おまたせしました。釘刺したのにみんなから飛んできた「名案やっ!」に筆が動きかけた作者です。
ここだけの話、この作品の結末は未だ決めかねてます。英雄色を好むルートにすると一番楽だし書ける話が広がりまくるんだけど、タイトル倒れなのが気になるところ。てっきりハーレム派反対多いと思ってたのでびっくり。
今回は私の最初の嫁で最近完凸した子の話です。
☆☆☆☆☆
ーーこれは、俺が出張から稲妻に帰ってきて綺良々の正体に気が付いた次の日位の話だ。
朝起きた俺は上に乗っかってた綺良々を退けて洞天に入った。いやはや、昨日は酷い目にあった。風呂に突撃してきた飼い猫が前回のように小タオルいっちょの姿ではなく向こうで買ったらしい水色の水着だったのが不幸中の幸い。「飼い猫だからいいよね?」という最強の口実で洗いっこをさせられたけど、身体の前は断固として洗わない&洗わせないを貫いた。ただ頭を人に洗ってもらうって結構気持ちいいのな。ただ首筋にぽよぽよと当たるもののせいでリラックスはできなかったけども。
んで、なんでこんな朝から洞天に入ってるのかと言うと、甘雨ね……甘雨の野菜庭園の手入れのためだ。
俺が洞天通行証を渡した人全員1回はここに来てるのでその時に彼女の希望で設置した。ちなみに他の面々も好き勝手に設備を追加したので野菜庭園の横に花火工房があるって言う謎な光景。
後タイミングの関係でまだエウルアには通行証を渡せていない。今度向こう行く時があったら速攻で渡す予定。唯一ワープができる蛍も今はスメールで忙しそうだから頼むどころかまだ会えてないのが現状だ。
そんなことを思い返しながら野菜の苗に水をやる。ここの庭園は洞天仙力の影響で普通よりもかなり早く成長する。今はまだ苗の状態だけど来週には実をつけるだろう。
ちなみに育ててる野菜はキャベツ、トマト、人参に清心。1つ薬草があったけど甘雨的には野菜らしい。
野菜庭園はそれほど広くないのですぐに終わる。ジョウロを家の中に戻しに行くと、思い出したことがあった。
そういえば昨日刻晴が入ってたな。今は居るのだろうか?
この洞天通行証って札は入りたいと願うと洞天の主に確認の知らせが届く。それを俺が許可したら入れるんだけど、その客が帰る時は知らせが来ないのだ。俺は邸宅の1階の一番奥にある刻晴の部屋のドアのノックした。
「刻晴、まだいるか?」
呼びかけてみるが反応がない。ドアを開けてみるが中は無人だった。どうやら昨日はここで仕事をしていたみたいで机の上には書類が沢山あった。
刻晴を最初に洞天に招待した時「迅が良ければ、私の仕事部屋を作ってもいいかしら?」と聞かれた。理由を聞いたら「ここだと静かで集中できるからよ。……それと、迅に会えるから……」なんて言われてしまい、綺良々の部屋がある手前断れなかった。
玄関に靴もなかったし、俺は刻晴が帰ったことを確認すると着替えを持って邸宅を出た。朝から水やりと畑の手入れをしたので少し汗をかいたから、それを流しに俺は洞天限定のワープポイントを使って隣の小さい島に行く。
白く染まった視界が眩しくて目を細める。足に感じる草原の感覚から石畳に変わったのを確認して目を開けると、そこには満開の桜が立ち並ぶ温泉が設置されてあった。
これが俺が洞天で一番力入れた所だ。風呂は好きだし、折角だからと俺の洞天にも露天風呂を導入した。蛍のところの温泉を見てちょっと羨ましいと思ってたんだ。
入口には一応男女の仕切りがある。ただ仕切りがあるだけで脱衣所がある訳でもない。でも今は誰も居ないし、俺はルンルンで手ぬぐいを肩にかけて温泉の前に………。
「……じ、じんっ!?」
「……oh」
来たところで、腰まである若紫色の髪を纏め、見開かれた髪と同色のつり目。出るとこ出てて引っ込むとこ引っ込んでる完璧なスタイルをギリギリタオルで隠した美少女が視界に写り、俺は硬直した。
と、同時にとてつもない量の冷や汗が背中を伝う。やっっばい。俺死ぬんじゃないか?
