職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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お待ちどうさまっす。

そういや最近綺良々視点書いてねぇや。ってことで書きました。


7話 迅くんにゆーわくが効かなくなってる件っ!

 

 

☆☆☆☆

 

 

む〜っ。

 

ある日の夕食後。今日はおばあちゃんが月一回、神里家に仕事に行く日だったので今夜は迅くんと2人きり。私はここぞとばかりにお皿洗いをしてる迅くんに後ろから抱きつきながら、心の中で唸り声を上げた。

 

なんでわたしは唸っているのかって言うと…。

 

「ねっ、迅くんっ。2人きりだし、また一緒にお風呂はいろっ?」

「ん、いいぞ。頼むから水着は着てくれよ?」

「うんっ、やったっ!」

 

前までは一々狼狽えてた迅くんがフラットに返してくる。

 

そしてお風呂。黒のビキニに白のショートパンツな水着に身を包んだ私は、先に入っている迅くんの元に突撃した。

 

「じーんくんっ、背中洗うね」

「おう、頼むわ」

 

私は自分より大きな背中を、泡を乗っけた自分の手で洗う。鏡越しに迅くんを見ると、目を細めてリラックスしているように見えた。

 

むぅ〜。

 

「わわっ」

 

…私は躓いたように演技して、迅くんの背中に抱きついた。そのまま自分の身体で洗ってみる。これをしたのは璃月の時以来だからさすがに効くはずっ!

 

「お、大丈夫か?」

 

だけど迅くんは驚くどころか肩越しに振り返って私の心配をしてきた。あまりの無反応さにわたしは目が点になる。

 

「えっ、あー、だ、大丈夫。……背中……どう?」

「ん、気持ちいいわ」

 

さりげなく引き続き胸で洗いながら聞くけど、迅くんはのほほんとリラックスした顔で答えた。

 

 

 

そう、私の最近の悩みがこれ。

 

迅くんにわたしの誘惑が効かなくなってきちゃった。

 

この前遂に飼い猫だってバレて、お家でも存分に迅くんに甘えられるようになった。それからは色んな方法で迅くんに迫ったんだ。おばあちゃんもわたしにすごい協力的で今日も「邪魔者は神里屋敷に行ってくるからねぇ〜♪」とニヤニヤしながら出かけて行った。綾華ちゃんに話を聞くと屋敷に居ても最近すんごい機嫌が良いみたい。

 

で、わたしが飼い猫バレしてからもうすぐ半月。そろそろ国外配達のラインが整って配達に行けるようになっちゃうから、洞天で会えると言えど頻度と時間は減っちゃう。だからその前に迅くんに沢山甘えてたんだけど……。ここ数日の間、わたしの誘惑に迅くんが動じなくなってきちゃったの。

 

わたしが抱き着いてもまるで猫が飛び付いてきたみたいに落ち着いた顔だし、ちゅーしても普通に受け入れてくれる。そ、それはまぁいいんだけど…さっきみたいにお風呂でちょっと危なめな誘惑をしても、全然赤面もしなくなっちゃった。

 

でも、なでなでとかはしてくれるし、普通に喋ってもくれる。わたしの気にしすぎかなぁって思ったけど、今回のお風呂でやっぱり疑いは深まった。

 

うーん……どうしたらいいんだろう。もっともっと、迅くんに意識されたい。女の子として意識して欲しい。

 

 

………ちょっとえっちな目で見られたい。ドキドキされたい。

 

……1人で考えててもしょうがないし、明日はお休みだからあそこに相談しに行ってみよう。

 

「ん、綺良々、どうしたんだ百面相して」

 

君のせいだよっ!なんて言えないわたしはとりあえずお風呂上がりの迅くんの香りを楽しむ為に胸に飛びついた。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ヤバい。

 

 

 

何がやばいって綺良々がヤバい。

 

 

 

めちゃくちゃ可愛い。

 

 

 

綺良々がウチの飼い猫としれて2週間ほど、俺はアレから綺良々を目で追ってしまっていた。

 

うちで拾って育てた子猫がまさかのこんな美少女になっていて、俺の職場の先輩で、俺の事を大好きだと言ってくれている。彼女の猫みたいな(猫だけど)所と、可愛い女の子な所。仕事に対する責任感の強いところや、サラサラの髪の毛、意外とスタイルがいい所に柔らかいところ。……って何考えてんだ俺は。さっきの風呂が効いてるのかっ!?

