おまたせしました。息抜き会っす。
久しぶりに三人称視点でお送りします。
間章 俺の洞天が姦しい件について(自業自得)
☆☆☆
「…くっそっ!なんでお前がここにいるんだよっ!」
璃月港から西に1日ほど歩くとある層岩巨淵、その外周を数時間歩き、洞窟から森に抜けた先を、蒼夜叉にして狛荷屋配達員の神里迅は走っていた。
熱帯特有の高い湿度に悩まされ、今は上着の着物を脱いで、黒のTシャツ姿で逃げている。
どうして迅がこんなところにいると言うと、狛荷屋の事業拡大の為にフォンテーヌに行くためである。
距離的には璃月の方から行くのが近いのだが、近いうち配達するであろうスメールにも一旦足を運んで置こうと言う話になったのだ。
そうして稲妻を出発して3日。数時間ほど前にスメールの国領に入った迅は草木が生い茂る森の中を歩いていた。層岩巨淵の北側を歩いて岩山を下った辺りで、迅は「妖怪」に出会ってしまったのだ。
その「妖怪」を見た瞬間、迅の背筋に悪寒が走った。それと同時に妖怪が全力で追いかけてきたのでこちらも全力で逃げている訳である。木々の間をすり抜ける様にして走る迅の後ろから声がする。
「じーん!待ってよぉ!丁度いいところで会ったんだし、回ろう?ねっ?」
「黙れ妖怪"秘境巡り"っ!お前、前にそう言って1日付き合わせてきただろうが!!…つーか、なんで秘境の前に寝泊まりしてんだよぉ!」
追いかけてくる金髪の妖怪から逃げる迅だが、不意に足が草に絡まった。何とか転倒は避けたが大幅にスピードダウン。ついに追いつかれてしまう。腰に飛びつかれ妖怪諸共草っ原を転がった。
「はぁ、はぁ、やっとつかまえたっ♪」
「お、お前、前よりなんだかパワーアップしてねぇか?……蛍」
迅にそう言われ、妖怪「秘境巡り」こと旅人の蛍はいやいやと首を横に振った。
「やだ。逃がさない……」
「どんだけいいの出てねぇんだよ…」
あまりの必死な形相に力が抜ける迅。ため息を吐くとそのまま秘境の方に歩いて戻って行った。無論、蛍は付いたままである。
そこで待ってたパイモンに話を聞くと、もう1週間はここにいるらしい。しょうがないからと1度だけ秘境に潜ってあげると、速攻で良いのが出た。んなバカなと言いたげな顔になる迅に飛びつく蛍。まぁ良いのが出たならいいやと聖遺物の強化に励む蛍に自分の洞天通行証を渡して、その場をそそくさと立ち去った。
彼女が見えなくなった辺りで「なぁんでぇぇ!?」と聞こえたのは気のせいということにした迅は旅の先を急いだ。
「…今日はここまでにしとくか」
スメールの国領に入って少し進み、レンジャー達の拠点である村を過ぎた辺りで、一度洞天に帰ることにした。別にフォンテーヌに行く期限は決まっていないし、璃月港であった刻晴以外とは数日顔を合わせてない。あと少し進めばスメールシティだが、迅は彼女達に会うことをえらんだ。
懐から札を取り出すと詠唱をして小さな壺を呼び出した。そこに触れると壺の中に迅の身体が吸い込まれていく。数秒後、そこには小さな壺だけがポツンと残された。
そうして自分の塵歌壺の中にもどった迅は、ちょうどいい温度に設定された洞天に息を吐く。
体に籠った熱も取れたところで、迅は洞天の島の中央に立てられた大きな邸宅の中に入った。
扉を開けると、ふわっと女の子特有のいい匂いが
「あっ!迅くんおかえり〜!」
「兄さん、おかえりなさいませ」
「んん?おっ、迅おかえりぃ、こんな時間から来るなんて珍しいなぁ」
「あら、おかえりなさい。昨日ぶりね」
「迅、帰ってきたのね」
「迅〜。おじゃましてるよ」
まさかの全員集合である。刻晴とエウルアはお茶をしていて、綾華と宵宮は本を読んでいた。