今すぐに土下座コースだが、とりあえずここから出なくては。そして土下座しよう。あの時は下着だったけど今回は訳が違う。なぜ風呂に入ってるという発想にならなかったんだ俺はっ!?バカかっ!!
「…っ!……ごめんっ!今すぐ出「ちょっと待ってっ!」なんでっ!?」
俺が最速で踵を返したところで腕を掴まれる。頭の中が「?」で埋め尽くされるが振り向く訳にも行かずに、俺はその場で立ち止まった。
「…きっ、奇遇ねっ!せ、せっかくだし一緒にどうかしらっ!?」
「だからなんでっ!?」
「お願いっ!このまま出ていかれたら私、君と顔を合わせられなくなるでしょ!?……だからお願い、一緒に入りましょ?」
振り向けないから彼女がどんな顔してるのかはわからないけど、十中八九真っ赤っかだろう。
「いや、謝るのはこっちだ。徹夜で仕事してたのか……こっちもちゃんと確認するべきだった。本当にごめん」
「じゃ、許してあげるから一緒に入りなさい」
「………にゅ、入浴剤入れたらな…?」
ここで断ったら玉衡の名でどんなことをされるかわかったもんじゃない俺は渋々頷くしか無かった。
「ふぅ……いいお湯ね。桜も綺麗だし、ここまでいい温泉は璃月には中々無いわ」
「そ、そりゃよかったけどさ、お前落ち着きすぎだろ」
お湯を白い入浴剤で身体が全く見えないようにした後、俺と刻晴はそのにごり湯に肩までしっかりと浸かりながら話をした。
紫の髪を湯につけないように纏めた姿の刻晴は新鮮で目線がそっちに行ってしまう。それに気が付いた刻晴は微笑んだ。
「だって、私の夢がひとつ叶ったんだもの」
「…夢?」
「ええ、好きな人と一緒にお風呂に入るって夢よ」
「ぶふっ!?…そ、そうか……良かったな…」
あまりにも真っ直ぐ言ってくるものだから、俺は目線を逸らしながら言うと、視界の端でニヤリとした刻晴が写ったと同時に俺の腹に何かが触れる感触がした。
「うひょあっ!?」
「ふふっ、何よその声。…腹筋凄いわね。さすが蒼夜叉」
「ちょっ、何してんだよ!?」
つんつんと俺を腹を突っつかれて変な声が出てしまう。だからといってやり返す訳にもいかず、俺は温泉の中で後ずさりするしかない。
「何って、こうやって2人きりになるチャンスが滅多にないんだもの。温泉から出て話してたら綺良々が来ちゃうかもしれないでしょ?」
「…元からそれが目的か……」
「商売も冒険も、恋愛もチャンスは一瞬よ。それを無駄にするのは二流。まぁ、貴方が入ってきたのは予想外だったけど……結果オーライね」
刻晴はイタズラが成功したような顔で微笑む。はぁ、1本取られたな。というか髪型を変えた刻晴を久々に見た気がする。あの2つの猫耳みたいなところが無い刻晴はすげぇ違和感だ。
「なぁ刻晴、ずっと気になってたことがあるんだけどさ」
「どうしたの?」
「あの髪型ってどうやってやんの?」
「ツインテールの根元のこと?…好きなの?」
「うん」
猫耳みたいで。知り合った時にはもうそこしか見てなかったし、この前北斗さん達を呼んで宴会してる時にも来てた刻晴が前を横切ったら手が勝手に触ってたくらいにはかなり好きだ。こんど綺良々もやってくれないかな。
「そ、そう…」
俺が即答をすると頬を染めた刻晴が俯いた。
「あれはね
「へぇ、にしてはやってる人殆ど見たことないな」
「まぁ、単純に面倒だからね」
「あ、面倒だとは思ってるのな」
聞くとその髪型の時に玉衡になっちゃって、髪型も褒められたらしい。そんでそのまま辞める訳にもいかずにズルズルとこの髪型のままやってるらしい。てっきりこだわりがあるのかと思いきや、仕方なくやってるって所に少し笑ってしまった。
「確かに髪下ろすと結構長いもんな。タケノコ作るのに結構髪使うのか」