 

あの日から綺良々の可愛いところが今までと比べ物にならない程見えてきて、頭から離れない。

 

もう、これはあれだ。認めよう。

 

 

 

俺は、綺良々のことが女性として好きになってしまった。

 

 

 

いや今かーいとか、こんの唐変木がぁ!とか過去の自分に言いたいことが沢山あるけど、まず、漸く自分の気持ちが定まった。そう自覚した後の綺良々のスキンシップの攻撃力の高さを今一度思い知ったんだ。

 

無理無理、いや無理だろあんなん。なんで俺以前は耐えれてたの?まじでバケモンだろ俺。あんな可愛い子からキスされて?布団にモゾモゾ入ってきたと思ったら耳元で「だーいすきっ♪」って言われて?終いにゃ裸で風呂に凸ってきて生乳で背中を洗われて。イヤなんで耐えれたの?仙力である程度気持ちを落ち着かせるとはいえ、回復する前に理性ゲージ一撃で吹き飛ぶだろ。

 

でも、せめて綺良々に思いを告げる前に俺に好意を持ってくれている子達と話をして、自分の定まった気持ちを言うべきだと思ったんだ。

 

割とこっちは、残酷な選択してるかなとか、余計なことして彼女達を傷付ることはしない方がいいのかなとか、でも向こうは正面から言ってきてくれたからこっちも誠意を持って返すべきとか、いやもう誠意とか保留にした時点で失われてるだろとか色々考えてたんだけど。

 

結果はみんな「振られても諦めないからっ!例え綺良々とくっついても全力で奪う気で行くからねっ!」だと言う。

 

なんかもう、わっかんね(思考停止)……普通諦めるくない?

 

そんなもう綺良々に言っちゃうか、まだエウルアだけには伝えてないからそれの後に言おうかみたいなグラグラした気持ちで過ごしていた所に、綺良々の強化されたスキンシップが直撃した。

 

戦闘術として習った精神操作を駆使してなんとか乗り切ったけど、後1分胸で洗われてたらもうダメだった、押し倒してた。途中から仙力での気分リセットをしたくないって思ってる自分もいたくらいだし、俺はもうダメなんだろうな。

 

……正直、自覚をした事で耐えるのもかなり辛くなってきている。

 

 

俺は、膝の上のなでなでをしすぎてすやすやと眠っている綺良々の頬にかかっている髪の毛を払い、布団に寝かせた。

 

俺は縁側に座り直して星空を見上げる。

 

 

 

「……この苦しさが、今まで気持ちを知りながら目を逸らし続けていた罰なのかな…」

 

 

明日は綺良々共々休日だ。せっかくだし、ばあちゃんを迎えに行くついでに頼れる人に相談をしてみようかな。

 

俺はそう決めると一応2つ敷いてある布団を交互に見て、綺良々が寝ている布団に入った。前までなら「いやまぁ?どうせ綺良々明日になったら俺の布団に入ってるし?変わらんだろ」とかふざけた言い訳をほざいてただろうが、今回入った理由はただ綺良々と寝たかったからだ。

 

俺が隣に寝転がると綺良々がうっすらと目を開けた。

 

「…んぅ?…迅くん、こっちの布団に来てくれたの……?…えへへ、嬉しいなぁ」

「ああ、俺はもう綺良々が隣に居ないと寝れなくなっちゃいそうだ」

「ふへへっ……」

 

綺良々は寝ぼけてるのか俺を夢だと思ってるみたい。俺の胸に顔を埋めて再度寝息を立てる彼女を俺は大切に抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

……好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「……ということなんですっ妖狐さまっ!」

「ふむふむ、なるほど。中々に面白いことになっておるのぉ」

 

翌日、わたしは鳴神大社に来ていた。突然訪ねたのに快く迎えてくれた妖狐さまに嬉しくなりながら迅くんとの間に起こっていることを説明した。

 

「そうじゃな。……大体このケースは、お主が攻めに行き過ぎということが多い」

「攻めすぎ…ですか?」

「人は慣れる生き物じゃ。いくら意識をさせるスキンシップと言っても、毎日同じ事をしているとされている側はそれに慣れてくるものじゃ。じゃからあの童もお主のアピールへの反応が薄くなって来たのかもしれぬ」