通知が入っていたので知ってはいたが、目で見るとすごい光景だと迅は遠い目をした。なんならばあちゃんまで椅子に座っていて、綺良々に肩を揉まれてホクホクとした顔になっている。
「迅、帰ってきたのですね」
「邪魔をしているぞ」
奥から甘雨と申鶴も顔を出す。どこを見ても美人が視界に写るという人によっては天国と見紛う光景を前に、迅は内心で歓声を漏らしながら腰から霧切を鞘ごと引き抜いた。
「ああ、ただいま。いやぁ、スメール暑くってさぁ……我慢できずに逃げてきた……妖怪も居たし」
するっと近づいてきた綾華に上着と刀を渡す。迅の部屋に入っていく綾華とすれ違うように刻晴とエウルアがタオルを手に近づいてきた。
「ちょっと汗だくじゃない。風邪ひくわよ?」
「温泉に入ってきたら?着替えは用意しておくから」
「ありがと。ちょっと入ってくるよ」
いつも以上の距離まで近づいた2人に頷きを返すと、寄ってきた綺良々の頭を1撫でして温泉がある島に飛んで行った。彼を見送った彼女達、特に迅と特別な関係にある女子達はみんな頬を染め顔を見合わせた。
『迅の汗かいた姿……ヤバい』
☆☆☆
さて、何故こんなことになっているのかと言うと、それは迅が綺良々と結ばれ、そこにエウルアが襲来した次の日まで遡る。
まぁ、色々あったのだが、結果を先に言うと迅に想いを寄せていて告白済の女子が迅と特別な関係になった。
その関係性になった人物は綺良々を除いてエウルア、宵宮、綾華、刻晴。
迅と綺良々は後日彼女達のもとを訪ねて、自分たちは結ばれた事と、綺良々が提案する「みんなで幸せ計画」を説明したのだった。
一般論で言えば完全アウト。「綺良々と付き合ったけど、まだ俺の事が好きなら俺の〇番目の彼女にならない?」というビンタされても仕方が無いような事を、綺良々の頼みならと覚悟決めて言った迅だったのだが、まさかの全員即答OKに逆にひっくり返った。
神里家は綾人がもうゴーサインを出していて、長野原のお父さんに至っては「娘をよろしくお願いします」と頭を下げられる始末。洞天にいた刻晴は喜んで抱きついて来た。
全員からキスを貰って「いや、もう頼むから誰か1人くらいは反対してくれよぉ!」と迅が顔を真っ赤にしながら崩れ落ちたのは彼女達の笑い話だ。
そうして晴れて迅の恋人となった5人は、先に洞天でそれぞれと交流を図った。この中で唯一接点がないのが刻晴だ。彼女自身世辞を言わない性格で馴染めるか不安そうにしていたが、綾華や宵宮のコミュ力とエウルアの面倒見がいい所に触れて懐柔され、今や仲良くお茶する程の中になっていた。
余談だが、刻晴との顔合わせに甘雨と申鶴も着いてきた。「自称姉」という首を傾げるしかない自己紹介に唖然となった綺良々と刻晴以外の面々だったが、話しているうちにやっぱり仲良くなっていた。
特に甘雨の持ち上げられ方が凄い。稲妻の2人とエウルアは跋掣戦の修羅場を知らなかったので甘雨が心肺停止した迅を助けてくれたと興奮して話す綺良々と刻晴から聞くと、そのまま拍手喝采からの胴上げコンボが始まり、彼女〜ズを超えて1番赤面していたのは迅には内緒だ。
そして申鶴は、何かと綾華と相性が良いらしい。よく庭で2人で氷元素の鍛錬をしている姿が見受けられる。最近万民堂でバイトもしているみたいで料理もエウルアや宵宮から教えて貰っていた。
そんなこともあって複雑な関係ながらそれぞれの仲は良好で、むしろ迅の魅力的なところを共有して、こうしてお互いを見ながらニヤニヤしている光景がよく出来る。
「それより、綾華とエウルア、遅くないかしら?」
しれっと迅の後を追おうとしたむっつり猫又の襟首を掴んだ刻晴は、刀と上着を置きに行った綾華と彼の着替えを取りに行ったエウルアがなかなか戻ってこないことを訝しげに思う。それに反応して立ち上がった宵宮と綺良々は頷きあってドタドタと走り、迅の部屋の扉を開け放った。