「璃月伝統の髪型をなんて例え方するのよ。…ちょっとわかるけど」
なんて言いながら笑い合う。知り合いの中で刻晴とは出会ってそんなに時間が経ってない方なのだけど、波長が合うのかやっぱり話しやすい。
俺たちはその後も桜を見ながらおしゃべりに耽った。
そんなことが前にあったので温泉の前には入浴中の札を設置し、邸宅の入口に出勤表みたいな名前が書いた返し札を置いた。これで居ないと思ったらやっぱりいた!みたいなケースは激減するだろう。……つか最初にやっとけよな俺って思ったけど、まさかこんなに毎日知り合いが来るなんて思ってなかったわ。
ちなみにだけど、俺の洞天に来る頻度ランキングを発表しておく。
1位 刻晴
2位 綺良々
3位 宵宮
4位 甘雨
5位 綾華
となっていて、まさかの刻晴が綺良々を差し置いて1位だ。宵宮は花火工房を置いてあるので洞天入って外出たらだいたい花火玉に火薬を入れる作業をしている。なんでここでやってるの?って聞いたら暴発しても天領奉行が飛んでこないからだそう。いやここ俺ん家なんだけど。そんなことを自信満々に言ってた宵宮の頬を引っ張った。柔らかかった。
そして甘雨は野菜庭園を見に来るけど仕事の関係で頻度は抑え目で、綾華も同様。綺良々は稲妻の家から入ると大抵着いてくる。
そして刻晴。こやつはマジで俺よりこの家に居るんじゃないかってくらいいる。ほんとに大抵いる。多分璃月港で彼女を探すより俺の洞天に入った方が早く見つかるし、居場所の候補に真っ先に上がるくらい居る。
そして今日も、庭園の手入れを終わらせ、そのまま温泉に入った後に邸宅に戻ると。
「……迅。今日も野菜の世話?…いらっしゃい」
「いやそれこっちのセリフなんだわ。家主は俺のはずなんだけど」
暖炉の前に3つ置いてあるソファのひとつに深く腰掛けて紅茶を片手に寛いでた刻晴に思わず突っ込む。なんかこの人俺より邸宅のことに詳しい。
俺はタオルを首に掛けたまま刻晴とは違うソファに座ろうとして、手を掴まれ刻晴の隣に引きずり込まれた。
「刻晴ってさ、仕事以外の殆どの時間ここに居ない?」
「いや?自分の家にいる時もあるわよ?…………………週一くらい」
「おい」
やっぱりか。刻晴が淹れてくれた紅茶を1口飲んでいると刻晴は唇をとんがらせた。
「だってここ、居心地が良すぎるんだもの。静かで、設備も揃っていて、寝床もあって……こんな所を味わったら自分の家になんて帰れないわよ」
「まぁ気持ちはわからんでもないけどさ」
だからといって週6はどうなんだと苦笑をしていると、刻晴がこちらに寄りかかってきた。肩に頭を乗せられる。
「それに、君に沢山会うには毎日居ないと……私が一番不利なのはわかってるから……」
「…そか」
「あ、今照れたわね」
「うっさいわ。……はぁ、じゃあまあ今日は俺1日空いてるし、刻晴に付き合うよ。そっちの仕事は?」
「私も今日はお休みよ。…やったっ!なら今日は1日邸宅デートね」
「へいへい。……で、誰呼ぶ?」
「何か言ったかしら?」
「すんませんなんでもないです」
綺良々レスキューを呼ぼうと思ったら笑ってない目で却下された。
実はさっきから洞天に入りたい通知が綺良々から来てるんだけど、申し訳無いが今回は御遠慮頂こう。次に会った時が怖いな。魚あげたら許してくれるかな(安直)
「よし、じゃあ何する?」
「そうね……そうだ、久しぶりに一緒に元素の鍛錬をしないかしら?」
「ああ、それならいいぞ。刀は持ってきてないから試合はできないけど」
「それは私もよ。じゃあ外に行きましょ?」
スキップしそうな勢いで外に向かう彼女を見て1つ思い出したことがあったので刻晴を呼び止める。