「なるほど……」

 

そう言われてみると、わたしはずっと迅くんに引っ付いて、ちゅーして、なでなでされてたような気がする。確かに、ずっとそんなことをしてたらリアクションも薄くなっちゃったのかなぁ。

 

思い返しながら頷くわたしに、妖狐さまは棚から本を取り出すとひとつ提案をしてきた。

 

「そうじゃ、妾に秘策がある。その名も"押してダメなら引いてみろ"じゃっ」

「秘策ですかっ!?そ、それはどんな策なのでしょうか…」

「良いか、今の童はお主のスキンシップに慣れておる。今日も抱き着いて来るだろうとか、今夜も一緒に寝るんだろうなと考えているじゃろう。そこで、敢えて少し冷たい態度を取るのじゃ。まるで愛想を尽かしたようにな?」

「で、でもそんな事をしたら迅くんに嫌われちゃうんじゃ……」

「お主は彼奴に想いを伝え、それを拒まれておらぬのじゃろう?なら少なくとも邪険には思っていない。なぁに、童の様子を見ながら素っ気なさを調節するのじゃ。そうすれば、彼奴の方から本心が聞けるやもしれぬぞ?」

 

うう、冷たくする…かぁ。わたしにできるかなぁ……あ、そうだ。ちょっとやり方を思い付いたかもしれない。

 

どの道普通に甘えて大した反応はして貰えない位なら、ちょっと挑戦してみよう!わたしは大きく頷くと、ばばっと立ち上がって妖狐さまに頭を下げた。

 

「わかりました!ちょっとやってみますっ!」

「ふふ、その意気じゃ。また影に読ませるネタが増えそうじゃ♪

「へ?何か仰いましたか?」

「いや、なんでもない」

 

帰り際におみくじを引いたらなんと大吉っ!余計に自信がついたわたしは軽い足取りでお家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「お邪魔します」

「おや、迅。今は"ただいま"じゃないのかい?」

「…そうだった。ただいま、綾人兄さん」

 

そう言って神里屋敷に入った俺を出迎え、社奉行本部に招いた兄さんは、お茶を啜りながら机の上にあった資料を脇に退かす。

 

「…いいのか?仕事中だったんじゃ」

「せっかく弟が遊びに来てくれたのに仕事を優先するほど愚か者ではありませんよ。……そうでしょう?給仕長?」

「綾人様、元を付けるのを忘れていますよ」

「…ばあちゃん」

 

俺たちにお茶を持ってきてくれたばあちゃんは、座布団を敷いてある隣に座る。いつも通りの優しい顔で、俺の頭をぽんと叩いた。

 

「……で、相談があるんだろう?ばあちゃんと綾人様が聞くから話しな?」

「…え、まだ何も言ってないのに、なんでわかったんだ?」

「血の繋がりが無いとはいえ、家族だからね。顔を見れば直ぐにわかるよ。敢えて綾華にも席は外させているから、好きに話しなさい」

 

そういう綾人兄さんに頷くばあちゃん。…流石、全部お見通しって訳か。

 

「ありがとう。……実は…」

 

俺は、2人に俺の周りで起こっている事を全て話した。

 

 

「ーーって事なんだ」

 

関わっている人数が人数だから、少し時間がかかってしまった。お茶のおかわりを継いだばあちゃんは、綾人兄さんと顔を見合わせる。兄さんが頷いたのを見て俺の方を向くと、ため息を吐いて口を開いた。

 

「迅、お前の考えは伝わったよ。迅は綺良々が好きだけど、想いを告げてくれた他の子達にも誠意を通したいと思っている。…これで間違いはないかい?」

「…ああ」

「そして、想いを断ったその子達は迅を諦めないと言っていて、その後の付き合い方を悩んでいる」

「……ああ」

「まぁ、簡単と言えば簡単だし、難しいと言えば難しい、複雑な問題さね。普通だったら綺良々ちゃんを選んではい終わり。……で済むが、綺良々ちゃん自体、複数の子と関係を持つのは反対してないし、他の子も賛同している。けど、迅自体は綺良々が好き。迅も他の子達の事は憎からず思っている」

 

顎に手を当てて言うばあちゃんに綾人兄さんも頷く。

 

