな…みたいな」

「…うん」

「……でもな、最近よーく考えて……自分を好きになってくれる人が出てきて……、今もずっとそんな考え方じゃいけないって思ったんだ。みんなとても魅力的なんだけど、そこから俺が選ぶなんておこがましいって気持ちもなくはなかったんだけど、このままうじうじしてる方がダメかなって」

「……それで、今の迅くんの気持ちは固まったの?」

「ああ。少しずつな……その気持ちを固めるために、俺からも踏み出すよ………綺良々」

「なぁに?」

「お前はまじで可愛い」

「ふぇぅ!?」

 

この踏み出し方で合ってるのかはちょっとわからないけど、やるだけやってみて、あとから反省しようと思う。だから今、ずっと心に秘めていた綺良々への気持ちを全部吐き出した。綺良々と向き合わせて目をじっと見て言うと、綺良々は顔を真っ赤しにて目をそらすが、その度に「こっち見て?」と囁いて無理やり目を向かせる。俺やっぱり攻めてる方が好きかもしれぬ。さっきまでやりたい放題だったからそれの仕返しも込めてるのは内緒だ。

 

「……ぇ、ぁぅ、迅くん……きゅうになにを…」

「別に急じゃないぞ?今言っちゃうけど、俺、綺良々を初めて見た時、頭の中『うわ何この可愛い人』でいっぱいだった」

「ええっ!?」

「そんでその綺良々の笑顔よ。もう疲れ吹っ飛ぶし、眩しくて失明しそうになるしそんな威力の笑顔を呼び掛ける度に向けられるんだぞ?綺良々と別れた後、何度夕日に『可゛愛゛い゛ぃ゛い゛!!!』って叫んだことか」

「そっ、それはちょっときもいかも……」

「ぐはぁ!?」

 

やるんじゃなかった(爆速後悔)。綺良々の「きもい」の攻撃力が高過ぎて俺は綺良々を離すと膝から崩れ落ちた。

 

「……死のう」

「わああああ!ダメダメぇ!」

 

目の前が真っ暗になった俺は匣中龍吟を引き抜こうとした所を綺良々に羽交い締めにされて止められる。

 

「いやだって、綺良々にきもいって思われるとか、それもうアレじゃん、死罪じゃん」

「そんな簡単に死なないで!!わたし嫌だからね!好きな人が目の前で死ぬなんて……ソンナノ…」

 

あっヤバい綺良々のトラウマスイッチ押しちまった!今度は俺がカタカタ震える綺良々を抱き締めるとひしっと抱き締め返してくる。

 

「ご、ごめん、早まったわ」

「冗談でもやめてね……」

「ほんとごめん」

 

その後も綺良々の可愛いところをつらつら述べていると、真っ赤っかになった綺良々が「も、もう勘弁して……」と布団にくるまってしまった。みょんみょんしてる尻尾だけ出てるのが綺良々らしくて、俺も激熱(・・)の顔を手で仰いで冷ます。

 

落ち着いた後に宿の食堂に行くと同じ宿らしい蛍とパイモンに遭遇した。

 

噂を広めてくれやがった事に文句を言いつつ4人で夕食を摂る。俺はいつものようにパイモンの口に料理をぶっ込みながら、蛍に尋ねた。

 

「そういや俺の事って璃月港にどれくらい伝わってるんだ?」

「全部」

「全部!?俺の種族も!?」

「うん。全部」

「だからちょっと宿の人畏まってたのか…」

 

別に半々仙だからって偉いわけじゃないんだけど……。げんなりしながら料理をぶっ込んでいたので誤って飾り付けの絶雲唐辛子をパイモンに食わせてしまう。

 

「あっごめん」

「みゃあああああ!?辛ああああ!!」

「もう、迅を使って楽してるから…」

 

口から火を吹いて飛び回るパイモンがちょっと面白い。水を貰いに行っているのを見ていると、隣の綺良々がちょいちょいと袖を引いてきた。振り向くと、エビのポテト包み上げを箸で掴んでそっと口に運んでくる。

 

大人しく食べると綺良々の表情がほにゃりと緩んだ。お返しに松茸の肉巻きを1つあげようかなと、今箸で持ってる食べかけの肉巻きを食べて新しいのを掴もうとしたら、綺良々がその食べかけにぱくっと食い付いた。

 

美味しそうにもぐもぐする綺良々を何も言えず見ていると、ごっくんした彼女は「こっちの方が食べたくて…ね?」と俺のライフを着実に削りにかかる。

 