「……な、何かしら?そんなに慌てて」
「……あっ!み、皆さん…これは違うんですっ…!」
「こらああああー!!」
扉の先では、顔を赤く染めたエウルアと綾華がコソコソと迅の着替えを物色している姿だった。それだけでは無い。2人の手には彼が脱いだ上着が握られている。普通は速攻洗濯カゴに入れる上着を持ち歩いていた時点で何をしていたのかは明白だった。
宵宮と綺良々が飛びかかり、彼女達ではなく手に持っていた上着をひったくる。それを2人して「おおお…」と宝の地図を見つけた海賊みたいにバーンと広げた。
素早く鼻を近付けると、汗を少しだけ吸ったことで強く香る彼の香り。時間が経っているわけじゃないので変な匂いもせずに、大好きな匂いの強化版が嗅覚に飛び込んで来て、宵宮と綺良々は思わず笑顔になる。
「こ、こんなものを持っていて、我慢できるわけないじゃない…」
「申し訳ございません……」
「え、ええんや。こんなんうちも我慢できんて」
「スンスンスンスンスンッ」
「嗅ぎ過ぎよっ」
「あだっ!?」
刻晴は猫から犬にジョブチェンジしそうな勢いでクンカクンカと鼻を突っ込んでいる変態猫又に拳骨を落とす。
こんなやり取りをしているが、それぞれ自分の部屋に迅の衣服コレクションがある事は内緒だ。全員きちんとバレないように1日毎に返却している辺りガチ。
国宝級に価値のある迅の上着を泣く泣く洗濯籠に入れた彼女達がリビングに戻ると、甘雨をいたわったおばあちゃんが肩を揉もうとしてその凝りように戦慄の表情を浮かべている。その隣の申鶴が「姉君の肩は凝っているからな。我が代わりにやろう」と持ち前の怪力でゴリゴリ揉みほぐす。結構ヤバい音がなっているが、甘雨は気持ちよさそうだった。
目を細めて肩から七七と張るレベルのえげつない音を出している甘雨にみんなで刻晴を見る。一体普段からどんな仕事をさせているんだと言いたげな目に刻晴は「も、文句は凝光に言ってちょうだいっ」と慌てた。
「あー、いい湯だった」
少ししておばあちゃんと甘雨と申鶴が帰った後。風呂から上がった迅が帰ってきた。彼女〜ズが揃って「あ、3人は帰っちゃったか」と頭を搔く彼を見て、お風呂上がりの攻撃力に全員やられている。その後すぐさま誰が迅の髪を拭くかの睨み合いが始まり、誰かが動く前に自分で髪を拭き始めてしまった。
「兄さん、おつかれさまです。冷たいお茶をお持ちしました」
「おやつにアイスも作ってあるわよ。食べるかしら?」
「ありがとう。いただくよ。…ってなんか俺の方がお客みたいだなこれ」
「あははっ、間違ってないんとちゃう?うちは花火屋があるからそんなには来れへんけど、来たらだいたい誰がおるもんなぁ。…迅以外が」
「なんなら皆、俺よりこの家に詳しいんじゃないか?」
チラリと迅に見られた洞天滞在率ランキング堂々1位、ほぼ住み込んでる刻晴が目を逸らす。この前言われた使者問題も出勤してる時に言いなさいと強引に解決したので大体ここにいる。
「あーあ、わたしもフォンテーヌ行きたかったなぁ」
ソファに座って受け取ったお茶を飲んでいた迅の背もたれを超えて、彼の首に綺良々が抱きついた。
その暴挙に、実はさっきからどう迅にくっつくかジリジリと距離を詰めて行っていた他の女子達が固まる。
「仕方ないよ。さすがに足速い配達員2人も稲妻を離す訳にはいかなかったんだろ。今度一緒に行こうな」
「えへっ、そうだねっ。ちょっと会いたい人がいるんだ」
「へぇ、フォンテーヌ人に知り合いがいるのか?」
「んーん、稲妻の人だよ?」
フォンテーヌに稲妻人がいるのはとても珍しい。エウルアや刻晴はそれに首を傾げたのだが、綾華と迅は心当たりがあったようだ。