「ふむ、中々面白い関係図ですね。……迅」

「兄さん?」

「少し、迅は優しすぎるような気がするよ」

 

それを言われて、刺さるものがあった。

 

その通りだ。俺は全員を悲しませまいとして、中途半端な事をしようとしている。

 

「わしも綾人様と同じ意見だね。昔から、迅は誰にでも優しかったからねぇ。ただ、もっと自分だけに正直になった方が良いと思うよ」

「ええ。そんなに抱えて歩いていたら、いずれ落としてしまう時が来るでしょう。そうなるくらいなら、ひとつの自分の気持ちを押し通してしまうといいと思う」

 

ひとつの自分の気持ち。…………彼女達のことを考えた時に、まず最初に浮かんでくる感情。

 

俺はハッとした顔になった。…が、選ばれなかった彼女たちの事を思うと、……やっぱり……。

 

「迅」

「はい」

 

名前を呼ばれて顔を上げると、真剣な顔のばあちゃんが俺を見詰めていた。

 

「今、他の子達の事を考えたろう?……そこが、少し甘いんじゃないかい?」

「あ、甘い?」

「今は家族としてじゃく、人生の先輩として言わせて貰うけどね。恋愛は戦さ。同じ人を好きになったからには惚れてもらう為に死力を尽くし、ライバルを蹴落として、選ばれようとする。そして選ばれたなら幸せ、そうでなければ幸せそうにしているライバルを唇噛んで見ているしかないんだよ。例え、それが仲がいい友達だとしてもね」

「……で、でも……、彼女たちが悲しむのをわかってて、そんな決断ーー「そこが、甘いと言ってるんだ」…っ!」

 

ばあちゃんにギロりと睨まれて、背筋がピンと張る。こんな顔をしているばあちゃんは初めて見た。

 

「選ばれれば天国、選ばれなければ地獄。そんな事、その子達も最初からわかってるよ。それでも、迅が好きだから、自分を選んで欲しいから。不安を振り払って想いを伝えたんだ。振られた子がどうとか、わざわざあんたが心配する様な事じゃないんだよ。迅のその余計な気遣いこそ、彼女たちに失礼だ」

「………っ」

 

その言葉に、全身を雷で打たれたような気がした。

 

「元給仕長の言う通りです。だから先程、迅は優し過ぎると言ったんだ。その優しさは迅の美点ではあるけれど、その暖かさは彼女たちにとって酷く残酷だ。迅は今、"選ぶ側"なのだから、自分の事だけ考えていればいい」

「…………」

「その子達は他にもライバルが沢山居て、迅に断られてもまだ想っているって意味を込めて彼女達は諦めないって宣言しただけさ。それは迅がしっかりとした答えを出して、その後に付き合い方を決めればいい」

「……そっか。…そうだったんだ」

 

ばあちゃんと兄さんにそう言われ、胸の中の付き物が取れたような気がした。

 

俺はずっとずっと、彼女たちが悲しまない方法を考えていた。前はまだ良かったんだ、俺が答えを出していなかったからその考えもダメではなかった。…でも、俺は今、綺良々のことが好きなんだ。無論彼女たちのことも嫌いじゃないし、むしろ好きだ。だけど、特別は綺良々。それは断言出来る。

 

ひとまず、自分のことだけを考えてみる………か。

 

そんな事、考えたことも無かった。

 

「…迅の、その他人優先の価値観について、わしらは何も言えん。……その原因はわしらなのかもしれないからね。……迅、ほんとにごめんねぇ」

「いや、いいんだ。ばあちゃんが謝る必要は無いよ」

 

物心ついた時には周りから疎まれ、笑顔で居ないと、礼儀正しくないと、気が利かないと、自分以外の物事を優先しないと、存在すら認識して貰えなくて。嫌がらせを少しでも顔に出すと、優しくしてくれている人達に話すと、あいつら(智久一派)に更に嫌がらせをされる。

 

アレからかなりの年月が経っているのに、やっぱその時の考え方が染み付いているのかもしれない。今でもなお、自分の事だけを考えるのが申し訳なくて仕方がない。ただ、それは彼女たちにとってマイナスなことらしい。

 

ただ、外からガツンと言って貰えてとてもありがたかった。俺は2人に頭を深く下げる。

 