「あ、刻晴。ひとつ謝んなきゃいけないことがあるんだ」
「謝らなきゃ行けないこと?なにかしら」
「貰った匣中龍吟のことなんだけど……その、砕けました」
「砕けたぁ!?」
普段から霧切とかいう大業物を持ってるから麻痺しそうだけど匣中龍吟も結構な業物だ。剣の腹で岩を叩くとか横から踏むとか、群玉閣から落とすとかしても特に曲がらないし割れない程の強度の匣中龍吟が砕けるってことが想像出来ないみたいで、素っ頓狂な声を出している。
「その、ほんとにごめん」
「…まぁ、余ってたからそれはいいんだけど、一体どうやって砕けたのよ。多少無茶に扱っても大丈夫なくらい頑丈な剣だったんだけど……」
うーん、刻晴になら話してもいいのかな?まぁ影さんもここに来れるようになったし、刻晴の頻度なら鉢合わせしてしまう可能性も有り得る。ここは話しておこうか。
「他言しないなら教える」
「いいわ、教えてちょうだい」
「…わかった。……雷電将軍の夢想の一太刀と撃ち合った時に砕けました」
「は?」
最初は意味を理解できなかったのか、ピシリと固まる刻晴。だがだんだん意味を理解していき、ツインテを翻して俺の肩を掴んだ。
「ちょ、ちょっと!雷電将軍に刀抜かれるって何したのよっ!だ、大丈夫だったの!?」
「一応大丈夫だった。実は雷電将軍と週一位で一緒に鍛錬してるんだよ」
「ええっ!?か、神と鍛錬!?」
「んで、まぁ、稲妻の神社の宮司様が雷電将軍の天守閣に入れる通行証を持っててさ、稲妻に帰った次の日に霧切を直してもらいに尋ねたら曲者と間違われて戦ったって話」
「ちょっとなんか頭痛くなってきた……」
そういいこめかみを抑える。そっちで言ったら岩王帝君に槍を振り下ろされました☆って言ってるようなもんだし。
「その話、綺良々達は知ってるの?」
「いや、心配かけるから言ってない」
「はぁ……全くもう、無茶ばっかするんだから。…で、刀はどうなったの?直してもらったの?」
「ああ、今度見せるけど俺の仙力も使って新しく生まれ変わった。斬れ味も前より上がってて最高だよ。匣中龍吟は今も大切に仕舞ってるよ。アレ無かったら俺死んでたし」
俺が頭を掻きながらそう言うと、額を小突いた彼女はため息を吐きながらまぁ、それなら良かったわと苦笑した。
「あ、そうだ。前に電磁吸引は教えたろ?」
「ええ、すっごく役に立ってるわ」
俺と刻晴は邸宅を出て温泉のさらに向こうの小島に来ていた。ワープポイントってマジで便利っすね。
この小島には鍛錬に使うために敢えて調度品を置いていない。草原の真ん中に2人並んで立つ。
「じゃあ今度はそれの逆を教えるよ。吸引は雷元素で違う磁極を付与して物を引き寄せたり自分を引き寄せたりするけど、これは斥力を使うんだ」
「なるほど、こうかしら」
「……お前もなかなか天才肌だよな」
流石は俺と同い年で璃月七星やってるだけはある。やっぱり引力もあるなら斥力もあると踏んでたみたいで、普通に雷の楔を斥力で飛ばした刻晴に乾いた笑いが出た。
ふふんと出るとこ出てる胸を張る刻晴を素直に賞賛しながら、応用を教えてみる。
「それでもいいんだけど、俺がいつも使ってる方はもっと威力出るんだよ。今のは使った磁極は1つだろ?」
「ええ。楔の後ろに付与しただけよ」
「そうだよな」
俺は仙力を使って島の中央に大きな木を置いた。そこに向きながら手の中に楔を作り、雷元素を操作して中を囲うように磁極を付与した横向きの円柱状の大きなレールを形成する。
「はっ」
これでもかなり速度は出るけどもう一手間。俺はそのまま浮かべたレールを元素圧縮の要領で小さくする。密度を増したレールはさらに磁力を増幅させた。
そこに、回転させた楔を通す。
ズドォン!!