「もしや、その方というのは千織さんではありませんか?」
「えっ、綾華ちゃん知ってるの?」
「むしろ、綺良々が知り合いだったことにびっくりだよ」
千織、と名前を聞いて宵宮も思い出したらしい。「ああ、小倉屋にいた子かぁ」とひとり頷いている。
千織って誰のことよ女の名前だけど?と目元が険しくなるモンドと璃月勢を宥めながら、説明をした。
彼女は目狩り令が出るまで稲妻にいた女の子だ。昔からこざっぱりとした性格で、将来自分の服屋を持つことを夢に持っていた。
綾華と迅は、彼がまだ屋敷にいる時に、庭に忍び込んだ彼女と知り合った。そこからちょこちょこ遊ぶようになり、出逢えば話す仲だった。
服屋になるため小倉屋で修行をしていた彼女だったが、ある日突然「フォンテーヌに行くわ」と言い出したのだ。彼女は稲妻を出ると心に決め、その日の内に周りの者に挨拶だけをして船に乗った。その船に丁度稲妻を出ようとしていた迅も乗り合わせていたと言う訳だ。
そして綺良々は、猫の時代に彼女と出会っていた。偶に撫でられに行くくらいだったのだが、猫又になってから再会して1発で見破られたそうだ。それを聞いて、知り合ってから半年以上見抜けなかったどっかの飼い主が目を逸らした。
「へぇ、それで今は千織屋として有名よね。凄い人だわ」
「うんっ、最後に会った時にもしフォンテーヌにも配達するのなら、布を頼もうかしらって言ってたから、もう一度会いたいんだよねぇ」
「なるほどね。……それで?」
「そ、それでとは?」
千織の詳細を話したというのに皆の目元が治らない。
エウルアに流し目を向けられたのを仕切りに、他の彼女達からジト目を向けられた。
「その千織さんとはどれくらい仲がいいのかしら?」
「そうよ。貴方、女の子と知り合うやすぐ引っ掛けて来るんだから」
「い、いや!?そんな仲良いとかじゃないぞ?ほんと、知り合いってくらいで!」
「そう言って、前に刻晴さんのことなんて言ってた?」
「ヴッ」
ぐうの音も出ない。
迅自体にはもちろんそんな気はないのだが、彼女達からしたら優しさの無料配布、気遣いのばら撒き、カッコ良さの大安売りだ。安心しできる訳が無い。後ろで代表の刻晴がうんうんと頷いてる。
迅はとりあえず紅茶のカップを口元に持っていくが中身は空だった。エウルアにカップを渡しながら首をブンブン横に振って否定する。
「いや、マジで無い無い。千織は色恋に興味あるって感じじゃないよ。ずっと服の事考えてるしな」
迅の口ぶりから本当にそういったことが無いのだろう。安堵の息を吐く音があちこちから聞こえてくる。「そんなに俺信用ない?」と周りに聞く迅だが「迅は信用してるけど、周りの女は信用してない」とド正論を返されてガックリと項垂れた。
その後は日が沈む時間になったので、皆で夕食を作った。出身地がここまでバラバラな人が揃うのも稀。何を作るか迷ったが、全員迅が作った料理を所望したので、それならと迅必殺の「白米狩り(パイモン命名)」を作ることに。
白米狩りとは前に蛍の洞天で作ったあまじょっぱいタレで炭火焼きにした究極に米が進む鳥肉で、それを思い出したのか綺良々と宵宮、綾華が歓喜と絶望(カロリー方面)の悲鳴を上げる。知らない刻晴とエウルアは首を傾げていたが、どれだけ恐ろしい食べ物かを3人に語られると喉を鳴らしながらも1週間サラダ生活の覚悟を決めた。
その間に迅は、皆の了承を取って1度洞天を出て草秘境の前に行く。ちょうどご飯を作ろうとしていた蛍を手招きして自分の洞天に招待した。