「……うん、ありがとう相談にのってくれて。…叱ってくれてありがとう」

「迅、良いんだよ。家族なのですから」

「……綾人様の言う通りさ。わしも、やっとこさ祖母らしいことが出来て嬉しいよ」

 

そう言い頭を優しく撫でてくれる。

 

ばあちゃんは撫でながら、いつものニヤニヤ顔で口を開いた。

 

「まぁ、今のは綺良々ちゃん1人を選ぶ決断のケジメの話だけどね。……迅は高貴な仙人の血を引いてるんだろう?そして綺良々は妖怪。だったら人間の小さい決まり事になんか当てはまらない訳さ。……どうさね、せっかく綺良々ちゃんもいいって言ってるんだ、いっそ全員と付き合っちゃえばいいんじゃないかい?」

「ぶっ!?ば、ばあちゃんっ!色々台無しだって!」

 

真面目な話してたのに全部どちゃーんってひっくり返したんだけどこのばあちゃん!?

 

「確かに結婚は1人だけしか出来ないけど、付き合うのは合法さ。洞天とかいう豪勢な愛の巣もあるんだし、向こうも満更じゃないんだろう……?」

「いやいや!?流石にそれは節操ねぇって!…綾人兄さんからもなんか言ってくれよっ」

「当主は私ですし、綾華は嫁入りも可能ですからね。本人の了解さえも取れていればいいのではないでしょうか」

「ダメだ味方居ねぇ!」

 

収集が付かなくなったので、俺は社奉行本部から逃げたした。助かりはしたからお礼を言いながら障子を閉めた時に、ばあちゃんがここにもう1泊するから綺良々によろしく〜とか言ってたような気がしたけど、気のせいだったと信じたい。いや、ほんとに。

 

入る時とは別の重みで肩を落としながら障子を閉めて振り返ると、何か期待したような顔をした綾華に出会った。さてはこっそり覗いてたな。

 

綾華はぎょっとする俺の顔をチラチラと見ながらは、んんっと咳払いをして呟いた。

 

「わ、私は……皆さんとでも構いません……よ?」

 

もう、外堀が埋まってハシゴ掛けられてる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

相談にはなったけど、相談にならなかった。

 

どうやらほんとにばあちゃんはもう一泊していくらしい。俺は鎮守の森を1人で歩きながら、先程言われたことを思い返していた。

 

もし、綺良々1人を選ぶ場合。他の子のことは気にしてはいけない。

 

でも、皆と一緒になるって道を選べば悲しむ人はいなくなり、全員幸せ。

 

つまり綺良々一筋かハーレムかの二択ってことになった訳だけど、………やっぱりもう気持ちは決まってるみたいだ。今だけは自分の事だけを考えさせて頂こう。

 

 

 

 

 

気がついたらもう紺田村に着いていた。

 

外はもうすぐ日没。家の中に灯りがついているので綺良々は居るみたい。玄関を開けると、いつもの座布団に人の姿で座って猫足をぱたぱたさせている綺良々がいた。かわいいかよ。

 

「ただいま」

「……おかえり」

 

あれ?

 

いつもなら大体「おかえり〜!!」って全力でこっちにでででって走ってくるのに、今日は座布団から動かない。なんならこっちを見る目がなんだか冷たいように感じる。……まるで、俺が他の猫を撫でた時みたいに不機嫌というか、そんな雰囲気を感じる。

 

「……なに」

「……ぁ、いや、なんでもない」

 

呆然と綺良々を見ていると、鋭く細まった目で冷たく睨まれる。昨日とはまるで違う態度に、少し血の気が引いていくのを感じた。

 

「…綺良々。その、なんか怒ってるか?」

「……べつに?」

「そ、そうか?……いつもより雰囲気が違うように感じたから……」

「………っ」

「……ぇ」

 

もしかして具合が悪いんじゃと一歩彼女に近づいた途端、まるで俺を嫌がるかのように座布団から立ち上がって一歩引いた綺良々に、自分の声とは思えないほどにか細い声が漏れた。

 

そのまま冷たい目で俺を眺めると、くるりと踵を返す。

 

「…お風呂、入ってくる」

 

そう言い残し、足早に風呂場に消えていった。それを呆然と目で追っていた俺は、綺良々が見えなくなった途端に居間の座布団にへなへなと腰を降ろす。

 

俺の頭は困惑と、背筋を這い上がるような悪寒でいっぱいだった。動かなくなった頭で必死に考える。

 

えっ、なっ、ど、どういうことだ??