「きゃっ!」
一気に音速まで加速した楔が木に大きな風穴を開けた。音速到達時のソニックブームが草原を駆け抜け刻晴ツインテールを激しく揺らす。
ぎゅっと目を瞑っていた刻晴が目を開けると唖然とした。
「ま、頑張れば仙力なしでこれくらいの威力は出るよ」
「な、なんなの……この威力…フルチャージした帰終機クラスじゃない」
穴が空いた木を見ると、幹の半分以上が消し飛びメキメキと音を立てて倒れた。
「今のは磁極6つを4段に付与した楔に通る前は引力を、通り過ぎた後は斥力を加えて加速させたって訳」
「…原理はわかったけどできる気がしないわね……というかこの技対魔神用でしょ?人に撃つ威力じゃないわ」
「あ、そういやそうか」
呆れた目で見てくる刻晴に笑いながら頭をかく。そういや最近
「じゃあ飛行の方の電磁離斥はどうだ?空中で方向転換できるし、風の翼は最近璃月にも流通してるだろ?」
「ええ、私も1つ持っているけど……ちょっと今日は……」
「あっすんません」
もじもじとスカートを抑えながら言われたので反射的に頭を下げる。えっと、じゃもう刻晴に教えることないんだけど?
「んー、じゃ、ぶっちゃけ教えることあんまり無いわ」
「えっ、そうなの?」
「もう大体できてるし、元素圧縮はできるんだっけ?」
「少しならね。でも実戦レベルじゃないわ。圧縮するの時間かかるし」
「了解、じゃあそれを練習するか。練度が上がれば燃費もよくなるから」
倒れた木を消すと2人で草原に座り込んで手に雷元素を集める。俺は慣れたものですぐに圧縮した時特有のギチギチと軋むような音が雷から鳴り出した。
刻晴は目を閉じて集中しながら雷元素を掌に集めている。そしてそのまま数分かけて俺と同じ状態の雷を作り出した。
「……ふぅ、時間がかかりすぎね。迅はどうやってそんなに早く圧縮しているの?」
「ああ、ちょっとコツがあるんだよ。……あー、手、いいか?」
「え、ええ…」
掌を上にした刻晴の手を俺が下から手を重ねる。セクハラみたいだけどこうしないと説明できないんだ。
俺は自分の元素と刻晴の元素を混ぜ合わせて彼女にも動きがわかるようにする。
「おぉ……私のと迅のが混ざりあってひとつになっていくわ…」
「変な言い方すんな」
チラチラとこっちも見るな元素乱れるだろーが!