「パイモン、ちょっとコーヒー貰ってきて」

「あ、丁度貰ってきたぞ」

「流石」

「こんなん見せられたらなぁ…」

「……これ砂糖入ってない?なんか甘いんだけど」

「いちおーちゃんと無糖を貰ってきたぞ?……あまっ」

 

とかやってる2人に突っ込みたかったが、俺は何も言えなかった。

 

 

 

食事を終えるとそれぞれの部屋に戻る。当然のように俺の部屋まで着いてきた綺良々をベットに座らせて、貰った匣中龍吟の手入れをしていた。

 

匣中龍吟は片刃直刀で先端になるにつれて刀身が細くなっている造り。斬撃よりも刺突のほうが威力出そうだな。綺良々にもついでに剣の手入れ方法を教えて、黎明の神剣の刀身を布で拭って油を塗り、また別の布で拭う。輝いた刀身を見て目を輝かせている綺良々を尻目に、手入れ中に汲んであった部屋付きのお風呂に入る事に。

 

「綺良々、俺風呂入ってくるから」

「うん」

 

一応綺良々に一言言うと、脱衣場で服を脱いで掛け湯をする。シャワーで髪を濡らして、頭を洗おうとした所で、脱衣場の音に気がついた。

 

なにやらしゅるしゅると布が擦れる音が響いている。なんの音だ?まるで服を脱いでるような……?

 

そこまで考えて頭を振る。んなまさか、いくら綺良々とはいえど、風呂に突撃してくるなんてこと…。

 

カラカラッ。

 

そんな俺の否定も虚しく、浴室の扉が開く。裏を見て確認する訳にはいかないので必死に前を見た結果、鏡にバッチリ写っているのが見えてしまった。

 

「お、お邪魔します…」

「いやなんでやねん」

 

思わず宵宮譲りの突っ込みが口から飛び出す。せめてさすがにタオルは巻いてくると思っていた俺の予想は外れ、小さいタオルで前だけ隠した綺良々が浴室に入ってきた。その彼女と鏡越しに目が合う。

 

「あ、あんまり見ないで……はずかしいから」

「いや、まずなんで入ってきたん?」

「だって、離れたくないし……」

「うっそだろ」

 

タオルが小さいのでマジで最低限しか隠せてない。腕をぎゅっとしたことでタオルからちょっとはみ出る横乳とか、ほんとにギリ隠せてる下とか本当にヤバい。何がやばいって椅子に座ってる俺がタオル巻いて無いのがヤバい。初めて見る綺良々の身体に反応しそうになる自分の身体を無理やり仙力で鎮める。……正直、過去1ピンチだ。

 

「せ、背中……流すよ?」

「……っ……た、頼む」

 

つか綺良々が後ろにいる時点で俺は振り向けないし、俺もタオル巻いてなくてその場から動けない俺は頷くしかなかった。

 

ん?まってここの宿の風呂場、体洗う垢擦り的なものあったっ………

 

「うぁっ!?」

「わっ!?だ、大丈夫…!」

 

大丈夫じゃねぇよ!!!!

 

垢擦りが添え付けられてないタイプの宿だったらしい、綺良々がボディソープを手で泡立て背中を触ってきたので声を上げてしまった。

 

「じ、じゃあ洗うね?」

 

ぎゃーーー(超気持ちいい)

 

綺良々の泡立った手が俺の背中を這い回ってなんかもうすごい(語彙力)。当然振り向けないし、前の鏡見てもアウトなので俺は下を向くしかない。一体なんのお店かな?

 

「んしょ……んしょ…」

 

なんなんこの状況。綺良々のちっちゃい手が傷跡を撫でてめちゃくちゃ気持ちいい。そうして背中を洗い終わった綺良々は、泡を流すのかと思いきや、なんと手を俺の前側にまで伸ばしてきたってまてまてまてまてぇ!?

 

「……ま、まえも……」

「ちょっ!それはまずいってっ!」

「わっ!」

 

流石にほんとにまずいので綺良々の手を剥がそうとした瞬間。膝立ちで洗ってくれてた綺良々が泡で脚を滑らせた。当然重心は俺側に傾く訳で、綺良々はそのまま俺の背中にダイブした。

 

「ご、ごめん…」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

ダイブしたということは綺良々と俺の背中が密着したということ、むにゅぅぅ!と綺良々の一糸まとわぬ体が、俺の泡々の背中と合わさって元素反応「泡沫(ぬるぬる)」によって俺の理性が音を立てて削れた。

 

今俺は、変な気を起こさないようにこめかみを最大握力でアイアンクローして耐えている。そんな俺を見て、綺良々は呟いた。

 

「もしかして、こっちの方がいいの…?」

 

良くねぇよ!!!