 

俺、もしかして知らない間に何かやらかしてたか??

 

今までキャッツテール行ったとか、他の猫撫でたとかで怒られることはあったけど、今回のはそれらとまるで質が違う。

 

じゃあ、一体どういうことなんだ?わからない。

 

彼女のもう一度聞くのか1番なんだろうけど、綺良々にまたあの目で見られるのかと思うと、立ち上がろうとした足が石になったように動かなかった。

 

 

 

 

…恐い。

 

 

 

俺が22年生きていて、初めて感じた種類の感情だった。

 

なぜなのかはまだわからない。もしかしたら俺が何か嫌われるようなことをしてしまったのかもしれない。……けれど、毎日俺にあれだけ好意を伝えてきてくれていた綺良々に冷たい態度を取られたことで、この時の俺は「綺良々に嫌われた」と理解しようとして震え出す身体と、寒くなっていく背中を抑えるのに必死だった。

 

 

 

 

 

これは後になって気が付いたことなんだけど。俺は「ある一定度の信頼度がある人物に一気に嫌われる」事にものすごく弱いみたいだ。

 

俺の人生、関わってきた人間は例外なくこの二択に分けられる。

 

①元々から俺を嫌ってる、疎んでる人(智久一派等)

 

②最初の段階から友好的か、知り合っていくうちに仲が良くなった人達

 

小さい頃、身に宿る仙力で周りから無条件で恐れられ、嫌われていた俺は「人に優しくする」「嫌われないようにする」ということに限りなく力を注いできた。別にこれは意識してやってる事じゃなくて、自分自身「いや、そりゃ好かれるか嫌われるかだったら嫌われる方が嫌だろ普通」といった感じで全力でその人のためになることを考え、行動をする。それが当たり前だった。

 

 

なぜなら、そうしないとその人たちを信じれないから。

 

 

じゃないといつ態度が急変するかわからない。いつ俺を嫌い出すかわからない。俺を嫌がるかわからない。

 

そんな、所謂"闇"を背負ってきたわけだ。それも修行や、向こうで知り合った人達の触れ合っていくうちに「嫌われる」ってことも無くなっていって、なんなら好きだと言ってくれる人も出てきて、もう乗り越えたと思い込んでいた。

 

だけど今回、俺が1番信頼して、1番好きな女の子に拒絶された。その事が俺の閉じていた心の傷口をブチブチとこじ開けられてしまったのだ。

 

頭ではわかっている。風呂から出てきた綺良々ともう一度話して、何に対して怒っているのか、俺が何かしてしまったのか改めて話し合い、俺に落ち度があるのなら素直に謝る。それが1番良いってことくらい。

 

でも、綺良々にまたあの態度を取られるかと考えたら、恐くて恐くて仕方がない。

 

ここで家を出るのも逆効果だと理解している頭が身体を動かそうとすることも無く。俺はそのままうなだれ続けた。

 

 

 

 

 






綺良々っ!早く出てきてあっついキスしてやれぇっ!!

迅くんって大切な人に化けたりとか悪夢見せてくる精神攻撃に弱そうだよね。




よーやく出せました。連載してから割と強いところとか優しいところ等プラス方面を出しまくっていた迅くんが抱える"闇"。

これは裏話なんですが、物心ついてから迅くんの涙を見た人は「1人もいません」。綺良々はもちろんのこと、エウルアも、綾華も綾人も、おばあちゃんも、神里夫妻ですら1度も無いです。なぜ涙を見せないかと言うと、まぁ、そういうことっすね。(智久一派戦犯すぎん?)

普通に考えたら不自然なほどに、不気味な程に泣かない彼に、今のところは誰も気がついていません。皆は迅のことを「強い人」と認識しているので涙を見せないって事を普通だと、誰もそこまで考えてないからですね。

ただ、そんな彼をエウルアを初めとした師匠陣や綺良々達等が支え、少し救われて来たところのコレですよ。いくら綺良々が押してダメなら引いてみろ作戦のへったくそな演技だったとしても、恋心を自覚した彼にとっては効果抜群だったって訳ですね。


次回、お楽しみに。
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