特殊な関係になっている迅達にパイモンと共にびっくりしていたが、そこに運ばれて来た肉汁が滝を作っている鳥肉に視線を固定され、皆でいそいそと卓に着いた。その目の前にタレで飴色に染まり、反則的ないい匂いを撒き散らしながら肉が盛られた皿が置かれる。
1時間後どうなったかと言うと、とりあえず一升炊いた米が無くなったとだけ言っておこう。
食事が終わり、全員温泉に入ってそこに置かれた体重計に乗って阿鼻叫喚の五重奏が開催された後。
流石に2日間予定が丸々空いているほど暇では無い彼女達が自分の街に帰って行った。残った綺良々と蛍はお風呂上がりのラフな格好でマグカップ片手におしゃべりを楽しんでいる。因みに米と肉を限界まで食べたパイモンはダルマみたいになって飛べなくなったので布団に寝かせていた。
迅は本日2回目の風呂を済ませて邸宅に戻ると、ソファに座っている彼女達から手招きをされたのでその向かいに腰掛けた。すると反対側にいた綺良々がするっと回り込み、迅の隣にピッタリとくっつく。それを拒まずに背中から腕を回してサラサラの亜麻色の髪を撫でている迅を見て蛍は頬杖を突いた。
「…やっぱり、君は綺良々を選んだんだね」
「ああ。…まぁ、今の状況を見られると、なんだか説得力が無い気がするけどな」
開き直ってるとはいえ、迅もまだ複数の女の子と関係を持つのには慣れていないのだ。事実、1番なのは綺良々なのでそこは良いのだが、彼女達の中で優劣をつけるのもアレなので、甘えて来てくれた時は精一杯応えてはいる。「デレた迅はヤバい」は彼女達の共通認識だ。現に今も綺良々は抱き寄せられた事で表情がでろんでろんになっている。
「みんなと付き合ってるって聞いた時ばびっくりしたけど、なんか納得しちゃった。皆幸せそうだしいい選択だったんじゃない?」
「こればっかりは綺良々に感謝だな。ありがとう」
「でへへ……どういたしましてぇ〜」
「笑い方どうにかならないか?」
そんなことを言われても、今の綺良々はなでなでに夢中だ。皆がいる時はそんなにくっつけないのもあってその反動が来ている。
迅はそういえばと蛍に話しかけた。
「スメールの冒険はどうだったんだ?話を聞くと結構大事だったみたいだけど」
スメールの教令院が配布していた「アーカーシャ」と言われる端末が実は着けた人の夢を奪い取っていたと言うことが発覚したのは1ヶ月ほど前。迅はつけたことが無いのでピンと来ないが、考えたことに対する答えをすぐにアーカーシャが答えてくれる優れものだったそうだ。だが、それがかえって思考放棄というか、アーカーシャの情報を信じ込んでしまうという問題にも繋がったそう。
「…夢を奪われる……か。どういう感覚なんだろうな。綺良々は最近夢見たか?」
「…え?…うん。確か昨日………あっ」
「ん?」
「えっ、あっ、や、やっぱり見てないっ!最近は夢ぜんぜん見ないんだよなぇ〜」
そんなことを言ってはいるが、尻尾がみょんみょんしている。嘘だなと速攻で気がついた迅と蛍が取り押さえにかかった。
「にゃあ!?…あっ、あははははははは!?やっ、やめてぇっ!こちょこちょしないでぇ!?」
迅が羽交い締めにして蛍が足の肉球をくすぐると効果てきめん。夢の内容を吐くことを誓った綺良々だが、どうにも迅には言い難そうなので蛍が耳打ちして聞く。
「それで、どんな夢だったの?」
「そ、それがね?……じ、迅くんに……そのぉ、すんごいことされる夢…」
「ええっ!?」
「ど、どうした?」
「な、なんでもないっ!迅はあっち行ってて!!」
凄い剣幕で言われたので、大人しく迅はソファから立ち上がってそこから遠ざかる。
一体何を話しているのか、2人とも顔を真っ赤にしていた。
ほーんのちょっとだけ気になった迅は、内心謝りつつも仙力を使用。聴覚を強化してこっそりと聞き耳を立てた。
(ど、どんな感じでされたの?)