「コツはこっから回転させて圧縮していくことな。渦潮みたいなイメージで手の中心に捻りながら周りの元素を集めていく」
「なるほど…こうやっているのね」
「この動きを使えるとやろうと思えば風元素使いみたいに1箇所に吸引とかできるぞ?」
試しに刻晴の手に乗せた雷元素をポイッと地面に投げ捨てると、それを俺が遠隔で螺旋状に絞りながら圧縮をかける。すると周りの草木がその元素集合体に問答無用で吸引されていった。
「…いつも思うけど、よくこういうの思いつくわね。誰かから教わったの?」
「うん、殆どは甘雨から教わった」
「えっ、甘雨からっ?」
まぁ、普段の雰囲気からはあんまり想像出来ないよな。そこで俺の所に1つの通知が来た。丁度良かったので許可を出しておく。
「言っとくけど甘雨、俺より強いからな?勝てる気がしない」
「そ、そうなの!?確かに半仙で永く生きてるって聞いていたからだから力はあると思っていたけど、そこまでなんて…」
「跋掣戦で俺が倒れてた時甘雨が助けてくれたんだろ?その時片鱗を見たと思うけど…」
「あの時は貴方の心臓が止まってたから余裕がなかったのよ。今思い返してみると、一撃で海を凍らせてたし、津波も止めてたわね…」
あの人のおかしいところは海みたいな流動する水面を弓矢をぱしゅってしただけで氷山作る所なんだよな。俺は刻晴の言葉にうんうんと頷く。マジで甘雨さんの凄さは全璃月人が周知するべきだと思うわ。
「だろ?後、氷元素って圧縮すると砕けるから向いてないんだけど、あの人一旦氷元素を冷気に戻してから実体にならないギリギリのところで圧縮かけるんだよ。だから弓矢1発でありえない体積が凍る訳。この間増えた俺の10倍くらい仙力も持ってるし、多分跋掣甘雨1人で撃退できた説もあるんだぞ」
「そうね、あの時の甘雨は凄く頼りになったわ。迅の蘇生の指示も的確だったし、甘雨がいなかったら今頃どうなってたか…」
「マジでそう。今んとこ甘雨さんが俺の恩人ランキング不動の1位超えて殿堂入りだからな」
しかも1番謎なのがあれで神の目使ってねぇの。使ったら一体どうなっちゃうんだろうか。あの八重宮司ですら「甘雨お姉様」って呼んでたし、普段とのギャップがエグい。
そうやって2人で甘雨の凄さを長々と語り合っていると。
「……あ、……あのっ…そ、それ以上は恥ずかしいので言わないでください………っ」
「甘雨っ!?居たのっ?」
邸宅に俺達がいなかったら、仙力を探知してやってきたのだろう。さっき俺がこっそり許可して入れた甘雨が顔を真っ赤にして両手で覆っていた。
「ああ、この話の流れになるのがわかってたから本人呼んでみた」
「うぅ…野菜庭園の様子を見に来ただけですのに……ど、どうして私の事を…」
「いやまぁ、甘雨が凄いのは本当のことだし、教わった技とか自慢してた」
「ごめんなさい甘雨、普段とは違う貴方のことが知りたくて…」
唸り声を上げながらその場に丸くなってしまった甘雨を2人で慰めて邸宅に戻る。可愛らしく頬を膨らませてそっぽを向いている甘雨がレアだったので、実ってきた野菜達を使って昼食を作ることに。
「刻晴って天ぷら食べたことある?」
「天ぷらって、確か稲妻の揚げ物よね。私は無いわ」
「…私も、話に聞いただけで経験はありませんっ」
清心を天ぷらにしてみようかなとか呟いているとそっぽ向いた顔が一瞬こっち見たのを俺は見逃してない。
手伝おうとしてくる2人をやんわり断って椅子座らせ、刻晴の好物のエビの下処理をする。背わたをとって尻尾の先っちょを包丁で切り落とすと、腹部分を下にして背中に切り込みを何ヶ所か入れて少し引っ張った。こうすると筋が伸びて揚げても丸まらない。野菜の下処理も終わらすと、小麦粉に冷水、溶き卵を加えて混ぜ、種を通して油にぶち込んだ。
甘雨は種族的に肉と魚が食べれない。本人にエビは食べれるかと聞いたら申し訳なさそうな顔で首を横に振ったので、キンギョソウや松茸を揚げて米の上に乗せ、最後に隠し球の天ぷらを中央に置いて上から甘辛いタレをかけて完成。
「はい、どうぞ」
「「わぁ……!」」
完成した天丼を2人の前に置くと機嫌が戻っていた甘雨と刻晴の目輝いた。
「これは、丼…かしら」