 

「えいっ」

「ピャッ」

 

綺良々はあろう事か、もう一度俺の背中に抱き着いた。腕も俺の胸に回して、自分の身体で背中を洗い始める。これなんのお店ですかねぇェェエ!!!!

 

ここはどこの地獄(天国)でしょうか?後ろには答えを見つけるまで手を出さんと決めた相手がソーププレイを決め込んでいる。背中がぬるぬるぽよぽよとあかん過ぎる感触を脳に送ってきて、理性をがりがり削って行った。

 

「きっきららっ!もう、もう大丈夫だからっ!もういいからっ!ありがとなっ」

「そ、そう?………どうだった?」

「…お、お前はそれをどこで覚えたんだ?」

「今のは……思いつきで……。わたしも恥ずかしかったけど……迅くんが喜ぶかなって」

 

こんの天然エロ猫又があァ…!震える手で身体の泡を流す。

 

「と、とりあえずタオル取ってくれ……このままじゃ動けないから…」

「う、うん…」

 

綺良々にタオルを取ってもらって腰に巻く。まさか入ってくるなんて思もってなかったから大きめのタオルは持って来て無くて、手ぬぐいサイズのやつしかない。ボロボロの理性が働かずに地べたにぺたりと女の子座りをしている綺良々をチラリと見てしまうと、前は何とか手ぬぐいで隠してるが、濡れたタオルが肌に張り付いていて、扇情的というのも生易しい。

 

かくいう綺良々も俺をガン見していた。めちゃくちゃ巻いたタオルに視線を感じるけど、気合いで無視して出ていこうとする。

 

「…じ、じんくん」

「…な、なんだよ」

「……わたしも…洗って…?」

 

……すぅ〜(俺史上1番深い深呼吸)。なんてことを言うんでしょうかんこの人はん(呂律低下)。垢擦りないんだぞ!?

 

「いや、でも……手で洗うしかないんだぞ?」

 

有無を言わさずに出ていった方がいいとわかっているのに、何故か聞き返す辺り俺も多分末期だ。それほど理性無くなってるのか、もうその事に疑問すら抱かない。

 

「うん……迅くんなら…いいよ?だって大好きだもん」

 

俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着け落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着けぇ!!!

 

この子はまじで俺をどうする気なんですか!?

 

俺が悶えてる間に、綺良々は俺の前までぺたぺたと歩いて、椅子に座った。隠してるのは前だけなので、お尻がバッチリ見えてしまう。めちゃくちゃいいお尻だなとか考えた頭をぶん殴って抑えた。

 

「……いいよ?」

 

綺良々が肩越しに振り向いて言う。セリフだけだと余裕そうだけど、綺良々の方も耳が真っ赤だ。それに、綺良々の後ろ側が一望できてしまう。尻尾の付け根やお尻等がしっかり見えて俺は思わず息を呑んだ。

 

やっぱり思っていた事だけど、綺良々ってスタイルがかなり良いな。くびれ凄いし意外とお尻大きいしって何冷静に観察してんだ俺はっ!

 

「……じゃあ、いくぞ?」

「……うん、…きて?」

 

もう一言一句が致死威力の綺良々の言動に気を失いそうになりながらも仙力で気を鎮めて覚悟を決める。戦いの時と同じ位の真剣さで綺良々の背中に触れた。

 

「…あっ」

 

ぐぅぅぅぅぅ!!(覚悟貫通)

 

ビクッと背中を震わせた綺良々に手を離しそうになるが、ここでまた中断さては埒が明かない。さっさと背中を洗って流して脱出がしたい俺は、綺良々に構わず手を動かした。

 

「……んぅ…にゃっあっ………」

「…痛いか?」

「…んーん、……きもちいぃよ?」

「ソウカ」

 

綺良々の言葉を歯を食いしばって耐える。マジで、今まで経験したどんな修羅場よりも格段にしんどい。俺は仙力をフル活用して自分の気を鎮めながら綺良々の背中を洗っていく。

 