(それがねっ、いつも迅くんになでなでされてたらね、だんだん手つきがいやらしくなってって……)
(ご、ごくり)
多分夢の話だろうが、綺良々から聞こえてきたとんでもない話に迅は声が出そうになった。プレイボーイ過ぎだろ夢の俺っ!?と戦慄しながらも引き続き聞き耳を立てる。
(そ、それからどうなったの?)
(わ、わたしはそのまま気にしない振りをしてたらね、ちょっとずつ頭を撫でていた手が下に降りてって…)
(おぉ〜!?)
何故か話している綺良々よりも聞いている蛍の方が顔が赤い。ふんすと鼻息荒く興奮して綺良々の淫夢の話を聞いている。ひょっとしてそういう話が好きなのだろうか。想像と違う蛍の反応に目を瞬かせた。
(迅くんが、耳元でね「なでなでされるのは、頭だけでいいのかっ?」って……、そのまま何も言わないでいたら、迅くんの手が…)
(おぉぉ!?手が!?手がどうしたのっ?)
ここら辺で限界が来た迅は聞き耳をやめて自室に逃走した。いや誰やねんそんなアホな事言う奴っ!と布団を被りベッドの上をゴロゴロと転がる。
最早完全に薄い本の導入だった。
迅がしばらく悶えていると、コンコンと扉が控えめに叩かれる。今洞天にいる人数的に綺良々か蛍しかありえない。まだ熱い顔のまま扉を開けると、綺良々がそこに立っていた。
「綺良々…?」
「ね、入ってもいい?」
「あ、ああ…」
特に断る理由もないのでそのまま部屋に入れる。迅のベッドにぽすっと座った彼女を見て、迅はようやく綺良々の様子に気がついた。
綺良々の顔が今まで見たことない表情をしていたのだ。何か期待をしているかのような、誘っているような、普段の彼女から想像できないほどに色っぽい視線に迅は吸い寄せられる様に隣に腰掛けた。
何故彼女がこんな様子になっているのかと言うと、蛍との話がヒートアップしたことによる、ちょっとした発情状態になっているのだ。迅は途中で逃げたが、綺良々は蛍に迅と夢で最後までしたということを話した。
そこで蛍に「じゃあ今、誘ってみたら??」と背中を押されたのだ。最初綺良々も躊躇していたが、自分たちの話を迅が聞いていたという事を耳打ちされ、彼が今の自分と同じ顔をしていると思ったらもう体が動いていた。
今更の話だが、綺良々は結構なむっつりさんである。迅の洗濯物をくすねた事など数え切れず、勢いで寝ている彼の頬にキスを落とす、それも毎晩同じ部屋にいたエウルアの目を盗んで行っていたほどだ。当然彼との情事も妄想する。
そして今、その妄想が現実になろうとしていた。
「ね、なでなでして?」
「な、さっきのじゃ撫で足りなかったのか?」
「…うん、頭…だけじゃ、もう物足りないかな…?」
自分の手を握りながらこちらに向けて来た魅惑的すぎる流し目に、迅は唾を飲み込む。
これは、もしや…誘ってるのか……?
これまで迅をストッピングしていたストッパー達はもう既に存在しない。強いて言えば蛍が居るくらいだろうが、聞いたらもう外に出たそうな。つまり完全に2人っきり。これから何をしようと誰かに見られるわけでもなければ止められる心配もない。行くところまで行ってしまう。
そんなことをぐるぐる考えている頭とは裏腹に、口が勝手に動いた。
「そ、そうか。じゃあ、撫でるな?」
「ぅん、………いっぱいなでて?」
この後、昨日の綺良々の夢が正夢となるのだが、それはまた別の機会に。
息抜きかと思いきやただのエロ小説になってもうた。