「ああ。天丼って料理な。熱いから気ぃつけて」
「い、いただきます…」
刻晴と甘雨はそれぞれえび天と清心天を箸で持って口に運んだ。清心の天ぷらは初めて作ったけど味見したら元々の苦味がかなり抑えられてて結構美味しかった。
2人の口からサクサクと気持ちがいい音がする。2人の顔が揃って綻んだ。
「…お、おいしいわ…!!こっちの揚げ物とはまるで違う食感ね。タレともとても合っているわ」
「はいっ……とても美味ですっ。揚げた清心はこんなに甘さが増すのですね…!」
「良かった。そうだ、真ん中の丸い天ぷらを割ってみてくれ」
「これですか?」
2人は箸で中央に乗っかってる丸い天ぷらを割ると、中から半熟の黄身が流れ出て、米を黄金に染める。
「こ、これは卵っ?ど、どうやって揚げたの?」
「一旦凍らせてから殻を剥いて揚げたんだよ。凍ってるから揚げても半熟なんだ」
甘雨は卵の黄身が絡んだ米と天ぷらを一緒に口に入れて声にならない声を上げた。
刻晴も同様に黄身がかかった松茸の天ぷらを齧って満足げな表情も浮かべてくれる。
「洞天の畑、かなり便利だな。1週間あればもう収穫できるし」
「…ええ、ホントだったら事業に役立てたいけど…今はね」
「はいっ。人の国、ですからね」
「まぁ、来てくれればいつでも作るから、また食べに来てくれ」
実際野菜庭園の野菜はあの成長スピードにちょっとあまり気味だ。大抵は甘雨が持ち帰ってくれるけどまだそれでも残ってるので家に持ち帰ったり宵宮んとこにお裾分けしたりしてる。モンド行ったらエウルアのところにも押し付け……お裾分けするか。
「ご馳走様。凄く美味しかったわ」
「ご馳走様です。修行時代の時から思っていましたが、迅は料理がお上手ですね」
「お粗末さま。…一時期飲食店で働いていたのと、エウルアに教わったからかな」
「…エウルア?」
あ、そういや2人は知らないのか。エウルアの名前を聞いて首を傾げる2人に「モンドの騎士だよ。遊撃小隊の隊長」と説明すふと、2人は面識があったのかぽんと手を叩いた。
「もしかして前に石門の密輸組織を璃月に入る前に潰してくれた騎士の人かしら。…青い髪の毛の大剣を持った」
「そうそう。その人な」
「私も覚えがありますが、かなりの手腕でした。あそこまで両手剣を軽やかに扱える方は中々居ませんから」
「しかも、かなり美人だったわね?」
ジト目でこっちを見てくる刻晴から目を逸らす。
「ま、まぁ今度配達行く時にここの通行証渡す予定だからそのうち紹介するよ。デザート作るのが1番上手いんだ」
「で、デザートですかっ?…気を引き締めておきます」
「そんなに?」
食後もしばらく3人で話していると、時計を見た甘雨が立ち上がった。どうやら昼休みが終わるそうだ。見送ろうと俺も立ち上がったらそういえばと刻晴に向き直る。
「刻晴さん、凝光様から伝言を預かっています」
「…な、なにかしら」
「『あんまり男の家に入り浸ってないで自分の家に帰りなさい。仕事の連絡で使者を送っても毎回不在で困ってるのよ』だ、そうです」
「……えぇ〜…」
ま、当然だわな。凝光さんの伝言に本気でイヤそうな顔をする。少し考えたあと、諦めたようにため息をついた。
「はぁ〜、わかったわよ…。……ちゃんと仕事はしてから来てるのに。甘雨、今から戻ってそっちに行くって凝光に言っておいてちょうだい」
「ふふっ、かしこまりました。迅も、ご馳走様でした。また来ますね」
「ああ、配達でそっちに行った時は顔を出すよ」
「はいっ」
甘雨を見送っていると、荷物をまとめた刻晴が部屋から出てきた。って荷物多くね?何日ここ泊まってるんだよ。
刻晴はつかつかと俺の前を通り過ぎ、ようとした所でくるりと振り向いた。
「迅」
「ん、どうした?」
「…んっ」
「へっ?」
刻晴は俺が聞き返した後の一瞬の隙を突いて近づくと、背伸びをして俺の頬に口付けをした。
「……ご飯のお礼っ」
唇を離した刻晴は、ツインテのひとつで真っ赤になった顔を隠しながら逃げるように洞天を出ていった。
「……」
俺は誰も居なくなった洞天の中で頬に手を当てて、ポツリと呟いた。
「俺、女の子の急接近には反応できねぇのかな……。最近不意打ちされすぎな気がする……」