ちなみに手は幸せ。女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろうか。ふと鏡を見てしまうと、それ越しに綺良々と目が合う。……うわエッロ。

 

ヤバいそろそろ俺の理性が麻痺していた。なんかもう精神のブレーキが聞かずに、背中洗われてるだけなのに艷すぎる綺良々の顔を見て反射でそう思ってしまう。

 

背中をあらかた洗い終わると、二又のしっぽの付け根が見て取れた。敏感な部分に触らないようにそこも慎重に洗っていく。

 

「……お、終わったぞ」

 

な、なんとかやり遂げた……。これでやっと出れるぞ…。俺は綺良々の背中にお湯をかけようと桶を持ち上げ。

 

「ま、前は……?」

 

ようとしたところで終わったと油断してた精神に、効きすぎる綺良々の声が響いた。…え?

 

「…綺良々、今自分が何言ってっかわかってるのか?」

「……言ったでしょ?迅くんになら触って欲しいって………だめ?」

 

……………。

 

…………………。

 

…………………………。

 

「………………勘弁してください」

 

俺は綺良々に自分史上1番ダサい土下座を決め込んだのだった。

 

 

 

 

 

「あぁ〜………」

「ふぃ〜……。ふふっ…迅くんおじさんみたいだよ?」

「うっせ。どうせこのまますぐおじさんに………ならないのか」

「えへへっ、お互い寿命長いもんね」

 

入浴剤をしこたまぶち込んで濁らせた浴槽に2人並んで浸かり、力の抜けた声を出す。俺はタオルつけて入るつもりだったのだが「タオルはお湯につけない!」と綺良々に注意されてこの形になった。綺良々もタオルを取って入っていて、濁ったお湯で体は見えなくなっている。

 

そういえば前に魈様に聞いたんだけど、仙人の血を引いてるからか俺も寿命がかなり長いみたい。今のところ老衰で死んだ仙人はいないから何年なのかは分からないけど、まあ貰える時間は貰っておこう。

 

綺良々も括りで言うと大妖怪なので寿命は何百年とある。長く人として生きていた手前、実感があまりわかないな。

 

「あのね、これはわたしが妖怪だからって感覚なんだけど」

「ん?」

「わたしとしてはみんなで幸せになれたらいいなって思うんだ」

「…それって」

「うん。ただのわたしの理想だからそんなに気にしないで?ただ、極論を言えば、わたしはみんながもうおばあちゃんになった頃に迅くんと結ばれてもいいかなって思ってたりもしたんけど。もう待ちきれなくなっちゃった。だから、みんなはなんて言うかわからないけど、このままずっとみんなで仲良くできたらなって。…迅くん、エウルアちゃんに告白されたでしょ?」

 

綺良々の妖怪らしい人の感覚に縛られない時間を使った考えに驚いてると、言われた言葉に目を見開く。

 

「…知ってたのか?」

「うん。だって後押ししたのわたしだもん。これから配達で会えなくなるよ?それでもいいの?わたしが貰っちゃうよ!?って発破かけたんだ。そしたら1発だったよ」

「あれはお前の仕業だったのか……」

「えへへ、チューもされたでしょ?ちなみに何回されたの?」

「なんだよその質問。えっと、3回かな」

 

思い出しながらいったその時、綺良々は俺の方の身を乗り出してきて、キスをしてきた。

 

「んっ、これでわたしとは4回ね」

「…そこで対抗するなよ」

 

人間は慣れる生き物らしい。キスされるのに少しだけ耐性が付いた俺はそっぽを向いて言うが、それがおかしかったのか綺良々はくすくすと笑った。

 

「…ね、これからもわたしが頼んだらちゅーしてくれる?わたし、君とちゅーするのが大好きみたいだから、毎日したいな」

「…突然されたら抵抗できないかもな」

 

俺は浴槽の中で後ろを向くとそう返すしか無かった。綺良々は顔を綻ばせると俺の背中に抱き着く。もちろん間に挟む布などないので直接当たる感触が脳に響く。柔らか一点張りじゃなくてその中で硬い感触が2箇所ほどある辺りがリアルで俺は顔を両手で覆った。

 

 

 

その後は順番に、風呂から出た。な、何とか、耐えきった(耐えれてない)ぞ……。ボロボロの理性をツギハギに固めながら服を着て脱衣場から出ると綺良々がベッドに入って手招きしていた。フラフラと吸い込まれるようにベッドに入ると(理性どうした)四捨五入したら下着のインナー姿の綺良々が嬉しそうに抱きついてきた。

 

「えへへ…すきっ」

「…そんなに簡単に言うんじゃありません」

「簡単じゃないよ?こうして面と向かって君にすきって言えることが本当に幸せなんだっ……すきすきすきっ」

 

そう言って頬擦りしてくる綺良々に内心やられながら、自分で気になってた事を聞いてみた。

 

「なぁ、これを聞くと綺良々やエウルアに失礼かなとは思うんだけどさ、俺のどこを好きになってくれたんだ?」

「全部」

「全部!?」

 

即答した綺良々に驚いてる聞き返すと「何を当たり前のことを」みたいな顔をされる。

 

「だって、まず顔が良いじゃん?身体も引き締まってて正直えっちだし、凄く強いし、わたしのこと守ってくれるし、すっごくやさしいし、1番にわたしを気遣って行動してくれるし、料理上手いし、背が高いし、髪質良いし、いい所しかないよ?」

「…そ、そうなの?」

「もぉ〜っ!そういう自覚ないところもだよ?気づいてるかわからないけど、君めちゃくちゃモテるんだからね!?迅くんみたいなイケメンに優しくされたら、どんな女の子も惚れるまでは行かないにしても「イイな」位には思っちゃうんだから!」

「そんなに褒められると照れるな」

「…っ!んんぁ〜!そういう顔!普段落ち着いた感じなのに偶にそうやって照れた顔するのも反則だよっ!ああもうほんとすきぃ」

「どうしろと」

 

あぁ〜沼だぁと俺にの胸に顔を埋めながらそう漏らす綺良々がちょっと面白くて少し笑ってしまう。すると綺良々がくわっと俺の方を向く。

 

「だからっ、わたし達以外の女の子にそれするの禁止っ」

「わたし達って宵宮や綾華にはいいのかよ」

「そのみんなにはいいよっ?でも知らない女の子を勝手に惚れさせて本気にさせて連れてくるのはダメっ!」

「俺をなんかの災害だと思ってないか?」

「実際災害だよっ!だって女の子の理想の塊みたいだもん迅くんって!もうそこら辺歩くだけで女の子引っ掛けて来そうでわたし達ヒヤヒヤしてるんだからねっ?」

「遺憾すぎる」

 

え、何俺ってそんなに危ないヤツなの?別に引っ掛ける気とかさらさらないんだけども。もしほんとにそうなら怖くて外歩けんぞ?

 

「これはわたしの考えなんだけど、今日わたしにやったことを宵宮ちゃん達にもやってあげて欲しいな?絶対喜ぶよ」

「いやそれは恥ずかしいんだけど。……ってさすがにそれやったら俺がタラシじゃないか?」

「いいじゃんタラシで。好きな人から可愛いって言われるの、すっごく嬉しいんだよ?みんなにも味わって欲しいもん」

 

さすがは妖怪、考えのスケールが違う。

 

「ともかく、わたしは迅くんに好きって言えて満足なのっ!これからもよろしくね?」

「いいのかなぁこれで……」

 

綺良々は掛け布団の中で俺の首に腕を回して抱きついて、俺の頬に頬擦りする。なんか勢いで乗り切られた感じ。

 

もし、今の綺良々が言った事が本当になるのだとしたら、悪いことは無い。無いけど、男としてそれでいいのかって思いがずっと燻っている。

 

俺は綺良々が寝やすいように腕を出すと、彼女はその上に頭を乗せて微笑む。それをボケーっと眺めてると、ちゅっとキスされて俺はベットから転げ落ちた。もーっなにしてるのー?と妖怪フィジカルで回収されてまたベッドで巻き付かれる。この3日ほとんど寝れてなかったらしい綺良々が俺の腕に抱きついて寝息をたてるなか、俺は増えた悩みの種を鑑みてため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日、刻晴と約束してるんだけど、行かせてくれるのかな?





・綺良々
ついに覚醒したメインヒロイン(天然エロ猫又)
個人的には告白できて大満足で、あとは皆で幸せになりたいハーレム肯定派。それでいいのかメインヒロイン。

・迅
多分今頃頭抱えてる。本人的には1人に絞りたいのに周りは肩を組み始めて順調に外堀を埋められてる。今回はややこしいが、結局強制キープの状態に持っていかれた感じ。鉄壁の理性ももうじき堕ちそう。
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